学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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怪物同士の戦いが終わり、各陣営は……

『ここで試合終了!ステージを壊すほどの激戦を制したのはレヴォルフ黒学院の比企谷選手!』

 

 

『最後の一撃は実に見事だった。終始不利であったにもかかわらず、諦めず様々な策を練る……実に面白い』

 

試合が終わって防護ジェルが無くなると、実況と解説の声が聞こえ、一拍遅れて大歓声が沸き起こる。それはもう音響兵器と思えるほどに大きい歓声が。

 

「ふぅ……」

 

俺は漸く一息吐く。とりあえずギリギリ、本当にギリギリだが勝ったな。約束は守れて良かった。

 

安堵の息を吐いていると……

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

『八幡(さん)(君)!』

 

そんな声がしたので振り向くと……

 

『おおっとぉ?!ここで比企谷小町選手を先頭に大量の選手がステージに降りてきた!学園はバラバラだが全員高位序列者もしくは星武祭で実績を出した人達だぁ!』

 

実況の言う通り小町を先頭にリースフェルト、若宮、蓮城寺、フェアクロフ先輩、アッヘンヴァル、フロックハート、ヴァイオレット、イレーネ、プリシラ、ノエルとさっき俺に激励をしてくれた面々がこちらに走ってきている。

 

予想外の光景に俺は驚き、観客席からは騒めきが生じる中、小町達は俺の目の前に辿り着いて……

 

「お兄ちゃん、5回戦進出おめでとう!」

 

「最後の一撃はスカッとしたぞ!」

 

「凄い戦いだったよ八幡君!」

 

「おめでとうございます。心からお祝い申し上げます」

 

「最後まで諦めないあの姿……やっぱり八幡さんは素晴らしいですわ!」

 

「お、おめでとう……!」

 

「あの力を吹き飛ばすなんて、八幡って普段は冷静なのに無茶苦茶ね」

 

「ふふーん!私の渡した銃のおかげで勝てたんですの!王竜星武祭が終わったら買い物に付き合って貰いますの!」

 

「お前やっぱ最高だな!最後の一撃スゲェじゃん!」

 

「お疲れ様でした!次も頑張ってください!」

 

「おめでとうございます……!そ、その……凄く格好良かったです!」

 

全員が俺の勝利を祝ってくれる。それについては純粋に嬉しいが……

 

(小町、フェアクロフ先輩、イレーネ、ノエル……抱きしめたりヘッドロックをするのは勘弁してくれ……)

 

今俺は前から小町に、右からフェアクロフ先輩に、左からノエルに抱きつかれて、後ろからイレーネにヘッドロックをかけられている。勿論4人とも悪意を持ってやっているわけではないのは知っているが、『大博士』と激戦をした後だから少し辛い。

 

とはいえ……こんな嬉しそうな表情をされちゃ振り解けねぇし、少しくらい我慢するか。後、ヴァイオレットに関してマスケット銃を貸してくれたのはマジで感謝してるから幾らでも買い物に付き合ってやる。

 

内心そう呟いていると……

 

「……八幡!」

 

「八幡君!」

 

今度は恋人2人の声が聞こえてきたかと思えば、入場ゲートからオーフェリアが、上空から光の翼を生やしたシルヴィがステージに降りてくる。

 

シルヴィは俺と同じ第1試合だから試合を終わらせてきたのだろう。幾ら相手がそこまで強くないからって早過ぎだろ。シリウスドームに来る時間も考えたら秒殺したとしか思えない。

 

そして2人がステージに降りるとこちらに走ってくる。同時に俺に接触している4人が離れて少し距離を取ると、オーフェリアとシルヴィは俺に抱きついてくる。

 

「お疲れ様、八幡君……」

 

「凄く格好良かったわ……」

 

2人はそう言って目に薄っすらと涙を流している。それを見た俺は右手で2人を抱き返す。こんな時に左手がないのがいたい。後でレヴォルフの装備局に頼んで予備の義手を用意させないとな。

 

まあそれはともかく……

 

「約束したしな。絶対に勝つって」

 

2人に誓いのキスをしたんだ。負ける事は絶対に許されない。

 

そう思いながら俺達は暫くの間、お互いの身体を抱きしめあっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡の試合が終わって、各学園の人間は様々な反応をする。

 

 

「おー、やるじゃん馬鹿息子。もう私を超えたか?」

 

「おそらくは。彼といい、シルヴィアといい、天霧綾斗といい、今の世代は豊作ですね」

 

「だな。私の時もこんぐらい豊作だったらぁー。しっかしこれは優勝が読めなくなってきたな……私を倒したシルヴィアちゃんが優勝するかと思ってたんだがなー」

 

涼子とペトラは理事長室にて仕事をしながら語り合い……

 

 

 

 

 

 

「ほっほっほっ!素晴らしい!実に素晴らしいのう!影神の終焉神装を左腕だけに凝縮するとは!アレを食らえば儂も気絶するであろうな!」

 

「……楽しそうですね師父」

 

「当然じゃろう!儂を超える可能性を持つ人間なぞ儂にとっては至宝じゃ。ああ……儂が出る3年後の王竜星武祭がが待ち遠しいのう!」

 

「でも虎峰、その時は今度こそステージが壊れそうだねー」

 

「想像はしたくないですが、あり得ますね……」

 

星露は心から楽しそうに笑い、虎峰とセシリーは引き攣った笑みを浮かべ……

 

 

 

 

 

 

「ふふっ……まさかこれほどの実力とは思いませんでした……もう優勝は諦めたらどうです、陽乃?ハッキリ言って貴女では彼に勝てませんから」

 

「……嫌に決まってる。私は自由になりたいんだから。それにあんな大技を何度も使える筈もないからまだわからないよ」

 

「……強情ですね。まあ良いでしょう。どうせ優勝は無理なのですから」

 

「……っ」

 

陽乃は母秋乃の言葉に怒りを覚え……

 

 

 

 

 

 

「まさかこれほどとはな……」

 

「う、うーむ。これは我とアルディ、優勝は無理かもしれないであるな……マジで」

 

「……アレを見ると私も自信を無くしたよ。それにしても私や材木座はシリウスドームで試合だが、ステージの修復を考えると開始時間は大幅に遅れそうだな」

 

「そうであるな。まあ先ずは目先の事を考えるべきであろうな。貴殿には我が入学した時から世話になっているが、勝たせて貰うのである、カミラ殿」

 

「それはこちらの台詞だよ材木座。勝つのは私とリムシィだ」

 

シリウスドームのアルルカント専用観戦席にいる材木座とカミラは互いに宣戦布告をし合って……

 

 

 

 

 

「うわぁっ……マジでヤバイね。レナティでも勝てるかわかんないかも」

 

プロキオンドームにてレナティの試合を待っているエルネスタは珍しく引き攣った笑みを浮かべて……

 

 

 

 

 

 

 

「うわ……何だよアレ?」

 

「怪物じゃん」

 

「というか葉山君。あんな怪物に勝てると思ってたのかよ?」

 

「確かに……」

 

「でも葉山君勝つ勝つ言っといて試合で逃げ出したよね」

 

「もしかして葉山君って口だけ?」

 

「って事は俺達葉山君の口車に乗せられたって事?」

 

「うわ。もしかしたら私達もあの怪物に目を付けられてる?」

 

「怖い事言うなって!とにかく!俺達も葉山君から距離取ろうぜ。葉山君といてあの怪物に葉山君の仲間って思われたら嫌だし」

 

「だな」

 

「そうだね」

 

ガラードワースの葉山グループの人間は葉山と距離を取る事を決めて……

 

 

 

 

 

 

「という訳で、比企谷を倒すのに協力してくれないか?」

 

『無理だよ。あの怪物を倒すなんて無理だよ』

 

「そこを何とか!ガラードワースの為なんだ!」

 

『もう良いって。もしも比企谷八幡がガラードワースを征服しようとするなら、俺達が動くんじゃなくて統合企業財体に任せた方が良いって』

 

「そんな……」

 

『というか葉山君、比企谷八幡に何も出来ずに負けたし無理に決まってんじゃん。それに俺、もう葉山君と関わりたくないし』

 

「何でだい?!皆仲良くするべきだよ!」

 

『だって葉山君、比企谷八幡の事を散々殴ってたじゃん。葉山君と一緒に居てあの怪物に敵と見られたら嫌だし。じゃあね、もう電話はかけないで欲しいな』

 

「待ってくれ……切れたか。……比企谷!卑怯な手を使っただけじゃ飽き足らず、俺から友人を奪うなんて、万死に値するぞ!」

 

葉山は更に八幡を逆恨みするようになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリウスドームの第1試合が終わり、現在はステージの修復作業が行われている。星武祭において修復作業が行われるのは当たり前だが、今回は例年よりボロボロになった為、シリウスドームで行われる試合は本来の時間の開始時間より1時間延長する事になったのだ。

 

そんな中、俺は……

 

 

「失礼しました」

 

医務室にて治療を受けていた。と言っても星武祭中は治癒能力者による治療は禁止故に鎮痛剤を打ったり、包帯を巻いたくらいの応急処置だがな。

 

すると医務室の外にいたオーフェリアとシルヴィがこちらにやって来る。他の面々は既に各々の行くべき場所に向かっていていない。

 

「応急処置は終わったみたいだね。どうだった?」

 

「肉体に掛かった負担はデカイが明日の試合は出ても良いと。ただ影神の終焉神装は準決勝までは使わない方がいいって言われた」

 

そして少なくとも5回戦では絶対に使うなと言われた。

 

「……まあ見る限りあの力は相当肉体に負荷が掛かるから当然でしょうね。あ、それと八幡が治療を受けてる間に装備局に予備の義手の準備を頼んだわ。そしたら夜8時以降に取りに来いって言ってたわ」

 

「わかった。ありがとな。それよりこれからどうする?シリウスドームの試合を見るか?それとも違うドームに行くか?」

 

「うーん。他のドームの試合も興味あるけど……いいや。今日はシリウスドームに居ようかな」

 

「……私はどこでもいいわ」

 

「んじゃシリウスドームで見るか。俺もシリウスドームの試合が1番興味あるし」

 

この後にシリウスドームで行われる試合は、早い順に

 

雪ノ下陽乃VS雪ノ下雪乃

 

アルディ(材木座義輝)VSリムシィ(カミラ・パレート)

 

ネイトネフェルVS比企谷小町

 

の3試合だ。小町の試合も気になるし、擬形体同士の試合も興味あるからな。

 

そして雪ノ下の姉妹対決だが、俺も興味を持っているが、シルヴィはそれ以上に注目しているだろう。何せ勝った方がシルヴィと戦うのだから。

 

方針が決まった俺達はレヴォルフの生徒会専用観戦席に向って歩き出した。本来ならライバルのシルヴィを入れるのは御法度かもしれないが、疲れてるんだしその位は良いだろう。俺もクインヴェールの専用の観戦席に入った事あるし。

 

 

 

 

 

 

 

それから2時間後……

 

『永らくお待たせいたしました。ステージの修復も完了しまして、ただ今より第2試合を開始します!』

 

俺達が生徒会専用観戦席にて3人で舌を絡めていると実況の声が聞こえてくる。

 

「んっ……続きは後でな?」

 

「うん……第2試合が終わったら……第3試合が始まるまでやろうね?」

 

「それで第3試合が終わったら、第四試合が始まるまでまたやりましょう?」

 

俺が2人の唇から離れると2人はトロンとした表情を浮かべてくる。もちろんそのつもりだ。そんで第4試合が終わったら速攻で帰宅して飯を食べて、寝るまでキスをするつもりだ。

 

『先ずは東ゲート!今シーズンの鳳凰星武祭ベスト4!クールな表情で予選て相対する選手を凍らせたクインヴェール女学院序列8位『氷烈の魔女』雪ノ下雪乃選手の登場だぁぁっ!』

 

実況の言葉と共に東ゲートから雪ノ下が出てくる。見るからに体格や歩き方が良くなっている。どうやらお袋の元で相当鍛えたようだ。

 

『続いて西ゲート!前々シーズンの王竜星武祭準優勝、前シーズン王竜星武祭ベスト4!星武祭ではオーフェリア・ランドルーフェン選手以外では無敗を誇る才女、界龍第七学院序列3位『魔王』雪ノ下陽乃選手ーーー!』

 

続いて西ゲートから雪ノ下陽乃が出てくる。前シーズンと前々シーズンでは観客に手を振ったりしていたが、今は観客などいないかのようにスタコラ歩いている。自由を求める為に関係ないものをシャットアウトしているようだ。

 

「……何が私以外では無敗の女よ。トーナメントで当たらなかっただけであの女の実力は八幡やシルヴィアより下よ」

 

オーフェリアが冷たい目でステージを見ながらそう呟く。

 

「お前なぁ……どんだけ嫌ってんだよ?」

 

「今でも星脈世代の力を奪って普通の人間にしてやりたいくらいよ」

 

あっ、そうですか。どうやら相当嫌っているようだ。内心若干呆れながらステージを見ると2人は距離を詰めてなにかを話していた。

 

(あの2人仲が悪い……というか雪ノ下の方が姉を苦手としてるからな)

 

声は聞こえないがステージは悪い空気になっているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、本戦最初の試合が雪乃ちゃんで良かったよ」

 

「……どういう意味かしら?」

 

「言葉通りよ。もし初戦が暁彗や天霧綾斗だったら厳しい戦いになって負ける可能性もあったし」

 

負けが許されない陽乃としては可能な限り強い相手と戦うのを避ける事を望んでいたので、最初が壁を越えてない自分の妹が相手だという事に内心安堵していた。

 

それに対して雪乃は眉を細めるも怒りを露わにしない。それを見た陽乃は一瞬だけ目を見開く。

 

「……ふーん。少しは成長したんだ」

 

「ええ。地獄に行ってきたから」

 

アスタリスクに来る前の雪乃なら突っかかっていただろうが、雪乃はクインヴェールで涼子に拷問に近い鍛錬を積んだ。涼子の鍛錬は容赦がなく、レヴォルフのOGだからか女子が相手でも躊躇わずに顔面や腹にも攻撃してくる。

 

それによって大半の生徒は心が折れたが、雪乃を始めとして耐え抜いた人間は全員大きく序列を上げている。

 

また拷問に近い鍛錬によって実力以外にもメンタルも相当強くなっていて、安い挑発は受け流せるようになっている。

 

「よくわかんないけど、私の前に立つなら潰すから」

 

陽乃はそう言って開始地点に向かうと、雪乃も同じように開始地点に向かい、両者は睨み合いをする。

 

その際に雪乃は陽乃の目に入っている凄まじい程の執念を感じて怖気が走り出す。

 

そんな中、遂に……

 

『王竜星武祭4回戦第2試合、試合開始!』


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