『試合終了!勝者、材木座義輝!』
レヴォルフの専用観戦席にて機械音声が代理人である材木座の勝利を告げると観客席からは歓声が沸き起こった。星武祭の本戦だけあって桁違いの歓声が。
しかし俺達選手にとってはテンションは上がらず、寧ろだだ下がりだ。
「んだよ、あのガントレット……チート過ぎだろ?」
俺が思わず呟いた愚痴に選手であるシルヴィとノエルは小さく頷く。防御障壁を飛ばすだけならまだしも、分割して散弾銃のように飛ばしたり、網のように相手を拘束するとかマジで厄介過ぎるわ。
材木座の野郎、マジでとんでもない煌式武装を作りやがったな。流石チーム・赫夜の使う煌式武装『ダークリパルサー』やユリスの使う煌式遠隔誘導武装『ノヴァ・スピーナ』を作り上げただけのことはある。
(ったく……マジで今回の王竜星武祭は一ミリたりとも油断出来ねぇな)
アルルカントから出る選手では壁を越えた選手はレナティだけだと思っていたが、あのガントレットを装備したアルディは壁を越えた人間とも充分に戦えると思う。
しかし俺とアルディが戦う可能性は低いだろう。5回戦でアルディと戦うアイツは冗談抜きで強いし。しかもアルディにとって相性が最悪だし。
そこまで考えながらステージを見ると、アルディがリムシィをお姫様抱っこして退場する。その事からリムシィはあの防御障壁による散弾によって歩けなくなったのだろう。リムシィの方は不満タラタラの表情をしてるけど。
(とりあえずこれで3試合は終わったし、後は小町の試合か……)
言いながらトーナメント表を見る。そこには……
比企谷小町VSネイトネフェル
そう表示されている。初っ端から『大博士』と当たった俺が言うのもアレだが、小町の奴も初っ端から運がないな。
ネイトネフェルはクインヴェールの序列2位。つまりクインヴェールではシルヴィの次に強い女だ。まあ若宮やヴァイオレットみたいに公式序列戦で上の人間に挑まない人間もいるから絶対とは言えないけど。
彼女の特徴を挙げるなら界龍の拳士同様、己の肉体のみで戦う事だろう。しかし界龍の拳士とは違って舞を駆使した体術を使う。しかもその舞は素晴らしく思わず見惚れてしまうのだ。
そして見惚れた人間は無意識のうちにパフォーマンスが崩されてしまう。特に近接戦をする選手にとっては大きなディスアドバンテージである。
俺は3年前の王竜星武祭準々決勝でネイトネフェルと戦ったが、寄られた際は奴の舞に見惚れて負けそうになったし。まあ最後は俺が遠距離から圧倒的な広範囲攻撃で舞関係なく倒したけど。
しかし今の小町からしたら最悪の相性だろう。今の小町は体術と純星煌式武装『迅雷装』をメインに近接射撃戦を得意としている。ネイトネフェルの舞に見惚れてパフォーマンスが落ちる可能性は高いだろう。奴の舞はダメだとわかっていても見惚れてしまうし。
(ヤバい……考えるにつれて心配になってきた。ちょっと会いに行きたいな)
一言激励にでも行こうか。もしも小町が緊張してるなら解してやりたいし。仮に集中したいから帰れって言われたら帰れば良いし。
そう決めた俺は膝の上に乗っているシルヴィに話しかける。
「済まんシルヴィ。次の試合まで時間があるし、ちょっと小町に会いに行きたいから降りて貰っても良いか?」
「あ、うん。わかった。気をつけてね」
するとシルヴィは呆気なく了承して俺の膝の上から降りてオーフェリアの隣に座る。
「悪い。お前らも行くか?」
「いやいや、兄妹水入らずでどうぞ」
シルヴィが笑顔で首を横に振り、オーフェリアとノエルも頷く。気遣いが出来ていて優しいな。
「わかった。じゃあまた後で」
俺は3人に会釈をしてからレヴォルフの専用観戦席を後にして小町の控え室に向かって走り出した。
八幡が去ってからのレヴォルフの専用観戦席では……
「さて……八幡君が居なくなったしノエルちゃんには話があります」
「な、何でしょうか……?」
シルヴィアがそう口にするとノエルは若干怯えだす。それを見たシルヴィアは若干罪悪感を感じた。
「(少しプレッシャーを与えちゃったかな?まあ言っちゃったものは仕方ないし……)前にも聞いたけどさ、八幡君の事、好きでしょ?」
「ふぇっ?!」
シルヴィアがそう尋ねるとノエルはさくらんぼのように真っ赤になる。それを見たシルヴィアとオーフェリアは即座にビンゴだと理解する。
「ま、ま、前にも言いましたけど八幡さんの事は尊敬「……怒らないから八幡に恋してるかYesかNoで答えて」あぅぅ……」
ノエルが手をわちゃわちゃしながら以前の同じ事を言おうとしたが、オーフェリアが一刀両断する。それによってノエルは俯く。
(これ絶対にYesだよねオーフェリア?)
(でしょうね。というかこれでNoって答えたら凄いツンデレよ)
八幡の恋人2人がアイコンタクトを交わす中、ノエルは俯きながらブツブツ呟くも、やがて真っ赤にしながらも顔を上げて……
「は、はい……わ、私は八幡さんの事が……す、好きです……!」
自分の胸中を口にする。目の前にいる2人は驚いていない。以前聞いた時から薄々予想していた故に。
2人の胸中にある感情は新しく生まれたライバルに対する危機感と、自身らの恋人の無意識の女誑しぶりに対する僅かな怒りだけだ。
2人は八幡を女誑しだと思ってはいるが、八幡は新しい女が欲しいから優しくしているのではなく、純粋な気持ちで優しくしている事を知っている故に、偶に嫉妬する事はあっても八幡を激しく責め立てた事はない。
「……そう。貴女が八幡を好きになったのは八幡が優しいから?」
「は、はい。魎山泊で私に付きっ切りで稽古を付けてくれたり、能力が伸びないときは親身になって相談を聞いてくれたり、大きな怪我をした時は直ぐに治療院に運んだりと凄く優しくて、気が付いたら……八幡さんの事が……」
ノエルは真っ赤になりながらも自分の気持ちを語る。対する2人は特に表情を変えずに聞いている。
(完全に私達と同じね……)
(……寧ろそれ以外思いつかないわ。八幡が女を口説く所なんて想像出来ないわ)
(だよねー)
2人は再度アイコンタクトを交わす。2人はノエルに対して怒りは抱いていない。ノエルが誰を好きになろうがノエルの自由だし、自分らも同じように八幡の優しさに触れて恋に落ちたので、ノエルが八幡に恋した事も理解は出来る。
しかし……
「話はわかったよ。でも……」
「私達は八幡の恋人……貴女、いえ……他の誰にも渡さないわ」
それとこれは別である。八幡に恋するのは自由だが、だからと言って自分の立場を譲るつもりはシルヴィアもオーフェリアもない。
そんな2人に対してノエルは……
「い、いえ……奪うつもりはないです」
「「え?」」
奪うつもりはないと答えた。それを聞いたオーフェリアとシルヴィアは予想外の返事ゆえにポカンとした表情を浮かべる。
「私では2人から八幡さんを奪えるとは思えないですし、八幡さんは2人を愛しています。私が2人を八幡さんから離そうとしたら八幡さんに嫌われそうですし私は2人から八幡さんを奪うつもりはないです」
ノエルは恥じらいながらもハッキリそう答える。それを聞いたオーフェリアとシルヴィアはノエルの顔を見ると嘘を言っている様子は一切見えなかった。
だから2人は安心したのだが……
「で、ですから私が2人のように八幡さんに愛して貰えるように頑張ります……!」
ノエルの次の一言で吹き飛んだ。
「ちょっ!ちょっと待って!今何て言ったの?!」
「ですから……2人の立場を奪うのではなく、私が2人と同じ立場になるのです」
「……つまり、八幡には三股をしろと?」
「え、ええっと………は、はい。八幡さんは二股をしていますので、三股をする場合も抵抗なく出来るかと思います……」
ノエルの言葉にオーフェリアとシルヴィアは戦慄する。葉山や一色と違って、ガラードワースの誇りであるノエルがそんな事を口にしたのだ。嫌でもノエルが本気で八幡を愛している事を理解してしまう。
「……話はわかったよ。でも大丈夫なの?私やオーフェリア、八幡が認めるかどうかは別として、家が認めてくれるの?」
「両親は私の将来についてはどうこう言いません。……まあ多少言われるとは思いますが譲りたくないです」
「……本気なのね?」
「はい。八幡さんが言ってました。本気で勝ちたいなら常に考え続けて、なりふり構わず行けって」
「それ違うからね?!八幡君が言いたいのは星武祭の話だよね?!」
シルヴィアは思わずツッコミを入れてしまうがノエルは止まらない。絶対に譲らないとばかりに。
「た、確かに八幡さんは星武祭について話したと思いますが……根本的な部分は同じだと思います」
ノエルはそこまで言うと顔を赤くしながら一呼吸置いて……
「は、八幡さんと結婚するという勝利を得る為には常に考え続けて、なりふり構わずに行きたい、です……」
譲らない口調で2人にそう告げる。すると……
(八幡君のバカァァァァァァッ!勿論八幡はそんなつもりでアドバイスしたんじゃないんだろうけどさ!なんで恋敵を強くしてるのさ?!)
(八幡のバカ、アホ、おたんこなす、絶倫……!)
2人は内心で八幡に怒りをぶつけまくったのだった。
「……なんだ?今オーフェリアとシルヴィに凄いdisられた気がするんだが……」
シリウスドームにある控え室に向かう途中、俺の頭の中にオーフェリアとシルヴィの俺に対する文句が聞こえてきた。一応と思い周りを見渡すも、選手の使う控え室の近くだからか一般の客はおらず、居るのは清掃員のおじさん1人だけた。
やっぱり気の所為か。*気の所為ではありません。
そう判断した俺は足を早めながら進み、漸く小町の控え室に到着したのでインターフォンを押す。
『あれ?どしたのお兄ちゃん?』
するとインターフォンから小町の声が聞こえてくる。声だけで判断すると震えてはいない。
「まあアレだ。一応激励しに来た。もしも緊張して会えないってなら帰る」
俺も前回の王竜星武祭でシルヴィと相対する前は緊張して1人になりたかったし。
『んー、大丈夫だよ。さっきお母さんとお父さんも来たし』
同時にドアが開くので中に入るとテーブルの上には小町が使う様々な種類の銃型煌式武装や純星煌式武装『迅雷装』が置かれていた。その事から察するに……
「最終チェックか?」
「うん。相手が相手だし、チェックし過ぎってのはないしね」
だろうな。相手は壁を越えた人間であり、小町は違う。対策のし過ぎってのはないだろう。
「はぁ……クローディアさんもクジ運悪過ぎでしょ?何で小町は怪物二連戦なんだろ……」
小町の言う通り、仮に4回戦でネイトネフェルに勝てたとしても次の相手も壁を越えた選手だ。おそらく小町は本戦出場した面子の中でトップクラスで運が悪いだろう。
「過ぎた事を言っても仕方ないだろ。気持ちはわからんでもないが4回戦以外のことは考えるな」
「だよね。ちなみにお兄ちゃんはなんかアドバイスない?」
「俺の場合、能力で遠距離から尚且つ広範囲攻撃で倒したからアテにならない」
アレは俺だから出来たんで能力者である小町には出来ないからアドバイスにならない。
強いて言うなら……
「まあアレだ。今から付け焼き刃の戦術をやっても意味ないだろうから本来のスタイルを崩さないようにしろ」
小町のスタイルは近接射撃戦。舞によって敵を魅了するネイトネフェルとは相性は良くないが、それ以外の戦い方では勝負の土俵に上がる事なく負けるだろう。そもそも魎山泊は己の得意スタイルを伸ばして壁を越えた人間に届かせる目的で作ったんだし。
「だよねー……もうこうなったら当たってくだけろだよ!」
小町は言いながら自分の頬をパチンと叩く。見る限り緊張は少しは解けたようだ。
「まあ安心しろ。仮にお前が負けたら準々決勝で奴を再起不能になるまで叩き潰してやるから」
「いやいや、星武祭で私情を挟んじゃダメでしょ?」
「お前1回戦で一色を再起不能にしなかったか?」
「アレは人の形をした塵だからノープロブレム」
「発音が良いのがムカつくな……」
「前に英語で赤点だった時にユリスさんから習ったからね。まあそれはともかく!小町が負けたからって私情を挟んで相手を叩き潰すなんて止めてね。というかそれ以前に……」
小町は一度息を吸ってから俺を指差して……
「小町は絶対に勝ち上がるから、そんな仮定はいらないよ!」
そんな風に宣言をしてくる。見ると小町からは風格も漂っているし、魎山泊で相当強くなったのだろう。心も身体も。
「そうか……なら俺も5回戦を突破するからお前も上がってこい」
俺も厳しい戦いになるが小町がああ言った以上、勝たないといけない。
「了解!絶対に負けないからね、お兄ちゃん?」
小町が笑顔でそう言うと……
pipipi……
小町の端末が鳴り出す。時間からして次の試合が近づいてる証拠だろう。
「おっと。試合開始30分前じゃん。悪いけどお兄ちゃん、小町最終チェックをするから、そろそろ戻って貰って良いかな?」
小町の言い方は人によっては腹立つかもしれないが、俺は特にムカつかない。小町が可愛いってのもあるが、試合前に人が居たら緊張して本来のパフォーマンスを発揮出来ない人間もいるからな。
「はいよ。んじゃあ頑張れよ」
俺はそう言って小町の控え室を出る。そしてレヴォルフの専用観戦席に向かいながら端末を開くと、既に小町とネイトネフェル以外の試合は全て終了していて、15人が5回戦に進出している。
兄の俺が4回戦の開幕試合を務めて、妹の小町が4回戦のトリを務めるとはな……長い星武祭の歴史でもそんな事は殆どないだろう。そもそも兄妹が揃って星武祭に参加すること自体余り多くないからな。
そう思いながら早歩きで歩いているとレヴォルフの専用観戦席に着いたので、パスを使ってドアを開ける。
「よーっす。小町の激励は終わっ……た?」
部屋に入ると予想外の光景が目に入る。オーフェリアとシルヴィは顔を真っ赤にして怒っていて、ノエルは申し訳なさそうにしている。何だこの状況は?
内心疑問符を浮かべていると、オーフェリアとシルヴィがこちらにやってきて……
「「八幡(君)、王竜星武祭が終わったら一回だけ本気で殴らせて」」
「はいぃっ?!」
予想外の一言を言ってきた。マジでどうしたんだ?
その後、俺達は席に着いたが、さっきの発言について理由を尋ねるも2人はシカトしながらジト目で見てきて、ノエルに尋ねても申し訳なさそうに首を横に振るだけだった。
結局オーフェリアとシルヴィは最後の試合が始まるまでシカトしていたのだった。マジで怒らせるような事をしたか?