王竜星武祭10日目、今日5回戦を行いベスト8が決まる。本戦は昨日から行われていたが既に運で本戦進出を果たした人間は篩にかけられたので、今日試合をする16人は全員強者だ。よって観客達も必然的に盛り上がっている。
ちなみに本戦はシリウスドーム、カノープスドーム、プロキオンドーム、カペラドームと4つの大規模ステージを使用するが、今回の試合は……
シリウスドーム
天霧綾斗
VS
アルディ(材木座義輝)
俺こと比企谷八幡
VS
ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト
カノープスドーム
ロドルフォ・ゾッポ
VS
ヴァイオレット・ワインバーグ
武暁彗
VS
梅小路冬香
プロキオンドーム
ノエル・メスメル
VS
沙々宮紗夜
シルヴィア・リューネハイム
VS
雪ノ下陽乃
カペラドーム
若宮美奈兎
VS
イレーネ・ウルサイス
レナティ(エルネスタ・キューネ) *不戦勝
VS
比企谷小町 *不戦敗
って感じで各ステージにて2試合ずつ行われる。まあ小町は不戦敗だからカペラドームではノエルと沙々宮の試合だけだが。
俺は昨日に引き続きシリウスドームだが、これは間違いなく昨日の4回戦で1番盛り上げたからだろう。シリウスドームは凄い試合を行った選手に割り当てられるし。昨日ネットサーフィンをしていたら4回戦の16試合では俺と『大博士』の試合が1番盛り上がったって評価だから予想はしていた。
そして天霧と材木座の代理で出場したアルディの試合がシリウスドームで行われる。これもよそうしていた。何せ今シーズンの鳳凰星武祭決勝で戦った2人なのだから。
それについては予想はしていたが……
「八幡貴様ぁぁぁぁぁぁっ!貴様がふざけたアドバイスをした所為で余計にどつかれたではないかぁぁぁぁぁぁっ!」
まさか材木座が俺のアドバイスを馬鹿正直に受け入れた事だろう。
レヴォルフの専用観戦席にて、俺はボロボロになった材木座に詰め寄られている。ちなみにこの場には俺と材木座しかいない。オーフェリアは生徒会の仕事をやって貰っていて、午後からの試合のシルヴィはペトラさんに呼ばれていていない。
昨日俺は材木座から『自分がエルネスタの笑顔が可愛らしいと言ったらどつかれたんだが、何故どつかれたのかわからない』と相談を受けた。俺はエルネスタの照れ隠しだと直ぐにわかったが、その前に材木座が惚気まくって苛々したので冗談半分で『エルネスタに直接聞いてみろ』と言った。
そしたら材木座の奴、マジでエルネスタに『何で笑顔が可愛らしいと言っただけで我をどついたのだ?』と聞いてボコボコにされた。
実際にネットではアルルカントの生徒が記録したらしく、食堂にて顔を真っ赤にしたエルネスタが材木座に乗って顔面を殴る動画がアップされている。というかこの時のエルネスタ、結構可愛かった。
「悪かったよ。てかあんなふざけたアドバイスを馬鹿正直に聞くとは思わなかったわ!」
確かにあんなふざけたアドバイスをした俺もどうかと思うが、特に疑わずにエルネスタに聞いたコイツが1番問題だろう。普通に照れ隠しって分かれよ!
「貴様ふざけたアドバイスとわかっていたのかしたのか?!」
「当たり前だろうが!疲れてる状態で惚気話を聞かされたんだし少しくらい意趣返ししてもバチは当たらないだろうが」
「はぁ?我は惚気話なんてした記憶がないわ!そもそも彼女が居ないのに惚気話が出来る訳ないであろうが!」
「…………」
「……何故そこで黙るのであるか?」
「……別に」
あんな惚気話をしといて彼女じゃないってマジでなんなんだお前は?さっさと結婚しろよ……
内心材木座とエルネスタの関係に呆れ果てている時だった。
『長らくお待たせしました!本日から5回戦!準々決勝への切符をかけて壮絶な戦いの始まりだぁ!』
実況の声が聞こえて観客席が湧き上がる。同時に材木座も真剣な表情になり、ステージに注目する。まあ材木座の代理が出るんだし真剣に見るのも当然だろう。
(となるとヴァイオレットとノエルの試合もそろそろだしメールをしとくか)
言いながら俺は端末を取り出してヴァイオレットとノエルの端末に頑張れよ、とメールを送る。ヴァイオレットの相手はレヴォルフに所属するロドルフォだが、その辺りは気にしない。
『さあ先に姿を現したのは西ゲートより入場してきたアルルカントアカデミー『獅子派』会長材木座義輝の代理として出場!予選では防御障壁を吹き飛ばし全ての対戦相手を1発KO!4回戦の擬形体同士の対決ではリムシィ選手を退けたアルディ選手ー!』
『一撃で相手を仕留める威力を持つ防御障壁を大量に飛ばすのは脅威だろう。『黒炉の魔剣』なら防御障壁を斬るのは可能だが、全てを斬り落とすのは困難だろう』
そんな事を考えながらメールを送ると実況と解説の声が聞こえて、西ゲートからはアルディはステージに向かって歩いている。足の速さは遅いがそこからは圧倒的な威圧感を感じる。
そしてステージに立つと同時に左手に『マグネット』を、右腕に『スプレッダー』を装備する。
「天霧が来る前から臨戦態勢とは相当気合が入ってるな」
「当たり前だ!敵は優勝候補の中でもトップクラスの優勝候補であるからな!最初から全力で行かなければ足元がすくわれるわ!」
だろうな。俺がアルディなら同じ事をするな。正直言って今の天霧は桁違いだ。俺にとって『黒炉の魔剣』は相性が最悪だし。
『そしてそして、東ゲートから現れたのは星導館学園の『叢雲』天霧綾斗選手!史上2人目のグランドスラムを成し遂げる為にアルディ選手を越えられるのか?!』
『両者は2年半前の鳳凰星武祭で激突しているが今のアルディ選手はリムシィ選手と合体していないし、天霧選手は自力で『黒炉の魔剣』をコントロール出来るようになっているなど随分と状況が違うな』
『そう言われると天霧選手が有利だと思いますが……』
『何とも言えないな。4回戦でアルディ選手が見せた防御障壁を細かく分割して散弾のように飛ばす技は侮れないし、これは私の勘だが……アルディ選手、というより材木座選手はまだ奥の手を隠している気がする』
「と、ヘルガ隊長はそう言っているがどうなんだ材木座選手?」
「当然ある」
俺の問いに材木座は即答する。予想はしていたが本当にあるのかよ?どんな物かはわからんが絶対に厄介な物だろう。
「てか奥の手があるって俺に言って良いのか?」
「構わん。どうせこの試合では使うだろうからな……それよりもそろそろ試合だから話は後にするぞ」
まあ確かにそうだな。今は試合に集中するか。
「ふははははは!久しぶりであるな!天霧綾斗!」
「そうだね。2年半ぶりかな?」
ステージに立ったアルディは高らかに笑う。対する綾斗は穏やかな声で返しながらアルディを観察する。
単純なスペックならリムシィと合体した時の方が上だが、何故か今のアルディを見ているとあの時よりも危険だと綾斗は考えている。
「そうであるな!吾輩としてはこの時を楽しみにしていたのである!将軍から賜った素晴らしき煌式武装を駆使して勝たせて貰うのである!」
アルディは高らかに笑いながらハンマー型煌式武装『マグネット』とガントレット型煌式武装『スプレッダー』を高らかに見せつける。
綾斗も将軍ーーー材木座義輝の存在を知っている。ユリスの煌式遠隔誘導武装やクインヴェールのチーム・赫夜がチーム・ランスロットを打ち破る際に使用した煌式武装、そして警備隊に入隊した姉の遥も材木座が作り上げたブレード型煌式武装を作ったのだから。
クローディアから渡された有力選手のデータではヒルダやエルネスタと並ぶ天才と評されている。そんな彼が作り上げた武装をフルに使うアルディの存在は軽視出来ない。
(しかもヘルガ隊長の言うようにまだ奥の手を隠しているな……)
これは勘だが十中八九奥の手を隠していると綾斗は見ている。
とはいえ今は出してないようだし最低限の警戒だけしておく、と綾斗は判断して開始地点に向かう。
同時にアルディも開始地点に立って左手に『マグネット』を構えて臨戦態勢を取る。
そして遂に……
『王竜星武祭5回戦第1試合、試合開始!』
試合開始の合図がシリウスドーム全体に響いた。
同時にアルディは防御障壁を展開して、即座に右腕に装備してある『スプレッダー』を輝かせて防御障壁を100分割する。
アルディの前方に防御障壁が小さく分割されてアルディがいつでも『マグネット』を振るえるようにする中、綾斗は『黒炉の魔剣』を構えたまま動かない。
『おっと開始早々両者共に動かない!』
『仕方ないだろう。両者共に下手には動けまい。アルディ選手の場合攻撃を外したら天霧選手に寄られるだろうし、天霧選手の場合防御障壁の散弾についてまだ理解が浅いだろうからな』
ヘルガの言う通りである。アルディは綾斗の速さを警戒していて、綾斗はアルディの防御障壁の散弾化について警戒して下手に動けずにいた。
しかし観客からしたら知った事ではなく、2人が動かないと判断して直ぐにブーイングを起こす。基本的に星武祭を見る観客は気持ちが昂ぶっているからか異様に気が短い。
「どうしたのであるか天霧綾斗?!先に行っておくが吾輩から攻めることはないと思うが良い。吾輩は機械故に待つ事は苦でないのである!」
アルディがそう言うと綾斗はどうやら自分から攻めなければいけないと判断しながら息を吐く。
「わかったよ。それじゃあこちらから行かせて貰うよ!」
言うなり綾斗は真っ直ぐにアルディとの距離を詰めにかかる。その速度は尋常じゃない程早く観客の9割以上は綾斗の速さを見切れないだろう。
しかしアルディは機械故に問題なく見きれるので……
「ふんっ!」
掛け声と共に『マグネット』を振るう。すると次の瞬間、『マグネット』から火花が生まれて、大量の防御障壁が綾斗に向かって高速で飛んで行く。
それに対して綾斗は迎撃ではなく、回避を選択した。脚部に星辰力を込めて爆発的な加速力を生み出しながら横に大きく跳ぶ。するとさっきまで綾斗が居た場所周辺に大量の防御障壁が降り注ぐ。
しかし綾斗はそちらを見ず、無理して攻めずにその場に留まり、アルディから目を逸らさずにいた。『マグネット』を振り終えたアルディは即座に綾斗のいる方を見て防御障壁を展開して『スプレッダー』によって大量に分割する。
(時間にして2〜3秒か……)
綾斗は防御障壁を放った後に次の防御障壁を展開するまで時間を測っていたのだ。これを知っているのと知らないのとでは大きく違う。
現在綾斗とアルディの距離は50メートル近く。この距離だとアルディが防御障壁を放った直後に斬り込んでも、アルディの校章を斬る前にギリギリ次の防御障壁を展開されてしまうと綾斗は考えている。
(だからもう少し距離を詰めないと……)
綾斗は警戒しながらも少しずつ距離を詰める。綾斗の作戦としては……
①アルディとの距離を45メートル近くまで詰める
②一気に距離を詰めにかかる
③アルディが防御障壁を散弾のように放ってくるだろうから、それを回避する。
④アルディが次の防御障壁を展開する前に『スプレッダー』を破壊する
と、いう感じだ。遠距離攻撃手段を持たない綾斗にとって1番厄介なのは防御障壁の形状を変化させる『スプレッダー』である。あれを破壊すれば防御障壁を分割する事は出来なくなり、綾斗が一気に有利になると判断したからだ。
そして綾斗が綾斗との距離を45メートルまで詰めた瞬間……
「はあっ!」
掛け声と共に再度突撃を仕掛ける。対するアルディも迎撃するべく『マグネット』を振るい大量の防御障壁を飛ばす。
すると綾斗は防御障壁とぶつかる直前に……
「天霧辰明流剣術中伝ーーー矢汰烏!」
圧倒的な速度で『黒炉の魔剣』を振るい全ての防御障壁を焼き切った。
「な、なんと?!」
これにはアルディも予想外だったようで声には驚きの色が混じっていた。綾斗の矢汰烏は鳳凰星武祭でも使われていたのでアルディも知っていてはいたが、前に比べて剣の速度や鋭さは格段に向上していた故に。
綾斗は全ての防御障壁を焼き切ると再度アルディに突撃を仕掛ける。狙いは当初の予定通り『スプレッダー』だ。
校章を狙うという選択肢もあったが、綾斗はアルディが奥の手を隠している以上危険と判断して、それ以外の装備を破壊する事を優先した。
敵の手の内がわからない以上無理に攻めるのは厳禁であり、今現在までに判明しているもので驚異的な武器を潰すというのは間違いなく正しい戦術である。
しかし……今回それは悪手であった。
綾斗がアルディとの距離を10メートルまで縮めた瞬間、アルディは……
「『ダメージングハンマー』、起動である!」
掛け声と共に右手に煌式武装を起動する。
するとアルディの右手には水色のハンマーがあった。しかし濃い水色である『スプレッダー』と違って、透明に近い水色のハンマーだった。
そしてアルディは綾斗目掛けて『ダメージングハンマー』を振るう。対する綾斗はアルディの行動について訝しげに思いながらも『黒炉の魔剣』で防ごうとする。
その時だった。『ダメージングハンマー』が『黒炉の魔剣』にぶつかる直前に一瞬光り輝いたかと思えば……
「ぐうっ……!」
綾斗の頭に頭痛が走り、思わずよろめいてしまう。頭痛によって『黒炉の魔剣』も下ろしてしまい『ダメージングハンマー』を斬る事は叶わなかった。
(この痛み、『ダークリパルサー』と同じ……っ!)
そこまで考えているとアルディが自分とアルディの間に防御障壁を展開する。
(マズい……!ここで防御障壁の散弾を撃たれたら負ける……!)
そう判断した綾斗は頭痛を耐えながらもアルディが『スプレッダー』を使用する前に防御障壁を『黒炉の魔剣』で焼き切る。防御障壁は『スプレッダー』を使って分割される前に切られたので、この場には無く綾斗は最悪の状況は避けれた。
最も最悪の状況であって悪い状況は変えられず……
「むぅんっ!」
アルディの『マグネット』が綾斗の腹に叩き込まれる。防御障壁による射出が無くとも充分な破壊力で……
「がっ……!」
モロに食らった綾斗は食らう直前に星辰力を全身に込めたので気絶は免れたが、全身に走る衝撃に苦悶の表情を浮かべながら吹き飛んだ。
2年半ぶりに行われた綾斗とアルディの戦いは序盤はアルディがリードしていた。