シリウスドームにてアルディと綾斗の戦闘が始まる直前……
『さーて、いよいよ5回戦の始まりだぁ!先ずは東ゲート!星辰力に干渉するってチート能力を持ったアスタリスク最強のマフィアの頭領!レヴォルフ黒学院元序列2位『砕星の魔術師』ロドルフォ・ゾッポの登場だぁーっ!』
カノープスドームにて、実況のクリスティ・ボードアンのハイテンションの声と共に、ロドルフォが白い歯を煌めかせながらブリッジを歩き出す。
同時に大歓声が沸き起こり、それを西ゲートの入り口付近にいるヴァイオレット・ワインバーグの耳に入る。
(流石に壁を越えた人間が出る試合は盛り上がっていますのね……てゆーか堂々とマフィアの頭領って言って大丈夫ですの?)
ヴァイオレットが内心呆れながら実況の声を聞いている時だった。
pipipi……
ヴァイオレットの端末がいきなり鳴り出した。こんな時に誰からだ?、と疑問に思いながら端末を開くと……
『from八幡さん 頑張れよ』
そんな一言が書いてあるメールが来ていた。それを見たヴァイオレットは不思議と口元に笑みを浮かべる。
(当然ですわ!この試合に勝って、天霧様にも勝って準決勝で八幡さんを倒すのが私の目標ですの!)
そう思いながらヴァイオレットは自身の両頬を叩いてやる気を出す。相手は元序列2位。言うまでもなく強敵だが、王竜星武祭に参加すると決めてからは強敵と当たる事は予想していたので特に緊張しない。
ヴァイオレットが一層気合いを入れるとアナウンスが入る。
『続いて西ゲート!これまでの4試合!多彩な砲弾で相手を吹っ飛ばしたぶっ飛びガール!クインヴェール女学園序列35位『崩弾の魔女』ヴァイオレット・ワインバーグゥゥゥゥゥッ!』
色々と突っ込みたい箇所のある実況にヴァイオレットは頬を引攣らせながらもゲートをくぐりステージに降りる。
同時に正面からロドルフォがやってくる。
「はっはー!中々良い女じゃねぇか!見る限り序列35位程度に収まる器じゃねぇし、良いね良いねー!」
ロドルフォは楽しそうにヴァイオレットを値踏みするのように全身を観察する。そんな中、ヴァイオレットはロドルフォの放つ圧倒的なオーラに気圧される。
(ロドルフォ・ゾッポ……八幡さんの前に序列2位にいた男。わかってはいましたが、本当に桁違いですわね……!)
ヴァイオレットも星露との鍛錬で間違いなく強くなったが、やはり壁を越えた人間に比べたら劣っているのは事実だ。実際ロドルフォは陽気に笑いながらも目の奥が笑っていない。
そんな風にロドルフォを警戒する中、ロドルフォ本人は楽しそうに喋り続ける。
「これまでは適当に嬲って楽しんでたが、お前とは戦うことで楽しめそうだしよろしくなー!」
嬲って楽しむ、それを聞いたヴァイオレットはロドルフォは自分とは別世界の人間と嫌でも理解する。
試合前に当然ロドルフォのデータを見たが、ロドルフォは掴み所のない人間だった。基本的に嬲って蹂躙するのを楽しんだり、真っ向勝負を楽しんだり、相手の攻撃を受けることすら楽しむなど気分によって戦い方を変える変わり者だ。
またマフィアとしてのデータもあり、そこには徹底的な自己中で他者の尊厳を一切考えない外道悪鬼であると載っていたが、それは間違いないようだ。ヴァイオレットからすれば嫌悪しか湧かない存在である。
「……私は勝つ為に来たので全力でやる事はあっても楽しむつもりはないですの」
ヴァイオレットは冷たい表情を浮かべながらそう口にするも、ロドルフォは特に気にした素振りは見せない。
「それならそれで構わねぇさ!俺は俺で楽しませて貰うからよ!」
言いながらロドルフォはヴァイオレットに背を向けて開始地点に向かうのでヴァイオレットも同じように開始地点に向かう。
両者が開始地点に立つとヴァイオレットはマスケット銃型煌式武装を展開する。対するロドルフォは1回戦で見せた超大型煌式遠隔誘導武装を起動する素振りは見せない。
(どうやら最初は能力のみで戦うつもりみたいですのね……普通なら遠距離から攻めるのがセオリーですけど……)
ロドルフォの能力は一定範囲内の星辰力へ干渉する能力で、データではロドルフォ本人を中心にした半径2メートル程度の内部と書いてあった。
その範囲内なら他人の星辰力へ干渉する事も出来て、界龍の拳士が得意とする拳や脚に星辰力を込めた一撃を無力化する事や、相手の全身を暴発させる事も可能と破格の能力である。
それならロドルフォの能力の範囲外から攻めるのが基本だが、ロドルフォの場合身体能力も桁違いだし、煌式遠隔誘導武装によって簡単に防がれるのは容易に想像出来る。それらの事からヴァイオレットは長距離からの攻撃でロドルフォを倒すのは不可能と判断した。
となると取れる戦術は限られてくるが……
『そろそろ時間だぜー!勝つのはレヴォルフかクインヴェールか、お前ら目ん玉見開いてよーく見とけよぉっ!』
クリスティのハイテンションの声を聞いてヴァイオレットは前にいるロドルフォを見据える。時間が迫ったし、既にある程度の策は考えているので続きは試合が始まってから考えると決めた。
そして……
『王竜星武祭5回戦第2試合、試合開始!』
遂に第2試合の幕が上がったのだった。
同時にヴァイオレットはロドルフォに向かって走り出す。それを見た観客からは困惑の空気が流れだし、ロドルフォも僅かにだが眉を寄せる。
『おおっと!ここでワインバーグ、ロドルフォ・ゾッポに向かって走り出す。奴の能力を知らない馬鹿なのか、はたまた爆発されたい生粋のドMなのかぁー?!』
『ちょ、ちょっとクリスティさん!言葉を選んで……!』
クリスティのハイテンションな説明に解説の護藤蓮也は慌てながら落ち着かせようとする。
そんな中、ヴァイオレットはとにかく走り続けロドルフォとの距離を25メートルまで縮めると……
「撃ぇーっ!」
マスケット銃型煌式武装を一振りする。掛け声と共にヴァイオレットの周囲の万応素が荒れたかと思えば、虚空から12発の拳大の大きさの砲弾が生まれて即座にロドルフォに向かって放たれる。狙いは全てロドルフォの足だ。校章を狙っても回避されるのがオチと判断した故に。
「おっと!」
対するロドルフォは砲弾の軌道を見切ったのか最小限のステップで回避する。対してヴァイオレットは次の手を即座に打つ。
「白幕の崩弾!」
言葉と同時にヴァイオレットが放った砲弾は空中で爆発すると白煙を噴き出してロドルフォとヴァイオレットの周囲に広がって……
『ここで両者が白煙に包まれやがっただとぉっ?!観客席からはともかく両選手からしたら全く見えないこの状況?!これは一体なんなんだあっ?!』
『おそらくゾッポ選手の能力対策かな?彼の能力は一定範囲内の星辰力に干渉するものだけど、干渉するべき対象を捕捉しなければ発動出来ないだろうし』
解説の言う通り、ヴァイオレットが煙幕を展開したのはロドルフォの星辰力に干渉する能力に対抗する為だ。煙幕を展開すればロドルフォは相手を視界に入れられず能力が発動出来ないとヴァイオレットは判断した故に煙幕を展開したのだ。
ロドルフォの能力は強力だが、この状況なら広範囲攻撃や追尾攻撃を持つヴァイオレットが有利だ。
よってヴァイオレットはロドルフォの機動力を削るべく白煙に包まれながら星辰力を込めて……
「必中の崩……っ!」
放とうとしたら前方ーーーロドルフォのいる方向から圧倒的な星辰力を感じたので、ヴァイオレットは攻撃を中止して距離を取る。
するとさっきまでヴァイオレットが居た場所とその周辺に斬撃が走った。床を見れば巨大な跡が出来たので相当強い攻撃と判断出来る。
同時に煙が無くなったので見れば……
(予想以上に早い登場ですの……!出来れば起動する前にダメージを与えたかった……!)
大型煌式遠隔誘導武装を3本を自身の周囲に守るように展開しているロドルフォが凶悪な笑みを浮かべて立っていた。
『ここでロドルフォ・ゾッポ、大型煌式遠隔誘導武装を起動!一気に勝負をかける気かぁっ!観客が盛り上がってるのに早過ぎるぞ!厳つい顔して早漏かぁっ!?』
実況のクリスティがぶっ飛んだ発言をする中、ロドルフォは楽しげに笑って……
「さてと……そんじゃ楽しくやろうぜ!楽しくよぉっ!」
言葉と共に両手を広げると、3本の煌式遠隔誘導武装の内、2本をヴァイオレットに向けて飛ばす。内、1本はロドルフォの近くに残っているので防御用と推測する。
「くっ……!」
対するヴァイオレットはバックステップで回避しながら砲弾を生み出して放つ。しかし大型煌式遠隔誘導武装は頑丈で一瞬動きを止める程度だった。
(本当に頑丈過ぎですの……!)
ヴァイオレットは内心苛立ちながらロドルフォの猛攻を回避する。状況は悪いと言って良いだろう。
一応ヴァイオレットの技の中には破壊力重視の技もあるし、それを使えば煌式遠隔誘導武装も壊す事も可能だが……
(ロドルフォ・ゾッポの前で大技は余り使いたくないですの……!)
大技の展開には基本的に隙が生じるが、ロドルフォが虎視眈々と狙っているのが危険過ぎる。距離を詰められる=負けとなるこの試合では余り隙がある技を使いたくないのがヴァイオレットの本音だ。
(とはいえ、いつまでもこうしていても勝ち目はないですの……こうなったら……!)
ヴァイオレットは二振りの煌式遠隔誘導武装を回避すると同時にマスケット銃の引き金を引いてロドルフォの顔面に向けて放つ。
「おいおい。そんな豆鉄砲じゃ、こいつは突破出来ないぜぇ?」
ロドルフォの言葉と共に、大型煌式遠隔誘導武装がロドルフォの顔面の前に移動し、盾のようにマスケット銃から放たれた光弾を防ぐ。
しかしそんな事は予想の範囲内だ。本命は……
「黒槍の崩弾!」
一撃必殺の砲弾だ。ヴァイオレットの前方に1発の槍の形をした黒い砲弾が現れて一直線に突き進む。同時にヴァイオレットの近くにあった煌式遠隔誘導武装の1本を破壊する。
『ここでワインバーグ、ロドルフォ・ゾッポの3本の煌式遠隔誘導武装の内の1本を破壊したぁっ!』
『見る限り相当星辰力の込められだ弾丸だね。アレを食らってマトモに立てる人間はいないね』
解説の言葉にヴァイオレットは当然と思う。何せこの技は自身の師匠である八幡の影狼修羅鎧を打ち破る為に開発した技なのだから、幾ら頑丈な物とはいえ只の煌式遠隔誘導武装を破壊できないようじゃ話にならない。
ヴァイオレットがそう思う中、黒い砲弾は一直線に向かうが……
「あらよっと!」
そんな掛け声と共に横に跳んで回避して、ギラギラの笑顔を見せてくる。
「確かに破壊力はあるみてぇだが、単発じゃ俺は倒せねぇよ!」
その言葉にヴァイオレットは内心舌打ちをする。ヴァイオレットが一度に生み出せる砲弾の数は基本的に、威力がない砲弾ならば多く、威力がある砲弾なら少なくしか生み出せないのだ。先程放った黒槍の崩弾を今のヴァイオレットでは1発しか放てない。
とはいえ煌式遠隔誘導武装の1つを破壊したのは事実、ヴァイオレットは次の1本を壊しに向かう。煌式遠隔誘導武装を破壊すればロドルフォは遠距離戦が出来なくなり、寄ってくるはずだ。ロドルフォの能力は恐ろしいが自分の力を全てぶつければ何とか対処出来るとヴァイオレットは考えていた。
そう考えているとロドルフォが動き出した。ヴァイオレットの近くにて生き残っている煌式遠隔誘導武装を引き戻してからヴァイオレットに向かって走りだす。それによってロドルフォは2つの煌式遠隔誘導武装を従わせる形で走っている。
対するヴァイオレットは後ろに下がりながら砲弾を生み出す。ロドルフォが攻めてくる状況で足を止めるのは愚策だ。
「粉微塵になりやがれですの!紅烈の崩弾!」
ヴァイオレットが後ろに下がりながら、5メートル以上の巨大な砲弾が現れてロドルフォに向かって突き進む。破壊力ならヴァイオレットの技の中でもトップクラスの技だ。
「はっはー!良いね良いねー!そうこなくっちゃなぁ!」
するとロドルフォは2つある煌式遠隔誘導武装をの内の1つを前方に飛ばす。そしてヴァイオレットの放った砲弾と向かい合わせて……
『ここでロドルフォ・ゾッポ、煌式遠隔誘導武装で流星闘技だぁ!』
『制御の難しい煌式遠隔誘導武装で流星闘技なんて難しい事を簡単にするのはゾッポ選手が魔術師として高いレベルだという事を示しているね』
只でさえデカい煌式遠隔誘導武装の刀身を2倍以上の大きさにしてそのまま砲弾をぶった切った。
それによって爆風が生じるがロドルフォはそれを気にせずに走りだす。速度はヴァイオレットよりロドルフォの方が速いのでこのままだと負けるだろう。
自分の技が悉く効かない事によってヴァイオレットの胸中に一瞬だけ恐怖が生まれるも、直ぐに押し留めてロドルフォを睨まながら能力を発動する。
「白幕の崩弾!」
言葉と同時にヴァイオレットが放った砲弾は空中で爆発すると白煙を噴き出してロドルフォとヴァイオレットの周囲に広がる。
同時にヴァイオレットは星辰力を込めて新しい技を使おうとする。使おうとするのは量滅の崩弾という文字通り無数の砲弾を放つ技である。幾らロドルフォでも白い煙の中で無数の砲弾を受けたらマズいと判断しての行動だ。
そう思って能力を発動した時だった。その前にロドルフォが煙から出てくる気配を感じたのでヴァイオレットが能力を使用しようとするが……
「はっはー!悪ぃが煙の中に居たらヤバそうだしこっちも新技でスピードアップしたぜー!」
煌式遠隔誘導武装に乗ったロドルフォが圧倒的なスピードでこちらに向かってくる。
それを見たヴァイオレットは内心驚く。煌式遠隔誘導武装に乗る手法は珍しいがアルルカントの『双頭の鷲王』カーティス・ライトが使っている前例があるのでそこまで驚いていない。
しかしロドルフォが煌式遠隔誘導武装に乗る戦法は初めて見る。その上新技と言った以上ぶっつけ本番で新しい技術を身につけたという事を意味する。
(能力頼りの凡夫ではなく、バトルセンスも桁違いですの……っ!)
そこまで考えたヴァイオレットはハッとした表情で顔を上げると既にロドルフォはヴァイオレットとの距離を10メートル以内に縮めていた。
この距離ならあって無いようなものである。そう判断したヴァイオレットは後ろに下がろうとするがロドルフォの方が一歩早くて、足に星辰力を込めるや否や煌式遠隔誘導武装を蹴りつけて、ヴァイオレットに飛びかかる。
そして……
「ぐうっ……!」
ヴァイオレットが後ろに跳ぶと同時にヴァイオレットの両手両足が爆ぜた。その事からロドルフォの能力を受けたのと判断出来る。
全身に入る痛みにヴァイオレットが膝をつくとロドルフォがヴァイオレットの真ん前に立つ。
「中々楽しかったがここまでだな!降参してくれね?俺は女の顔面を爆発する趣味はないんでな?」
その言葉にヴァイオレットは歯軋りをする。実際ロドルフォの言う通りで、この状況でヴァイオレットに勝ち目は殆どないだろう。
しかし……
(私もここまで上ってきた以上諦められないですの!)
言いながらヴァイオレットは最速で能力を発動しようとする。放つ技はヴァイオレットの技の中で最速の閃光の崩弾で狙いはロドルフォの校章。
確かにこの距離ならロドルフォの全身爆破攻撃は避けれないが、一回爆発に耐えればまだ勝機はある。この距離ならロドルフォでも自分の攻撃を避けれないだろうし。
そう思いながら星辰力を込めようとするが……
「閃光の崩……えっ?」
星辰力を込められずに能力の発動が出来なかった。ロドルフォに気圧されてミスをしたのかと思い、再度能力を発動するべく星辰力を込めようとするがまたしても失敗する。
「だから無理だって。お前が能力を発動するべく星辰力を込めようとしてるのを俺が阻害してんだから能力の発動は出来ねぇよ」
そんな戸惑うヴァイオレットを他所にロドルフォは笑いながら説明をする。
それを聞いたヴァイオレットは戦慄する。ロドルフォの能力は星辰力に干渉する能力とは知っていたが、能力発動の阻害も出来るとは思わなかった。
(星脈世代が相手なら殆ど無敵だとは聞いていましたが……これほどまでとは思いませんでしたの……!)
両手両足は爆発して満足に動けず、ロドルフォの近くにいる以上能力の発動は邪魔をされる。まさに詰みというヤツだろう。
それはロドルフォもわかっているようで再度降伏を促してくる。
「で?どうするよ?さっきも言ったが出来るだけ女の顔面は吹き飛ばしたくないし降参してくれねぇか?」
それを聞いたヴァイオレットは歯軋りをする。悔しいがロドルフォの言うようにヴァイオレットに勝ち目はない。ここで無理に攻めるのは勇敢ではなく無謀だろう。
一昔前のヴァイオレットなら負けを認めず、無謀に突っ込んでいたが……
「……わかりましたの。私の負けですの」
今のヴァイオレットは冷静な判断を下せるようになったので、悔しい思いをしながらも校章に触れながら負けを宣言する。
すると一拍遅れて……
『試合終了!勝者ロドルフォ・ゾッポ!』
ロドルフォの勝利を告げられて観客席からは大歓声が沸き起こる
そんな中……
「ぐっ……!」
試合が終わったからかヴァイオレットは両手両足に感じる痛みが増したように思えて、そのまま地面に向かって倒れだす。
(悔しい、ですの……申し訳ありませんですの……はちまん、さ……)
そこまで考えるとヴァイオレットは意識を失ってステージに倒れ伏したのだった。