学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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ロリっ子対決 ノエル・メスメルVS沙々宮紗夜(後編)

『おおっと!メスメル選手と沙々宮選手の力と力のぶつかり合いぃっ!何て破壊力だ!』

 

『2人ともちっこいのに恐ろしいなぁ』

 

プロキオンドーム控え室。シルヴィア・リューネハイムはノエルと紗夜の試合を見ている。今は聖狼修羅鎧を纏ったノエルの右腕と紗夜の放った超高威力超低射程の光線がぶつかり合い、大爆発が生じている。

 

彼女は午後からノエル達と同じプロキオンドームで雪ノ下陽乃と試合があるが、それまで暇なので午前の試合を見ている。

 

他のドームでも試合が行われているが、シルヴィアはノエルと紗夜の試合を見ている。何故かというとシルヴィアが陽乃に勝った場合、準々決勝の相手がノエルか紗夜だからだ。

 

「それにしてもノエルちゃん、本当に八幡君の戦闘スタイルに似てて妬けちゃうなぁ……」

 

シルヴィアは少し羨ましく思いながら空間ウィンドウを見る。ノエルは自分の恋人である八幡に恋をしている人間で、ある意味シルヴィアが1番警戒している人間だ。

 

ノエルが八幡に恋をしている事については文句は言わない。誰が誰を好きになろうと自由だし、ノエルが八幡に恋した理由は自分と同じく彼の優しさに触れたからだし。

 

しかし……

 

(それとこれとは別……八幡君は渡したくない)

 

シルヴィアの偽りざる気持ちだ。シルヴィアとしては八幡が女子と連んでいるだけで胸にモヤモヤが湧く。新しい恋人が出来たらその数倍以上のモヤモヤが生まれる自信がある。

 

(でも……ノエルちゃんって優しいから、もしかして)

 

シルヴィアはネガティブな思考をしてしまう。シルヴィアは王竜星武祭が始まってから本格的に関わるようになったが、本当に良い子だ。

 

礼儀正しいし、細かい気遣いも出来るし、小動物みたいな容姿が保護欲を駆り立てる。同性のシルヴィアから見ても本当に素晴らしい女性だ。

 

そんな彼女なら自分達より八幡を幸せに出来るかもしれないと思ってしまう。ワザとじゃないとはいえ八幡がラッキースケベをすると直ぐに八幡に手を出してしまう自分達よりも。

 

(ダメ……どうしても悪い方向に考えてちゃう……それに、なんで私は昨日ノエルちゃんに見極めるなんて言ったんだろう?)

 

シルヴィアは昨日ノエルに……

 

『ノエルちゃん、準々決勝まで上がってきてね。ノエルちゃんがどれだけ八幡君の事を想ってるのか見極めたいから、ね』

 

と言った。側から見たらチャンスをあげてるような言い方にも聞こえる。八幡に自分とオーフェリア以外の彼女が出来たら嫌なのに。

 

(今でもよくわかんないけど……やっぱり本気で八幡君を愛してるからかな?)

 

八幡とオーフェリアとシルヴィアの3人の関係はアスタリスクでも有名で世界最強のバカップルと評されている。

 

しかしノエルはそれを知って尚、八幡に愛されたいとシルヴィアとオーフェリアの前で宣言した。その事からノエルは本気で、それこそ自分とオーフェリア位彼を愛している……と、シルヴィアは考えている。

 

(……うーん!これ以上考えても仕方ないし、明日考えよう!少なくともノエルちゃんが準々決勝に上がらなければ関係ないんだし)

 

言いながら空間ウィンドウを見ると、先程2人が激突した事によって生まれた爆風の中からノエルと紗夜が出てくる。

 

見ればノエルの右腕にある茨は全て剥がれていた。その事から紗夜の一撃の方が破壊力を持っていた事を意味している。

 

「さて……アレを見る限りノエルちゃんが不利だけど、どうなるやら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「天霧辰明流沙々宮式砲剣術ーーー肆祁蜂・爆砕……!」

 

掛け声と共に力と力がぶつかり合った。ノエルの聖狼修羅鎧の右腕と紗夜のアレスブリンガーから放たれる光線がぶつかり合って……

 

 

ドゴォォォォォンッ……

 

大爆発が起こり、周囲には爆煙が、互いの足元にはクレーターが生まれる。そんな中ノエルの右腕は紗夜のアレスブリンガーを破壊しようと、紗夜のアレスブリンガーから放たれた光線はノエルの右腕に纏われる鎧を打ち破ろうとしている。

 

結果……

 

「ぐぅっ……!」

 

紗夜のアレスブリンガーから放たれた光線がノエルの右腕に纏われる茨を全て吹き飛ばす。それでも尚、光線は消えずにノエルの制服の右袖を焼き、生肌も若干焦がしていた。

 

アスタリスクの六学園の制服は星武祭に備えて衝撃や熱に強いが、紗夜のアレスブリンガーの火力はそれを上回ったのだ。もしも制服が熱に弱かったらノエルの右腕は大火傷をしていたのは間違いない。

 

(何て破壊力……純星煌式武装を上回ってるよ……!)

 

ノエルは右腕に走る痛みを無視しながら鎧を修復して紗夜を見据える。対する紗夜は一度アレスブリンガーを振ってから再度同じ構えを見せる。こちらに来ないという事はカウンター狙いと推測出来るので迂闊には攻める事が出来ない。

 

(どうしよう……!聖狼修羅鎧じゃ力負けするし、大量の茨で攻める戦術はさっき通用しなかったし、他の技を使わないと……!)

 

しかし聖狼修羅鎧で力負けしたという事は大抵の技が効かないだろう。そうなると思いつく技は2つしかない。

 

1つは聖狼夜叉衣。聖狼修羅鎧に使う茨を両手両足に移したり、背中に翼を生やして、防御力を捨てる代わりに攻撃力と機動力を得る衣を纏う技だが、即座に却下した。

 

理由は防御力が低過ぎるからだ。もしもカウンターの一撃を食らったら間違いなく気絶して負ける自信がノエルにはあった。

 

機動力で翻弄してカウンターを出来ない状態にするパターンも考えたが、紗夜は天霧綾斗の幼馴染。彼と鍛錬をしているなら見切れる可能性が高い。聖狼夜叉衣の速度は綾斗の機動力より殆ど互角だし。

 

そうなると聖狼夜叉衣は紗夜相手に使うのは少々リスクが高いと考えてしまう。

 

となると、残るは1つ……

 

(アレしかない、よね……)

 

ノエルは頭にある技ーーーアーネスト相手にも勝ち星を挙げた最強の技を思い浮かべる。アレを使えば紗夜に勝てるのは間違いないだろう。

 

しかし準々決勝で当たる可能性が高いシルヴィア相手に見せたくない気持ちが強い。初見か否かで勝率は大きく変わるのはずっと昔の時代からだ。

 

そんな事を考えていると紗夜が動き出す。

 

「四十一式煌型誘導曲射粒子砲ヴァルデンホルト改……ずどーん」

 

紗夜がそう呟きながらヴァルデンホルト改を起動して全砲門を一斉に放ってくる。

 

ノエルが慌てて横に跳ぶもヴァルデンホルト改は追尾性能を持った攻撃を放つ煌式武装。六条の光の奔流は弧を描いてノエルの鎧に当たる。聖狼修羅鎧は機動力が低いので全弾命中して……

 

「うぅ……!」

 

鎧の一部が剥ぎ取られる。幸い校章は破壊されてないが若干身体に衝撃が走る。ヴァルデンホルトは紗夜の持つ煌式武装の中で2番目に破壊力を持つ煌式武装であり、ノエルの鎧を破壊することに成功していた。

 

ノエルは鎧を修復しながらある考えに至った。

 

(……やっぱりアレを使おう。使ったら次の準々決勝は厳しいけど、出し惜しみして5回戦で負けたら意味ないしね……)

 

ノエルは内心そう呟くと体内から星辰力を込め始める。一度切り札を切ると決めたなら一切の躊躇いはなかった。

 

すると……

 

ーーー頑張れ、ノエルーーー

 

そんな声が耳に入ってくる。普通に考えたらあり得ない。その声の主はプロキオンドームではなくてシリウスドームにいるのだから。

 

だけどノエルにはどうでも良かった。例え幻聴だとしても彼の声援は心強いのだから。ノエルはテンションが上げながらも更に星辰力を込める。

 

ノエルの様子を見た紗夜は危険と判断したのか再度ヴァルデンホルト改の一斉攻撃をしてくる。

 

それによってまた六条の光の奔流がノエルに襲いかかるも……

 

 

 

 

「呑めーーー茨神の創造神装」

 

ただ一言、そう呟く。同時にノエルの周囲から星辰力が爆発的に噴き上がり、聖狼修羅鎧に纏わり付いたかと思えば、押し付けるように圧縮が始まる。

 

同時にノエルの身体からギシギシと音が鳴り若干の痛みが生まれるが、ノエルはそれを気にしない。

 

寧ろ好きな男の最強の技と同種の技を使う事を改めて認識しながら限界まで聖狼修羅鎧を圧縮するように星辰力を操作する。

 

そして遂に限界まで聖狼修羅鎧を圧縮し切り、背中から大天使の如く6枚の翼を生やし……

 

「やぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

雄叫びと共に左腕を振るう。すると……

 

ゴッ……!

 

左腕から放たれる圧倒的な衝撃がヴァルデンホルト改から放たれた六条の光の奔流を全て吹き飛ばす。

 

余りの光景に先程まで盛り上がっていた観客も静まってしまう。

 

『え、ええっと……これは……』

 

『信じられへんけど……拳圧で沙々宮選手のホーミングレーザーを消しとばしたんとちゃう、かな?』

 

実況のナナ・アンデルセンと解説の左近千歳の口から出る声は信じられないとばかりに震えていた。長く星武祭の実況と解説を務めたいた2人からしても信じられないのだろう。

 

(結構ギリギリだった……能力の発動中に負けたんじゃ笑えないからね)

 

ノエルは苦笑しながら自身の身に纏う鎧を見渡す。

 

これがノエルの最強の技、茨神の創造神装。聖狼修羅鎧を凝縮することで圧倒的なパワーと防御力を、背中に生えた6枚の翼によって圧倒的な機動力を得ている。

 

勿論モデルは八幡の影神の終焉神装だ。地面から茨を生やすノエルの能力と、地面にある影を伸ばして戦う八幡の能力は酷似している故に彼の戦い方を模倣するのは合理的である。ノエル個人としては好きな人の奥義に憧れていたという理由もあるが。

 

そして紗夜のヴァルデンホルト改の攻撃を全て撃ち落としたノエルは背中にある6枚の茨の翼を羽ばたかせて一直線に紗夜に向かって突撃を仕掛ける。

 

対する紗夜はヴァルデンホルト改のバーニアを全開にしてステージを滑るようにしながら距離を取りながらホーミングレーザーを放つも……

 

 

『何とメスメル選手!向かってくるホーミングレーザーを全て弾き飛ばしぁっ!』

 

『いや硬過ぎやろ……』

 

先程聖狼修羅鎧の装甲を剥がしたヴァルデンホルト改のホーミングレーザーだが、茨神の創造神装相手には傷1つ付かなかった。

 

それを見た紗夜は近付いてくるノエルを見据えながらヴァルデンホルト改を待機状態にする。ヴァルデンホルト改が効かないなら紗夜も最強の武器で迎え撃たないと負ける故に。

 

 

「四十二式煌型杭打式粒子砲アレスブリンガー」

 

先程ノエルの聖狼修羅鎧をぶち破ったアレスブリンガーを展開する。同時に紗夜の右腕を覆うようにして細長い円筒型の煌式武装が顕現する。

 

アレスブリンガーは近接高火力戦闘用に紗夜が開発した新型煌式武装であり、接近戦において紗夜の技術が最大限に発揮される専用武器である。ノエルがこちらに寄ってくるからアレスブリンガーが1番ノエルを倒せる可能性のある煌式武装だ。

 

(今度は負けない……!)

 

ノエルがそう念じながら速度を上げて……

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「天霧辰明流沙々宮式砲剣術ーーー十昆薊・爆裂……!」

 

ノエルはシンプルに拳を放ち、紗夜はアレスブリンガーを持って身体を捻るように薙ぎ払う。

 

茨神の拳と超高威力超低射程の光線による薙ぎ払いがぶつかり合い……

 

「やあっ……!」

 

「むぅぅぅっ!」

 

茨神の一撃が光線による薙ぎ払いを、紗夜のアレスブリンガーもろとも吹き飛ばした。紗夜は咄嗟に回避しようと身体を捻ったのでノエルの拳を直撃しなかったものの衝撃波によって遠くまで吹き飛び、残ったのは圧倒的な力を宿した神装を纏ったノエルとアレスブリンガーの残骸だけだった。

 

ノエルはアレスブリンガーの残骸を一瞥すると紗夜の元に突っ込み、右腕の部分だけ茨を剥がして……

 

「えいっ!」

 

可愛い声と共に紗夜の校章にパンチを入れて校章を破壊する。茨神の創造神装を纏った状態で紗夜を殴ったら、今後紗夜の日常生活に支障が出る可能性を危惧した故に。

 

『沙々宮紗夜、校章破損』

 

『試合終了、勝者ノエル・メスメル』

 

機械音声がノエルの勝利を告げると、毎度のように一拍遅れてステージに大歓声が降り注ぐ。

 

「むぅ……近接戦でアレスブリンガーが力負けするとは思わなかった」

 

紗夜はフラフラしながらも起き上がるので、ノエルは茨神の創造神装を解除して紗夜の元に向かう。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「ちょっとクラクラするけど問題ない。寧ろアレスブリンガーがお釈迦になった方が痛い」

 

「ええっと……」

 

ノエルがポカンとした表情を浮かべる中、紗夜は口を開ける。

 

「まあ負けは負けだ。決勝戦で綾斗と当たるまでは応援する」

 

紗夜は無表情ながらノエルを応援する。それについては素直に嬉しいが……

 

「いえ。決勝戦にあがるのは八幡さんです」

 

ノエルはそう返す。八幡と綾斗が当たるとしたら準決勝だが、ノエルは八幡が勝つと考えている。

 

すると紗夜は無表情ながら首を横に振る。

 

「いや、勝つのは綾斗だ」

 

「八幡さんです」

 

「綾斗」

 

「八幡さん」

 

「綾斗……!」

 

「八幡さん……!」

 

それからノエルと紗夜は暫くの間、互いに一歩も引かずに額をぶつけるように互いの想い人が勝つのだと揉めあったのだった。


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