学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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激戦、比企谷八幡VSユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト(前編)

『さぁ!いよいよ午後の試合です。先ずは東ゲートから現れるのは星導館学園序列5位、史上2人目のグランドスラムの権利を有する『華焔の魔女』ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト選手だぁぁっ!』

 

『魔女としてはシルヴィア・リューネハイム選手と並んでトップクラスだな。近・中・遠距離戦でも抜群の安定感を示していて今大会屈指のオールラウンダーだろう』

 

西ゲートにて待機している俺は向かいの東ゲートからリースフェルトが走って、ステージに飛び降りるのを目にする。

 

リースフェルトがステージに降りたってことはそろそろ俺の番だろう。

 

『続いて西ゲート!レヴォルフ黒学院序列2位、昨日の4回戦では圧倒的な力でステージをボロボロした前シーズン王竜星武祭セミファイナリスト、『影の魔術師』比企谷八幡選手の登場だぁっ!』

 

『今回の戦いは実に興味深いな。両者共にアスタリスクでもトップクラスに多彩な技を持つ能力者同士のぶつかり合いだからな』

 

実況の声が聞こえたので俺も西ゲートをくぐり、歓声とスポットライトを浴びながらステージに飛び降りるとリースフェルトがこちらにやってくる。

 

「昼食の時以来だな。改めてよろしく頼む」

 

言いながら手を差し出してくるので、俺も差し出す。前回の王竜星武祭でもシルヴィに握手を求められたが律儀だなぁ……

 

「ああ。よろしく」

 

言いながら握手をするとリースフェルトがマジマジと見てくる。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや……気の所為かもしれないが、顔が赤いぞ?」

 

「……っ!」

 

リースフェルトェ……事情を知らないとはいえ思い出させないでくれよぉ……また顔が熱くなっちまうし

 

「わ、悪いな。ちょっと暑いから顔が赤いんだと思う?」

 

「今は2月だぞ?」

 

「………さて、そろそろ試合開始だし開始地点に行くぞ」

 

「……この短時間で何があったんだ?」

 

ノエルにキスされました。まあ馬鹿正直に言うつもりはないけどな。

 

「まあ色々だ」

 

俺はさっき感じた柔らかい感触を思い出して顔を熱くしながらもリースフェルトに背を向けて開始地点に向かう。そして正面を見るとリースフェルトも開始地点に向かっていて、ホルダーから煌式遠隔誘導武装を取り出して起動する。

 

対する俺は徒手空拳だ。星露との鍛錬の影響で基本的に素手で戦うようになった。『ダークリパルサー』は持っているが状況に応じて使用するのであって初っ端から使うつもりはない。

 

そして俺達が互いに構えを取ると……

 

『王竜星武祭5回戦第5試合、試合開始!』

 

タイミングを狙っていたかのように試合開始を告げられる。

 

同時に俺は走り出して、リースフェルトは手に持つ『ノヴァ・スピーナ』を向ける。

 

そして……

 

「咲き誇れーーー赤円の灼斬花!」

 

「影の刃軍」

 

同時に能力を使用する。リースフェルトの周囲からは炎の戦輪が、俺の足元からは影の刃が生まれて互いに向けて放たれる。

 

その数は両者共に50を優に超えていて……

 

ドドドドドドドドッ……

 

当たった瞬間大量の爆発が生じる。影の刃は溶けるように崩れて、炎の戦輪は弾けるかのように消滅した。

 

しかしこんなのは唯の挨拶である。俺は爆風を手で払いながらもリースフェルトに詰め寄る。対するリースフェルトはバックステップをしながら俺に煌式遠隔誘導武装を3本飛ばしてくる。

 

「おらっ!」

 

だから俺は迎撃するべく腕に星辰力を込めて殴り飛ばす。すると3本の煌式遠隔誘導武装は壊れはしないが遠くに吹き飛ぶ。

 

しかしそれは囮だったようで、残り3本の煌式遠隔誘導武装がリースフェルトの周囲に配置され、星辰力が湧き上がり……

 

「咲き誇れーーー重波の焔鳳花!」

 

言葉と同時にリースフェルトを中心として何重もの焔の波が放射状に迸る。

 

「(そっちが波なら俺も波を使わせて貰うか)拐えーーー影波!」

 

言葉と同時に俺の足元から影の波が生まれて放射状に迸り、焔の波とぶつかり合う。

 

それによって2種類の波がぶつかり合って消滅する中、俺は再度影に星辰力を込めて……

 

「起きて我が傀儡となれーーー影兵」

 

そう呟く。するとと俺の影が黒い光を出し、5体の黒い人形が湧き出る。その姿は真っ黒ではあるが全て俺と同じ体格をしている。

 

5体の影兵を出すや否や俺は腰にあるホルダーから『ダークリパルサー』を起動して影兵に投げ渡す。

 

すると2種類の波が対消滅するので、俺は影兵5体にリースフェルトを叩くように指示を出す。

 

すると影兵が広がりながらもリースフェルトの元に向かって走り出すので俺もそれに続く。

 

暫く走るとリースフェルトが動きだす。

 

「咲き誇れーーー九輪の舞焔花!」

 

桜草の形をした火球が5体の影兵に向かって襲いかかる。しかし影兵は横に跳んだり、ジャンプしたりして回避する。

 

当然のことだ。影兵の実力は一度に出した影兵が多ければ多いほど個々の実力は弱くなるが、星露との鍛錬にて能力を高めた俺の影兵はかなり強くなった。今出した影兵1体1体の実力は冒頭の十二人に入れるかギリギリレベルなので牽制攻撃程度で倒せるものではない。

 

しかし……

 

「咲き誇れーーー隆炎の結界華!」

 

次の瞬間、高さ10メートル程の火柱が20本近く俺達の周囲に噴き上がり、それによって5体の影兵は全て吹き飛ばされて、奴らが居た場所には『ダークリパルサー』が転がっていた。

 

そして全ての火柱は俺の方に向かってくる。前に獅鷲星武祭でも見たが便利な技だな。

 

しかしこれは予想の範疇だ。星露の元で鍛えた連中相手に上手くいくとは思えないし、本命は……

 

「食らえ……」

 

俺自身による攻めだ。火柱が俺に向かいだすと同時に脚部に星辰力を込めて……

 

「ふっ……!」

 

瞬時に爆発的な加速をして一気にリースフェルトの元に突撃を仕掛ける。リースフェルトの火柱は追尾性だが、この速度に追いつくのは無理だろう。

 

「ちぃっ……咲き誇れ!天刃の大輪華!」

 

リースフェルトが舌打ち混じりにノヴァ・スピーナを頭上に掲げると上空に巨大な戦輪が顕現して、俺に向かって放たれる。

 

対する俺は更に脚部に星辰力を込めて……

 

「遅ぇ!」

 

戦輪が俺に下されて当たる直前に再加速をして直撃を避けた。

 

「なっ!」

 

リースフェルトは驚きの表情を浮かべながら煌式遠隔誘導武装で守りに入ろうとするが一歩遅い。

 

「貰った……!」

 

その前に俺の拳がリースフェルトの鳩尾にあたる。校章は破壊出来なかったがこれなら大ダメージ……んんっ?!

 

次の瞬間、予想外のことが起こった。

 

リースフェルトの姿がゆらりと揺らぎ、掻き消えたのだ。それはもう溶けるように。こいつは幻術か!

 

内心驚愕していると、背後から万応素が吹き荒れる気配を察知したので振り向くと……

 

「咲き誇れ、蜜執の破茜花!」

 

背後にリースフェルトがいて数十発の炎の弾が数十発出現して俺に襲いかかってくる。

 

対する俺は影の刃で迎撃するも、幾つかの弾丸は羽虫のように不規則な動きをして回避する。

 

(なるほどな、大分想像力は高まったようだな)

 

だが……甘いな。その程度では俺には届かないぞ。

 

そう思いながら俺は義手に星辰力を注ぐ。すると義手は本来の大きさの3倍となり埋め込まれた2つのマナダイトが光り輝くので……

 

「はあっ!」

 

光が最高潮に輝いた瞬間に突きを放つ。同時に義手から放たれた衝撃波が火の弾を全て吹き飛ばし……

 

「ぐうっ……!」

 

リースフェルトもその衝撃波に巻き込まれて後ろに吹き飛ぶ。とはいえ俺とリースフェルトは比較的離れた場所にいるのでそこまでダメージはないだろう。

 

『ここで比企谷選手が先手を取ってリースフェルト選手にダメージを与えたぁ!』

 

『素晴らしい攻防だな。リースフェルト選手は自身は格下であると自覚して幻術などの対策をしっかりと練り、比企谷選手はどんな状況でも冷静にリースフェルト選手の攻めを確実に潰し、能力だけに頼らない堅実な攻めをする……どちらも能力者としては手本のような戦い方だ』

 

『確かに如何にも能力者同士のぶつかり合いですね』

 

『この試合を見ている能力者ーーー特に将来星武祭に出る予定の子供達は2人の戦いを見ておくと良いだろう。2人の戦い方は勉強になる』

 

実況と解説の声が聞こえる。随分と高評価だな。これだけ言われるなら第三者から八百長とは思われないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ……比企谷があんなに強い筈がない!どうせ彼女を洗脳して良い勝負をするようにしてるに決まっている……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、リースフェルトは起き上がる。本来ならここで追撃を仕掛けるが、リースフェルトは設置型トラップもよく使うから焦りは禁物だ。一気に攻めるより少しずつ堅実に攻めた方が良いだろう。

 

「……流石だな。魎山泊で編み出した技が悉く対処されるとは思わなかったぞ」

 

「いや……お前こそ中々面白い技を使うな」

 

特に幻術には驚かされた。見る限りかなり上手く出来ていたし。俺はアスタリスクで最も多彩な能力者と評されているが、もうリースフェルトの方が多彩な能力者だろう。俺は星露との鍛錬で近接戦闘をするようになったし。

 

「それを言ったらお前の義手もだろ。それ……紗夜の煌式武装と同じ仕組みだろう?」

 

「ああ」

 

俺の義手は2つのマナダイトを強引に連結させて出力を上げるロボス遷移方式を取り入れていて、星導館の沙々宮の持つ巨大な煌式武装をモデルにして作り出した。彼女の銃を見て便利と思ったから採用したのだ。

 

破壊力については純星煌式武装に匹敵するが出力が安定し難い上に、一回の攻撃ごとにインターバルが必要であると中々ピーキーなシステムだが、タイミングを掴めばそこまで問題なく使用出来るし。

 

「ふふっ……万全の状態から程遠いお前なら……と、心の隅ではそう思っていたが、やはり一筋縄ではいかないか」

 

リースフェルトは自嘲気味に笑いながらそう呟くがこっちも同感だ。

 

とはいえいつまでも睨み合っていては拉致があかない。観客からブーイングが飛んできそうだしな。

 

そう判断しながら俺は背中に星辰力を込めて……

 

「羽ばたけ、影鷲の大翼」

 

背中から巨大な翼を6枚生み出してから空を飛び、リースフェルトに向かって突撃を仕掛ける。

 

「撃ち落としてくれる!咲き、突貫の紅槍花!」

 

同時に地上にいるリースフェルトがそう叫ぶと、幾つもの魔法陣が展開されて、炎の槍がロケットのように発射される。

 

「おっと、速いな」

 

言いながら俺は再度義手に星辰力を注ぎ、マナダイトの光が最高潮に輝いた瞬間に衝撃波を放ち、全ての炎の槍を粉砕しながらリースフェルトとの距離を詰めに向かう。

 

「ちぃっ……一瞬も足止めが出来ないか……咲き誇れ、極楽鳥の橙翼!」

 

するとリースフェルトも炎の翼を生やして空を飛ぶ。牽制として地面に映る俺の影から刃を放つも、全て回避される。

 

『ここで両者共に空中戦に移行!リースフェルト選手、受けに回っていますが攻めに転じることが出来るのか?!』

 

『とはいえリースフェルト選手も殆ど無傷だから勝機はあるだろう』

 

実況と解説の声を聞きながらも俺は突撃を仕掛ける。空中戦なら星露と嫌ってほどにやったから自信がある。

 

「咲き誇れ、天焼の群茜鳥!」

 

対するリースフェルトは背後から火の鳥を数十羽生み出して、俺に襲わせる。攻撃しながらも俺の視界を奪う算段か。一石二鳥の一手とは中々面白い。

 

か、それを食らうほどお人好しじゃないんでな。

 

「よっと」

 

俺は6枚の翼の内、2枚を俺の前方に盾のように構える。すると爆音がしたかと思えば2枚の翼は溶けて、3羽の火の鳥がやってくる。沢山いた火の鳥は影の翼を破壊すると同時に消滅したのだろう。

 

そして3羽だけなら能力抜きで対処出来る。俺は3羽の鳥を殴りつけて消滅させると、リースフェルトとの距離を詰めにかかる。その際にリースフェルトがノヴァ・スピーナをこちらに向けて能力を発動しようとするので……

 

「させねぇよ」

 

俺は義手の掌をリースフェルトに向けると高速であるものを撃ち出す。そしてそれがリースフェルトの近くまで行くと……

 

 

パパパパパパパパパパパパッ……

 

軽い爆発と閃光が生じる。そして一拍置いてリースフェルトは嫌な顔をしながら鼻をおさえる。

 

今放った物は軽い爆発と閃光、加えて硫黄の臭いを凝縮した球だ。能力者は能力を発動する際に一定以上の集中力とイメージの強さを必要とするが、アレは集中力を阻害する為の武器だ。

 

そしてリースフェルトは案の定、能力の使用に失敗したので、俺はこの隙を逃さないとばかりに距離を詰めにかかる。

 

リースフェルトはハッとした表情を浮かべ……

 

「っ!咲き誇れ大紅の「遅い……!」かっ……!」

 

炎の盾を展開しようとするが、完全に展開する前に俺の星辰力を込めた拳がリースフェルトの鳩尾に当たる。

 

同時にリースフェルトの腹からみしりと骨が軋む音が聞こえて、彼女は地面へと叩き付けられる。

 

見ればリースフェルトの背中から炎の翼は消えていてヨロヨロと起き上がろうとする。

 

それを見た俺はチャンスと思い……

 

「纏えーーー影狼夜叉衣」

 

すると地上に映る俺の影から緑色の魔方陣が展開されて光り輝く。それと同時に俺の両手足には分厚い鎧が、背中には天女が纏うような羽衣と竜の背中に生えているような巨大な翼が生まれる。

 

そして完全に展開すると同時に……

 

「………っ!」

 

背中にある羽衣も翼に星辰力を込めて、先程よりも数倍の速度でリースフェルトとの距離を詰めにかかる。リースフェルトの背中から翼は消えているし、幻術を使用している様子も見えない。

 

だから今の内に確実に潰しに行く。影狼夜叉衣は肉体に負荷が掛かるから使わない方が良いと言われているが、影神の終焉神装と違って使うなとは言われてないから大丈夫だ。それに使うのは僅か数秒だけだし、明日は調整日で休めるから問題ない。

 

そう思いながらも俺はリースフェルトの元に突っ込み……

 

「はあっ!」

 

全力を込めて拳を放つ。同時にボキリという音が聞こえたかと思えば、地面にクレーターが出来て煙が湧き上がる。

 

しかし俺の中には達成感が沸いてない。何故なら……

 

 

「お前……今何をした?」

 

手応えでわかる。今リースフェルトの腕を折ったのは間違いないが、俺が狙ったの胸の校章だ。その事から察するに辛うじてだが回避されたという事だ。

 

しかしどうやって回避したのかはわからない。背中に炎の翼はなかったし、幻術の気配はなかった。仮に幻術を使用しているならノーダメージの筈だ。

 

よって俺はリースフェルトがどうやって回避したか疑問に思っていると……

 

「なに……瞬間的に加速をしただけだ」

 

 

煙の中からだらんとぶら下がった右腕を押さえているリースフェルトが出てくる。

 

そして彼女の足首周囲には小さな炎の翼が何枚も羽ばたいていた。

 

「なるほどな……加速補助能力か」

 

「ああ。極楽雛鳥の輝鳥、瞬間的な加速に特化している。お前達壁を越えた人間との戦いに備えて準備した技だ」

 

「まあ確かに魎山泊の人間なら覚えていても当然だな」

 

魎山泊は壁を越えた人間に勝つ為の私塾。壁を越えた人間の速度に対抗するには加速補助能力を会得するのは良い判断だろう。

 

「だがどうする?見る限りダメージは小さくないだろう?」

 

「それはお前もだろう。顔が苦痛に歪んでいるぞ?」

 

ちっ、どうやらバレているようだな。内心舌打ちをしながら影狼夜叉衣を解除する。短時間とはいえ肉体に負荷が掛かる影狼夜叉衣を使って、4回戦での傷が癒えていない俺の身体は、激痛に苛まれている。

 

今の影狼夜叉衣で勝つつもりだったので、今の失敗はかなり大きい損失だ。

 

つまり……

 

「否定はしない。……決着まで長くないな」

 

俺が勝つにしろリースフェルトが勝つにしろ勝負が着くまで長くはないだろう。リースフェルトもそれを理解しているのか構えを取る。

 

 

そして……

 

「行くぞ比企谷」

 

「来い」

 

お互いに穏やかな声で一言だけ話してから動き出したのだった。


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