学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は妹と友人と遊びに行く(後編)

 

 

「待て比企谷八幡。お前に話がある」

 

リースフェルトがそう言うと小町、戸塚、天霧が俺とリースフェルトを見てくる。

 

俺はそれを無視して返事をする。

 

「わかった。小町に戸塚は席を外してくれないか?」

 

「う、うん」

 

「わかったよ八幡」

 

「綾斗、済まないがお前も席を外してくれないか?」

 

「わ、わかった」

 

話す内容は十中八九オーフェリアの話だろう。余り他人に聞かせる話じゃないし。

 

3人がさっきまで俺達がいた席に移動するのを確認してリースフェルトが口を開ける。

 

「とりあえず少し歩かないか?」

 

俺はその提案に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

俺とリースフェルトが歩いているのは商業エリアにある自然公園だ。

 

暫くの間無言で歩いていたが自然公園の噴水広場に着いたと同時に口を開ける。

 

「で、一応聞くが話したい内容はオーフェリアの事だな」

 

「……その通りだ。この前小町と話している時にお前がオーフェリアと仲が良いと聞いたのでな」

 

「……は?おいリースフェルト、小町の奴は何を話したんだ?」

 

何か嫌な予感しかしないんだが……

 

そして俺の予想は見事に的中した。

 

「ん?彼女曰く『お兄ちゃんってオーフェリアさんと仲睦まじくお昼ご飯を食べているんだよ!』って自慢気に言っていたな」

 

「よしわかった。あいつ後でしばき倒す」

 

何が仲睦まじくだよ?一緒に飯を食ってるのは事実だがアレは仲睦まじいとは言わないからな?捏造するな。

 

「違うのか?」

 

「違う。一緒に飯を食ってるのは事実だが仲睦まじくはない。それより話を戻すぞ」

 

俺がそう返すとリースフェルトは顔を引き締める。

 

「で、何が聞きたいんだ?最近のオーフェリアの様子か?それとも……あいつの体についてなんとかしたいって事か?」

 

「……やはりお前も知っていたのか?」

 

「そりゃ俺も魔術師だからな。まあ今日明日って訳じゃないが遠くない未来に死ぬだろうな」

 

オーフェリアの力は桁違いだ。しかし余りの力ゆえ完全に制御は出来ていないだろう。あいつの使う瘴気はオーフェリア自身も蝕む力、つまり寿命を削りながら闘っているようだ。

 

「だからオーフェリアに無茶な闘いをしないでくれと頼んだ。……後はお前も現場にいたから知っているな?」

 

「……ああ」

 

オーフェリアはリースフェルトの意見を聞かず、どうしてもと言うなら決闘で勝てと言った。それでリースフェルトは敗北した。

 

「優しかった頃のあいつに戻って欲しいと思っている。それが無理ならせめて命を削った闘いだけは止めて欲しいんだ」

 

リースフェルトは沈痛な表情でそう言ってくる。俺は過去のオーフェリアを知らない。しかし今のオーフェリアの近くにいる者として一つだけ訂正をしたい。

 

「リースフェルト。その言い方だと今のオーフェリアは優しくないみたいだがそれは違う」

 

「……え?」

 

リースフェルトが顔を上げる。

 

「昔のオーフェリアは知らないが今のオーフェリアは分かり難いが優しいぞ」

 

「……そうなのか?」

 

「ああ。何せ小町がオーフェリアに会いたいから来てくれって誘ったら『八幡の妹に害を及ぼしたら悪い』って断るくらいだ。他人を気遣ってるし普通に優しいと思うが?」

 

最近では俺が買えなかった好物の惣菜パンを交換してくれたり、教科書を貸してくれたりするし。

 

「そうか……」

 

何か感慨深げに思考に耽っている。暫く考えていると口を開ける。

 

「比企谷、お前はオーフェリアとあいつ自身の体について話した事はあるか?」

 

「ん?あるぞ。お前がオーフェリアと闘って暫くしてから余り能力を使わないでくれないかって頼んでみた」

 

まあ結果はリースフェルトと同じだ。オーフェリアは悲しげな表情をして首を横に振り止めたきゃ決闘で勝てと言ってきた。そんで挑んでボコボコにされた。

 

「……正直に言って俺はあいつと過ごす時間は気に入ってる。だからあいつには能力を使わないで欲しいと今でも思っている。……っても、何度も闘っている内に能力を使うのを止めされるのは無理だと思うようになってきたな」

 

今でも能力を使うのを止めされる云々除いてオーフェリアに挑んでいるが最近じゃ頑張っても勝てないって半ば折れかけている。

 

「……それでも私はオーフェリアに勝って戻ってきて欲しい。……まあ、私より遥かに強いお前からしたら妄言に聞こえるかもしれないが」

 

そう言ってリースフェルトは力無く笑う。

 

しかし……

 

「……別に妄言とは思わねぇよ。寧ろ俺の方が情けねぇよ」

 

俺はリースフェルトの発言を妄言と馬鹿にするつもりはない。

 

折れかけている俺より遥かに弱いにもかかわらず未だに折れていない。それは賞賛すべき物であり馬鹿にする物じゃない。

 

「そうか?」

 

「そうだろ。だってお前は折れてないんだろ」

 

「当然だ。オーフェリアに勝つまで私は折れる訳にはいかない」

 

リースフェルトの目は絶対に譲らないと言っている様な気がして、それは凄く美しく感じた。こいつは本気でオーフェリアを助けたいと思っているようだ。

 

だから俺は一つの助言をする。

 

「だったら鳳凰星武祭で優勝してオーフェリアをレヴォルフ、正確にはディルクから解放してくれって頼んだらどうだ?」

 

星武祭の願いは最優先事項だ。いくらディルクでも逆らうのは無理だろう。

 

リースフェルトはそれを聞くと暫く考える素振りを見せて返事をする。

 

 

「なるほどな……それはいい考えだが無理だ。鳳凰星武祭で叶えたい願いは既に決まっている」

 

マジか。アレだけオーフェリアを助けたいと言っていたが、それよりも優先したい願いがあるのか?

 

「その願いって聞いていいか?」

 

「構わない。私が鳳凰星武祭で叶えたい願いはオーフェリアがいた孤児院の借金返済及び今後の運営資金にあてる金の要求だ」

 

それを聞いて言いたい事を理解した。星武祭の願いに頼らなきゃいけないとは……オーフェリアがいた孤児院は相当酷い経営難のようだ。

 

「つまりオーフェリアみたいに他の孤児が借金のカタになるのを防ぐって事か?」

 

「ああ。私はあの場所が好きなんだ。だからもう2度とオーフェリアの様な人間は出したくない。それが私の第一優先なんだ。お前が提案した願いについては獅鷲星武祭か王竜星武祭で頼むかもしれない」

 

ちょっと待て。こいつまさかグランドスラムを狙ってんのか?まあ少し話しただけでリースフェルトの性格は知っているから本気だろう。

 

(……まあオーフェリアに勝つ気でいる奴だしあり得るかもな。……ん?)

 

「そういやリースフェルト。お前鳳凰星武祭に出るんだよな?」

 

「そのつもりだが?」

 

「それで思ったんだがお前は誰と組むんだ?」

 

優勝を目指すとなると相当強いパートナーが必要だ。組むとしたら刀藤綺凛あたりか?

 

疑問に思ったので聞いてみると……

 

「う……それはだな……」

 

何か言葉を濁し始めた。おい、まさかこいつ……

 

「……リースフェルト。一応聞くがまだパートナー決まってないのか?」

 

だったら最悪の事態だ。エントリー締切まで後1週間ちょいだ。参加できないんじゃ実力以前の問題だ。

 

「あ、ああ……いない」

 

苦い顔をしながらもはっきりと首肯する。それを確認して俺は頭が痛くなるのを感じた。

 

その態度を見て思った。こいつ間違いなくぼっちだ。

 

「……マジでどうすんだ?この時期にエントリーしてない奴なんて基本的に鳳凰星武祭に出る気のない人だろ」

 

「……ああ。だから何とかしないとな」

 

さっきまでの凛々しい雰囲気から一転、哀愁漂う雰囲気になっているリースフェルト。地雷を踏んでしまった俺としては申し訳ない気持ちで一杯だ。

 

「……とりあえず戻るか?」

 

「……ああ」

 

何とも言えない空気のまま俺達は自然公園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

自然公園を出てハンバーガー店に向かっていると……

 

「比企谷」

 

さっきまでの弱々しい口調はなくなり本来の姿に戻っていたリースフェルトが話しかけてくる。

 

「何だよ?」

 

「お前が本当にオーフェリアと過ごすのが楽しいならオーフェリアにも楽しい時間を作ってやってくれないか?」

 

どうやら本気でオーフェリアの幸せを願っているようだ。それに対して俺も応えたいという気持ちはあるが……

 

「保証は出来ない。俺は割と楽しいがあいつは楽しいと思っているとは限らないし」

 

「わかっている。オーフェリアを大切に思っているお前が側にいてくれるだけでいい」

 

…今日初めて話したのに随分と信頼されたもんだな。まあ一緒にいるのはいつもの事だから構わないが。

 

「わかったよ。出来るだけの事はしといてやる」

 

「ああ。頑張れよ」

 

「お前こそパートナー探すの頑張れよ」

 

そう返すと真っ赤になって怒ってくる。しまった……

 

「う、うるさい!そ、それよりも店が見えてきたぞ!」

 

そう言ってリースフェルトはズンズン先に歩いて行ったので俺もそれに続いた。

 

 

 

 

店の前には小町達がいたので合流する。

 

「すまん綾斗。戸塚に小町も比企谷を借りて済まなかった」

 

「あー、全然大丈夫ですよ。なんだったら1日中引っ張っても「黙れ小町」痛っ!何すんのさお兄ちゃん?!」

 

何か文句を言ってくるが、お前リースフェルトに俺がオーフェリアと仲睦まじいとかデマ吐いた恨みは忘れてないからな?

 

「まあいい。それより次は何処に行くんだ?」

 

元々適当に遊びに行く約束をしていたが何処に行くかは知らない。

 

「あ、それなんだけど天霧さんを案内する事になったからよろしくね〜」

 

小町はそう言ってくるが天霧の案内だと?

 

「ん?リースフェルトは市街地を案内してたのか?」

 

「ああ。それで昼食を食べていたらレスターに絡まれたんだ」

 

なるほどな。普通に案内するのが随分と面倒な事になったんだな。哀れなり。

 

天霧とリースフェルトに同情していると小町が手を叩く。

 

「そ・れ・よ・り。時間も押してるし早く行こうよ。あ、お兄ちゃん『面倒だからパス』ってのは無しだからね?」

 

ちっ。完全に思考を読まれてやがる。流石妹だけはあるか。

 

断っても意味がないのは理解しているのでため息を吐きながら頷く。

 

「はいはい。わかったよ」

 

「よーし!レッツゴー!」

 

小町は笑顔で歩き出す。リースフェルトは少し驚きながら、戸塚と天霧は苦笑しながら小町に続いたので俺も後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

結局案内が終わったのは夕方だった。

 

「今日はありがとう。勉強になったし楽しかったよ 」

 

「そ、そうか。い、いや、何度も言うが私は借りを返しただけだ。礼を言われる筋合いはないぞ」

 

「借り?お二人は何かあったんですか?」

 

小町が興味深そうな表情で尋ねる。

 

「いや、決闘の最中に助けられたんだ」

 

決闘?天霧の転入初日にやったヤツか?て事は……

 

「天霧がリースフェルトを押し倒して胸揉んだやつか?」

 

少なくとも俺が知っている決闘はそれくらいだし。

 

そう思っていると視線を感じるので見るとリースフェルトが真っ赤になって睨んでいた。後ろでは天霧と戸塚は真っ赤になっていて小町はニヤニヤ顔を浮かばせていた。

 

「そ、その話は蒸し返すな!!」

 

どうやらアレは事実のようだ。転校初日に天霧は何をやってんだか……

 

「悪かったよ。てか何でお前らは決闘する事になったんだよ?」

 

普通に考えて冒頭の十二人であるリースフェルトが転校初日の天霧に決闘を挑むとは思えないし、天霧もさっき話した感じだと大人しい性格だ。転校初日に決闘を挑むとは考えにくい。

 

よってなんで決闘をする事になったか気になるが……

 

(……何でこいつらはさっきより顔が赤いんだよ?)

 

天霧とリースフェルトは林檎のように真っ赤な顔をしている。その事からただ事じゃないのは理解できる。マジで何があったんだ?

 

疑問に思っている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

近くで怒号と罵声が耳に入る。

 

見ると駅の近くでレヴォルフの学生十数人が揉めていた。相変わらずうちの学校は屑が多いな。

 

高校から入学した戸塚と最近転校してきた天霧は物珍しそうに見ているが小町とリースフェルトは呆れたような視線を向けていた。

 

「……全くレヴォルフの連中は相変わらず馬鹿な事ばかりやっているものだ」

 

「え?ユリス、どういう事?」

 

「レヴォルフは校則が無いに等しい学園なんだ。その為素行不良な生徒が多いんだ。比企谷みたいなマトモな生徒なんて1割もいないだろうな」

 

「1割どころか1%もいないぞ」

 

「うわー。お兄ちゃんくじ引きで学校選んだの間違いじゃないの?」

 

「何?!比企谷、お前くじ引きで行く学校を決めたのか?!」

 

リースフェルトが信じられないといった表情で俺を見てくる。うん、今更だが適当過ぎたな。

 

俺が返事を返そうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

レヴォルフの生徒達が俺達の周囲に展開し始めて乱闘が始まった。

 

それを見て俺は嫌な予感がした。レヴォルフに通っている俺には直ぐにわかった。間違いない、これは……

 

内心舌打ちしていると天霧の後ろから1人の学生が短剣型の煌式武装を持って突っ込んできた。

 

 

それを確認すると同時に影に星辰力を込めて影を操作する。

 

高速で動く影は地面から離れて天霧を刺そうとする学生を捕らえる。

 

「ぐうっ!」

 

捕まった学生は苦しそうな声を上げるがどうでもいい。連中の狙いは十中八九俺だろう。関係のないこいつらを巻き込むつもりはない。

 

そう思いながら更に影に星辰力を加えて影を広げる。それによって影は触手のような形状となる。

 

「蹂躙しろ」

 

俺がそう呟くと影の触手は周囲に広がりレヴォルフの学生全員を捕らえた。

 

「八幡、これは?」

 

全員捕まえたのを見ていると戸塚が話しかけてくる。

 

「うちの学校の屑共が街で人を襲う時使う手なんだが……乱闘の最中にターゲットを取り囲んで痛めつけんだよ」

 

「あくまでターゲットは『乱闘に巻き込まれた』だけという風に装うからタチが悪いんだ」

 

俺の説明にリースフェルトが補足を加える。

 

「連中の狙いは多分俺でその際にお前らを巻き込む形になったんだろう。天霧はとばっちりくらいそうになったし悪かったな」

 

そう言って頭を下げる。

 

「あ、いや……怪我してないし気にしないでよ」

 

そう言って手を振ってくる。怪我でもしたら本当に申し訳ないし。

 

内心謝りながら影を使ってレヴォルフの連中を引き寄せる。拘束された連中は俺を見て怯えだすがどうでもいい。

 

俺はリーダー格らしきモヒカンの胸ぐらを掴む。

 

「おいてめぇ。俺を狙うのはともかく関係ない奴ら狙ってんじゃねぇよ。殺すぞ」

 

「ひぃぃぃぃっ!な、何でお前がいんだよ?!」

 

ん?まるで俺がいるのが予想外みたいな言い方だがどういう事だ?

 

「おい。一応聞くがお前らが狙ったのは俺か?」

 

「ち、違う!俺らじゃ束になってもあんたには勝てねぇよ。俺達の狙いはそいつらだよ!」

 

そう言って天霧とリースフェルトを指差す。って事はさっきのは初めから天霧を狙っていたのか?

 

「誰の指示だ?ディルクのカス野郎か?」

 

「し、知らない!顔は見てないんだ!!」

 

「顔を見てない?メールで指示されたのか?」

 

「そうじゃなくて黒ずくめだったから顔を見てないんだよ!」

 

「そいつの特徴は?」

 

「背の高い大柄な奴だった。そんで……」

 

そう言ってモヒカンはポケットから封筒を出してくる。中を見ると幾らかの金と紙が入っていた。そこには……

 

「天霧とリースフェルトの写真があってそいつらを痛めつけろって指示が書いてあるな……お前らに心当たりはあるか?」

 

「俺はないよ。ユリスは?」

 

「ないな」

 

そう言われて首を傾げる。リースフェルトはまだしもアスタリスクに来たばかりの天霧を狙う奴がいるとは思えない。犯人は何で天霧を狙うんだ?

 

犯人の行動に疑問を抱いている時だった。

 

 

 

「あ、あいつ!あいつだ!あいつに頼まれたんだよ!」

 

モヒカンがそう言ってくるので後ろを見ると人影が路地へと逃げ込んでいた。

 

「待て!」

 

「ユリス!深追いはまずい!」

 

それと同時にリースフェルトと天霧が路地に向かって走って行った。

 

「ちっ!小町と戸塚はここにいろ!」

 

舌打ちしながら俺も後に続く。レヴォルフの生徒は拘束したままだがどうでもいい。

 

俺が路地に着く。

 

するとそこにはアサルトライフル型の煌式武装を持った黒ずくめの男がリースフェルトを狙って放っていた。リースフェルトは地面に転がって躱していた。どうやら能力に頼りきりの魔女じゃないようだ。

 

そう思っていると地面に新しい影がチラリと見えたので上を見る。

 

するとそこにはクロスボウ型の煌式武装を持った黒ずくめの男がいた。まだいるのかよ!!しかも天霧を狙ってやがる。

 

 

 

「ちっ」

 

舌打ちをしながら腰からレッドバレットを抜いて屋上目掛けて発砲する。

 

それと同時に黒ずくめの男は消えたので俺は捕まえる為に屋上に上がる。

 

しかしそこには誰もいなかった。どうやら逃げ足だけは自信があるようだ。

 

ため息を吐き天霧達の所に下りる。

 

「すまん。襲撃者の1人を逃した。そっちは?」

 

「私達も逃してしまった。全く逃げ足だけは大したものだ」

 

リースフェルトは不愉快そうに息を吐く。まあ狙われている者としては気持ちはわかる。

 

「……そろそろ警備隊がやってくるだろうし私達も退散するぞ」

 

「リースフェルトに同意だな。星猟警備隊は融通がきかないからな。捕まると面倒だ」

 

そう言って3人で小町と戸塚の元に向かう。

 

「皆大丈夫だったの?!」

 

「怪我はしてないが犯人は逃した。複数いるのは厄介だから戸塚も気をつけろよ」

 

「う、うん」

 

「ヤバイよお兄ちゃん。あれ警備隊じゃない?!」

 

小町が指差す方向を見ると警備隊の連中が目に入る。まだ気付いていないようだが見つかったら面倒だ。

 

「おいお前ら。今から影に潜るから全員俺の体に触れろ」

 

「八幡?どういう事?」

 

「俺に触れている存在は影に入れるんだよ。逃げるから早く触れ」

 

俺がそう言うと全員が俺の体に触れる。それを確認すると影に星辰力を込める。

 

 

「影よ」

 

そう呟くと影が俺達の体に纏わりつき影の中に潜る。

 

完全に影に入りきると俺は警備隊がキョロキョロしているのを見ながらこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから15分……

 

 

俺は星導館学園から少し離れた場所のカフェの裏に行き地上に出る。

 

「送るのはここまででいいか?」

 

影から出た俺はそう尋ねる。

 

「うん。ありがとう八幡!」

 

「お、おう」

 

やだ、戸塚可愛過ぎる。

 

「……影に入るというのは不思議な気分だな」

 

「そりゃ普通は入らないからな」

 

「いやー、お兄ちゃんの能力って本当に便利だねー」

 

「まあな。とりあえずお前ら全員狙われてるから気をつけろよ」

 

この場にいるメンバーで俺以外は全員襲われているからな。

 

「わかってる。今日は助かったよ。ありがとう」

 

天霧は礼を言ってくる。

 

「それは構わないが……お前は狙われる心当たりはあるか?」

 

転校して間もない奴を狙う理由がどうしてもわからない。それとも天霧の奴、アスタリスクに来る前に何かやったのか?

 

「うーん。正直言ってないね」

 

顔を見る限り嘘を吐いているようには見えないが……

 

「まあとりあえず用心はしとけ。俺は帰る」

 

序列戦があってトラブルの連続……はっきり言ってかなり疲れた。

 

「じゃあね〜お兄ちゃん」

 

「今日は楽しかったよ八幡」

 

「色々と世話になったな」

 

「またね」

 

4人からの挨拶を背に受けて俺は自分の寮に向けて歩き出した。

 

 

 

 

レヴォルフに近づいた俺は寮に戻ろうとしたがある事に気付いた。

 

「やっべ。よく考えたら家に食材がないんだった……」

 

昨日食材を買う予定だったが頭痛くて買いに行かなかったんだった。

 

……仕方ない。コンビニ弁当にするか。学校の食堂は今からは怠いし。

 

ため息を吐きながらコンビニに向かう。今日はため息が多いな……

 

その時だった。

 

 

 

 

 

「……八幡?」

 

いきなり話しかけられる。俺を八幡呼びする人は数少ない。そしてこの声は……

 

「昼の序列戦以来だな。オーフェリア」

 

そこには今日話題となったオーフェリアがいた。

 

「八幡は今帰り?」

 

「ああ。そんで夜飯にコンビニ弁当を買おうと思ってたんだよ」

 

「八幡、前に家では自炊してるって言ってなかった?」

 

「いつもはな。でも今日は寮に食材ないから仕方なくな」

 

コンビニ弁当はそこまで好きじゃないが今から食材買って飯作るのは怠い。

 

そんな事を考えているとオーフェリアは何かを考えているような表情を見せてくる。どうしたんだ?

 

疑問に思っているとオーフェリアが口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………だったら私の寮で夕食食べる?」

 

………え?


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