学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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激戦、比企谷八幡VSユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト(後編)

「咲き誇れ、乱咲の赤刀!」

 

リースフェルトが、そう叫ぶと炎の刃が20本近く生まれて俺に向かって飛んでくるので、右足に星辰力を込めて……

 

「ふんっ!」

 

蹴り上げてそこから放たれる衝撃波で全て打ち消す。そして即座にリースフェルトとの距離を詰めにかかると、その前に足元に魔方陣が展開される。

 

(設置型能力か……馬鹿正直に食らうのは論外……!)

 

だから俺は能力が発動する前に脚部に星辰力を込めて爆発的な加速をして魔方陣の外に出る。肉体は悲鳴をあげるが星露やオーフェリアの攻撃を食らった時に比べたら大した事はない。

 

だから痛みを無視しながらリースフェルトとの距離を詰めるも……

 

「咲き誇れ、大紅の心焔盾!」

 

リースフェルトの懐に入る直前に炎の盾が顕現される。俺は星辰力の込めた右腕で即座に破壊するも……

 

「ちっ……!」

 

その間にリースフェルトは足に極楽雛鳥の輝鳥を発動して俺から距離をとっていた。

 

『これは凄い!リースフェルト選手、比企谷選手の攻撃を悉く回避している!』

 

『押してるのは比企谷選手だが、リースフェルト選手を捉えきれていないな』

 

解説のヘルガ隊長の言う通りで、あの能力はマジで厄介だ。ハッキリ言って早過ぎる。脚部に星辰力を込めて爆発的な加速を使えば捉えられるだろうが、その前にリースフェルトの能力が邪魔をして捉えきれていない。

 

影狼夜叉衣はさっき使ったから使えないし、使いたくない。使えば即座に勝てるかもしれないが、明後日の試合に影響が出るかもしれないし。

 

影神の終焉神装に至ってはドクターストップがかかっているから論外だ。即ち鎧系の技抜きでリースフェルトに勝たないといけないのだ。

 

しかしそこまで焦ってはいない。確かに今の俺はリースフェルトを捉えきれてはいない。それについては事実だが……

 

(リースフェルトは既に影狼夜叉衣の一撃を受けてるし、俺にまだ攻撃を当ててない)

 

俺自身リースフェルトの能力を躱したり迎撃したりしてそれなりに星辰力は消耗していて、影狼夜叉衣による反動を受けているが、リースフェルトからは1発も攻撃は受けていない。

 

対するリースフェルトは影狼夜叉衣による一撃を受けて腕の骨が折れている。どっちが有利なのかは一目瞭然だろう。

 

(しかし腑に落ちないな……何故リースフェルトは攻めてこない?)

 

確かにボロボロになりながらも対処しているのは凄いが、攻めない限り勝つのは不可能なのは当然だ。にもかかわらず全く攻めてこない……これが反撃する余裕がないなら良いが、何かを企んでいるなら危険だ。

 

(そして恐らく後者だ。奴の目は死んでない)

 

リースフェルトの目は諦めてない。寧ろ虎視眈眈と俺を出し抜こうとしている。何を企んでるかは知らないが長引かせると面倒だ。

 

(一気に仕留める)

 

俺は脚部に星辰力を込めて何度目かわからない爆発的な加速をする。肉体に負荷は掛かるがまだ戦闘には支障はないだろう。

 

「咲き誇れ、炎捩の螺旋華!」

 

すると今度は炎の錐が6本現れて俺に襲いかかるので、腕に星辰力を込めて全て薙ぎ払うも、足を止めてしまい……

 

「綻べーーー燐焦の焔絨毯!」

 

次の瞬間、俺の足元から可憐な炎の花が地面を埋め尽くして灼熱の絨毯が広がる。どうやらただ逃げ回っていたのではなく、設置型能力を準備していたのだな。

 

しかしこれは予想内、俺は足に熱を感じながらも冷静にジャンプして灼熱の絨毯の範囲から出る。

 

すると……

 

「綻べ、業釣の灼華剣!」

 

俺が灼熱の絨毯から逃れるや否や、俺の頭上に大量の炎の短刀がずらりと並んで俺と降り注いでくる。

 

(二重の設置型能力……リースフェルトの星辰力の残量から察するに勝負に出たな)

 

そう思いながら俺は義手に星辰力を注ぐ。すると義手は本来の大きさの3倍となり埋め込まれた2つのマナダイトが光り輝くので……

 

「んなもん効かねえよ」

 

光が最高潮に輝いた瞬間に上空に衝撃波を放ち短刀を全て破壊してからリースフェルトの方へ走り出す。

 

「だろうな。その程度で倒せるなどと思ってない!」

 

リースフェルトがそう言って俺にノヴァ・スピーナを向けると、俺の足元に魔方陣が展開されて……

 

「綻べ、彼岸の却炎華!」

 

次の瞬間、俺の足元から不気味な程朱く燃え盛る曼珠沙華が生まれる。

 

(マズい……!これは毒だったな)

 

前回の獅鷲星武祭で趙虎峰はこれを食らってマトモに動けなくなり敗退した。どの程度の毒かは知らないが馬鹿正直に食らうつもりはない。

 

だから俺は曼珠沙華が開く前にジャンプして……

 

「影よ」

 

自身の影に星辰力を込めるや否や、自身の影を地面から出して曼珠沙華を包み込む。これなら毒が漏れ出ることは無いだろう。見る限りトラップタイプの技でパワータイプの技じゃないし。

 

そして俺は曼珠沙華を包み込む影のカバーに着地すると即座にリースフェルトの元に駆け出す。三重の設置型能力をするとは本当に驚いた。

 

星露との鍛錬以降、余り使わなくなったが昔は俺も設置型能力を偶に使っていた。しかし二重は出来ても三重は出来なかった。それから判断するにリースフェルトの星辰力のコントロール技術は俺を上回っている事を意味している。

 

そう思いながらも走り出す。リースフェルトは三重の設置型能力の使用で星辰力はほとんどない筈だ。手負いの獣程恐ろしい存在はいないのでそろそろ終わらせる。

 

そう思いながら脚部に星辰力を込めて爆発的な加速をすると……

 

「さ、咲き誇れ、焦炎の熟害華!」

 

巨大な八重咲きの花弁が俺の前に現れる。わざわざ俺に当てずに進路に設置するという事は、恐らくアレで時間稼ぎして幻術を使用するか設置型能力を使用するのだろう。

 

(なら、あの花を突き破って最短で潰すまで……)

 

そう判断した俺は……

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

 

全身に星辰力を込めて炎の花を突っ切って、同時にリースフェルトの校章に突きを放つ。対するリースフェルトは身体を動かして校章の位置をズラすも……

 

「がはっ……!」

 

左肩に俺の突きが当たり折れる音が聞こえる。校章は破壊出来なかったが、両腕を折った以上更に俺が有利となった。

 

このまま押し切る。そう思いながら再度走り出そうとするが……

 

「ぐっ……!」

 

唐突に身体に痺れが生まれて、足に込められた星辰力が雲散霧消する。

 

「これは……毒か……!」

 

「……ああ。さっきお前が突き破った花はな……夾竹桃だ」

 

夾竹桃、俺でも知ってる有毒植物だ。

 

「なるほどな……お前が毒の花を設置したのも俺の考えを読んでたって事か……!」

 

俺は毒の花を見たときに『リースフェルトが仕込みをする為の時間稼ぎ用の技』と判断して、仕込みの時間を与えないように無理矢理突っ切った。

 

しかしリースフェルトは仕込みをするつもりはなく、俺を嵌める為に毒の花を用意したのだろう。

 

これはマジで一本取られた。俺の思考を読んで毒の花を仕込み、俺自身をマトモに動けなくしようとする作戦だろう。お世辞抜きで素晴らしい作戦だ。

 

しかし……

 

「甘ぇよ……毒には驚いたが、俺には届かねぇよ……!」

 

「馬鹿な?!毒が効いてないのか?!」

 

その作戦には一つだけ穴がある。俺が立ち上がるとリースフェルトは今度こそ驚愕に満ちた表情を浮かべている。

 

「効いているさ……ただなぁ……」

 

俺は一息吐いてから足に力を込めて……

 

 

 

 

 

「オーフェリアの毒に比べたら可愛過ぎんだよ……!」

 

「があっ……!」

 

言いながらリースフェルトの鳩尾に拳を叩き込み、同時に骨が砕ける音が聞こえる。

 

確かに無防備にリースフェルトの毒を食らったのは痛いが、オーフェリアの毒を何十回も食らった俺からしたら、苦しいってだけで戦えないレベルって訳ではない。

 

リースフェルトは俺が毒に対して耐性がある事を失念して、俺が毒を食らったのを見て一瞬だけ油断してくれたので、そこを突かせて貰った。

 

リースフェルトを見ると苦しそうな表情を浮かべながら口から血を流していた。

 

しかしまだ目は死んでおらず……

 

「つか、まえ、た、ぞ……」

 

言いながら折れた両腕で、リースフェルトの鳩尾にめり込んである拳を掴んできた。

 

同時に俺達の足元に直径20メートルくらいの魔方陣が展開される。この規模から察するに逃げれない。

 

(こいつ……油断はしていたかもしれないが、保険はちゃんと掛けてやがったか……!)

 

これはマズい。このまま何もしないんじゃ設置型能力が発動して俺が負ける。リースフェルトは自身の能力をレジスト出来るので、設置型能力が発動してもノーダメージだ。

 

じゃあ逃げるかと言われたら厳しい。俺の身体は毒に犯されていて動きが鈍いし、直径20メートルの魔方陣である以上今からじゃ間に合わない。

 

そうなると……

 

(俺がその前にリースフェルトの校章を破壊する)

 

言いながら右腕に、ついでに明後日の試合に備えて少しでもダメージを減らすよう全身にも星辰力を込めてリースフェルトの校章に突き出す。毒と昨日の疲れと、影狼夜叉衣を使った事で痺れるような痛みが生まれるも我慢して拳を突き出す。

 

 

同時に足元にある魔方陣の光が一段と強くなり……

 

「終わりだ……!」

 

「ほころ、べ……大輪の爆耀華……!」

 

俺がリースフェルトの校章を粉砕すると同時に、途方もない巨大な花が膨れ上がり、気がつけば炎の花に包まれていた。

 

「がっ……ぁぁぁぁぁぁっ!」

 

全身に熱によって激痛が走る中……

 

『ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト、校章破損』

 

『比企谷八幡、校章破損』

 

そんな機械音声が流れだして……

 

『試合終了!勝者、比企谷八幡!』

 

俺の勝利を告げられる。すると一拍置いて大歓声が沸き起こるが、今の俺には耳障りで仕方ない。

 

正面にいるリースフェルトを見れば……

 

「気絶してやがる……」

 

どうやらさっきまでは気合いで無理矢理動いていたようだ。それで試合が終わったから緊張の糸が切れたのだろう。

 

ともあれ、両腕が折れた状態で放置するのはマズいので俺はボロボロになりながらもリースフェルトを地面に倒れないように優しく支えて、救護班の到着を待つ。

 

すると1分もしないで救護班がやってきたので、俺はそっと救護班にリースフェルトを渡して、ゆっくりと歩き出す。

 

俺自身は最後の一撃で火傷はしたが、全身に星辰力を展開したので大ダメージには至っていない。まあ上半身は丸裸だが、こればっかりは仕方ないだろう。

 

多少恥ずかしい気持ちになりながらも、俺はステージを後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「クソッ……比企谷が勝つなんて……!何故だ?!俺の方が顔も成績も社交性も上なのに……!こうなったら……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛え……!」

 

俺は今シリウスドームの医務室のベッドで横になっている。試合が終わってから応急処置を済ませた俺は体力が限界に近いのでベッドで休んでいる。本音を言うと治癒能力者による治療を受けたいが、受けたら準々決勝に出れないので我慢した。

 

ちなみにリースフェルトは俺以上にボロボロなので治療院に運ばれて治癒能力による治療を受けることになっていてここには居ない。自分でやっといてアレだが、リースフェルトは両腕に加えて肋骨が折れているから妥当なところだろう。

 

そんな事を考えながらベッドで横になっていると……

 

「八幡さん……!」

 

医務室にノエルが入ってくる。恐らく見舞いだと判断出来る。医務室にはドクターと俺以外にいないし。

 

「5回戦お疲れ様でした!見てましたけど、本当に格好良かったです!」

 

笑顔で詰め寄ってくる。それについては元気があって良いと思うが……

 

(ダメだ……思わず見てしまう……!)

 

俺の視線はノエルの唇に固定してしまっている。試合前に俺の……に触れたあの柔らかい唇に。

 

するとノエルも気付いたのか顔を真っ赤にしてくる。

 

「あ、あの……八幡さん、さっきは、その……」

 

「べ、別に気にしなくて良い。アレはただの激励だろ?」

 

「えっ……そ、そうです!激励という意味でしました!」

 

するとノエルも激励という意味でしたと言ってくる。うん、アレは激励だから恥ずかしがる必要はない………

 

「「…………」」

 

やっぱり無理でした。恥ずか死ぬ……仕方ないらここは逃げの一手だ。

 

「と、ところでノエルよ。俺は疲れたから少し寝るんだが良いか?」

 

「あ……は、はい。わかりました」

 

ノエルは俺の考えをわかったようにコクコクと頷くので

 

「んじゃお休み。またな」

 

そう言って目を瞑ってノエルを視界から外す。すると本当に疲れていたからか、さっきまであった恥ずかしい気持ちに睡魔が上書きされてゆっくりと意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ……八幡さんの寝顔、可愛い……」

 

医務室にてノエルは寝ている八幡を見て愛おしそうに頭を撫でる。同時に彼の顔が目に入りノエルの中で彼に抱かれたい、彼に全てを捧げたいという欲求が生まれ始める。

 

(ダメ……!これは八幡さん達3人に認められてからにしないと……)

 

ノエルが真っ赤にしながら首をブンブン振っている時だった。

 

「……八幡、体調はどう……貴女も来ていたのね?」

 

八幡の恋人の立場であるオーフェリアが医務室に入ってきた。そしてノエルを見るや否やジト目で見てくる。

 

ノエルは一瞬だけ怖気ずくも直ぐにいつもの表情になる。こんなところで気圧されていてはダメとばかりに。

 

「はい。大切な人が負傷したので」

 

それを聞いたオーフェリアの眉がピクリと動く。こいつ本気だな……とばかりに。

 

とはいえここで怒るのは違うという事はオーフェリアも理解している。誰が誰を好きになろうとも自由なのだから。 妥協するつもりはないが。

「……そう。まあ良いわ。それよりも貴女にお願いがあるのだけど」

 

「お願い、ですか?」

 

ノエルが首を傾げる。自分には八幡をくれとお願いしたい事はあるが、オーフェリアからお願いとは完全に予想外だった。

 

「……ええ。至聖公会議を使ってあの葉虫を監視して欲しいの」

 

「至聖公会議ですか?試合前の件で危険視したからですか?」

 

「……待って。試合前?何があったの?」

 

「あ、はい。実は……」

 

ノエルはオーフェリアに葉山が八幡に洗脳や卑怯なことをしていると胸倉を掴んでいた事を説明する。

 

「あの葉虫……本当にふざけた真似をしてくれるわね……!」

 

オーフェリアは怒りを露わにしながら震えだす。それを見たノエルはある疑問を抱く。

 

「あの……オーフェリアさん。さっき至聖公会議を派遣するように頼んだ理由は試合前の件があったからじゃないんですか?」

 

「……いいえ。試合前の件は貴女に聞いて知ったわ」

 

「では何故至聖公会議の派遣を頼んだのですか?」

 

「……さっき医務室に行こうとしたらあの男も医務室に向かっていたから、八幡に何をするつもりだってカマをかけたら舌打ち混じりに逃げ出したのよ。だから八幡を闇討ちするのかと思ったわ」

 

オーフェリアとしてはその場で潰したかったが、その前に葉山が人がいる場所に逃げたので断念したのだ。

 

「なるほど……わかりました。お兄ちゃんに申請するように頼んでおきます」

 

星武祭にて敗退者が勝ち残っている選手に闇討ちを仕掛けるのは重罪だ。何度か起こっているが露呈した場合、闇討ちをした生徒の所属する学園は暫くの間世間から叩かれる。

 

ガラードワースから闇討ちする生徒が出たら来年度以降の入学者も減るし、レヴォルフにも多額の賠償金を支払わないといけないし、そして何よりエリオットの胃が爆発する可能性もあるだろう。

 

ノエルは即座に空間ウィンドウを表示してエリオットにメールを送る。

 

「とりあえずメールはしておきました。多分お兄ちゃんなら派遣してくれるでしょう」

 

「……どうもありがとう」

 

「いえ。私も好きな人が傷つくのは嫌ですから」

 

ピシリ

 

「……そう。それはいい事ね。私も彼氏の八幡が傷つくのは嫌よ」

 

ピシリ

 

「……そうだと思います。ですから私も未来の彼氏の八幡さんを守る為に頑張ります」

 

ピシリ

 

今、医務室の空気は絶対零度と化した。オーフェリアは表情を引き攣らせながらもノエルを睨み、普段臆病なノエルもこれだけは譲れないとばかりに頬を膨らませてオーフェリアを見返す。

 

2人は結局八幡が目覚めるまで睨み合っていたのだった。


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