学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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5回戦最終試合、シルヴィア・リューネハイムVS雪ノ下陽乃

「……知らない天井だ」

 

目を覚ました俺の第一声はそれだった。こんなセリフ、漫画やアニメだけでしか登場しないと思ったが、実際に見覚えのない天井だったからか思わず口にしてしまった。

 

すると……

 

「「おはよう(ございます)、八幡(さん)」」

 

横から声が聞こえたので見れば可愛い恋人であるオーフェリアと、可愛い弟子のノエルがベッドの脇にいた。オーフェリアには生徒会の仕事を頼んでいたが、ここにいるって事は終わったのだろう。

 

「さっきの試合見たわ。お疲れ様」

 

オーフェリアはそう言って優しい笑顔を見せてくる。起きて早々オーフェリアに笑顔を見れるなんてガチで幸せだな。

 

「おう。ちなみに今何時だ」

 

「後15分で5時ね」

 

つまり3時間以上寝たのか。まあ割と疲れて……

 

「え?て事は界龍同士の試合は……」

 

「少し前に終わりました。勝ったのは武さんです。記録見ますか?」

 

「それは後で良い。それよりもシルヴィの試合だ」

 

ノエルがそんな風に尋ねてくるが遠慮する。何故なら5時からシルヴィの試合があるのだからそっちを見ないといけない。界龍同士の潰し合いは帰ってからゆっくりと見よう。

 

「そうですね……シルヴィアさん、勝てますかね?」

 

ノエルはそんな事を言ってくるが、腑に落ちない点がある。

 

「ノエル。その言い方だとシルヴィに勝って欲しいように見えるが、シルヴィに勝って欲しいのか?」

 

シルヴィと雪ノ下陽乃を比べたらシルヴィの方が上だと思う。まだ互いに手の内は見せてないが、この前お袋がシルヴィに負けたと言っていたので、シルヴィの方が強いと思う。

 

俺はシルヴィに借りを返したいからシルヴィに勝って欲しいが、普通の奴なら雪ノ下陽乃より格上と評されるシルヴィに負けて欲しいと思うだろう。

 

「あっ……えっと、はい。勿論勝ちを優先するならシルヴィアさんには負けて欲しいですけど、私個人としてはシルヴィアさんと戦って認められたいですから……」

 

「?お前の実力や今日までしてきた努力を考えたら普通に認めて貰えると思うぞ」

 

シルヴィは基本的に誠実で真面目な努力家だ。そんな彼女が怪物揃いの王竜星武祭で勝ち上がる為に死にものぐるいで強くなったノエルを認めないはずがない……ってのが俺の考えだ。

 

「いえ。それとは別の意味で認めて貰いたいんです……」

 

はい?別の意味ってなんだよ?星武祭で戦うんだし、実力以外に何があるんだ?

 

頭には大量の疑問符が浮かぶも、聞くのは止めておこう。理由は知らないがオーフェリアがジト目でノエルを見ているし。

 

「よくわからんがシルヴィに認めて貰えるように俺も応援……っ!」

 

そこまで話しているとオーフェリアからドス黒いオーラが噴き出される。え?ちょっと待って。今オーフェリアを怒らせる事をしたか?ラッキースケベはしてないぞ?単純にノエルがシルヴィに認めて貰えるように応援しただけなんですけど?

 

内心ビビりまくっているとオーフェリアか俺の耳に顔を寄せて……

 

「八幡、今夜搾り取るから」

 

ただ一言、そう言ってきた。それだけで俺は逆らえない事を即座に理解する。こうなったら俺の返答は決まっている。

 

「……了解した」

 

是以外の返事はあり得ないのだ。

 

 

 

 

 

 

10分後……

 

『さあ本日最後の試合でーす。東ゲートから現したるは前々シーズンに王竜星武祭準優勝、前シーズンに王竜星武祭ベスト4にして界龍第七学院序列3位『魔王』雪ノ下陽乃選手ぅー』

 

俺達はシルヴィの試合が近付いたからかオーフェリアは怒りを鎮めたので、俺達3人は医務室にて試合を見ている。しかし何故オーフェリアがさっき怒ったのかは理解できていない。気になるっちゃ気になるが聞いたらヤバそうなので聞かないでおいた。世の中知らない方が良い事なんて山ほどあるからな。

 

カペラドームの実況のABCアナウンサーのドミティラ・クルス・ファノーリスのノンビリした説明と共に雪ノ下陽乃が東ゲートから出てくる。表情を見る限り硬い表情だ。まあ負けたら自由が無くなるのだから必然だろう。

 

『続いて西ゲートォー。前々シーズンに王竜星武祭ベスト4、前シーズンに王竜星武祭準優勝と雪ノ下選手と同等の実績を上げたクインヴェール序列1位にして世界の歌姫『戦律の魔女』シルヴィア・リューネハイム選手ぅー』

 

すると西ゲートからシルヴィが出てきて観客席からは圧倒的な歓声が上がる。それこそ俺や天霧、雪ノ下陽乃など壁を越えた人間が出てきた時よりも遥かに大きな歓声が。やはり世界の歌姫だけあって半端ねぇな。

 

「さて……シルヴィに勝ち上がって貰わないとな」

 

俺としては決勝でシルヴィと戦いたい気持ちがあるので、こんな所で躓いて欲しくない。

 

(あ、でもだからって準々決勝でノエルにも負けて欲しくないんだよなぁ……)

 

もちろん決勝でシルヴィと戦いたいのは間違いないが、だからって1年ちょい面倒を見たノエルにも頑張って欲しい。中々複雑な話だ。

 

「……シルヴィアなら負けない」

 

オーフェリアは自信満々に頷くが、お前どんだけあの人の事嫌いなんだよ?

 

「ちなみに八幡さんはどっちが勝つと思いますか?」

 

「シルヴィだな」

 

まあこれは私情だけと。好きな女に勝って欲しいと思うのは当然のことだからな。

 

そんな事を考えながら俺は試合開始時間まで落ち着いて待つことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、カペラドームステージにてシルヴィアがステージに立つと正面にいる陽乃に睨まれる。

 

(事情は知ってるけどさ……私を睨まないで欲しいな)

 

シルヴィアは内心辟易していた。陽乃が自分の自由を奪ったオーフェリアと八幡を憎んでいるのは知っているが自分を睨むのは止めて欲しかった。

 

確かにシルヴィア自身も止めなかったが、自由を奪ったのは八幡とオーフェリアだし、そもそもの原因は陽乃の自分勝手な行動である……とシルヴィアは考えている。

 

(まあ、向こうの事情がどうであれ負けるつもりはないけど)

 

シルヴィア自身負けず嫌いであるので、勝ちを譲るつもりはない。シルヴィア自身八幡の恋人になった時点で叶えたい望みはないが、優勝することで自分自身を更なる高みへと進ませたいと考えている。

 

そんな事を考えていると……

 

『いよいよ時間が迫ってまいりましたぁ。準々決勝に進出するのはクインヴェールか、はたまた界龍かぁ?』

 

 

そんな声が聞こえたのでシルヴィアは自身の愛用する銃剣一体型煌式武装フォールクヴァングを起動する。対する陽乃は徒手空拳のままであり、その事から最初は体術とくるのだとシルヴィアは判断した。

 

そして……

 

『王竜星武祭5回戦第8試合、試合開始!』

 

本日最後の試合が始まった。

 

同時に陽乃は走り出して距離を詰める。その速さは桁違いで壁を越えた人間には相応しいものであった。

 

しかしシルヴィアも壁を越えた人間であるので見切れる速さだ。フォールクヴァングを射撃モードにして光弾を陽乃の足元に連射しながら距離を取ってから息を吸い……

 

「ぼくらは壁を打ち崩す、限界の先に境界を越えて、傷を厭わずに、走れ、走れ」

 

身体強化の歌を歌いだして、全身から力が漲るのを感じるや否やフォールクヴァングを斬撃モードに変えて陽乃に突撃を仕掛ける。

 

同時に陽乃が右腕による正拳突きをシルヴィアの顔面に仕掛けてくるので、シルヴィアは首を僅かに動かして回避してから、袈裟斬りを仕掛ける。

 

対する陽乃は左腕に星辰力を込めてフォールクヴァングを横殴りにして剣の軌跡をズラすも……

 

「ちっ……!」

 

同時にシルヴィアが左足で蹴りを陽乃の鳩尾に叩き込む。陽乃は当たる直前に鳩尾に星辰力を込めて、当たる瞬間に後ろに跳んだのでダメージは全くと言って良い程無かった。あの状況で無傷でやり過ごせるのは陽乃の体術のレベルが桁違いだという事を意味している。

 

しかし陽乃の中には僅かながら、それでありながら確かな焦りがある。僅かなやり取りで自分の体術が身体強化されたシルヴィアの体術に劣っている事を理解出来たからだ。

 

身体強化されたシルヴィアの体術は綾斗や暁彗に匹敵して、今のアスタリスクで単純な体術でシルヴィアに勝てる人間は星露、涼子、ヘルガだけだろう。

 

対して陽乃の体術は暁彗より僅かに下回っているので、シルヴィアよりも僅かに下回っていて、その事実が陽乃を焦らせる。

 

負けたら自分は自由を奪われて母ひいては雪ノ下の人形になる……と。

 

そこまで考えた陽乃は首を横に振ってから心の中にある焦りに蓋をする。焦りは動きを鈍らせ勝率を下げる故に。

 

そして陽乃はシルヴィアから距離を取り、懐から呪符を取り出し……

 

「急急如律令、勅!」

 

星仙術を使用する。呪符からは黒い炎が大量に現れてシルヴィアの元に向かう。それに対してシルヴィアは距離を取りながら走って回避をする。1発でも食らうと面倒だからだ。

 

陽乃の星仙術が生み出す黒炎は殺傷能力は高くないが触れると暫くの間消えずに相手の体力と星辰力を削る。実際に前シーズンの王竜星武祭では当時の星導館の序列1位を黒炎で削り倒したのだ。

 

シルヴィアが高速でステージを走り回り黒炎を回避していると、陽乃が痺れを切らしたのか再度呪符を取り出す。

 

しかし先程とは違って取り出した枚数は数百枚と桁違いで……

 

「急急如律令、勅!」

 

言葉と同時に陽乃の前方から圧倒的な力を感じたかと思えば黒い龍が現れる。大きさは20メートル以上で雰囲気は東洋の龍と言ったところだ。

 

4回戦で雪乃相手に見せた龍に似ているが根本的に違う箇所がある。それは……

 

『何とぉ、雪ノ下選手、首が8つある龍ーーー八岐大蛇を召喚したぁ?!』

 

首が8つある所だ。8つの顔は全てシルヴィアを見据えている。それを見たシルヴィアは顔を引き締める。前回の王竜星武祭では見ていない。すなわちこの3年間で新しく編み出した切り札なのだろう。

 

「焼き尽くせ!」

 

既にオーフェリアによって仮面を完膚なきまでに破壊され、自由を求める陽乃が執念を篭った声で叫びながらシルヴィアを指差すと、八岐大蛇は一斉に黒炎を吐き出す。

 

対するシルヴィアはバックステップで回避するも、徐々に追い込まれていく。

 

何せ8つの首の内、シルヴィアを直接狙う首は2つで、4つの首はシルヴィアの周囲ーーーそれこそ上空に黒炎を放ち逃げ場を制限して、残りの2つの首は自分の周囲に黒炎を放ちシルヴィアを寄らせないようにと万全の状態なのだから。

 

そうこうしている内に遂にシルヴィアはステージに壁に追い詰められる。周囲には黒炎が絨毯のように大量に広がっていてシルヴィアは袋の鼠と言った所だろう。

 

一応全身に星辰力を込めて突っ切れば多少のダメージを受けるだけだが、今後を考えたらダメージは受けたくない。

 

(仕方ない。一気に仕留めるか)

 

そう判断したシルヴィアは息を大きく吸って……

 

「私は纏う、愛する者を守る為、支える為、共に戦う為」

 

自身の体内から膨大な星辰力を膨れ上がらせて、大気中の万応素を変換させる。そしてシルヴィアの周囲に光が生まれ出す。

 

「なんだか知らないけど、これで終わりだよ!」

 

陽乃がそう言った瞬間、八岐大蛇は8つの首を一斉にシルヴィアに向けて黒炎を放つ。モロに食らったら体力と星辰力はあっという間に枯渇するだろう。

 

しかしシルヴィアは特に焦ることなく歌う。愛する者ーーー八幡を守る為に、誰よりも強くなる為に考えた曲だ。負ける道理はない。

 

そして……

 

「纏いて私は動き出す、誰よりも強く、誰よりも速く、愛する者を奪おうとする敵を討ち滅ぼす為に……!」

 

次の瞬間、シルヴィアの身体が光に包まれたかと思えば……

 

「なっ?!」

 

そこから放たれた光がシルヴィアに浴びせようとした黒炎を全て弾き飛ばしたのだ。

 

これには陽乃も予想外だったようで驚きながらも自分の所に跳ね返ってきた黒炎を回避する。

 

そして光が徐々に無くなっていくと……

 

『美しい……、リューネハイム選手、美しい衣を身に纏って現れました!』

 

クインヴェールの制服を纏っておらず光の衣を身に纏ったシルヴィアが現れた。

 

手には圧倒的な星辰力を感じる光の剣、背中には大天使を模した神々しい翼が12枚生えていて、その姿はまさに……

 

 

『大天使……!』

 

この場にいる全員がシルヴィアの美しさと神々しさの混じり合った姿に目を逸らせずにいた。

 

対戦相手の陽乃ですら絶句している中、シルヴィアが右手に持つ光の剣を振るうと、そこから放たれた光の帯が一瞬でステージに広がっていた黒炎を吹き飛ばす。

 

すると陽乃も目の前にいるシルヴィアに意識を向ける。そこから感じる圧倒的な力は星露とは別種の力のように見えた。

 

しかし折れる訳にはいかない。折れたら自分に自由は無くなるのだから。

 

そう思いながら陽乃は八岐大蛇に指示を出すと八岐大蛇は口を開き、再度黒炎をシルヴィアに向けて放つ。

 

対するシルヴィアは光の剣を振り上げて……

 

「光神の撃剣」

 

横薙ぎに振るう。同時に光の斬撃が放たれて黒炎を全て消し飛ばして、八岐大蛇の首を同時に全て斬り落とす。それによって八岐大蛇は苦しそうな声を出して溶けるように消える。

 

それを確認したシルヴィアはゆっくりと陽乃に向けて歩き出す。決して早くはないが一歩ずつ確実に。

 

側から見れば大天使が歩いているように見えるが、陽乃からしたら死神の足音にしか聞こえなかった。

 

切り札の八岐大蛇は呆気なく消し飛ばされ、体術では劣っている。自分でも勝ち目がないという考えが浮かび出し、先程蓋をした焦りが蓋を突き破って心に侵食し始める。

 

そして頭には母の嗜虐的な笑みに、自分の婚約者候補の顔が浮かび陽乃から冷静さを奪い……

 

「う、うぁ……」

 

シルヴィアから後退りをする。対してシルヴィアは足を止めて光の剣を振り上げる。

 

それを見た陽乃はまた光の斬撃が来ると嫌でも理解してしまい……

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

懐から大量の呪符、それこそ数千枚の呪符を取り出して上空に浮かばせて……

 

「食らえぇぇぇぇぇぇっ!」

 

そのまま巨大な黒炎を纏わせた球を生み出す。大きさにして半径50メートルを上回る程の球を。

 

しかしシルヴィアは一切気圧される事なく……

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

そのまま光の剣を振り下ろす。すると光の奔流が黒炎の球と陽乃を纏めて呑み込んで……

 

『雪ノ下陽乃、意識消失』

 

『試合終了!勝者、シルヴィア・リューネハイム!』

 

陽乃は地面に倒れ伏して機械音声がシルヴィアの勝利をドーム全体に伝える。

 

一拍遅れて観客席からは大歓声が沸き起こって、同時にシルヴィアは光の衣を解除して息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

こうして5回戦は全て終了してベスト8が出揃った。よって調整日を1日挟んで準々決勝が行われる。

 

準々決勝の組み合わせは……

 

 

 

比企谷八幡VSレナティ(エルネスタ・キューネ)

 

 

天霧綾斗VSロドルフォ・ゾッポ

 

 

シルヴィア・リューネハイムVSノエル・メスメル

 

 

武暁彗VS若宮美奈兎

 

 

となったのだった。


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