「……なるほどな。話は大体理解した。とりあえず1番の原因は俺だな」
「全くである!昨日も怒られたのであるぞ!加えて今日は沙々宮殿にぶっ放されそうになるし……!」
カフェ『マコンド』の席にて、俺はコーヒーを飲みながら頷くと材木座が喚き出す。普段ならウザいと一蹴するが、今回については全面的に俺が悪いので特に反論はしない。
両隣には恋人であるオーフェリアとシルヴィが居て、向かい側には刀藤と沙々宮、材木座とエルネスタがいた。
何故3人でデートしていたのにこんな状況になったのかというと、デートの最中に昼飯を食おうと行きつけの店であるマコンドに入ったら、沙々宮が煌式武装を起動して材木座に向けていて、材木座がエルネスタを抱きしめて道連れにしようとしていて、刀藤が沙々宮を必死に止めるというカオスな状況だったのだ。
関わると面倒なのは丸見えだったので逃げようとしたら刀藤に捕まって、今に至る感じだ。
そんで何故4人が揉めていたかというと……
①沙々宮、昨日負けたストレスを発散するべくやけ食いをすると刀藤を連れてマコンドに入る
②それから少しして沙々宮同様に昨日負けたストレスを発散する為にやけ食いを考えていた材木座に、私の分も奢ってとエルネスタが同伴してマコンドに入る
③4人が鉢合わせする
④沙々宮昨日の試合で対戦相手のノエルが『ダークリパルサー』を使った事を思い出す
⑤『ダークリパルサー』の製作者は材木座
⑥沙々宮キレて煌式武装を展開
って感じだ。
そんでノエルに『ダークリパルサー』を渡したのは俺なので材木座に怒られているのだ。
閑話休題……
「だから悪かったって。つーかもう終わったんだしゴチャゴチャ言うな」
「開き直りおったぞこいつ……」
材木座が呆れた表情を浮かべているが知らん。都合の悪い過去は基本的に振り返らない主義なんでな。
「にゃははー。まあぶっ放されなかったから良いじゃん」
「貴様は貴様で他人事だな」
「実際他人事だしねー。まあ将軍ちゃんに抱きしめられて道連れにされそうになったけど」
「あ……まあ済まなかったのである」
エルネスタはジト目で材木座を見る。しかし若干頬を染めているしお前らさっさと付き合えよ?
しかし……
「この席、面子が凄すぎだろ……」
思わずそう呟いてしまう。自分で言うのもアレだが、この席顔ぶれが尋常じゃない。
何せ……
俺 レヴォルフの序列2位で今回の王竜星武祭にて準々決勝進出
シルヴィ 世界の歌姫でクインヴェールの序列1位で俺同様に今回の王竜星武祭で準々決勝に進出
オーフェリア レヴォルフの序列1位で王竜星武祭二連覇したアスタリスク最強の魔女
刀藤 元星導館序列1位で鳳凰星武祭ベスト4にして獅鷲星武祭優勝
沙々宮 序列外でありながら刀藤同様鳳凰星武祭ベスト4にして獅鷲星武祭優勝、今回の王竜星武祭にてベスト16
材木座 アルルカント最大派閥の『獅子派』の長にして学生でありながら年収数千億、今回の王竜星武祭にてベスト16の実績を持つ男
エルネスタ アルルカントの派閥の1つ『彫刻派』の長にして、鳳凰星武祭準優勝にして今回の王竜星武祭にて準々決勝に進出
改めて考えたら凄い面子だ。他の客もギョッとした表情で俺達の事をガン見しているし。
「ねぇねぇ八幡ちゃん。ちょっと聞きたい事があるんだけど良いかな?」
そんな事を考えていると、正面に座る明日俺と戦うエルネスタが俺に話しかけてくる。まあ実際ステージに立つのは代理のレナティだけど。
「何だよ?」
「あのさー、八幡ちゃんが4回戦で『大博士』をぶっ飛ばした鎧なんだけどさ、明日は使えるの?」
馬鹿正直に聞いてくる。こいつ……情報戦でもやる気か?
「使えるな。どの程度使えるかは言わないが」
「えー?教えてくれても良いじゃん」
「じゃあお前と材木座がどこまで行ったのか教えてくれたら教えてやるよ」
俺がそう返すとエルネスタは一瞬だけキョトンとするも……
「はぁ〜?!それ誤解だから!その言い方だと私と将軍ちゃんが付き合ってるみたいな言い方だけどそんなんじゃないからね!」
「そうである!我とエルネスタ殿は『獅子派』と『彫刻派』の長として同盟を結んではいるが、個人的には敵同士である!」
「いや、素直になれずにどついた奴が言っても説得力がないからな?」
「ちょっと!何でそれを……はっ!まさか将軍ちゃんに直接問い詰めてみろってアドバイスしたのって……」
「俺だな」
「何てことをしてくれるのさ馬鹿ーっ!」
「落ち着けエルネスタ殿!我も八幡にキレたが、店内では暴れるな!」
「離して将軍ちゃん!今直ぐ八幡ちゃんをぶっ飛ばさないと気が済まないよ!」
エルネスタはふんがーっ!とばかり俺に飛びかかろうとするも材木座が羽交い締めしてエルネスタを止める。
2人が揉める中、沙々宮が小さく手を挙げて俺に話しかけてくる。
「2人には何をしたんだ?」
見ればオーフェリアとシルヴィ、刀藤も気になる素振りを見せてくる。やはり女子だけあって恋バナに興味があるのか?
そう思いながらも俺が事情を説明すると……
(え?あの2人本当に付き合ってないの?)
(……普通にラブラブじゃない)
(もどかしいな……)
(え〜っと……長く一緒に居たので恋人という概念が無くなったんですかね?)
シルヴィが頭に疑問符を浮かべ、オーフェリアと沙々宮が呆れた表情を浮かべ、刀藤は真剣に2人の関係について考察を始める。
マジで疑問だが、何故あの2人は付き合わないんだろうか?どっちかが告れば直ぐに付き合って、俺達3人以上のバカップルになると思うぞ?
内心呆れ果てていると、大分落ち着いたエルネスタがピシッと俺に指を突きつけてくる。
「こうなったら明日の試合でレナティが八幡ちゃんをボコボコにするから覚悟しといてね!」
「やってみろ。返り討ちにしてやるよ」
「上等だよ!行くよ将軍ちゃん!」
言うなりエルネスタは材木座の手を掴んで立ち上がる。
「エルネスタ殿?!いきなりどうしたのであるか?!」
「念には念を入れてレナティのメンテナンス時間を増やすから将軍ちゃんも付き合って!」
「我もか?まあ構わないが……」
「決まりー!じゃあ八幡ちゃん、明日は勝つから首を洗って待っててねー!」
「エルネスタ殿?!……済まんが我はこれで失礼する!」
エルネスタはそのまま材木座の手を掴んでマコンドを後にしたのだった。
(普通に手を繋いでいたが……やっぱりお前は仲良いだろ?)
俺は今この場にいる人間は全員俺と同じ事を考えているのだという確信があった。
「全く……嵐のような2人組だな」
「いやカフェで煌式武装ぶっ放そうとしたお前も嵐みたいな人間だからな」
「シルヴィア・リューネハイムとオーフェリア・ランドルーフェンの2人と街中でディープキスをする比企谷も嵐のような人間だろう?」
「え、えーっと……あはは」
刀藤は苦笑いしているが、彼女の仕草が俺達が嵐のような人間である事を肯定している。
「まあ八幡君は嵐のような人間かもね。色々なトラブルに巻き込まれてるし」
恋人のシルヴィにも言われたよ。しかもオーフェリアもコクコク頷いているし、やっぱり俺は嵐のような人間なのか?
「ま、まあアレだ。今年はディルクは監視してるし、マディアス・メサも捕まったし明らかにヤバいトラブルは起こらないだろ?」
鳳凰星武祭の時は天霧とリースフェルトを潰すためにフローラが拉致されて、獅鷲星武祭の時は決勝前日にマディアス・メサが天霧を襲撃したりと桁違いにマズイトラブルが起こったが、騒動を起こしたディルクは黒猫機関に監視させているし、マディアス・メサは警備隊に捕まったので今年はヤバいトラブルは起こらないだろう。
「そうである事を祈る。ただでさえハル姉も忙しいのだから」
ハル姉?ああ、天霧の姉ちゃんか。そういや警備隊に入隊したんだった。んで歓楽街で暴れたお袋を捕まえようとしたって聞いたな。結局お袋は捕まってないし、倒したのか逃げ切ったのだろう。
警備隊は星武祭期間中にトラブルの対処で忙しいし、これ以上トラブルが増えない事を願うのは当然だろう。
「そうでしょうね。ところで比企谷さんは大丈夫なんですか?」
「何がだよ?」
「いえ、昨日の試合でユリス先輩の……」
「ああ……問題ない。多少痛いが戦闘には支障無い」
寧ろリースフェルトの方が心配だ。昨日の今日だし顔を合わせたら向こうも気分が悪くなるかもしれないと思って見舞いには行ってないが、両腕と肋骨が折れていて軽くない怪我だし。
「そういや刀藤は王竜星武祭に出なかったんだ?」
「あ、それは私も気になるな」
シルヴィアも気になったのか刀藤に話しかける。刀藤も壁を越えた人間で単純な剣才なら天霧やフェアクロフ兄妹を上回ると評されている。加えて最近になって純星煌式武装を持つようになったし、王竜星武祭に出るものかと思っていた。
まあ俺としちゃ出なくて良かったけど。
「一応出るか悩みましたが、来シーズン以降にしました。来シーズンには綾斗先輩もユリス先輩も紗夜先輩も出れないですから……」
なるほどな。誰であろうと星武祭に出れるのは3回までだ。既に星導館は総合優勝が殆ど決まっているので、刀藤は来シーズン以降を見据えて今回の王竜星武祭に出なかったのだろう。もし俺が星導館の生徒会長なら刀藤に来シーズン以降に出てくれと頼んでいるかもしれないな。
「そうかい。じゃあ来シーズンの王竜星武祭に出るならよろしくな」
俺は来シーズンの王竜星武祭に出るつもりだ。そして刀藤も間違いなく王竜星武祭に出るだろう。天霧が引退したら星導館最強は刀藤だし。
「はい。その時はよろしくお願いします」
言いながら刀藤はペコリと頭を下げてくる。礼儀正しいなぁ……ノエルに若干似てる気がする。礼儀正しい所とか、妹属性を持っている所とか、小動物みたいな容姿な所とか。
そんな事を考えながらも俺達は他愛のない雑談をしながら昼食を食べた。元々3人で食べる予定だったが、5人で食べるのもなかなかどうして楽しかった。
明日に備えてリフレッシュをする目的で外出したが、目的は果たしたと言えるだろう。
それから3時間後……
「んー、今日は楽しかったぁ!」
空に綺麗な夕焼けが生まれる中、アミューズメントパークを出たシルヴィは満足そうに伸びをする。
昼食を食べた俺達は、刀藤と沙々宮と別れてアミューズメントパークに行ってカラオケやボウリングをして楽しんだ。尚、シルヴィが自分の歌を歌ったら100点満点を出していた。
「……そうね。久しぶりにした3人のデートは楽しかったわ」
オーフェリアも満足そうに頷いているが俺も同感だ。基本的にアミューズメントパークなんて行かないが、恋人と一緒だと乗り気になれたし。
「これで明日の準々決勝は最善の状態で行けるな」
気分も最高。これなら明日の試合でも最高のパフォーマンスで試合に臨めるだろう。
「うん。八幡君は頑張ってね。あのレナティって女の子、強いし、間違いなく奥の手を持ってる筈だから」
シルヴィは真剣な表情を浮かべているが俺も同感だ。レナティは壁を越えた存在だが、今の状態なら普通に勝てる自信がある。
それでもエルネスタは俺に勝つと言ったんだ。何かしら勝算ーーー奥の手を隠し持ってるだろう。鳳凰星武祭でも合体という度肝を抜かすような隠し球を持っていたし。
「ああ。お前も頑張るよ。今のノエルは強いぞ」
何せあいつ俺の影神の終焉神装を模した技を開発したし。アレを使った時のノエルは間違いなく壁を越えた人間とマトモにやり合えるだろう。
「わかってるよ……八幡君が手取り足取り鍛えたからね」
シルヴィがジト目で俺を俺を見てくる。するとつられてオーフェリアもジト目で見てくる。どうしろと?俺にどうしろと?
返答に悩んでいる時だった。
「八幡さん!」
いきなり後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。同時にオーフェリアとシルヴィの目が更に鋭くなる。
恐る恐る振り向くと……
「八幡さん、こんな所で奇遇ですね!会えて嬉しいです!」
先程話題に上がっていたノエルが満面の笑みで元気よく駆け寄ってくる。ちくしょう、こんな時にアレだが可愛過ぎる。
そしてノエルの後ろからはブランシャールが胃の辺りに手を押さえながらこちらにやって来る。その様子からまた葉山がなんかやらかしたのか?
「そうだな、奇遇だな。お前も明日に備えて気分転換か?」
「はい……シルヴィアさん」
ノエルは頷くなり、シルヴィアの前に立ち頭を下げる、
「明日の試合、よろしくお願いします」
対するシルヴィもジト目を消して頷く。
「よろしくねノエルちゃん。言っておくけど負けないからね?」
「それは私もです。勝ってシルヴィアさんに認められたいので全力を尽くします」
ノエルは顔を上げてシルヴィと睨み合う。そこには星武祭以外の何かも掛かっているように思える。シルヴィもそうだが、それ以上にノエルの気合いは一段と凄い。どんだけシルヴィに認められたいんだ?
「やはりこうなりましたのね。胃が痛くなりますわ……っと、それよりも比企谷八幡。貴方に話がありますの」
漸くノエルに追いついたブランシャールが俺に話しかけてくる。
「どうした?」
「昨日の葉山隼人の件ではご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんですの。昨日の夜エリオットが上層部に報告した結果、彼には監視がつきましたので」
「そうか。それは助かる」
何せ昨日はいきなり胸倉を掴まれて壁に叩きつけられたからな。決勝前とかに干渉されたら迷惑極まりないからな。
そんな事を考えているとノエルとシルヴィの会話は終わったようでノエルが俺に近寄ってくる。
「八幡さん、私……明日は頑張りますので、見ててください!」
強い決意を込めた表情で俺を見てくる。何かはわからないが絶対に譲らない目をしている。やはりノエルにはガラードワースの立て直し以外にも王竜星武祭に参加した理由があるのだろう。
「わかった。見ておく」
返答は決まっている。恋人と可愛い弟子が戦うんだ。是非ともこの目に焼き付けておきたい。
「ありがとうございます。では失礼します」
「昨日は申し訳ありませんでしたわ」
2人は一礼してその場を去った。同時にシルヴィが俺に詰め寄ってきて決意の混じった表情で俺を見てくる。
「八幡君、明日は絶対に勝つからね」
「お、おう……」
「なら良し。じゃあ帰ろっか」
シルヴィはそう言って俺の右腕に抱きつき、対するオーフェリアは俺の左腕に抱きつくので俺は2人の手を握りながら自宅に向かって歩き出した。
こうして調整日の1日は終了した。色々とインパクトのある事はあったが、気分転換にはなっただろう。
そして翌日……
王竜星武祭12日目にして準々決勝の幕が上がる。