学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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良い試合とは……? 比企谷八幡VSレナティ(前編)

王竜星武祭12日目

 

現時点で残っている選手は8人であり、今日準々決勝を行い4人が負ける。

 

試合の組み合わせはこうなっている

 

シリウスドーム

 

俺こと比企谷八幡VSレナティ(エルネスタ・キューネ)

 

 

カノープスドーム

 

天霧綾斗VSロドルフォ・ゾッポ

 

 

プロキオンスドーム

 

武暁彗VS若宮美奈兎

 

 

カペラドーム

 

シルヴィア・リューネハイムVSノエル・メスメル

 

って感じだ。

 

「……八幡、緊張してる?」

 

すると控え室にて俺の隣に座っているオーフェリアが心配そうに俺を見てくる。今日は生徒会の仕事が少ないので直接俺を応援しに来てくれている。

 

「緊張してないって言ったら嘘になるが大丈夫だ。多少の緊張は持っておいた方がいいからな」

 

緊張し過ぎはダメだが緊張がなさ過ぎるのもダメだろう。その点今の俺は程よく緊張してる状態で悪くないだろう。

 

「なら良いわ。もう直ぐ時間だけど頑張ってね」

 

「ああ……オーフェリア」

 

言うなり俺はオーフェリアの肩を掴み唇を奪う。するとオーフェリアは一瞬だけど驚きの表情を浮かべながらも俺のキスを受け入れて、自分からもキスをしてくる。

 

暫くの間キスをした俺達は……

 

「行ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

互いに一言だけ言葉を交わして、俺は笑顔を浮かべたオーフェリアに見送られながら控え室を後にした。

 

そして入場ゲートに繋がる通路を歩いているとポケットにある端末が鳴り出したので見てみると……

 

『fromシルヴィ 行ってらっしゃい、八幡君』

 

『fromノエル 行ってらっしゃい、八幡さん』

 

シンプルなメールが届いていた。文面、君とさん以外同じじゃねぇか……しかも同時に。狙ってやったのかよ?

 

それを確認した俺は頬が緩むのを自覚しながら2人に『行ってきます』と返信して再度入場ゲートに向かって歩き出す。

 

入場ゲートに繋がる通路にも会場の熱気と興奮が伝わってくる。王竜星武祭も準々決勝まで来たから必然だろう。

 

そして……

 

『さあ王竜星武祭12日目!今日は準々決勝!ベスト4に進出出来るのは誰なのか!いよいよ開幕です!』

 

実況の声によって観客のボルテージは更に上がる。前回の王竜星武祭で経験しているが準々決勝以降になると一段と騒がしいな。まあ10万人の客がいるから仕方ないっちゃ仕方ないが。

 

『いよいよ入場です!先ずは東ゲート!レヴォルフ黒学院序列2位!世界最強の男と評されたこの男!『影の魔術師』比企谷八幡ー!』

 

実況の声が俺の名前を呼んだので入場ゲートをくぐると眩い光の波と大歓声が俺に降り注ぐ。

 

(相変わらず騒がしい。これがロドルフォあたりならハイテンションになるが、俺は寧ろローテンションになるな……まあ戦闘には支障ないけど)

 

そう思いながらゲートから続くブリッジを渡り、ステージへと飛び降りる。

 

『続いて西ゲート!鳳凰星武祭に続いて今大会でもダークホース!アルルカントアカデミー『彫刻派』代表エルネスタ・キューネ選手の代理擬形体、レナティ選手ー!』

 

そんな声が聞こえると一拍置いて……

 

「えーい!」

 

可愛らしい声と同時にステージに可愛らしい姿の女子……の形をした擬形体のレナティが降りてくる。

 

見た目は10歳前後の金髪幼女と可愛らしいが油断はしてない。なんせこのレナティ、準々決勝に進むまでの試合全てを10秒以内で終わらせている。(小町は不戦敗故にノーカンとする)

 

そんな風に警戒していると、レナティがこっちにやって来て手を差し出してくる。

 

「にひひー!よろしくねーはちまん!」

 

天真爛漫な笑顔でそう言ってくる。そんな無邪気な表情を見ると呼び捨てにされてもムカつかない。

 

「よろしく、良い試合にしよう」

 

言いながらレナティの手を握る。見る限りレナティは純粋だし、その位は良いだろう。

 

「良い試合?んー……」

 

するとレナティはきょとんとした表情で首を傾げる。表情を見る限り俺の言っている事がわからないようにも見えるが、俺分かり難い事を言ったか?

 

疑問符を浮かべているとレナティが握手をしたまま俺に話しかけてくる。

 

「ねぇはちまん。良い試合ってどんな試合?」

 

「は?」

 

「うん。ただ勝つだけの試合は良い試合じゃないんでしょ?レナ、どんな試合が良い試合なのかわかんないの」

 

なるほどな……こいつは圧倒的な力を持っているが、まだ何も知らないようだ。どうやら精神についてはアルディやリムシィと違って子供なんだな。

 

しかし良い試合か……

 

「良い試合ってのは本人が満足した試合だな」

 

「満足……?はちまんは満足した試合をしたことあるの?」

 

「一回だけな。まあ負けたから悔しい気持ちもあったけど」

 

俺が満足した試合は3年前のシルヴィとの試合だ。お互いに全力を出し合った勝つか負けるかのクロスゲーム。負けたがあの時は妙にスカッとした。アレは俺の中で満足した試合だろう。

 

「負けたのに満足?んー?よくわかんない」

 

本当に純粋だな……これから先、学ぶ内容によっては聖者になるかもしれないし、悪者になるかもしれないな。ある意味恐ろし過ぎる

 

「まあ難しく考えるな。お前が普通に試合をやればいつかわかるだろ。それよりもう直ぐ時間だし手を離すぞ」

 

言いながらレナティから手を離す。

 

「あ、うんわかった!でもでも、勝つのはレナだから!」

 

「やってみな」

 

その言葉を最後に俺とレナティは開始地点に向かう。俺はいつものように徒手空拳で、対するレナティはシルヴィが愛用するフォールクヴァングと同じ銃剣型煌式武装ユードムラを持っている。しかしシルヴィのそれと違って大きさは3メートル近くある。

 

レナティが使う武装はユードムラたった1つだけだ。しかし油断は禁物。あの武装による一撃は食らったらアウトだしな。

 

そう思いながら構えを取ると……

 

『王竜星武祭準々決勝第1試合、試合開始!』

 

胸の校章が試合開始を告げる。瞬間、レナティは圧倒的な速度で俺との距離を詰めてきて……

 

「えーい!」

 

可愛らしい声を出しながら可愛くない斬撃を放ってくるので、俺は真横に跳んで回避すると、ステージの地面には巨大な斬撃痕が生まれる。データでは見たがつくづくふざけた破壊力だ。

 

「影の刃軍」

 

そう思いながらも俺は影に星辰力を込めて50本以上の影の刃を一斉に放つ。狙いは全てレナティの校章。

 

対するレナティはユードムラで薙ぎ払いをして影の刃の7割を斬り飛ばす。残りの3割についてはユードムラを剣状態から巨大な銃状態に変更して、即座に光弾を放ち破壊する。

 

それを見た俺は脚部に星辰力を込めて、爆発的な加速をしてレナティに詰め寄り正拳突きを放つ。見た目は幼女だから側から見たらヤバい光景だが、レナティ相手に手を抜いたら即負けに繋がるだろうから気にしない。

 

するとレナティはユードムラを再度剣状態にして俺の一撃を受け止めるので右足に星辰力を込めて蹴りを放つとレナティも同様に蹴りを放ってぶつけ合う。

 

それによって俺とレナティの足元に衝撃が走り……

 

「ちっ……」

 

「にゅにゅっ?!」

 

お互いに弾かれるように距離を取る。同時に俺は義手に星辰力を注ぐ。奴を相手に妥協をするのは厳禁だ。

 

そして義手は本来の大きさの3倍となり埋め込まれた2つのマナダイトが光り輝くので……

 

「はあっ!」

 

光が最高潮に輝いた瞬間に突きを放つ。するとレナティはユードムラを大きく振り上げて……

 

「ふみぃぃぃぃぃっ!」

 

気合いの入った叫び声を上げながら振り下ろす。すると……

 

ドガァァァァァンッ……

 

俺とレナティの真ん中辺りで大爆発が生じる。状況から察するに俺の流星闘技によって生まれた衝撃波をレナティがぶった切ったのだろう。俺達の間にあるステージの床には斬撃痕があり、爆発によって捲れている。

 

しかし俺とレナティはそれを気にせず再度突撃を仕掛けて……

 

「はっ……!」

 

「やぁーっ!」

 

掛け声と共に攻撃を仕掛ける。レナティがユードムラから斬撃を飛ばせば俺が回避して、俺が距離を詰めようとすればレナティはユードムラを銃状態に変更して光弾を放ち、俺を近寄らせないようにしてくる。

 

(ちっ……擬形体だけあって攻撃が正確だな)

 

そう思いながらも俺は半ば無理矢理レナティとの距離を詰めて、拳をぶつけながらも足元の影に星辰力を込めて……

 

「殴れ、影拳士の剛腕」

 

「にゅっ?!」

 

次の瞬間、影から巨大な腕を生み出してレナティを殴り飛ばす。俺と拳を交えていたレナティは避ける事が出来ずにモロに食らって後ろに吹き飛ぶ。

 

それを受けたレナティは地面に叩きつけられるも、直ぐに地面を蹴って起き上がる。

 

「凄い凄い!はちまんって4回戦で見せた鎧が無くても強いんだー!」

 

そして楽しそうにはしゃぐ。擬形体だから痛覚が無いのか全然ダメージを受けていないようにも見える、

 

(しかし腑に落ちないな……)

 

レナティの実力は大体把握した。高い身体能力に擬形体故の正確な攻撃に高性能の煌式武装、それらを総合すると間違いなく壁を越えた存在だろう。

 

しかしこれなら鳳凰星武祭で見せてきた合体したアルディの方が数段上の実力だ。

 

その事から察するにレナティは間違いなく奥の手を持っている。エルネスタなら間違いなく仕込んでるだろうし。

 

内心警戒しながらレナティを見ると……

 

「うーん。こうなったら本気を出そうっと!」

 

言うなりレナティはユードムラを放り投げる。何をするつもりなのかはわからないが油断は禁物だ。ここは……

 

疑問符を浮かべながらも警戒を続けながら脚部と自身の影に星辰力を込めている。正面にいるレナティの瞳の色が変わり……

 

「えーい!」

 

次の瞬間、俺の目の前にいて手刀を振り下ろそうとしてくる。

 

(マズい……!間に合え!影雛鳥の闇翼!)

 

内心そう叫ぶと足首に小さい影の翼を何枚も生やし、星辰力を込めた脚部による蹴りを地面に放ち横に跳ぶ。

 

すると……

 

「んなっ!」

 

思わず素っ頓狂な声を出してしまった。レナティの手刀はさっきまで俺がいた場所をスッパリと切り裂いていて、ステージには10メートル近くの斬撃痕が刻まれていたのだ。

 

(何つーパワーとスピードだよ?一昨日にリースフェルトの加速補助能力を見てなかったら回避出来ずに負けてたな……)

 

さっか俺が使った影雛鳥の闇翼は一昨日の試合でリースフェルトが使っていた極楽雛鳥の輝翼を俺の影で真似たものだ。

 

影雛鳥の闇翼に加えて星辰力を込めた脚部による爆発的な加速のおかげでギリギリ回避出来たと言ったところだ。

 

「やっぱり生身で勝つのは無理か……纏え、影狼修羅鎧」

 

言いながら影に星辰力を注ぐと、影が俺の身体に纏わりついて、狼を模した西洋風の鎧と化す。

 

(こいつ相手に様子見は厳禁だ。一撃で仕留める)

 

そう思いながら俺は息を吐いて…….

 

「にひひひひひ!そーれ!」

 

満面の笑みでこちらに向かってくるレナティを迎え撃つ。レナティが手刀を横薙ぎに振るってくるので俺は身を屈めてギリギリの所で回避して……

 

「にゅにゅっ!」

 

右手でレナティの鳩尾を殴る。対するレナティは全然ダメージを受けてないようだが、体勢は崩れている。

 

当然そんなチャンスを俺が逃すつもりもなく、俺は義手に埋め込まれたマナダイトに星辰力を注ぐ。奴を

 

そしてレナティが体勢を立て直すと同時に義手から圧倒的な力を感じたので……

 

「はあっ!」

 

渾身の一撃を放つ。ロボス遷移方式によって多重連結したマナダイトによる流星闘技だ。いくらレナティでもタダじゃ済まない筈だ。

 

そう思った時だった。

 

「ふみいいいいいいいっ!」

 

レナティが叫び声を上げながら下段から蹴りを俺の左腕に向かって放つ。それによって流星闘技を使用した俺の左腕とレナティの足がぶつかり合い……

 

「うおっ……!」

 

足元にクレーターが生まれながら、一瞬だけ拮抗するも直ぐに押し切られて俺は後ろに吹き飛ぶ。一度だけ地面を跳ねてから体勢を立て直すと既にレナティがこちらに向かってくるので影雛鳥の闇翼を発動してレナティから距離を取る。

 

そして俺が構えを見せるとレナティも無理に攻めずに足を止める。見かけの割に冷静だな。マジで面倒な相手だ……

 

「やっぱりはちまんはすごーい。レナの演算だとさっきの蹴りで倒せるはずだったのにー!」

 

「そりゃどうも。お前こそ急に強くなったが何をしたんだ?」

 

レナティの瞳の色が変わった瞬間、レナティのパワーとスピードは桁違いになった。レナティの右腕から今もなお桁違いの力を感じる。

 

「んー?はちまんの左腕と同じだよ?」

 

俺の左腕と同じ……そうか!

 

「なるほどな。つまり普段のお前は並列処理方式でコアを制御してるが、今のお前は俺の義手と同じくロボス遷移方式によってウルム=マナダイトを多重連結してるんだな」

 

「だーい正解!レナね、今のレナが一番好き!体の奥からどんどん力が湧いてくるの!」

 

ロボス遷移方式は俺の義手にも使われていて、マナダイトを多重連結させて出力を上げる方式である。破壊力については純星煌式武装に匹敵するが出力が安定し難い上に、一回の攻撃ごとにインターバルが必要であると中々ピーキーなシステムだ。

 

普通のマナダイトでも純星煌式武装に匹敵する破壊力を出せるのだ。純星煌式武装の素材であるウルム=マナダイトをロボス遷移方式で多重連結したら、それこそオーフェリアや星露クラスの力になるだろう。

 

しかし普通のマナダイトではなくウルム=マナダイトでやるとは完全に予想外だ。俺やこの方法に慣れている沙々宮でも制御するのは無理だろう。普通に暴発する未来しか見えない。

 

それでもレナティが暴発しないという事はエルネスタの技術が桁違いだという事を証明している。

 

(あの野郎マジで厄介な擬形体を作りやがって……試合が終わったら材木座とデキてるってネット掲示板に書いてやる)

 

そう思いながら俺はレナティを見据えて作戦を立てるのであった。

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「はっ(むうっ)!何か試合が終わったらとんでもない事になる気がするなぁ(のである)!」

 

アルルカントアカデミーの専用観戦室にて、八幡とレナティの試合を見ていたエルネスタと材木座は嫌な気配を感じながら叫んでいた。


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