学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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元アスタリスク最弱とアスタリスク最強の一番弟子の激突! 若宮美奈兎VS武暁彗

『王竜星武祭準々決勝第3試合、試合開始!』

 

試合開始の合図があった直後だった。

 

「破っ!」

 

いきなり地面が抉れて吹き飛び、四方遥か先までひび割れが走る。

 

それがただの震脚であったと気づいたの者はこの試合を見ている人間でも一握りだろう。

 

暁彗がやったのは極めて単純な踏み込みからの掌打とシンプルな攻撃。しかし暁彗本人のスペックが桁違いなので、一撃必殺の技と化している。

 

噴き上がった粉塵がゆっくりと晴れる、クレーターの中心にある光景は……

 

「全力で放ったつもりだったが……よくぞ防いだ」

 

「結構ギリギリですけど……ね!」

 

暁彗と美奈兎が拳をぶつけ合っていた。見る限りどちらも拮抗している。

 

普通に考えたら暁彗の攻撃をマトモに防ぐのは殆ど不可能だ。にもかかわらず美奈兎が暁彗と拮抗出来ているのは……

 

『若宮選手の純星煌式武装『重鋼手甲』やね。効果は知っとるけど、武選手の攻撃を防ぐレベルとは思わんかったわ』

 

解説の言う通り、美奈兎の所有する『重鋼手甲』のおかげである。『重鋼手甲』は『重鋼手甲』自身の重量を自在に変化させる能力である。

 

重さは即ち破壊力に直結する。美奈兎は『重鋼手甲』を文字通り桁違いの重量に変えて暁彗の拳を迎え撃ったのだ。結果として2人の足元にクレーターが出来るが、美奈兎は暁彗の初撃を無傷で受け止めた。

 

今まで暁彗は5回戦以外の試合全てにて一撃で勝利した事もあって観客席は大盛り上がりだ。

 

しかしステージにいる2人はそんな歓声を気にせずに、拳をぶつけ合い……

 

「はっ!」

 

「よっと!」

 

お互いに距離を取る。美奈兎は足を地面に付けると同時に両手に装着した『重鋼手甲』の重さを限界まで軽くして暁彗に突撃を仕掛ける。

 

『重鋼手甲』はインパクトの瞬間だけ重量を増やすのが基本である。でないといくら星脈世代でもマトモに動けないからだ。

 

対する暁彗も第二撃を放つべく地面を吹き飛ばす程の震脚を起こして美奈兎との距離を詰めて、蹴り上げを放つ。鍛え抜かれた強靭な脚から放たれる一撃は、どんな相手でもモロに受ければ一瞬で意識を奪える程の破壊力を持っているだろう。

 

 

対する美奈兎は……

 

(速い……でも星露ちゃんと同じ蹴りだから躱せる!)

 

身を屈めて紙一重の所で暁彗の蹴りを回避する。暁彗の蹴りの速度は圧倒的だが、星露の蹴りと同種のもので星露のそれに比べて若干だが遅いので、美奈兎は対処出来たのだ。同時に美奈兎は身体を起こしながら『重鋼手甲』の重量を文字通り桁違いに増やして……

 

「玄空流ーーー螺鉄!」

 

「ぐっ……!」

 

そのまま暁彗の鳩尾に裏拳を叩き込む。それによって暁彗は若干苦しそうな表情を浮かべながら口から若干の血を流し、3メートル程後ろに吹き飛ぶ。

 

『なんとなんとぉっ!先制は若宮選手!優勝候補の武選手に一撃浴びせたぁっ!これは凄い!』

 

実況がハイテンションな声を出して、それに釣られる形で観客席のボルテージが上がる。あたかも大金星を期待しているかのように。

 

しかし美奈兎の胸中は観客席の空気に反して驚愕の色で染まっていた。

 

(嘘……?今の一撃であの程度のダメージなの?)

 

美奈兎は5回戦で自分と同じ魎山泊のメンバーであるイレーネと戦ったが、試合終盤に『重鋼手甲』を使って今打った技を使って撃破した。

 

その時の『重鋼手甲』の重さはたった今暁彗に攻撃した時と同じ程の重量だが、食らった時の反応が違い過ぎる。

 

イレーネは今の一撃を受けて50メートル以上吹き飛んでそのまま壁に激突して気絶したが、暁彗は僅か2、3メートルしか飛ばなかった。

 

加えて僅かに血を流した程度の事から殆どダメージを受けていない事を美奈兎は嫌でも理解してしまった。

 

また美奈兎は暁彗の鳩尾あたりから異様な質感の星辰力を感じ取れた。自分の星辰力とは異なる性質の星辰力を。美奈兎は暁彗が一昨日の試合で使っていたのでそれを知っている。

 

「それって星辰力を効果的に変える……」

 

「錬星術だ。お前の攻撃を受ける直前に、俺の星辰力を防御に特化した星辰力に変質させて鳩尾に纏わせた。まあそれでも完全に防ぐことは出来なかったが、これは俺の錬星術は未熟だからかお前の一撃が見事だからだろう」

 

暁彗は不敵な笑みを浮かべながらそう言うが、美奈兎は口元を引き攣らせる。

 

(未熟であれ程の効果があるの?もしも錬星術を極めたらシルヴィアさんや八幡君よりも強いかもね……)

 

とはいえ美奈兎は暁彗が錬星術を極めていない事に安堵した。確かにダメージは殆ど受けてないがノーダメージではないので勝機はまだある。もしも錬星術を極めていたら勝ち目はなかっただろうし。

 

(こうなったら暁彗さんが倒れるまで殴るだけ!やるぞー!)

 

美奈兎は内心気合いを入れながら、両腕に装備してある『重鋼手甲』をガチンとぶつけてやる気を露わにする。

 

同時に暁彗も動き出す。地面を蹴って美奈兎に突撃をしてくるので美奈兎は地を這うように走り出し……

 

「たあっ!」

 

「噴っ!」

 

暁彗と右拳をぶつけ合う。同時に周囲にクレーターが発生するが、暁彗はそれを無視して左拳に攻性星辰力を纏わせて美奈兎に振るう。

 

対する美奈兎はこの状況では躱せないと判断して左腕に装備する『重鋼手甲』の重量を増やし……

 

「ぐっ……うっ……!」

 

暁彗の拳を受け左腕に痛みを感じながら後ろに吹き飛ぶ。しかし回避するのが不可能である以上これが美奈兎にとって最善の手である。恐ろしいのは圧倒的な重量を持つ『重鋼手甲』の防御を上回った暁彗の拳である。

 

対する暁彗は即座に攻める。脚部に星辰力を込めて爆発的な加速をしたかと思えば即座に正拳突きを放ってくる。

 

美奈兎は急いで体勢を立て直して横に跳ぶも……

 

(ぐっ……拳圧の余波だけで痛いよ……!)

 

直撃は避けれたが、暁彗の拳から放たれる衝撃は避け切れずに全身に痛みを感じる。

 

長引くとこちらが不利、そう判断した美奈兎は体勢を立て直して暁彗に突撃をする。対する暁彗は振り向きざまに腕を振るい……

 

「ふんっ!」

 

重量を増やした右腕の『重鋼手甲』とぶつかり合う。それによって美奈兎の全身に衝撃が走るが……

 

「えーいっ!」

 

空いている左手を使って腰にあるホルダーから待機状態の『ダークリパルサー』を起動して暁彗の顔面に向かって投げつける。

 

予想外の展開に暁彗は一瞬だけ隙を作るも直ぐに頭をズラして回避する。既に暁彗はこれまでの美奈兎の試合を見ているので『ダークリパルサー』を所有していると踏んでいた為、簡単に回避する事が出来た。

 

しかしその一瞬の隙を美奈兎は見逃さずに……

 

「貰ったぁっ!」

 

左腕に装備してある『重鋼手甲』の重さを先程初めて暁彗に攻撃を当てた時の重さの倍にして暁彗の鳩尾に叩き込む。

 

対する暁彗は先程のように鳩尾に防性星辰力を込めてガードの体勢に入り……

 

「面白い……!」

 

今度は5メートルくらい吹き飛ぶ。しかし暁彗は笑っていて、美奈兎の拳には殆ど手応えを感じなかった。先程よりも若干苦しそうな表情を浮かべるも実質ノーダメージだと美奈兎は判断している。

 

だから美奈兎は……

 

「まだまだぁっ!」

 

暁彗に攻撃を仕掛ける。防御に入ったら直ぐに削られる事を恐れるが故に。

 

対する暁彗は足に攻性星辰力を込めてから振り上げて、地面に叩きつける。同時に暁彗の足元にクレーターが出来て衝撃波が美奈兎を襲う。

 

美奈兎は全身に星辰力を纏わせて衝撃波によるダメージを軽減するも、暁彗に隙を見せてしまう。美奈兎の視界の先では暁彗がこちらに向かって突撃をしてから脚に攻性星辰力を纏わせて飛び蹴りをしてくる。狙いは一撃で仕留めるか美奈兎の腹。

 

それを回避したり防いだりするのは不可能と美奈兎は判断した。しかし馬鹿正直に食らった負けであるから美奈兎は右腕に装備した『重鋼手甲』を構えて……

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

暁彗の足が近付いた瞬間に『重鋼手甲』に重量を加えて暁彗の足の横っ腹を殴り飛ばして軌道を変える。攻撃を避けれない、そして防げないならは受け流すしかないからだ。

 

しかし暁彗の蹴りを完璧を受け流すのは美奈兎に技量では不可能であり美奈兎の左腕に掠った。

 

 

バギィッ……

 

「ぐぅぅぅぅっ!」

 

それによって美奈兎の左腕から骨が折れる音が聞こえる。 掠っただけで骨が折れるのは暁彗の力が絶対的だという事を意味している。

 

しかし……

 

「まだっ……まだぁっ!」

 

美奈兎は痛みに悶絶しながらも自分の横を通り過ぎた暁彗に向けて右ストレートを放つ。すると暁彗は全身に防性星辰力を纏わせて振り向く。

 

美奈兎の拳が暁彗の肉体に当たり、周囲に衝撃が走る中……

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

美奈兎は悲鳴に近い雄叫びを上げながら『重鋼手甲』の重量を上げて破壊力を増やす。その量は初めに使った時の重量の約5倍。

 

余りの重さによって右腕が悲鳴をあげるも美奈兎はそれを無視して右腕を振り抜く。それによって……

 

「ぐはっ!」

 

遂に暁彗をマトモに吹っ飛ばす事に成功。暁彗は一度地面に叩きつけれてから10メートル以上吹き飛んだ。

 

『ここで若宮選手、左腕を折られながらも武選手を吹き飛ばす!』

 

『なんちゅう執念や。彼女の辞書に諦めるって文字はなさそうや』

 

解説の言う通りである。美奈兎の最大の武器は体術でも純星煌式武装でもなく、何があっても諦めない心である。

 

アスタリスクにいる学生は基本的に『本気で星武祭に挑む学生』と『才能に限界を感じたから星武祭を諦めてそれ以外で楽しむ学生』の2つに分かれている。後者は基本的に前者の人間が序列戦や決闘で負けまくってなる場合が多い。

 

しかし美奈兎の場合49連敗しても全く折れる事なく挑み続けていて、強くなった今でもその心を持っている。

 

だから美奈兎は腕の痛みを無視して殴る事が出来て、暁彗を吹き飛ばせたのだ。

 

「大したものだぞ。まさかあの状況で殴ってくるとは思わなかった」

 

暁彗はそう言いながら身体を起こし口から出る血を拭う。先程よりは多少ダメージを受けたようだが、それでも殆どダメージを受けていないように美奈兎には見えていた。

 

(マズい。長引いたら……というか後3分もしたら限界が来る!)

 

美奈兎は表情には出さないも焦りを感じていた。『重鋼手甲』は『重鋼手甲』自身の重さを変化する純星煌式武装。すなわち攻撃力を上げる為に重くすると当然のように腕に負荷が掛かる。

 

美奈兎の玄空流は身体の捻りと円の動きを中心とした格闘術で、攻撃の瞬間に身体を適切なやり方で捻り負荷を減らしているが完全に減るわけでない。

 

加えて左腕も折れている事から美奈兎がマトモに動ける時間は僅かだろう。

 

しかし……

 

「だからって……諦める訳にはいかないよね……!」

 

骨が折れながらも笑みを浮かべて構えを見せる。その表情は戦う時の涼子や星露に良く似ていた。

 

「……良い顔をしているな。そんな表情を浮かべる人間は大抵強い」

 

「ありがとうございます……暁彗さんも星露ちゃんに似たような表情をしてますよ?」

 

美奈兎の指摘に暁彗は一瞬だけキョトンとするが直ぐに獰猛な笑みを浮かべて……

 

「これ以上ない褒め言葉だ」

 

そう言って脚部に星辰力を込めて駆けてくる。対する美奈兎は迎撃を選ぶ。骨が折れている以上逃げた所でジリ貧になるだけだし、それならいっそ相討ち覚悟で攻めた方が良いと判断した結果だ。

 

そして……

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

お互いに雄叫びを上げながら右拳をぶつけ合う。暁彗は攻性星辰力を、美奈兎は『重鋼手甲』に自分の腕が耐えきれない程の重量を込めて。

 

それによって美奈兎の右腕からも骨が折れる音が聞こえて、右腕から全身に衝撃が走り、終いには足から地面に衝撃が伝わってステージに今までより遥かに大きいクレーターが出来て2人のバランスを崩しにかかる。

 

しかし暁彗は特に焦る事なく、左拳を構えて美奈兎を殴りにかかる。

 

対する美奈兎はバランスを崩しながらも左拳を握って……

 

「ぐっ……あぁぁっ!」

 

「何っ!」

 

折れた左腕で暁彗の左拳を防ぐ。それによって美奈兎の左肩から先の骨が全て折れるか美奈兎は折れない。壁を越えた人間に勝つには腕一本安いとばかりに思っているが故に。

 

これには暁彗も予想外だったようで驚きを露わにする。星露から教えを受けている事から執念はあるのは予想していたがここまでとは思わなかったようだ。

 

そんな暁彗を他所に……

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 

美奈兎は足を振り上げて暁彗の校章に向けて放つ。もう両腕は折れていて使い物にならないから足で攻めるしかないのだ。

 

限界である美奈兎の放つ蹴りは遅く、星脈世代でもなくても簡単に躱せる程遅かった。

 

しかし暁彗にはその蹴りが今まで美奈兎の放ってきた技の中で唯一恐怖を感じた。両腕が折れているにも関わらず勝ちを狙いにくる美奈兎の蹴りを恐怖と感じる。

 

しかしそれも一瞬……

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

 

暁彗は恐怖を振り払うかのように叫び足を振り上げて地面に叩きつけて衝撃波を生み出す。

 

それによって美奈兎の蹴りは弾かれて美奈兎はバランスを崩し倒れ始める。

 

しかしまだ美奈兎の眼は死んでいないので暁彗は動く。満身創痍でありながら諦める姿勢を見せない美奈兎に対して暁彗は最大限の警戒と敬意を払い……

 

「見事だ、若宮美奈兎……師父を除いて、お前が1番の強敵だった」

 

右腕に攻性星辰力を纏わせて美奈兎の鳩尾に拳を叩き込んだ。瞬間、美奈兎の全身に凄まじい衝撃が走り一瞬で意識を刈り取った。

 

そして美奈兎が地面に倒れると……

 

『若宮美奈兎、意識消失』

 

『試合終了!勝者、武暁彗!』

 

試合終了の知らせがステージに響き一拍置いて大歓声が沸き起こる。

 

そんな大歓声に包まれる中、暁彗は救護班によって運ばれる美奈兎を見て一礼してから退場したのだった。

 

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