学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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準々決勝最終試合は目前である

『試合終了!勝者、武暁彗!』

 

機械音声が暁彗の勝利を告げて、即座に救護班がステージに入って意識を失った若宮を搬送する光景がテレビに映される。

 

すると……

 

「ぐすっ……美奈兎さん、よく頑張りましたわ……!」

 

「格好良かった、よぉ……!」

 

若宮とのチームメイトであるフェアクロフ先輩とアッヘンヴァルは泣きながら若宮の健闘っぷりを褒めている。同じチームメイトの蓮城寺とフロックハートは泣いてはないが惜しげもなく拍手を送っていた。

 

そして俺も同じ気持ちだった。若宮は負けてしまったが暁彗相手に一歩も引かずに、両腕が折れても尚、勝ちに行く姿勢は側から見ていて凄いと思った。

 

シルヴィも3年前にオーフェリア相手に最後の最後まで粘ったが、若宮の執念はあの時のシルヴィのそれを上回っていただろう。

 

人によっては無様な悪足掻きと言う奴もいるかもしれないが、俺はそうは思わない。圧倒的な格上相手に最後まで諦めないのは並大抵のことではないからな。

 

「さて……とりあえず容態を確認しに行こうぜ」

 

幸いシルヴィとノエルの試合まで時間はある。それまでに若宮の意識が戻るかはわからないが、容態を知る事ぐらいは出来るだろう。

 

俺がそう提案しながら立ち上がると、オーフェリアが俺に続き、チーム・赫夜の4人も同じように立ち上がり、若宮の控え室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

若宮が運ばれたのは治療院だった。まだ治療中なので顔は合わせてないが、若宮はもう敗退したので治癒能力者であるヤン院長から治癒能力を受けるらしい。それなら命に別状はないと安堵した。

 

しかし小町といい、リースフェルトといい、ヴァイオレットといい、今回の若宮といい、今大会で本戦に出場した選手治療院送りが多過ぎだろ?内1人は俺が原因だから強くは言えないけど。

 

俺達が廊下にあるベンチに座っていると……誰かが走ってくる気配を感じたので顔を上げると……

 

「あ、八幡君とオーフェリアも来てたんだ」

 

シルヴィがこちらにやってくる。おそらくまだ試合まで時間があるなら若宮の見舞いに来たのだろう。

 

「まあな。まだ治療中だ」

 

「そっか……美奈兎ちゃん。最後に無茶し過ぎたから心配だよ」

 

それについては同感だ。何せ若宮の奴、最後の局面で折れた左腕で暁彗の拳を受けたのだ。こう言っちゃアレだが無茶のし過ぎとしか思えない。

 

そんなことを考えていると扉が開く音がしたので横を向くとヤン院長が出てくる。

 

「院長!美奈兎さんの容態はどうなんですの!」

 

フェアクロフ先輩が一番最初にヤン院長に詰め寄り一拍置いてからチーム・赫夜の3人がフェアクロフ先輩に続く。

 

「とりあえず治療はした。今は寝ているが暫く安静じゃ。ただ……左腕については全ての骨が砕け散っておるから完治までは時間がかかるし、後遺症は残る」

 

「後遺症とはどのレベルで?」

 

「戦闘する時に若干鈍るくらいで日常生活では殆ど影響はないじゃろう。ただしもしも今日の様なやり取りが起こったら左腕のない生活ーーーそれこそ儂の義手に武器を仕込むそこの馬鹿同様、義手に変えないといけないじゃろうな」

 

言いながらヤン院長は俺をガン見してくる。そこまでガン見されると照れるなぁ……嘘だけど。

 

そう思いながら俺は無くなった左肩から先を見る。レナティとの戦いで吹き飛んだし、今日の夜にまたレヴォルフの装備局に行って義手の装着をしないといけないな。流石に片手で天霧に勝つのはマゾゲーだ。

 

「ともあれ今日の治療は終わりじゃ。また寝とるから騒ぐでないぞ」

 

ヤン院長はそう言って去って行くので、俺達は一礼した後に若宮の病室に入る。

 

すると俺の予想通りボロボロになっていて両腕ーーー特に左腕には大量の包帯が巻かれていた。これは確かに後遺症が残るレベルの損傷だろう。

 

「ったく……こんなになるまで無茶しやがって……」

 

「……気持ちはわかるけど手首や左腕を斬り落とされた八幡に言われたくないでしょうね」

 

「だよね。八幡君、4回戦の『大博士』との戦いでも凄い無茶したし」

 

恋人2人がそう言ってくる。そこを言われたら返す言葉はないが……今は言わないでくれよ……

 

内心2人に愚痴る中、赫夜の4人は若宮の側まで駆け寄る。

 

「全く……美奈兎さんは本当に無茶をしますわね……!」

 

「それにしても今回は無茶し過ぎよ」

 

「ですが美奈兎さんの場合、退院してからも状況によってはまた無茶をしそうですね」

 

「そ、そうだよね……その前に私達が止めないと……!」

 

そんな会話が耳に入るが同感だ。若宮と知り合ってから2年以上経過しているがアイツは無茶をするタイプの人間だ。場合によっては無茶をせざる得ないかもしれないが、それ以外の場合には無茶をしない様に徹底するべきであろうな。

 

そんな事を考えながら俺達は暫くの間若宮が目を覚めるのを待っていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間半後……

 

「じゃあ私達はそろそろ行くね。美奈兎ちゃんが起きたら宜しく言っといて欲しいな」

 

『はい!』

 

シルヴィとノエルの試合まで30分を切ったのでシルヴィは俺とオーフェリアと一緒にカペラドームに行く為にチーム・赫夜のメンバーにそう告げると了承の返事が返ってくる。

 

「……じゃあまた後で会いましょう」

 

「シルヴィとノエルの試合が終わったらまた来る。その時には起きてりゃ良いな」

 

言いながら俺達は若宮のいる病室を後にする。結局若宮は俺達が病室を出るまで目が覚める事は無かった。命に別状はないとはいえ不安である。俺としては早く目覚めて天真爛漫な笑顔を見せて欲しいと思っている。

 

そんな事を考えながら俺達は走りカペラドームに入り、選手の控え室がある場所の前に着く。

 

「じゃあシルヴィ、頑張ってこいよ」

 

「うん、ありがとう八幡君」

 

「……絶対に勝ってね。というより負けてもノエルを認めないでちょうだい」

 

「あはは……認めたくないのは事実だけど、そこまでハッキリ言われると応えにくいなぁ……」

 

「おい待て。何でそこで認めるなって言うんだ?アイツは今日まで血反吐を吐く程努力をしたんだぞ?」

 

最低でも週に一度はノエルの面倒を見ていたが、その度にノエルは一歩一歩前に進んでいた。俺が出した課題も毎回こなしていたので魎山泊が無い時も相当努力している事がわかり、俺は認めている。

 

確かにシルヴィやオーフェリアは俺程ノエルと接点があるわけではないが、そこまで頑なに認めないのは違うと思う。

 

すると……

 

「ああ違う違う。ノエルちゃんの実力や努力は認めてるよ。私とオーフェリアが話していることは実力や努力とは別の事」

 

あ、そうなのか。まあシルヴィは努力している人間を認めないような人間じゃないからな。

 

しかし……

 

「じゃあ何を認めないんだ?」

 

実力や努力を認めてるなら何を認めてないんだ?ノエルは性格も良いし認められないってのはないと思うが?

 

「それは秘密」

 

疑問を口にするもシルヴィは一蹴する。オーフェリアを見てみればコクコク頷くので2人から聞くのは無理だろう。

 

「……よくわからんが聞かないでおく。まあ頑張れよ」

 

「うん、じゃあ……」

 

ちゅっ……

 

シルヴィは俺の唇にそっとキスをする。柔らかい感触が俺の唇に伝わるもそれは一瞬で、シルヴィは俺から距離をとってからオーフェリアにも同じようにキスをして……

 

「行ってきます、八幡君、オーフェリア」

 

笑顔を見せてから控え室に向かった。その笑顔を見ていると幸せな気分になる。

 

「さて……んじゃ俺達も観戦室に向かうか」

 

「……ええ」

 

だから俺は幸せそうな表情を浮かべているオーフェリアの手を引っ張ってレヴォルフの専用観戦席に向かって歩き出した。

 

そんな風に幸せな気分のまま専用観戦席に向かうべく曲がり角を曲がると

 

「「「…………」」」

 

最悪な事に葉山と鉢合わせした。さっきまで幸せな気分だったのに一瞬で最悪の気分になっちまったよ。これってある意味才能じゃね?

 

とはいえ関わったら面倒なのでスルーを「待て比企谷」……面倒だな。

 

内心舌打ちしながらも葉山を見れば苛立ちに満ちた表情を浮かべている。

 

そして葉山の背後には誰もいないように見えるが人の気配が2つある。これが昨日ブランシャールが言っていた監視者で葉山が俺に手を出そうとしたら止めに入るのだろう。

 

それなら最低限警戒しておけば大丈夫だろう。そう判断して口を開ける。

 

「何だよこっちは暇じゃないんだから手短にしろ」

 

でないと俺の横にいるオーフェリアが爆発しそうだし。今はギリギリ耐えているようだが、俺にはわかる。今のオーフェリアは爆発寸前だ、

 

「お前……神聖な星武祭でじゃんけんによって勝敗を決めるなんてふざけているのか?!恥を知れ!」

 

そう言って俺に怒鳴ってくる。うーん……まあ確かにそれについては否定出来ないな。じゃんけんで勝敗を決めたのは俺とレナティが初めてだし、人によってはふざけていると思っているかもしれないだろう。

 

しかし……

 

「お前……いや、第三者には関係ない。アレは俺とレナティが話し合って双方の合意を得て決めたんだから部外者が口を挟むな」

 

レナティは俺に一発勝負しろと提案して俺は受け、俺はレナティにじゃんけん勝負をしろって提案してレナティは受けた。後からレナティが『やっぱりじゃんけん勝負はどうかと思う』とケチを付けてきたら考えるが、完全な部外者である葉山が俺とレナティのやり取りに口を挟む権利はない筈だ。

 

「ふざけるな!俺はアスタリスクの将来を考え、観客の気持ちを代弁しているんだ!素直に自分の非を認めて準決勝を辞退しろ!そして今まで洗脳して勝ち上がった事を白状して警備隊に自首しろ!」

 

葉山がそう言って怒鳴ると怒りより呆れの感情が生まれる。オーフェリアはブチ切れ一歩前だしもう嫌だこいつ……

 

「嫌だね。そもそも運営委員が俺を失格にしてないんだから問題ないだろうが。お前こそ俺に何も出来ずに負けたんだし自分の弱さを認め「比企谷、少し黙れ……がぁぁぁぁぁぁっ!?」……おー、凄えな」

 

葉山が俺に掴みかかろうとした瞬間、葉山の背後の虚空からスーツを着た男性が2人現れて、内1人が星辰力を噴き出しながら葉山の肩に触れると葉山に電撃が走り、葉山は意識を失って倒れる。

 

(見る限り相当の電撃だな……んでもう1人は幻術系能力者だろうな)

 

そう考えていると電撃を放った方の男が葉山を担ぎ上げて、もう1人の方が俺と向き合う。

 

「至聖公会議のスティーブだ。こっちはヴォルグ。職業柄偽名だが、容赦して欲しい」

 

「気にすんな。ウチの黒猫機関のメンバーも偽名だからな」

 

「感謝する。既にそちらには話が届いているな?」

 

「ブランシャールから聞いた。んで葉山はどうすんだ?」

 

俺としては処刑して欲しいが、こればっかりはガラードワースの運営母体のE=Pが決めるだろう。

 

「現状において我々は『葉山隼人が比企谷八幡に危害を加えようとしたら、阻止して懲罰房に送れ』として指示されているだけだ。懲罰房以降の事は上層部の管轄であり我々の管轄外だ」

 

「そうか。じゃあもう話は終わりだし、行って良いぞ」

 

「失礼する」

 

言うなりスティーブ(偽名)がパチンと指を鳴らすと彼の周囲に星辰力が噴き上がり、彼と葉山を担いだヴォルグ(偽名)が溶けるように消えて、暫くしてから気配を無くなった。

 

「さて、そんじゃあ観戦席に……って、お前はガッツポーズをするな」

 

「……だって、八幡を散々侮辱した男が漸く裁かれるのよ。今まではのらりくらりと逃げていたあの葉虫が」

 

そうかい……いや、まあ俺自身も葉山に散々殴られたし、落とし前をつけるつもりだったけど。

 

「まあ良い。それよりも早く観戦席に「八幡さん!」……次はお前か、ノエル」

 

再度観戦席に行こうとすると今度はノエルに捕まる。まあノエルは葉山に真逆で全く苛つかないか良いけど。

 

しかし何故かオーフェリアはジト目でノエルを見るが、お前ノエルに恨みでもあるのか?

 

 

「つい先程至聖公会議の2人から事情を聞きました!迷惑をおかけして申し訳ありません!」

 

そんな事を考えているとノエルは綺麗なお辞儀をしてくる。ここまで綺麗なお辞儀をされると寧ろこっちが申し訳ないな……

 

「謝らなくて良い。お前は何も悪くないんだから」

 

実際の所悪いのは葉山だ。ノエルが何1つ悪くないのから謝る必要はない。

 

「す、すみませ「だから謝らなくて良いって」あぅぅ……」

 

ノエルは小さく縮こまる。なんか俺が悪い事をしているように感じてしまうな。

 

「それよりも試合が近いんだし控え室に行っとけ。試合前に妨害行為が起こる可能性もあるんだし、あんまり彷徨かない方がいいぞ」

 

実際俺は一昨日入場ゲートに行こうとしたら葉山に絡まれたし。試合前に出来る限りの不安要素は排除しておくべきだ。

 

「は、はい……それと八幡さん」

 

「なんだ?」

 

俺が尋ねるとノエルはモジモジするも、やがて意を決したように顔を上げて……

 

「しっかり見ていてください!この試合、シルヴィアさんに認められる為にも、私の全てをお見せします!」

 

そう言ってから一礼して去って行った。実に良い顔をしていた。これならマジで金星を挙げれるかもしれないな。

 

「……本当に良い顔ね。ソフィアより危険だわ」

 

「いきなりどうした?」

 

何故そこでフェアクロフ先輩の名前が出てくるんだ。イミワカンナイ。

 

「何でもないわ。それより行きましょう」

 

「あ、おいオーフェリア」

 

オーフェリアはそう言って俺の手を引っ張って歩き出すので俺もそれに続いて観戦席に向かったのだった。

 

 

結局何故ノエルとフェアクロフ先輩の名前が出たのかについては教えてくれなかったが妙に気になってしまう。そしてマジでノエルは何をシルヴィに認めて貰いたいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

その事実を知るのは今から数時間後であるという事を、この時の俺は知らなかったのだった。

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