『さあさあ皆様お待ちかね!いよいよカペラドームでも準々決勝の試合が始まります。先ずは東ゲート!世界の歌姫にしてクインヴェール女学院序列1位『戦律の魔女』シルヴィア・リューネハイム選手ー!』
レヴォルフの専用観戦席からステージを見ると東ゲートからシルヴィが出てきて観客席に手を振る。
それによって大歓声が沸き起こるが、これはいつもの事なので気にしない。星武祭の本戦については毎回こんなものだから。
そんな事を考えているとゲートから続くブリッジを歩いているシルヴィがこちらを向いてウィンクをしてくるので、俺とオーフェリアは手を振り返す。可愛いなぁ……
そしてシルヴィがブリッジからステージに飛び降りると一拍置いて……
『続いて西ゲート!聖ガラードワース学園の序列7位!銀翼騎士団の一員である『聖茨の魔女』ノエル・メスメル選手!』
西ゲートからノエルが出てきてゲートから続くブリッジを歩き出す。見る限り特に緊張しておらず平常心を保っているのがわかる。
ノエルを見ているとブリッジの中間地点あたりでこちらを向いて小さくはにかみながらほんの僅かだが頭を下げてくる。こいつはこいつで礼儀正しいなぁ……
「……八幡はどっちが勝つと思う?」
そんな事を考えながらノエルがブリッジを歩くのを見ているとオーフェリアが話しかけてくる。
「わからん。ノエルも壁を越えた人間と戦う手段を得たからな」
ノエルの奴、俺の影神の終焉神装を模した技も開発したからな。アレは肉体に負荷が掛かるから教えなかったので、ノエルは我流で覚えたという事だ。その事からノエルの魔女としての才能は高レベルである事を示している。
シルヴィはシルヴィで光の衣を纏ったら雪ノ下陽乃を一方的に倒したからな。3年前に比べて実力は桁違いに向上しているだろう。
(まあどの道激戦にはなるだろうな)
試合前にノエルと会ったがあの時のノエルの目には強い決意が宿っていた。あの目をした人間は強いからなぁ……
そんな事を考えているとノエルはブリッジの先端から飛び降りてステージに降り立つ。そして地面に着地するとゆっくりとシルヴィの元に向かう。対するシルヴィもノエルの元に向かって歩き出す。
(大方試合前に挨拶をするんだと思うが……なんというかプレッシャーを感じるな)
見ればシルヴィとノエルの背中からは圧倒的なオーラを感じる。オーフェリアの禍々しいオーラとも、星露のあらゆるものを捩じ伏せるオーラとも違う。
そう、何というか……
「女特有のオーラ?」
そう呟く中、遂に2人は手の届く位置まで近寄りお互いに手を差し出した。
「よろしくねノエルちゃん」
「はい!こちらこそよろしくお願いします」
2人はそう言いながら握手を交わす。観客席から見れば爽やかな光景に見えるだろう。
しかし……
「ノエルちゃんが凄く努力したのは知ってるけど、彼氏が見ているし勝ちは譲らないよ」
ピシリ
「当然ですね。ですが私もシルヴィアさんに認められて八幡さんのお嫁さんになれるように頑張ります」
ピシリ
「……へぇ、まあ良いんじゃない。認めるつもりはないけど」
ピシリ
「……そうですか。ですが本気で勝ちたいならなりふり構わず行けって、八幡さんと2人きりで手取り足取り修行をして貰った時に習ったので頑張ります」
ピシリ
実際は空気が凍っていた。2人は表面上は爽やかに言葉を躱しているが、目は一切笑っておらず力を込めて握手をしていた。
「ふーん……後で八幡君にはお仕置きかな。ま、それはともかく口で戦っても意味ないし、続きは試合で語ろっか」
「……負けません」
2人はそう言ってから、同時に背を向けて開始地点に向かう。そしてシルヴィアはフォールクヴァングを射撃モードにして、ノエルは杖型煌式武装を起動する。
『さあ両者が煌式武装を起動した所で開始時間が迫ってまいりました!ベスト4の内既に三枠が決定している中、最後の一枠を埋めるのはどちらなのか?!』
実況の声が流れる中、2人は構えを見せて…〜
『王竜星武祭準々決勝第4試合、試合開始!』
試合開始が告げられる。
「さあ、行って!」
次の瞬間、ノエルの足元からは大量の茨が生まれて一斉にシルヴィアに襲いかかる。これまでの5試合の内、紗夜と戦った5回戦以外の4試合は全て大量の茨によるゴリ押しで仕留めたノエルであるが、今回は気合いの入り方がいつも以上だからか、茨が生まれる速さもいつも以上となっていた。
対するシルヴィアは射撃モードにしたフォールクヴァングから茨に連射して次々に破壊するも焼け石に水である。
(やっぱり能力抜きじゃノエルちゃんに勝つのは無理だね。だったら……)
シルヴィアはバックステップをして茨から距離を取り、息を吸い……
「ぼくらは壁を打ち崩す、限界の先に境界を越えて、傷を厭わずに、走れ、走れ」
身体強化の歌を歌いだして、全身から力が漲るのを感じるや否や足に星辰力を込めてから振り上げて地面に叩きつける。
するとシルヴィアの足から衝撃波が生まれて、シルヴィア足元に迫っていた茨を吹き飛ばす。身体強化されたシルヴィアは綾斗や暁彗に匹敵する身体能力を持っているのでその程度の事は造作もない。
対するノエルは一瞬だけ焦るも、直ぐに戦意を取り戻す。ガラードワースを立て直す為、シルヴィアに認められる為、そして何より自分の成長した姿を大切な人に見て貰う為にもノエルは負けたくないし気持ちで一杯だった。
シルヴィアが再度足に星辰力を込めて振り上げようとするので、ノエルはその前に自分自身と足元にある茨に星辰力を込める。
すると大量の茨がノエル自身に絡みつき、ノエルは大量の茨に包み込まる。ステージには巨大な茨の球体が生まれて……
「纏えーーー聖狼修羅鎧……!」
次の瞬間、茨の球体の中からそんな声が聞こえると茨の球体は形を変えながら徐々に小さくなり、暫くすると狼を模した西洋風の茨の鎧を纏ったノエルが現れた。
「出たね……まだ影神の終焉神装を模した鎧は出してこないか……」
言いながらシルヴィもフォールクヴァングを射撃モードから斬撃モードにして、全力でノエルの懐に向かう。対するノエルは迎撃するべく、拳を振り下ろすも紙一重のところで回避される。
ノエルの一撃を回避したシルヴィアはフォールクヴァングをノエルの脇腹に振るうも……
「たぁっ!」
「……っ!やっぱり効かないか!」
アッサリと弾かれてノエルからカウンターを食らいそうになった所で身体を捻ってギリギリ回避する。そして間髪入れずにノエルの鳩尾に拳を2発叩き込む。
それに対してノエルの鎧は壊れてはいないものの、衝撃はノエル本人に届いていた。
「くっ……まだまだぁっ!」
ノエルは左手で自分の鳩尾にめり込んでいるシルヴィアの左手を掴み、右手でシルヴィアに殴りかかる。
対するシルヴィアは左手を掴まれている以上、回避は不可能なので右拳を強く握り迎撃する。
すると両者の拳がぶつかり合い辺りに衝撃が生まれる。
2人は最初の内は拮抗していたが、徐々にシルヴィアが押されている。ノエルの想いの力が魔女の力に干渉しているのかシルヴィアは鎧から感じる圧力が先程より増したと感じていた。
このまま押し切られるのは避けたいと思うシルヴィアは足に星辰力を込めて自身の左手を掴んでいるノエルの左手に蹴りを放つ。
それによってノエルの手からシルヴィアの左手が離れたのでシルヴィアはバックステップをしてから距離を取り……
「僕らは登る、天界の城にて力を得る為、ただただ登る、登る」
息を吸って歌い出す。するとシルヴィアの身体が光に包まれだし……
「得て僕らは動き出す、敵を討つべく、鮮やかに、軽やかに」
次の瞬間、シルヴィアの首から下の部分に白銀の騎士鎧を身に纏っていた。それを見たノエルは息を呑む。ノエル、いやこの場にいる全員はアレを知っている。
アレは……
『ここでリューネハイム選手、3年前に比企谷選手を倒した鎧を身に纏ったぁ!奇しくもあの時と状況が似ているぅ!』
そう、シルヴィアが3年前の王竜星武祭にて八幡と戦った際に使用して、そして打ち破った技である。
「……懐かしいわね」
「懐かしくはあるが、俺にとっては嫌な思い出だな」
レヴォルフの専用観戦席にて俺とオーフェリアはシルヴィが白銀の鎧を身に纏ったのを見て話し合う。
3年前の王竜星武祭にて、俺はあの鎧を着たシルヴィに負けたからな。全力を尽くして負けたのだから満足はしたが悔しい事は悔しい。
(ともあれ今のノエルじゃ厳しいだろうな)
今のノエルとシルヴィの状況は3年前の俺とシルヴィが戦った時の状況と酷似しているからだ。
3年前の時点で俺の影狼修羅鎧はシルヴィの白銀の鎧より性能は上だったと思うが、シルヴィの圧倒的なバトルセンスが鎧の性能差を埋めて、挙句に俺を打ち破ったのだ。
そして今の状態を見る限りノエルの鎧とシルヴィの鎧の性能差は殆ど無し。すなわち鎧を纏う本人同士の差が勝敗を分けるが……
(バトルセンスはシルヴィの方が圧倒的に上。こうなった場合ノエルが勝つにはシルヴィを出し抜く程の厄介な策を生み出すか、俺の影神の終焉神装を模した鎧を使うかだな……)
そう考えながら俺は意識をステージに戻したのだった。
「たぁっ!」
「やあっ!」
可愛い掛け声と共に2人がぶつかり合う。シルヴィアの一撃がノエルの脇腹に、ノエルの一撃がシルヴィアの鳩尾に当たり、お互いの身体に衝撃が走る。
しかしお互いにそれを無視して攻撃を続ける。ノエルが足元から茨を生み出せばシルヴィアは足から衝撃波を放ち吹き飛ばし、シルヴィアがノエルに連撃を叩き込めばノエルは鎧の防御に頼りながらもカウンターの一撃を叩き込む。
そんなやり取りが続くとノエルの息が徐々に上がってきている。一方のシルヴィアはそこまで息は上がっていなかった。
しかしそれも仕方ない事である。強くなったとはいえノエルは壁を越えてない人間であり、対戦相手のシルヴィアが壁を越えた人間である以上消耗は激しくなるのは必然だ。
そんな中シルヴィアは動き出す。ノエルとの距離を詰めながら斬撃モードにしたフォールクヴァングの刀身を大きくして……
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
流星闘技を放つ。狙いは……
「わわっ!」
ノエルの足元である。すると光の刃が地面を割り砕き、ノエルはバランスを崩して前のめりに転びかける。いくらノエルの鎧が頑強とはいえ足元を崩されてしまったらどうしようもない。
それによってノエルに隙が生じた瞬間にシルヴィアはカウンターを警戒しながら大きく距離をとってから、フォールクヴァングを放り投げてから両腕をノエルに突き出して……
「裁きの咆哮」
言葉と共に両掌から圧倒的な光を生み出す。前回の王竜星武祭があった時のシルヴィアの最強の技で、八幡の影狼修羅鎧を破壊した技でもある。
そして両掌にある光が最高潮になって放たれると同時にノエルは起き上がり……
「呑めーーー茨神の創造神装!」
次の瞬間、ノエルの周囲から星辰力が爆発的に噴き上がり、聖狼修羅鎧に纏わり付いたかと思えば、押し付けるように圧縮が始まる。
そしてシルヴィアの放った光の奔流がぶつかる直前に遂に限界まで聖狼修羅鎧を圧縮し切り、背中から大天使の如く6枚の翼を生やし……
「やぁぁぁぁぁぁっ!!」
叫びながら光の奔流を掴み、そのまま振り払う。すると、振り払った方向に光の奔流は飛んでいき、ステージの床をごっそりと抉り取った。
「遂に出てきたね……」
シルヴィアの表情に真剣さが増す。愛する男の最強の技を模した技。模倣と言っても侮るつもりはシルヴィアにはなかった。5回戦にて紗夜の圧倒的な破壊力を持つ煌式武装を一蹴したのだから。
(だったらこっちも最強のカードを切るだけ……!)
言いながらシルヴィアは息を吸って……
「私は纏う、愛する者を守る為、支える為、共に戦う為」
自身の体内から膨大な星辰力を膨れ上がらせて、大気中の万応素を変換させる。そしてシルヴィアの周囲に光が生まれ出す。
「させない……!」
すると離れた場所にいるノエルはこちらに向けて突っ込んでくる。言葉の通り、ノエルは警戒している。何せシルヴィアは5回戦で壁を越えた人間である陽乃を一蹴したのだ。
ノエルが高速で詰め寄る中、シルヴィアは焦ることなく歌う。焦れば歌の精彩さが欠けて能力の効果も鈍るのだから。
そして……
「纏いて私は動き出す、誰よりも強く、誰よりも速く、愛する者を奪おうとする敵を討ち滅ぼす為に……!」
ノエルがシルヴィアと距離を詰めて拳を振り上げると同時にシルヴィアの身体が光に包まれ……
ドゴォォォォォッ……
光から出てきた光の剣がノエルの拳とぶつかり合い、そこから生まれる衝撃波によってステージに巨大な穴があく。
光が徐々に無くなる中、ノエルが更に力を込めると、光の剣からも同じように力を感じて……
「くぅ……!」
「わわっ!」
両者共に押し切るかのように力をぶつけ合った。すると2人の激突によって力が反発して2人はそのままステージの壁に向かって吹き飛ぶ。
しかし両者共に壁にぶつかる直前に背中に生えた翼を広げて飛行することで衝突を避ける。
そして空中にいるノエルが前を見ると、クインヴェールの制服を纏っておらず光の衣を身に纏ったシルヴィアがノエルと同様に空を飛んでいた。
手には先程ぶつけ合った圧倒的な星辰力を感じる光の剣、背中には神々しい翼が12枚生えていて、その姿はまさに大天使や光の神と言って良いだろう。
「ギリギリ間に合って良かった……ここからが本番だよ」
シルヴィアはそう言って不敵な笑みを浮かべてくる。対するノエルは負けたくないとばかりに構えを取る。
そして……
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
光の神と茨の神は雄叫びを上げてぶつかり合った。