学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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準々決勝最終試合 シルヴィア・リューネハイムVSノエル・メスメル(後編)

レヴォルフ専用の観戦席にて……

 

「さて……両者切り札を切ったが、ノエルは短期決戦を望んでるだろうな」

 

俺はステージで行われている光の神と茨の神ーーーシルヴィとノエルの試合を見ている。

 

理由は簡単、ノエルの技が俺の技を模した技だからだ。ノエルの動きを見れば俺の技の欠点を見抜けるかもしれないし、シルヴィを見れば俺の技に対してどういう戦法をとってくるか把握できる。両者の試合を見れば間違いなく俺の糧になる筈だ。

 

ステージを見れば2人の戦いは空中戦に移行していて、2人はそれぞれ翼を羽ばたかせて何度も何度も激突を繰り返していて、防護フィールドからはギシギシと音が鳴る。

 

「……そうね。でも勝つのはシルヴィア」

 

オーフェリアは力強く頷き、シルヴィの勝ちを確信している。まあ総合力はシルヴィの方が数段上だし、そう判断するのも仕方ないだろう。

 

(ただ見る限りシルヴィの纏ってる光の衣に綻びが生じているからダメージは通ってるし、案外わからないかもな)

 

俺としては2人とも頑張って欲しい。シルヴィとは決勝で当たりたいから勝って欲しいと思っているが、かと言って俺が面倒を見て、死に物狂いで努力してきたノエルに負けて欲しいなんて思えない。

 

どちらが勝つかはわからないが2人とも全力を尽くして、俺とレナティのように満足の行く結果になって欲しいものだ。

 

そんな事を考えながらも俺は再度ステージで戦う2人を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「やぁぁぁぁぁぁぁっ」

 

カペラドームステージの上空にてシルヴィアとノエルは何度目かわからない激突を繰り返す。

 

シルヴィアの拳がノエルの顔面に、ノエルの拳がシルヴィアの脇腹に当たる。2人の攻撃は互いの鎧と衣を壊すには至っていないが衝撃は打ち消しきれずに2人の身体には鈍い痛みが生まれる。

 

しかし2人はそれでも尚、動きを止めずに攻め続ける。特にノエルは壁を越えた人間ではないので長期戦をしたら負けなので攻め数を増やす。

 

「やあっ!せやっ!」

 

掛け声と共に放たれる果敢な攻めに流石のシルヴィアも防戦気味となる。

 

しかしそれでもシルヴィアは焦らずにノエルの攻撃を捌いていて致命傷になる一撃は受けていない。

 

(やっぱりノエルちゃんは短期決戦狙いだね……体力とか能力に掛かる負荷を考えたら妥当だけど……こっちも負けないから!)

 

内心そう叫びながらも冷静に致命傷になりそうなノエルの攻撃を捌くシルヴィアであった。

 

一方のノエルは攻撃をしながらも焦りの感情を抱いている。自分の攻撃が通用しているとはいえ倒すには至れてないからだ。

 

加えて……

 

(ぐぅ……!大分痛みも出てきたし急がないと……!)

 

自身の茨神の創造神装は八幡の影神の終焉神装に匹敵する力を持っているノエルの最強の技だ。これを使えばノエルは壁を越えた人間とも渡り合える。

 

しかし能力を使う器ーーーノエル自身は八幡と違って壁を越えた人間ではないので茨神の創造神装を使うと肉体に物凄い負荷が掛かるのだ。

 

壁を越えた人間てある八幡ですら長時間の使用は出来ないのだ。ノエルならば言うまでもなく八幡よりも使用可能時間は少ない。

 

よってこのまま状況が変化しなかったらノエルの負けは確定である。

 

(そんなの嫌……負けたくない!)

 

そう判断したノエルは攻め手を変えた。茨の翼に力を入れてから一旦上昇して、即座に下にいるシルヴィアに向かう。そして腰の部分の鎧を一旦解除して、腰にあるホルダーからノエルの持つ『ダークリパルサー』9本を起動する。

 

普通の人間なら9本の煌式武装の使用は無理だが……

 

「茨の鞭よ、来たれ!」

 

ノエルの場合は別だ。ノエルがそう叫ぶと背中に生えている翼の下から7本の茨の鞭を生み出して、それぞれの先端に『ダークリパルサー』を備え付けて、残りの2本を両手に持つ。

 

 

同時にノエルはシルヴィアに近寄りながら茨の鞭を振るって7本の『ダークリパルサー』を投げつける。

 

『ダークリパルサー』の恐ろしさを知っているシルヴィアは1本も食らってはダメと判断して背中に生えた翼を振るって突風を起こし、飛んできた7本の『ダークリパルサー』の軌道を変える。

 

するとノエルが両手に持っていた『ダークリパルサー』2本を間髪入れずに投げつけてきたので回避して、投げながら突撃してきたノエルの右拳を受ける構えを見せる。

 

そして2人の拳がぶつかろうとした瞬間、ノエルは左手を使って腰から10本目の『ダークリパルサー』を起動しながらシルヴィアを殴りつける。ノエルは初めから10本の『ダークリパルサー』を所有していたが、最後の1本を確実に当てる為に最初から全てを使わなかったのだ。

 

ノエルの一撃を受け止めたシルヴィアはマズイと判断して回避しようとするが……

 

「うぅ……」

 

僅かに回避しきれず『ダークリパルサー』はシルヴィアの首に掠った。切っ先が一瞬だけ掠った程度なので少し頭が痛くなる程度であるが……

 

「そこっ!」

 

「きゃぁぁぁっ!」

 

現在ノエルの攻撃を受けているシルヴィアにとっては致命的で、防御が僅かに緩みノエルの一撃が、シルヴィアの防御を打ち破る。

 

それによってシルヴィは地面に叩きつけられる。シルヴィアが倒れた場所には巨大なクレーターが出来て、ノエルの一撃の破壊力の凄さを漂わせる。

 

するとノエルは……

 

(これで決める……ぐうっ!)

 

全身に掛かる負荷に苦悶の表情を浮かべるも直ぐに意識をシルヴィアに向けて地面に向けて急降下する。その速さはまさに圧倒的な一言だ。

 

それに対してシルヴィアは背中に痛みを感じながらも無理矢理身体を起こしてその場から離れる。同時に無理矢理に身体を動かした反動で更なる激痛に苛まれるが気にしない。何せ……

 

(痛いけど、ノエルちゃんの一撃を食らった方が絶対に痛いからね……)

 

シルヴィアがそう思う中、勢いに乗ったノエルは急にシルヴィアのいる方向に方向転換出来ずに……

 

 

ドゴォォォォォンッ……

 

ノエルの拳が地面に当たり、ステージに巨大な割れ目を生み出してそれが、ステージ全員に広がっていく。

 

しかしノエルはそれを気にする素振りを見せずに、即座にシルヴィアの方を向いてから拳を振り上げながら突撃を仕掛ける。

 

対するシルヴィアは頭痛を感じながら光の剣を振り上げる。壁を越えた人間である雪ノ下陽乃を一撃で沈めた必殺の一撃だ。

 

それを見たノエルは迎え討つ方針を取る。回避する事は可能だが、ノエルの肉体は限界に近づいていて、いつ茨神の創造神装が解除されるかわからないの時間をロスしたくないのだ。

 

そして……

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「光神の撃剣」

 

ノエルの拳と光の斬撃がぶつかり合う。両者の放った必殺の一撃は圧倒的であり、シリウスドームに続いて崩壊し始める。2人の足元を中心に地面は割れて、互いの身体に衝撃が走り、防護フィールドに衝撃があたり轟音が響き出す。

 

しかし2人は一歩も引かずに剣と拳をぶつけ合う。死んでも譲らない、譲れば負けるとばかり。

 

そんなやり取りがどれだけ続いたか……

 

「ぐうっ……!」

 

肉体に限界が近付いてきたのか、光の剣がノエルの拳を押し始める。

 

(押し負けてる……まだ!負けたくない!)

 

ノエルは一瞬気圧されるも直ぐに戦意を取り戻し、腕から悲鳴が聞こえるのを無視して拳に力を込める。

 

しかし……

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

肉体には限界が来てしまい、シルヴィアの光の剣がノエルの拳を打ち破りノエルを吹き飛ばす。そしてシルヴィアの一撃によってノエルの右腕に纏う茨は全て剥がされて、それにつられるかのようにノエルの茨神の創造神装が全て解除される。

 

ノエルは地面に叩きつけられて一度大きくバウンドして再度地面に叩きつけられて漸く動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここでリューネハイム選手の一撃がメスメル選手に叩き込まれたぁっ!これは痛い!』

 

レヴォルフの専用観戦席にて俺は実況の声を聞きながらステージを見る。ステージではノエルがうつ伏せに倒れていて、シルヴィが一歩一歩近寄っている。

 

試合終了の宣言はされてないので校章は破壊されていないし意識も失っていないだろうが、シルヴィが大幅に有利だろう。

 

なんせ界龍の3位である雪ノ下陽乃を一撃で沈めた光の剣を食らったのだから大ダメージは必須。加えてノエルの右腕は折れている。いくらノエルの能力が腕に影響されにくいからと言って、壁を越えた人間相手に骨折はキツイだろう。

 

これについては俺だけでなく、隣に座るオーフェリアや実況や解説や観客、終いにはノエルと対戦しているシルヴィも同じ考え……いや、下手したらノエルの負けと判断している人間も沢山いるだろう。

 

しかし……

 

 

 

『え?!な、何とメスメル選手、立ち上がりました!』

 

見ればノエルはボロボロになりながらもゆっくり、それでありながら確実に立ち上がっていた。

 

(マジか……!アレを受けて戦えるのか?!)

 

どうやら俺の弟子は予想以上タフなようだ。師匠でありながら気付かないとはな……

 

内心苦笑しながらも俺はステージにて一生懸命立ち上がろうとするノエルから目が離せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

シルヴィアは今本気で驚いていた。ここまで驚いた事はそうない。これ以上驚いた事なんて、八幡の腕が斬り落とされた時や八幡にファーストキスを奪われた時くらいだろう。

 

そんな彼女が驚いている要因は……

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

目の前にてボロボロになりながらも立ち上がろうとするノエルを見ているからだろう。

 

先程シルヴィアはノエルを気絶させるつもりで全力の一撃を放ったが、ノエルの茨神の創造神装を破る事は出来たもののノエル本人に勝つ事は出来なかった。

 

シルヴィアの光神の撃剣はシルヴィアの持つ技の中で最強クラスの一撃だ。今ので倒せなかったのは予想外である。

 

「……正直今ので倒せなかったのは驚いたよ。凄いねノエルちゃん」

 

シルヴィアは偽りない賞賛をノエルに送る。対するノエルはよろめきながらも漸く立ち上がる。

 

「ありがとう、ございます……はぁ……ですが、私も、負けたくない、ので……!」

 

ノエルはボロボロになりながらも笑みを浮かべて杖型煌式武装を起動して左手に持つ。右手は折れて全身は傷だらけだが目は死んでおらず、戦意は微塵も衰えていない。

 

「……やっぱり立ち上がれるのは八幡君の恋人になりたくて私に認められたいからなの?」

 

シルヴィアは無意識のうちに声を低くしながらそう尋ねる。しかしシルヴィの予想に反してノエルは首を横に振る。

 

「……いえ。確かに私は八幡さんの恋人になりたいですし、その為にシルヴィアさんに認められたいと思っています。ですが……」

 

ノエルは1つ区切ってから口を開ける。

 

「ですがそれ以上に、私がどれだけ強くなったかを八幡さんに見てもらいたくて……八幡さんに格好悪い所を見せたくないんです……!」

 

そう言いながらノエルは足元から茨を生やす。その姿を見たシルヴィアは凄く格好良く思えた。

 

「……そっか。なら私も全力でノエルちゃんを倒す!」

 

だからシルヴィもノエルの覚悟に応えるために光の剣を振り上げ……

 

「光神の撃剣……!」

 

そのまま振り下ろす。

 

「望むところ……です!」

 

対するノエルは茨を生やして、シルヴィアの光の剣ではなくシルヴィアの腕に絡みつけた。剣に絡みついても直ぐに斬り落とされるが、腕なら僅かな時間だが拘束は可能である。

 

そしてノエルはシルヴィアの剣の動きが止まったのを見ると間髪入れずにシルヴィアとの距離を詰めに掛かり、杖型煌式武装をシルヴィアの校章を破壊するべく振り上げる。

 

それと同時にシルヴィアが腕に絡みついた茨を振り払い………

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

お互いに全力で叫びながら、全力でお互いの武器を振るった。

 

そして……

 

『ノエル・メスメル、意識消失』

 

『試合終了!勝者、シルヴィア・リューネハイム!』

 

シルヴィアの光の剣が一足早くノエルの意識を刈り取った。ノエルの杖型煌式武装がシルヴィアの校章から僅か5センチの位置にあり接戦であった。

 

「ふぅ……って、大丈夫?」

 

試合が終わってシルヴィアが息を吐くとノエルがシルヴィアの方に倒れてくるので、シルヴィアは慌てて、それでありながら優しく抱きとめる。

 

するとシルヴィアの手や胸から感じるノエルの感触から途方も無い努力をしたのが簡単に理解出来た。

 

加えて試合で見せた戦闘力や不撓不屈の精神、シルヴィアからしたら尊敬するべきものである。

 

 

 

「あーあ……本当は認めるつもりはなかったんだけどねぇ……ごめんねオーフェリア」

 

シルヴィアは苦笑しながらノエルを支えて、ステージに入ってきた救護班にノエルを引き渡したのだった。

 

 

 

 

こうして準々決勝は全て終了してベスト4が出揃った。

 

翌日の準決勝の組み合わせは……

 

 

比企谷八幡VS天霧綾斗

 

 

シルヴィア・リューネハイムVS武暁彗

 

という組み合わせになった。


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