レヴォルフの専用観戦席にて……
『これにて準々決勝は全て終了です!王竜星武祭も後2日となりました!明日は準決勝ですがシリウスドームは本日の試合によって崩壊して修理が間に合わないとの報告がありました。本来は午前10時からシリウスドームにて天霧選手と比企谷選手の試合がありますが、予定を変して午前10時からカノープスドームにて試合が行われる事になりました』
実況のそんな声を聞いたので……
「んじゃシルヴィの迎えに行くぞ」
「……そうね」
俺と恋人のオーフェリアは立ち上がり、観戦席を後にする。全ての試合が終わった以上、ここにいる意味はない。
シルヴィを迎えに行ってから、治療院に行ってノエルと若宮の見舞いに行かないといけないからな。多分ノエルもダメージを見るにカペラドームの医務室ではなく治療院に運ばれているだろう。
(しっかし今回の王竜星武祭、治療院に送られる選手多過ぎだろ?)
まあ内1人であるリースフェルトは俺が送ったけどさ……小町にしろ、若宮にしろ、ヴァイオレットにしろ、ノエルにしろ、やっぱり多いだろう?
そんな事を考えながら選手の専用通路を歩いていると前方からシルヴィが走ってくる。相変わらずクソ可愛くて癒されるなぁ……
「お疲れ様シルヴィ」
「……準決勝進出おめでとう」
「ありがとう。やっぱりノエルちゃんは強かったよ」
言いながらシルヴィは苦笑を浮かべる。まあ確かにノエルは強かった。実力だけでなくメンタル的な意味でも強かった。シルヴィの最強の一撃を食らって尚、気を失わずに、折れずにシルヴィに挑んだのだから。
「……ったく、なんでアスタリスクにいる女子は大半が男前なんだよ?」
今回の王竜星武祭に参加した俺の女子の知り合いは全員ボロボロになりながらも諦めずに戦っていたし、普通にそこんじょそこらの男よりも格好良いだろう。
「あはは、それは否定し切れないかもね……それよりもオーフェリア」
「何かしら?」
オーフェリアが尋ねるとシルヴィは両手を顔の前に合わせて謝るポーズを見せて……
「ごめん……ノエルちゃんのことを認めちゃった」
そんな事を言ってくる。俺はシルヴィの発言に疑問を抱いた。認めちゃったと言っていたが、それではまるでノエルを認める事を悪と思っているようにも聞こえる。
(いや、でも試合前にシルヴィはノエルの実力や努力は言っていたな。マジでシルヴィとオーフェリアはノエルの何を認めたくないんだよ?)
疑問符を浮かべながら2人を見るとオーフェリアは息を吐いてから首を横に振る
「……別に気にしてないわ。貴女がそう判断したなら私がごちゃごちゃ言うつもりはないわ。ただ……貴女が認めたからって私が認めるとは限らないわよ」
「もちろん。それはオーフェリアの自由だよ」
……?マジでなんの話をしてんだよ?てか内容はわからないが相当重要なことを話してる気。理由はなくて直感だけど。
「……まあいっか。それよりも全試合終わったし、若宮とノエルの見舞いに行かないか?」
「うん、私もその予定だったし良いよ」
「……決まりね」
方針が決まった。ならば急ごう。時間は有限であるからな。
20分後……
「邪魔すんぞ若宮〜」
「あ、八幡君にシルヴィアさんにオーフェリアさん!お見舞いありがとう」
治療院の若宮の病室に入ると、若宮がボロボロになりながらも笑みを浮かべてくる。
「目が覚めて何よりだ。身体の調子はどうだ?」
「麻酔はしてるから痛みはないよ。調子もボロボロの割には悪くないし。それとシルヴィアは準決勝進出おめでとうございます」
「ありがとう。ちなみにクロエ達は居ないの?」
あ、そういやチーム・赫夜の4人が居ないな。何処に行ったんだ?
「クロエ達なら私の着替えとか入院に必要な物を準備する為に少し前に一旦クインヴェールに戻りました」
「そっか……とりあえずお疲れ様。美奈兎ちゃんの試合は見たけど凄かったよ」
「あはは……そうですか?結構惨めな反抗にしか見えないですよ」
「そんな事ないよ。あの『覇軍星君』相手に最後まで諦めなかったのは凄く格好良かったよ。前にも言ったけど、私は美奈兎ちゃんのファンなんだから」
「あ、ありがとうございます……」
若宮は顔を赤くするが仕方ないだろう。シルヴィにファン呼ばわりされたら誰でも照れてしまうに決まってる。
「……とりあえず今は身体を休ませなさい。折れてる腕で武暁彗の拳を受けたんだし」
オーフェリアの言う通りだな。勝ちを狙いにいくその執念は凄いと思うが、アレはやり過ぎだろう。
「そうするよ……それよりシルヴィアさんは気を付けてくださいね。あの錬星術、本当に凄いですから」
錬星術……確か星辰力を効率の良い星辰力に変える技だったか?確かにアレは厄介だ。星辰力を防御重視の星辰力に変えれば純星煌式武装の一撃すら耐えるし、攻撃重視の星辰力に変えればありとあらゆる防御を紙のように吹き飛ばす一撃と化す。
まあ後者については錬星術抜きでもそうだけど。錬星術抜きでも暁彗は怪物だし。
「わかってる。多分今まで戦った人間の中ではオーフェリアの次に強いだろうし」
だろうな。暁彗は普通に序列1位になれる人間だ。星露が居なかったらまず間違いなく界龍の1位になっているだろう。
「ま、俺としてはシルヴィに借りを返したいから負けんなよ?」
「もちろん負けるつもりはないよ。それより八幡君こそ大丈夫なの?八幡君にとって天霧君は最悪の相性だよ?」
だよなー。今勝ち残っているのは俺とシルヴィ、天霧に暁彗の4人だが、その中で天霧は俺と1番相性が悪い。何せありとあらゆるものをぶった斬る『黒炉の魔剣』を持っているのだ。
しかも今までの試合では自身の体内にある頭痛や、大気に含まれている万応素すらもぶった斬るなど『黒炉の魔剣』を使いこなしている。その事から察するに俺の最強の技である影神の終焉神装すらもぶった斬られるだろう。
「まあ何とかする……」
厳しい戦いになるのは間違いないが一応作戦はある程度考えている。まあ天霧クラスに通用するかはわからないけど。
「八幡君がそう言うなら信じるよ。とりあえず先に言っとくけど……私は明日勝って決勝に上がるから」
シルヴィは真剣な表情を浮かべてそう言ってくる。その目に偽りはない。つまり錬星術を身につけて更に強くなった怪物、武暁彗に勝つつもりなのだろう。
ならば俺の返答も決まってる。
「なら俺も明日勝って決勝にあがる」
そんで決勝も勝って俺が優勝するだけだ。ここまで来たらシルヴィに優勝したい。
だからその為にも明日の準決勝は相性云々言わないで絶対に勝ち上がってやる。
俺は改めて優勝する事を誓ったのだった。
それから15分後……
「じゃあ俺達はもう行く。またな」
若宮と他愛ない雑談をした俺達は病室を後にする事にした。この後にノエルの様子の確認、小町やヴァイオレットの見舞いにも行かなくちゃいけないからな。
「あ、うん。わざわざお見舞いありがとう。準決勝頑張ってね」
「ああ。じゃあまたな」
「また明日来るね」
「……お大事に」
挨拶を交わした俺達は病室を出て、次はノエルの病室に向かって歩き出す。
「とりあえず元気そうで良かったぜ」
「まあね。負けたから悔しそうだったけど、夢を諦めてないようで良かったよ」
「あいつが夢を諦める姿なんて想像出来ねぇよ」
「……そうね。ちなみにノエルの病室はどこなの?」
「あそこだな」
俺がある一室を指差す。ノエルも入院しているだろう。何せ雪ノ下陽乃を一撃で仕留めたシルヴィの大技を2発も食らったのだから。
そんな事を考えながらノエルの病室のドアを開ける。
「邪魔するぞノエル」
「あ!八幡さんと……さっきぶりですね」
ノエルは初めは満面の笑みを浮かべるが、シルヴィを見ると若干笑顔が暗くなる。まあついさっきシルヴィに負けたばかりだから仕方ないだろう。
「そうだね。さっきぶりだね」
シルヴィは普通の顔をしているが若干空気が重いな……
「とりあえず体調はどうだ?」
この空気を変えるべく、本来聞こうとした事について尋ねてみる。
「あ、はい。右腕の骨折以外はそこまで重傷じゃないですから準決勝はともかく、決勝戦は見に行けると思います」
「思ったより早くて良かった」
「はい……それと八幡さん。負けてしまってごめんなさい」
ノエルは申し訳なさそうに謝って来るが……
「謝る必要はない。負けたからって俺は怒ってないからな」
実際俺はノエルに対して怒ってない。不甲斐ない試合をして負けたなら小言の1つはしていたかもしれないが、ノエルは良い試合をしたし褒める事はあっても怒る事はないと断言出来る。
「寧ろ最後まで諦めないお前の姿勢には感服した。だから今回の敗北を糧にして来シーズンの獅鷲星武祭に活かせ」
良い試合をしても次に活かせないと意味がない。以前ノエルに聞いたが最後の星武祭は2年後の獅鷲星武祭に出るらしいし、その時までにもっと強くなるべきだろう。
「……っ!はい!絶対に強くなります!」
それを聞いたノエルは強い目を俺に見せながら了解の返事をしてくる。良い返事だ。これなら次の獅鷲星武祭はノエルが居るであろうチーム・ランスロットは優勝出来るだろう。
「なら良い。ところでノエルに聞きたいことがあるんだが?」
「?何ですか?」
「いや結局何をシルヴィに認めて貰いたかったんだ?」
何を認めて貰いたいのかは知らないので気になって仕方ない。
「ふぇぇぇっ!」
するとノエルは真っ赤になって慌てだす。何だその仕草は?変な質問だったのか?
疑問符を浮かべていると……
「ノエルちゃん。私はノエルちゃんを認めちゃったんだし、もう話しちゃえば?」
「ふぇ?!そ、そんなんですか?!」
「本当は認めるつもりはなかったんだけどね。何なら2人きりにしてあげようか?」
「……シルヴィア、貴女が良いなら止めないけど、それで良いの?」
「うん。ただし……」
言うなりシルヴィはノエルの耳元でなにかを囁く。すると暫くしてシルヴィが離れるとノエルは真っ赤になりながら……
「し、ししししないですよ!」
否定の言葉を口にしてくる。なにを話したんだよ?
「なら良いよ。それじゃあ後は2人でごゆっくり」
言いながらシルヴィはオーフェリアを連れて出て行った。それによって必然的に俺とノエルは2人きりになるが……
「……………」
ノエルは真っ赤になりながらも俺をチラチラと見ていて話す気配はない。そんな仕草をされると俺も変な気分になってしまうので早いところ話して欲しいものだ。
「なぁノエル。話したくないなら無理には聞かないからな?」
興味あるのは山々だが、本当に話したくないなら無理に尋ねるつもりはない。
「い、いえ……いずれ越えないといけないですから話します」
ノエルはそう言ってから顔を真っ赤にしながら息を吸って……
「八幡さん。私は八幡さんの事が好きです」
俺に告白してきた。
………え?
ちょっと待て。今なんて言った?俺の聞き間違いでなければ俺の事が好きって言わなかったか?
それってつまり……
「告白?」
「は、はい。私はもう八幡さんの優しさに溺れてしまいました。これから先ずっと八幡さんを愛したいし、愛されたいし」
ノエルが肯定した事によって聞き間違いでないことを理解して、同時に顔が熱くなる。ヤバい……告白なんて2年半ぶりにされたがメチャクチャ恥ずかしい。今すぐに悶死したいくらいだ。
嘘かと思いながらノエルを見れば真っ赤になって涙目になりながらも俺から目を逸らしてないので嘘ではないのだろう。
それに対して俺の返事は……
「ノエル、気持ちは本当に嬉しいが「シルヴィアさんとオーフェリアさんを切り捨てる訳にはいかないから無理、ですか?」……そうだ」
ノエルの告白は嬉しいがそれとこれは別だ。ノエルの告白を受け入れる為にオーフェリアとシルヴィを捨てるなんて絶対に無理だ。
だからノエルとは付き合えない、そう言おうとしたがノエルが自分からそれを言ってきたので俺はそうだと答えた。
「わかっています……八幡さんの中で1番はあの2人の同着で、私は3番目以下である事はわかっています。八幡さんが2人を切り捨てられないのは当然です」
ノエルはわかっているように頷きながらそう言ってくる。言っている事は事実だ。俺の中での1番はオーフェリアとシルヴィの同着であり、ノエルは10番目以内には入っているが1番ではない。
(でも何でそれをわかっていながら告白したんだ?それに俺の事が好きなのはわかったがシルヴィの認める云々の話はまだ出てないぞ)
疑問符を浮かべていると……
「で、ですから2人に勝つのでなく、2人と八幡さんの3人に認められてから……その……2人のように愛して貰いたいんです」
ノエルが予想外の発言をしてくる。
(そう来たか!オーフェリアとシルヴィを抜いて1番を奪うのではなく、俺達3人に認められてからオーフェリアとシルヴィ同様に俺に愛して貰う道を選んだのかよ!)
「い、いや……ガラードワースの人間がそんな道を選んで良いのか?」
仮にもし俺達3人の中にノエルが加わったとする。そしたら俺は三股をかけているように扱われるが、ノエルの実家が反対する可能性が高いだろう。
「わ、私の家は貴族の家にしては珍しく、私の将来について言わないので、多少言われるかもしれないですが、大丈夫だと思います。それに……家の反対程度で八幡さんの事を諦めたくないです!」
ハッキリと言うな!恥ずかしくて仕方ないわ!
(と、とりあえず、さっきシルヴィの言っていた認めるってのはそういう事なのだろう)
つまりシルヴィはノエルが俺達3人の中に加わっても良いと思ったのだろう。その事については俺はシルヴィじゃないのでどうこう言うつもりはない。
しかし……
「お前の気持ちはわかった。だが、今の俺にはそんな気持ちはないからな?」
「わかってます。ですから何年、何十年かけてでも絶対に3人に認められるように頑張ります」
「いや、それは嬉しいがそんなに長引くなら他の男に「……私、八幡さん以外の男性には抱かれたくないです……」ぶほっ!ま、真顔で恥ずかしい事を言うな!」
「あっ!〜〜〜っ!」
ノエルは自分の失言に気付いたのか真っ赤になって俯く。ヤバい、気まずい空気になってきたし逃げよう。
「と、とりあえず俺はもう失礼する!悪いが今の俺はお前と付き合うつもりはない。以上!」
「わ、わかりました……!ですが、いつか絶対に八幡さんに愛して貰える立場の女になってみせます……!」
「……お前、そんなになりふり構わない女だったのか?」
「八幡さんが言ったんじゃないですが。本気で勝ちたいなら常に考え続けて、なりふり構わず行けって」
ここでそれを出すか?!畜生!完全に予想外だわ。
「お前、本当に魎山泊に入って強くなったなぁ……」
俺はそう口にすることしか出来なかったのだった。
それから5分後……
「あ、おかえり八幡君」
ノエルの病室を出るとオーフェリアとシルヴィが近くのベンチに座っていて俺に気付くと駆け寄ってくる。
「……どうなったの?」
「ノエルに告白されたから断ったら、いつか絶対にシルヴィとオーフェリアと同列に並んでみせるって言われた。今更だが、あいつ強くなり過ぎだろ?」
「「強くしたのは八幡(君)でしょ(だよね)?!八幡(君)のバカッ!」」
オーフェリアにどうなったか聞かれたので正直に言うと、2人が俺に詰め寄ってくる。
そう言われたら……確かにそうだ。まさか彼女持ちの俺が彼女の恋敵を強くしているとはな……こりゃ2人にジト目で見られても仕方ないだろう。
「本当!八幡君って誰にでも優しいんだから!ノエルちゃん以外にもライバルがいるってのに……!」
「八幡のバカ、アホ、おたんこなす、八幡、絶倫、ど変態」
2人はここぞとばかりに俺をdisってくるが、返す言葉がないので俺は2人のdisりを甘んじて受けたのだった。
結局俺は帰ってからも2人にdisられ続けて王竜星武祭12日目の幕が下りたのだった。
同時刻……
「くそっ!何故だ?!何故俺が懲罰房に入れられるんだ?!俺はガラードワースを救う為に比企谷を倒そうとしたのに……この仕打ちはあんまりだろう!比企谷の奴、E=Pの人間すらも洗脳して品行方正の俺を貶めるなんて……恥を知れよ!」
聖ガラードワースの懲罰房にて葉山隼人は荒れていた。自分が懲罰房にいる事に対して間違いだと叫ぶ。
「本来なら今頃俺は星武祭本戦に参加していたというのに比企谷の奴……どこまでふざけているんだ!」
葉山は自分は王竜星武祭でベスト8以上だと確信していたが、八幡のイカサマの所為で一回戦負けになったと八幡を恨んでいた。
「覚えていろよ比企谷……俺は無実だから直ぐに此処を出る。そうしたら粛清をしてやる!」
『覚えていろよ比企谷……俺は無実だから直ぐに此処を出る。そうしたら粛清をしてやる!』
「マジでなにを言っているんだこいつは?」
「サイコパス過ぎるな……」
聖ガラードワース学園の懲罰房監視室にて、ガードマンの2人は今日懲罰房に入れられた男がいる部屋のカメラを見て、男ーーー葉山隼人の言動を見てほとほと呆れていたのだった