王竜星武祭13日目
現時点で残っている選手は4人であり、今日準決勝を行い2人が負けて勝ち上がった人間が翌日の決勝戦に出れる。
試合の組み合わせは
カノープスドーム
天霧綾斗VS俺こと比企谷八幡
プロキオンドーム
シルヴィア・リューネハイムVS武暁彗
って感じとなっている。本来俺と天霧の試合はシリウスドームにて行われる予定だったのだが、昨日の準々決勝にて俺とレナティが戦った際にステージがボロボロになってしまい修復が間に合わないとの事で、俺と天霧の試合はカノープスドームでする事になったのだ。
「はぁ……今更だが緊張してきた……オーフェリア、俺の代わりに代理出場してくれね?」
カノープスドームにある控え室に向かう俺は右隣に歩くオーフェリアに思わずそう愚痴ってしまう。情けないかもしれないが準決勝で戦う天霧は相性が最悪だし。
「多分厳しいわね。5回戦で天霧綾斗は体内にある超音波を斬ったし、それを考えると体内にある瘴気を斬りそうだから、今の私じゃ厳しいわ」
「それ以前に擬形体以外で代理出場は無理だよね?」
左隣を歩くシルヴィが至極真面目にツッコミを入れてくるが、もちろん冗談だからな?
「言ってみただけだ。それより試合まで後1時間あるしお菓子でも「はちまーん!」うおっ!」
「「なっ!」」
いきなり後ろから衝撃が来て、俺の背中から腹に手が回される。誰かと思って腹に回された手を解いて後ろを見れば……
「レナティか、昨日ぶりだな。元気してたか?」
昨日の準々決勝で俺と戦ったレナティがいた。昨日戦ったばかりだが、レナティの目には悪意や敵意を感じないのはレナティが純粋だからだろう。
てかオーフェリアとシルヴィは睨むな。幼女相手にヤキモチを妬くな。
「うん!お母さんに腕も直して貰ったし元気いっぱい!これでいつでもはちまんとバトル出来るー!」
テンションを上げてそう言ってくる。無邪気で楽しそうな表情だ。これにはオーフェリアとシルヴィも毒気を削がれたような表情を浮かべる。
それについてはレナティの天真爛漫な性格の賜物だろう。しかし……
「流石に天霧と戦う前にお前とのバトルは勘弁してくれ。王竜星武祭が終わったら戦ってやるから」
レナティと戦った後に天霧と戦ってみろ。間違いなく秒殺されるだろう。
「本当?!やったー!はちまんとのバトルだー!」
レナティは無邪気にぴょんぴょんと跳ねる。本当に癒しだなぁ……
「ねぇオーフェリア、なんかレナティちゃん可愛いね?」
「……そうね。私達もこんな子供を産みたいわ」
「だよね。早く子作りがしたいよ」
しかし後ろから恋人2人の話が聞こえてくるがまだ早いからな。せめて学生の内は子作りは勘弁してください。
内心2人にそう言っているとレナティがふと思い出したように俺に話しかけてくる。
「あ、そうだ!はちまんは昨日お母さんに何をしたのー?昨日の夜、お母さんがはちまんの名前を出して怒鳴っていたよ?」
「昨日の夜?ああ、アレか。いやアレだ、ネットでお前の母ちゃんとお前の爺ちゃんはデきてるって「やっぱり八幡ちゃんの仕業かー!」ようエルネスタ、偶然だな」
まあ予想はしていた。レナティがいる以上、エルネスタが居てもおかしくないだろう。
「偶然だなじゃないよ!何デマネタをネットにアップしてるのさ!」
「いやデマじゃないだろ?お前と材木座はデきてるのは事実だろ?」
「デマだからね?!私と将軍ちゃんは敵同士!だから!」
「敵同士がカフェ行ったり、学園祭を回ったり、プールに行くわけないだろ?」
普通にカップルだろうが。寧ろこれで付き合ってないのがおかしいからな?
「それは誤解だから!カフェに行ったのは将軍ちゃんに奢って貰うからで、学園祭やプールは本来カミラと2人で行く予定だったんだけど、カミラに急用が入ったから将軍ちゃんを誘っただけで、他意はないからね!」
「「「………」」」
「……なんでそこでバカを見る目で見ながら黙るのかな?」
「ふみゅ?」
レナティは不思議そうな顔をしているが仕方ないだろ?本来一緒に行く相手が居ない場合に、誘ってる時点で少しは気があるだろ?
てかカミラの場合、エルネスタと材木座を2人きりにする為にわざと急用を作ったのかもしれない。*その通りです
「何でもねぇよ。それより俺はもう直ぐ試合だからまたな」
三十六計逃げるに如かずだ。エルネスタの文句を聞いているほど暇じゃない。
そう判断した俺はオーフェリアとシルヴィの両手を掴み走り出すと……
「あっ、こら!覚えてろよー!」
「はちまーん!試合頑張ってねー!応援してるよー!」
エルネスタの怒号とレナティの激励が耳に入る。前者は全面的に無視した後に忘れるが、後者については応援ありがとうございます。
「ったく……あいつらはさっさと付き合えよ」
「あはは……まあ一緒に居すぎて恋愛感情がないんじゃない?」
「……でなきゃあの女は相当なツンデレ」
自身の控え室に着いた俺達3人は真っ先に先程のエルネスタとのやり取りを思い出す。もうマジであいつらはさっさと付き合えよ。喧嘩しながらも普通にイチャイチャするタイプだろうが。
「まあそれは良いや。それより2人とも、済まないが緊張しているから試合前まで甘えても良いか?」
緊張している時は2人に甘えるのが1番だからな。最善の状態で天霧に挑まなければ勝てないだろうし。
「もちろん、好きなだけ甘えて良いよ」
「……たっぷり愛してあげる」
2人が蠱惑的な笑みを浮かべながら俺の希望を受け入れてくれる。良かった良かった。これなら緊張は無くなるだろう
そう思いながら唇を寄せようとすると……
pipipi……
いきなり俺の端末が鳴り出した事によって動きを止める。若干拍子抜けしながらも端末を取り出してみれば小町からだったので空間ウィンドウに表示して繋げる。
「もしもし?」
『あ、お兄ちゃん。もう直ぐ試合だけど大丈夫?緊張してない?』
「割としてる」
『まあ相性悪いし仕方ないよねー。でも頑張ってね。星導館の人間として綾斗さん応援しないのは問題かもしれないけど、小町はもう一度お兄ちゃんとシルヴィアさんの試合が見たいんだ』
「任せておけ。絶対に決勝に上がってみせる」
緊張はしてるのは事実だが、負けるつもりはない。勝って決勝にあがり可能ならシルヴィと戦って優勝したいからな。
『なら良かった。じゃあお兄ちゃん、頑張ってねー』
その言葉を最後に通話が切れるので空間ウィンドウを閉じる。入院しているのに元気な奴だ。病は気からって言うし、この調子なら王竜星武祭が終わったら直ぐに退院出来そうだな。
そう思っていると肩を叩かれたので振り向くと唇を突き出してくる恋人2人がいた。どうやらキスをしたいのは俺だけではないようだ。
そう思いながらも俺は再度唇を寄せ……
pipipi……
ようとしたが再度端末が鳴り出したので思わずズッコケてしまう。何なんだよこのタイミングは?!狙ってるのか?
疑問符を浮かべながら端末を見れば小町ではなく、ヴァイオレットからだった。
「……もしもし」
『あ、八幡さんですの?もう直ぐ試合ですけれど体調は大丈夫ですの?何か不安はありますの?』
「大丈夫だ。なんか用か?」
『決まっているじゃありませんの!激励をしに連絡をしましたの!』
「そりゃどうも。でもお前天霧のファンじゃないのか?」
前に星武祭の海賊版のグッズ屋で天霧のグッズを大量に買い込んでいるのを見たし。
『そうですけど!八幡さんのファンでもありますの!個人的には私、八幡さんと天霧様で行う決勝戦が見たかったですの!』
おいヴァイオレット、お前一応クインヴェールの生徒なんだから俺と天霧による決勝戦ーーー暗にシルヴィが負けるような言い方は止めとけ。まあシルヴィはその辺りの事を気にしないだろうけど。
「そりゃどうも。まあ俺と天霧が戦うのは決勝じゃなくて準決勝だから諦めろ」
『わかってますわ!どちらも頑張ってくださいですの!私の師匠なんですから情けない戦いをしたら許しませんの!』
その言葉を最後に通話が切れるので空間ウィンドウを閉じる。相変わらずハイテンションの奴だ。それなりにヴァイオレットも重傷だったのだが、この様子なら小町と同様に早めに退院出来そうだな。
内心安堵の息を吐いている再度肩を叩かれたので振り向くと不満そうな表情を浮かべている恋人2人がいた。ちくしょう、お預けを食らっている2人が可愛過ぎる……
とはいえ俺も2人とキスをしたいので今度こそ……
pipipi……
またかよ?!もうマジで何なんだよ?!誰だよ?!何で通話が切れてから1分もしないで電話が来るんだよ?!
端末を見ると……
「今度は……ノエルかよ」
次に電話してきたのは昨日俺に告白してきたノエルだった。その時に俺はノエルの告白を断ったが、ノエルは諦めずに俺とシルヴィとオーフェリアに認められて、シルヴィとオーフェリアがいる場所に到達すると宣言してきたのだ。
そんなこともあって若干緊張してしまうがシカトする訳にもいかないので……
「……もしもし」
『あ、八幡さん。おはようございます。少しお話があるんですけど、時間はありますか?』
「大丈夫だから気にすんな。で?話ってなんだ?」
しかし何故に小町、ヴァイオレットに続いてノエルと入院している人間から電話がくるんだよ?あの3人まさかのグルで俺に悪戯をしているとかじゃないよな?
『あ、はい。もう直ぐ準決勝ですから八幡さんに一言声を掛けたくて……その、厳しい戦いになると思いますが頑張ってください』
「そのつもりだ。ここまで来たら優勝するつもりだ」
『そうですか……私は八幡さんが優勝しているのを信じてますから頑張ってください!』
「ありがとな、頑張る」
可愛い弟子に信じて貰えるなら俺も期待に応えないとな。元々優勝するつもりだが、その気持ちは更に強くなった。
『はい!あ、それと……』
するとノエルはいきなり顔を赤くしてモジモジし始める。何事かと思いながらノエルに尋ねようとするが、その前にノエルが顔をキッと上げて……
『…………大好きですっ!』
そう言ってから通話を切った。
(あの馬鹿……最後にそんな捨て台詞を残して通話を切ってんじゃねぇよ!顔が熱くて仕方ない)
マジで何なの?可愛すぎだろ?
内心顔に熱を感じていると……
「痛えっ!」
両肩に激痛が走り出す。恐る恐る振り向くと……
「「…………」」
オーフェリアとシルヴィがドス黒いオーラを撒き散らしながら笑みを浮かべている。マズい……!天霧との試合の前に死んでしまうかもしれない……!
内心冷や汗をダラダラかいていると……
「「八幡(君)、お仕置き」」
言いながら2人は蠱惑的な笑みを浮かべてから俺に近寄り……
『さぁ!いよいよ準決勝の始まりだぁ!先ずは東ゲートから登場するのはシリウスドームを2度ぶっ壊したイかれた破壊者!レヴォルフのNo.2の比企谷八幡だぁ!今回の試合も……って!おおっ!何と何とぉ!比企谷の顔全体に大量のキスマークが付いてある!試合前にどんだけ盛ったんだぁ!』
実況のそんな声を聞きながら、俺は入場ゲートに繋がるブリッジからステージに降りる。顔に大量のキスマークを付けている状態で。
観客から騒めきと嫉妬の睨みを受けながらため息を吐く。
先程俺は恋人2人にキスをされまくったのだが、途中で2人は口紅を塗って俺の両頬にキスをしてきたのだ。
それは吸い付くようなキスで、吸い取られて唇が離れるとあら不思議、俺の両頬にキスマークが出来ました。
その後試合開始時刻5分前まで両頬だけでなく顎や額とあらゆる場所にキスをされ続けて、結果俺の顔面には100近いキスマークがある。
試合前に消そうとしたが、2人が笑顔(ただし瞳は絶対零度)で止めてきたので、このままの状態で試合に出る羽目になってしまったのだ。
(クソ恥ずかしい……まあ2人の愛の証だし我慢するか)
そんなことを考えていると……
『続いて西ゲート!グランドスラムまで後2試合!星導館学園序列1位!天霧綾斗の登場!アスタリスク最強の男と評される2人の激突、お前ら目ん玉かっぽじって見とけよー!』
そんな声が聞こえたかと思えば天霧が同じようにステージに降りてくる。そしてこっちに近寄ると引き攣った笑みを浮かべてくる。全く予想通りの反応だな。俺が天霧の立場なら間違いなく同じ表情を浮かべる自信がある。
「え、ええっとひき「顔の事は何も言うな。それよりもよろしくな」あ……う、うん。こちらこそ」
どうやら見なかった事にしてくれるようだ。これは有難い話だ。
「さて……なんだかんだお前とは付き合いが長いがやり合うのは初めてだな」
「そういえばそうだね。俺的には比企谷とは余り戦いたくないなぁ」
「それはこっちのセリフだ。てか『黒炉の魔剣』を使わないでくれ」
そうすれば勝てる自信は大分増える。まあ厳しい戦いにはなるだろうけど。
「いやいや、それやったら俺が大幅に不利になるからね」
「そりゃそうか……っと、もう時間だし開始地点に行かせて貰うが負けないからな」
「はは……まあ俺は全力でやるだけさ」
俺達は言葉を交わすと踵を返して開始地点に向かう。同時な天霧は『黒炉の魔剣』を起動する。アレをどう対処するかがこの試合のキモだし気をつけないとな……
そう思いながら俺は徒手空拳の状態で構えを見せると……
『王竜星武祭準決勝第1試合、試合開始!』
遂に準決勝の幕が上がった。