学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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準決勝第1試合 比企谷八幡VS天霧綾斗(前編)

 

『王竜星武祭準決勝第1試合、試合開始!』

 

試合開始と同時に天霧は高速でこちらに突っ込んでくる。予想通りだ。天霧は能力者が相手だと基本的に速攻で仕留めにくる傾向があるし。

 

「羽ばたけーー影雛鳥の闇翼」

 

対して俺はそう呟いて足首に小さい影の翼を何枚も生やし、天霧がこちらに来た瞬間に……

 

 

「はあっ!」

 

「危ねぇ」

 

脚部と翼に星辰力を込めて滑るように横に跳ぶ。斬撃は掠ってすらおらず余裕に回避出来た。

 

俺は反撃とばかり自身の影に星辰力を込めて影の刃を数本飛ばす。それに対して天霧は『黒炉の魔剣』で全て斬り払ってから、再度俺に突撃しながら袈裟斬りを放ってくるので、再度同じように脚部と翼に星辰力を込めて滑るように横に跳ぶ。

 

(一応回避出来たが、さっきよりギリギリ……今は無傷だったが天霧の実力なら直ぐに攻撃を当ててくるだろう)

 

面倒だ。回避に集中すれば余裕で回避出来るが反撃に転じる事が出来ず、回避だけではなく攻撃にも意識を回したら回避がギリギリになる。

 

マジで面倒くせえ……とりあえず俺が勝つには回避しまくって天霧の星辰力が無くなるのを待つ……いや、向こうの方が星辰力あるし却下だ。

 

仕方ない、普通に攻めるか。

 

そう判断した俺は脚部と翼に星辰力を込めて爆発的な加速をして天霧との距離を詰めにかかる。

 

そして正拳突きを放とうとすると天霧は拳の軌道に『黒炉の魔剣』を置くので、俺は攻撃手段を拳から蹴りを変える。

 

対する天霧は後ろに跳んで回避するが予想通り。この程度の攻撃が当たるはずないよな。

 

そう思いながらも俺は脚部と翼に星辰力を込めて爆発的な加速をしながらも足元の影に星辰力を込めて……

 

「殴れ、影拳士の剛腕」

 

次の瞬間、影から巨大な腕を生み出して天霧に向かわせる。対する天霧は『黒炉の魔剣』で一閃するも……

 

(僅かに隙が出来た……!)

 

地面から生えてきた腕を斬り落とす為に『黒炉の魔剣』は振り払われた状態だ。今なら攻撃を当てれる筈……

 

そう思いながら俺が拳を天霧の放った瞬間だった。天霧が突きを躱し腕を伸ばしてきて俺の奥襟を掴んできた。

 

「天霧辰明流組討術ーーー」

 

天霧がそう呟くと間も無くふわりと身体が浮き上がったような感じがして天地が逆転する。

 

「ーーー刳輪祓!」

 

次の瞬間、背中に衝撃が走る。おそらく柔道の技に近い技だろう。剣以外にも腕があるのは知っていたがこれ程とは思わなかった。

 

すると天霧はトドメとばかりに『黒炉の魔剣』を振りかざしてくる。

 

アレを食らったらマズイので俺は腰にあるホルダーから待機状態の『ダークリパルサー』を取り出して即座に起動して……

 

「ふっ!」

 

そのまま天霧の足に投げつける。俺が放った『ダークリパルサー』は寸分違わず天霧の足に当たり……

 

「うっ……」

 

若干苦しそうな表情を浮かべ『黒炉の魔剣』を持つ手の動きも鈍くなる。いくら当たった箇所が頭から首から遠い足でも高密度の超音波を食らえばそれなりキツイだろう。

 

そう思いながらも俺は痛みを無視して身体を起こして……

 

「食らえ」

 

天霧から距離を取りながら、義手を天霧に向けてそう呟く。すると掌の部分から銃口が生まれて光弾が天霧に向けて飛んで行く。

 

それに対して天霧は頭痛によって動きが鈍くなっているので何発か食らう。まあそれでも序列1位だけあって顔を顰めながらも校章を守り、義手に仕込んであるアサルトライフルの射程外に出る。

 

本来なら天霧は『ダークリパルサー』によって頭痛を感じているので、追撃を仕掛ける所だが……

 

「やっぱりそう来たな」

 

天霧が『黒炉の魔剣』を自身の額に当てたかと思えば周囲に熱波が生まれて、熱波が消えた頃には天霧の顔に苦痛の色が無かった。

 

俺の予想通り『黒炉の魔剣』で体内にある超音波や頭痛を焼き斬ったのだろう。

 

事前に天霧がアルディとの試合で頭痛を焼き斬っているのを見ておいて良かった。でなきゃ追撃を仕掛けてカウンターを食らっていたかもしれない。

 

(とりあえず最初の攻防は痛み分けか……)

 

そんな事を考えていると、今度は天霧が距離を詰めてくる。どうやら本当に頭痛を焼き斬ったようなので動きに淀みがない。

 

「影の刃軍!」

 

言うなり自身の影から300を超える刃を生み出して、天霧を囲むように放つ。1発でも当たればこっちが主導権を握れるんだが……

 

「天霧辰明流剣術中伝ーーー矢汰烏!」

 

そう簡単には行かないよなぁ。圧倒的な速度で『黒炉の魔剣』を振るい全ての影の刃を焼き切った。300を超える刃は徐々に減っていくが全て斬り捨てる算段なのだろう。つくづくふざけた実力だ。

 

だが……

 

『ここで比企谷八幡、圧倒的な速度で天霧綾斗との距離を詰めにかかる!』

 

そんなのは予想の範囲内だ。俺の本当の目的は天霧にダメージを与えることではなく、天霧に矢汰烏を打たせる事だ。

 

矢汰烏は高速で剣を振るい、一斉に襲いかかる攻撃を蹴散らす技だ。『黒炉の魔剣』の能力も考慮したらオーフェリアの圧倒的な瘴気の腕の群れすらも蹴散らせるだろう。

 

しかしあの技、攻撃が終わると若干隙が出来るのが弱点なのは学習済みだ。まあ当然だろう、あれだけ剣を振って隙が出来ないなんてあり得ないし。

 

そう思いながら丁度全ての影の刃を焼き斬った天霧を見据えながらも脚部に星辰力を込めて爆発的な加速をして……

 

「せあっ!」

 

勢いに乗ったまま蹴りを放つ。しかし当然ながら回避されて反撃とばかりに『黒炉の魔剣』を横薙ぎに振ってくるので身を屈めて回避する。同時に頭上から熱を感じるが髪を焼き切ってないよな。この歳でハゲとか絶対に嫌だ。

 

そんな事を考えながらも俺は身を低くしたまま天霧にアッパーをぶちかます。

 

それによって天霧の口からは血が流れるが……

 

「まだまだぁっ!」

 

そのまま俺の腕を掴んだかと思えば、そのまま俺を振り上げてから……

 

「がはっ!」

 

そのまま地面に叩きつける。それによって俺の口内に胃液が上ってくるが気にしていられない。目の前にはすでに『黒炉の魔剣』を振り上げている天霧がいるんだから。

 

アレを食らったマズい。そう判断した俺は自身の影に星辰力を込めて……

 

「吹っ飛べ……!」

『黒炉の魔剣』が俺に当たる直前に自身の影から黒い腕を生み出して、俺を掴ませてからぶん投げるように指示を出す。

 

それによって俺は天霧から離れた場所に吹き飛んで再度地面に叩きつけられる。それに痛みが生まれるも校章を破壊されるよりはマシだ。

 

そう思いながら体勢を立て直すと、天霧は顎をさすりながらもこちらを油断なく見ている。

 

(もうマジで面倒だな……レナティとの試合による疲れも残ってるし……)

 

1番面倒なのは『黒炉の魔剣』だ。今の所1発も食らってないが、こちらの攻撃が効かないのに加えて超音波すらも焼き斬るから主導権を握れない。

 

(しかもこれまでの攻防でわかったが、俺の能力は殆ど効いてない)

 

何度か天霧に攻撃を当てたが、それは全て俺が直接攻撃したもので能力による攻撃ではない。しかも直接攻撃が決まった時は俺も天霧から攻撃を受けてるし。

 

(長期戦はこちらが不利……まずは『黒炉の魔剣』及び天霧本人を通り抜けて攻撃を当てて反撃を受けないようにするべきだな。そうすりゃ徐々に主導権はこっちに来る)

 

 

そう判断しながら俺は背中に星辰力を込めて……

 

「羽ばたけ、影鷲の大翼」

 

背中から巨大な翼を6枚生み出してから空を飛び、腰にあるホルダーから2本目の『ダークリパルサー』を取り出して右手に持ち……

 

「ふっ!」

 

そのまま天霧に向かって6枚の翼の内、4枚を大きく広げて……

 

「せあっ!」

 

そのまま切り離して天霧を刺すように向かわせる。そしてそれから一拍置いてから『ダークリパルサー』を翼を死角にして天霧の眉間目掛けて投げつけて、俺自身も突撃を仕掛ける。

 

2メートルを超える大きさの翼4枚を一斉に天霧に襲わせる。対する天霧は『黒炉の魔剣』で4枚の翼を一閃してから首を動かして『ダークリパルサー』を回避した。

 

(つくづく厄介だな……だが!)

 

距離は詰めれた。この距離なら一撃当てれる。俺はそのまま翼を羽ばたかせて……

 

「貰った……!」

 

「させない!」

 

一撃を叩き込む直前になって、天霧は『黒炉の魔剣』を地面に突き刺して棒高跳びのようにジャンプして俺の上に回って突進を回避する。

 

「ちいっ!」

 

舌打ちをしながら天霧の元に急旋回すると、天霧はまだ空中にいる。空中なら地上より身動きが取れないしまたまチャンスはある。

 

そう思いながら俺は天霧との距離を詰めながら背中に生えた残り2枚の翼を切り離して天霧に放つ。

 

全ての翼を切り離した事で地面に着地する中、天霧は空中にもかかわらず身体を捻って……

 

「天霧辰名流剣術中伝ーーー十毘薊」

 

空中で二連撃を叩き込み翼を焼き斬る。本当に化け物かよ……!

 

(だが、予想通りだ……!)

 

アスタリスク最強クラスの身体スペックを持っている天霧なら回避出来てもおかしくないだろう。まあ実際に見れば度肝を抜いてしまったが。

 

そう思いながらも俺は脚部に星辰力を込めて飛び上がる。現在の天霧は動きの制限されている空中にいる上に、技を使ったばかりで隙はある。

 

だから俺も空中に跳び上がり天霧に必殺の一撃を叩き込むべく足を振り上げて……

 

「終わりだ……!」

 

そのまま天霧の首に振り下ろす。これで俺の勝ちとまでは行かないが圧倒的に有利になるだろう。

 

そう思ってはいたが……

「がっ……!」

 

その直前に天霧は『黒炉の魔剣』の柄を俺の足に叩きつける。ミシミシと骨の軋む音が鳴る中、俺の足の軌道はズレて……

 

「がはっ!」

 

そのまま天霧の背中に当たり、天霧は地面に叩きつけられる。しかし天霧の背中からは圧倒的な星辰力を感じたのでダメージは余りないだろう。

 

内心苛々していると天霧は直ぐに起き上がり『黒炉の魔剣』を構える。これ以上の追撃は無理だな……

 

「羽ばたけーー影雛鳥の闇翼」

 

俺はそう呟いて足首に小さい影の翼を何枚も生やしてから、一気に加速して天霧から大きく離れた場所に着地する。

 

同時にさっき『黒炉の魔剣』の柄をぶつけられた事によって痛みか生まれた右足を見る。

 

(折れてはないが動きに支障は出そうだな。試合終了まで影雛鳥の闇翼は使った方が良いな。しかしマジで星露と鍛錬しといて良かった)

 

なんせ向こうに『黒炉の魔剣』がある以上、影狼修羅鎧も影神の終焉神装も紙のように斬られてしまうだろう。だから必然的に鎧抜きで戦わないといけないが、体術を鍛えまくったからかどうにか互角にやり合えている。

 

もしも3年前の状態で挑んでいたらなす術なくやられている自信がある。

 

(とはいえこちらも軽くはないダメージだ。残る武装は『ダークリパルサー』6本にナイフ型煌式武装が4つ、荷電粒子砲と臭い付きの爆竹とアサルトライフルと自爆機能を備えマナダイトを2つ仕込んだ義手が1つ)

 

とはいえ天霧も『ダークリパルサー』の恐ろしさは知っているし、義手の能力についても大半を知っている。奥の手の自爆機能もマディアス・メサと戦った時に見られているし。

 

(加えて俺の技のストックも無くなってきてる)

 

正確に言うと天霧に通じるであろう技のストックだ。一応アスタリスクで最も多彩な能力者と呼ばれているだけあって技の数には自信があるが、天霧みたいに強い武器を持った壁を越えた人間に通じる技はかなり少ない。

 

(作戦は立てたいが……向こうは待ってくれないだろうな……)

 

見れば既に天霧は『黒炉の魔剣』を持ってこちらに突っ込んでくる。間違いなく俺に作戦を考える時間を与えない算段だろう。

 

仕方ない、戦いながら作戦を考えるか。

 

もちろんそれは厳しいだろう。一瞬でも油断したら即負けになるだろうし。

 

だが、負ける訳にはいかない。小町やヴァイオレット、ノエルやオーフェリアやシルヴィに勝てと言われた以上負けたくない

 

仲間の為に戦うなんて少し前の俺なら馬鹿馬鹿しいと一蹴しているかもしれないが、アスタリスクに来て沢山の人と縁を作った俺には馬鹿馬鹿しいと一蹴する事は出来ないようだ。

 

そんな事を考えながらも俺は脚部と足首に生えている翼に星辰力を込めて天霧を迎撃する構えを取ったのだった。

 

 


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