学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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準決勝第1試合 比企谷八幡VS天霧綾斗(後編)

「そこだ!行け綾斗!」

 

「ああっ!避けてお兄ちゃん!」

 

治療院にある病室にて比企谷小町とユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは身体に大量の包帯を巻きながら空間ウィンドウに映る試合を見ている。空間ウィンドウでは綾斗が『黒炉の魔剣』を振るって八幡が紙一重で回避して蹴りを放ち、綾斗に防がれていた、

 

「惜しい!行け行けー!」

 

「避けろ!そしてカウンターで仕留めろ!」

 

小町は肋骨と右腕の骨折に加えて右腕全体に大火傷を、ユリスは両腕と肋骨が折れているにもかかわらず、元気な声で応援していた。

 

「頑張れお兄ちゃん!小町はお兄ちゃんとシルヴィアさんの対決が見たいんだから!」

 

「いや、勝つのは綾斗であいつがグランドスラムを達成するんだ!」

 

そこまで言うと小町とユリスはお互いに睨み合う。病人であるにもかかわらず、凄いプレッシャーを放つ。

 

「勝つのはお兄ちゃんです!」

 

「いや、綾斗だ」

 

「お兄ちゃん!」

 

「綾斗!」

 

「もー、何ですか?!そんなに綾斗先輩を応援出来るんでしたら普段からアプローチしたらどうですか?!」

 

「な、何故そんな話になる?!別に私は……!」

 

「はいはい。そのセリフは聞き飽きました。というかマジで告った方が良いですよ?既に紗夜さんやクローディアさんや綺凛ちゃんは告ってますし、綾斗先輩はお兄ちゃんと違ってハーレムを作らない可能性が高いですから早めに攻めた方が良いですって」

 

「そ、それは……いや、しかしだな……」

 

「はぁー、やっぱりユリスさんってツンデレですね」

 

「ツンデレって言うな!」

 

小町とユリスは戦いを見ながら平和なやり取りをしていた。

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「良し行け天霧綾斗!そのまま馬鹿息子をぶっ倒せ!」

 

クインヴェールの理事長室のソファーにて涼子は酒を飲みながらハイテンションになり試合をみている。

 

「こちらは仕事中なので静かにしてくださいと、既に10000回以上注意してるんですが。というか何故天霧綾斗を応援してるのですか?」

 

一方、執務机にて仕事をしているペトラは涼子を見てため息を吐く。

 

「悪りぃ悪りぃ。次から気をつける。何故天霧を応援してるかって?そりゃあ天霧綾斗の勝ちに賭けてるからだよ」

 

涼子はさも当然のようにそう返すとペトラは思い切り呆れ顔になる。

 

「その言葉も既に10000回以上聞きましたよ……ああ、それと貴女に報告があります」

 

「あん?何だよ急に」

 

「先程情報が入りましたが、昨日シルヴィアとノエル・メスメルの試合の前に葉山隼人が貴方の息子に危害を加えようとして、至聖公会議の人間に拘束されたようです」

 

「ほー、あの葉虫捕まったんだ。ま、聞いた話じゃガラードワースで散々ウチの馬鹿息子disりまくってんだし因果応報だろ」

 

「そうですね。ちなみに貴女の息子には洗脳能力を持っているのですか?」

 

「あん?持ってねーよ。大方自分より下と決めつけてる八幡が上だからズルしてると思ってんだろ?」

 

涼子は呆れながらも酒を飲み干して空間ウィンドウに映る自分の息子と綾斗の試合を見るのだった。そんな涼子を見たペトラは葉山の愚行を知りほとほと呆れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「頑張って……八幡さん!」

 

治療院のある病室ではノエルが祈るように両手を合わせて綾斗と戦っている試合を見ている。

 

ノエルの見舞いに来たレティシアはノエルの応援を見て訝しげに思った。ノエルが八幡を応援するのは何度も見たが、いつも以上に気合が入っているように見えていた。

 

「あの、ノエル……比企谷八幡と何かありましたの?」

 

だから尋ねてみると……

 

 

 

「はい……実は昨日、八幡さんに告白しました」

 

「ぶふっ!」

 

ノエルが頬を染めながらそう言うと、レティシアは思わず吹き出してしまう。八幡と何かあったのは予想していたが、ノエルが告白しているというのは完全に予想外であった。

 

「そ、そうですの……それで結果は……?」

 

「もちろんダメでした。ですが諦めないで頑張っていつか絶対にシルヴィアさん達と同じ領域に達してみせます……!」

 

ノエルが握り拳を作りながらそう返すとレティシアは茨の道を歩くノエルの姿をイメージしたのだった。

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「……マズイね」

 

「……どういう事かしらシルヴィア?今の所互角に見えるけど」

 

カノープスドームの八幡の控え室にて、試合を見ているシルヴィアが苦い表情をしながら呟き、それを聞いたオーフェリアが頭に疑問符を浮かべる。

 

「単純な戦況はね。でも八幡君が近接戦で戦えているのは能力をフルに使っているからで、この状況が続けば八幡君は星辰力切れしちゃうね」

 

「じゃあ八幡は早く天霧綾斗を倒さないといけないのね?」

 

「でも天霧君クラスの人間に無理に攻めたら返り討ちに遭う可能性が高い」

 

実際シルヴィアは綾斗の身体能力は身体強化の歌を歌った自分と互角と判断している。加えて『黒炉の魔剣』もあるので無理な攻めは負けに繋がる可能性が高い。

 

「……そうなると八幡はどうするべきかしら?『黒炉の魔剣』がある以上、鎧も使えないし」

 

「奇策に奇策を重ねて隙を作るしかない、ね……」

 

シルヴィアとオーフェリアは会話をしながらも心配そうな表情を浮かべながらテレビにて綾斗と相対する八幡を見つめ続けていたのだった。

 

 

 

 

「刻め、影手裏剣豪雨」

 

俺がそう呟くと右腕に纏った影の籠手から百を超える手裏剣が顕現して天霧に襲いかかるが、天霧は左右に跳んで全て回避しながら距離を詰めにかかる。

 

「ちっ!速すぎるな……」

 

舌打ちをしながらも義手の掌から銃口を出して、天霧の足元に光弾を放つ。

 

勿論1発も当たってないが、流石の天霧でも大量の手裏剣と光弾の2つを相手に動きを鈍らない、という事はなく若干足が鈍る。

 

それを確認した俺は脚部と足首にある影雛鳥の闇翼に星辰力を込めて天霧との距離を詰めにかかる。

 

すると影手裏剣と光弾を全て対処した天霧がこちらを見ながら『黒炉の魔剣』を構えるので、その前に腰にあるホルダーからナイフ型煌式武装を3本展開して天霧の顔面と足元と腹に投げつける。

 

対する天霧は顔面と腹を襲うナイフは身体を少しズラして回避して、足元を狙うナイフは『黒炉の魔剣』で斬り落とす。

 

これで残りのナイフ型煌式武装は1本だが問題ない。隙は出来たのだから。

 

俺は瞬時に天霧との距離を詰めてからジャンプして天霧の頭目掛けて蹴りを放つ。同時に足元にある影を見て……

 

「影の刃軍」

 

自身の影から100近くの影を出して天霧の足を狙う。『黒炉の魔剣』は低く構えている状態で上空からは俺の足、下からは影の刃。倒せるかはわからないがダメージを与える事は可能だろう。

 

すると……

 

「天霧辰明流剣術初伝ーーー沙塵桜」

 

一度手首を捻ったかと思えば『黒炉の魔剣』を振るって影の刃を叩き斬りながら地面に叩きつける。

 

すると砂煙が舞いあがって俺の視界も砂煙に覆われる。慌てて蹴りを放つも、俺の蹴りは空を切った。

 

そしてそれと同時に……

 

「天霧辰明流組討術ーーー櫃羽穿!」

 

煙の中から足を襲ってくる。俺は咄嗟にクロスしてガードするも衝撃は打ち消せずに吹き飛ぶ。

 

すると間髪入れずに天霧が煙の中からこちらに向かってくる。このままじゃ負けるので

 

「荷電粒子砲、発射」

 

義手の掌から砲塔を取り出して俺と天霧がいる場所の中心にぶっ放す。すると荷電粒子砲は地面に当たって床を吹き飛ばし、砂煙や破片が宙に舞って俺の視界から天霧が消える。

 

それから警戒しながら後ろに下がるも、天霧が攻めてくる気配は感じないが、おそらく俺のカウンターを警戒しているからだろう。あいつってかなり用心深いし。

 

(危ねぇ……とりあえずギリギリだが食らいつけてるな……)

 

内心安堵の息を吐いていると、煙が晴れて離れた場所に天霧がいた。

 

今の状況はお互いにそれなりにダメージを受けているが、戦闘には支障ないレベルである。

 

(とはいえこちらは長引くと面倒だな。残る武装は『ダークリパルサー』3本にナイフ型煌式武装が1つ。義手についてはアサルトライフルはエネルギー切れで、荷電粒子砲は残り2発。臭い付きの爆竹と自爆機能はまだ使用してない)

 

加えて天霧相手に使える能力は殆どストックが切れている。将棋で言うなら王手に近い状態だ。勿論俺が追い詰められている側で。

 

(……一応作戦はあるが……ミスをしたら負けるんだよなぁ……)

 

俺の頭には作戦が1つある。しかしミスをしたら即負けに繋がる博打に近い戦術だ。

 

ぶっちゃけ余りやりたくないが、他に作戦がないのも事実。それならいっそ博打に挑むのも悪くないと考えている。

 

「仕方ねぇ……このままチマチマやっても勝ち目ないしやりますか」

 

そう判断した俺は脚部と影雛鳥の闇翼に星辰力を込めて爆発的な加速をしながら腰にあるホルダーから『ダークリパルサー』とナイフ型煌式武装を取り出す。対する天霧も同じように突っ込んでくるので俺はある程度距離を詰めてから『ダークリパルサー』を天霧の顔面に、ナイフを足に投げつけて……

 

「荷電粒子砲、発射」

 

一拍遅れて荷電粒子砲を天霧に向けて放つ。時間差で放った三連攻撃な対して天霧は……

 

「天霧辰明流剣術中伝ーーー矢汰烏!」

 

高速で『黒炉の魔剣』を振るって全て撃ち落とす。それと同時に俺との距離を詰めて……

 

「天霧辰明流剣術奥伝ーーー修羅月!」

 

薙ぎ払うかのように俺に『黒炉の魔剣』を振るいにかかる。

 

しかし俺は特に焦っていない。ここまで予想通り。矢汰烏は使った後に若干の隙が出る。俺はそれを知っているし、天霧も俺が知っている事を知っているだろう。

 

だから天霧は俺が『矢汰烏を使った隙を突いてくる』と判断する。するとどうなるかって?

 

答えは簡単。攻撃される前に距離を取るか、攻撃される前に潰すかの二択だ。そして天霧は俺を潰す選択を選んで、俺はそれを望んでいた。

 

潰すとなるとそれなりの技を使ってくるが、俺は修羅月を使ってくると思っていた。何故なら天霧は鳳凰星武祭決勝を始めここ1番の時には大抵修羅月を使ってくるからだ。

 

修羅月は相手を横切りながら高速で剣を振るう一撃必殺技だが、回避出来れば向こうはほんの僅かだが振り向くまでの時間、すなわち隙がある。

 

俺としてはその修羅月を回避して、その際に出来た隙を突くって感じだ。それも修羅月が当たる直前に。回避する事自体は簡単だが、余裕を持って回避した天霧は修羅月を中断してくるだろう。俺が狙っているのは修羅月を放った後に生まれる隙だからギリギリで回避しなきゃいけない。

 

(まあ修羅月を回避しないと意味がないんだが……な!)

 

そこまで考えていると天霧は既にこちらとの距離を詰めている。狙いは間違いなく校章であって、寸分違わずに狙っているだろう。

 

俺がやるべき事は2つ。校章を破壊されない事と、その上で致命傷を受けないことだ。前者は当然として、後者についても明日の試合を考えたら成功するべきだろう。

 

そして遂に……

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

天霧が掛け声と共に『黒炉の魔剣』を振るってくるので、俺は……

 

「ふっ!」

 

天霧が『黒炉の魔剣』を振りながら俺を横切ると同時に、僅かに身体をズラす。

 

その結果……

 

(痛ぇ……!だが回避には成功!)

 

脇に『黒炉の魔剣』が掠って血が流れる。しかし目論見は成功。校章は無事だし天霧は修羅月を中断しないで放ってくれた。

 

俺は脇から生まれる痛みと血を無視して後ろを振り向くと、丁度天霧が『黒炉の魔剣』を振り切ったところだ。

 

(こいつを待っていたんだよ!)

 

 

そう言いながら俺は義手の掌を天霧に向けてあるものを撃ち出す。対する天霧は俺の反撃を警戒してか振り向こうとするが……

 

 

パパパパパパパパパパパパッ……

 

「ううっ?!」

 

それは悪手である。天霧が振り向くと同時に軽い爆発と閃光と硫黄の臭いが生じる。いくら天霧と言えど振り向きざま、無防備の状態で食らったらマトモに動けないだろう。

 

とはいえ念には念を入れて俺は右手で『黒炉の魔剣』を掴んで動きを封じる。それによって右手から熱を感じて激痛が走るがそれを無視して左腕の義手を天霧の胸に突き出す。

 

義手で『黒炉の魔剣』を掴めば火傷はしないが、天霧を確実に仕留める為には武器を大量に搭載した義手を使いたい。

 

だから俺は右手の火傷を覚悟で、左手を天霧の胸に向けて……

 

 

 

 

「(俺の勝ちだ天霧!)……爆!」

 

そう叫んだ瞬間、俺の義手が光り輝き……

 

 

 

ドォォォォォンッ……

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ぐぉぉぉぉぉぉっ!」

 

爆発して俺と天霧はその衝撃で反発するように吹き飛び……

 

 

『天霧綾斗、校章破損』

 

『比企谷八幡、校章破損』

 

両者の校章が破壊される事を告げられる。それから一拍置いて……

 

 

 

 

 

『試合終了!勝者、比企谷八幡!』

 

俺の名前が挙げられた。天霧の方が先に破壊されたのは爆心地が俺の校章より天霧の校章の方が近かっただろう。ギリギリだけど……

 

(ともあれ勝ちは勝ちだ……俺は決勝に上がったぞシルヴィ)

 

そう思いながら俺は観客席から大歓声を浴びながら暫くの間、大の字になって床に倒れたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今頃準決勝か……今まで卑怯な手を使っていた比企谷もそろそろイカサマを見破られて捕まるだろう。いつまでも卑怯な手が通じると思うなよ……!」


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