学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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色々ありながらも試合の時間は近付いていく

「痛ててててっ!ち、鎮痛剤!鎮痛剤を早くお願いします!」

 

「はいはい……打ったわ。直ぐに痛みが引くわよ」

 

「あ、あざす」

 

カノープスドームの医務室にて、決勝に進出した俺は医務室にて治療を受けているが身体がマジで痛い。

 

全身は天霧の容赦ない攻撃に加えて最後の自爆でメチャクチャ痛いし、右手は『黒炉の魔剣』の動きを封じる為とはいえ掴んだので大火傷、左手は自爆によって吹き飛ぶとかなりボロボロだ。

 

(まあ天霧相手にこの程度のダメージなら僥倖か……)

 

ちなみに天霧はというと、既に敗者となったので治療院に行って治癒能力による治療を受けている。ルールだから当然っちゃ当然だがマジで羨ましい。俺も治癒能力による治療を受けたいです!

 

そんな事を考えていると……

 

「処置が終わったわ。とりあえず今日は安静にしときなさい。でないと明日の試合で負けるわよ」

 

言われるまでもない。決勝を前にしてはしゃぐなんて馬鹿極まりないだろう。

 

「わかってますよ。んじゃ処置ありがとうございました」

 

そう言ってから俺は一礼して立ち上がる。明日までにどの程度回復するかはわからないが、明日はどんな状態でも全力を出すつもりだ。明日が最後の試合だから次の試合はないので、出し惜しみをする必要はないからな。

 

息を吐いてから医務室を出ると……

 

「……お帰り八幡。決勝進出おめでとう」

 

「私も上がるから待っててね」

 

恋人2人が俺を出迎えてくれる。すると先程まであった疲れが薄まってくる。2人の笑顔には癒し成分が含まれているのだろう。

 

「わかってる。待ってるから夕方の試合で勝ってこい」

 

「うん!」

 

夕方にシルヴィと暁彗の準決勝第2試合が行われる。この試合は間違いなく激戦となるだろう。

 

片や歌を媒介としてあらゆる事象を引き起こす世界で最も万能な魔女

 

片や錬星術という星辰力の性質を変える規格外の術と世界最強の存在に鍛え上げられた肉体を持つ武人

 

この勝負については俺個人としてはシルヴィに勝って欲しいが、どっちが勝つかについては全く予想出来ない。

 

(ま、シルヴィがこう言っているのだからシルヴィを信じるか。てかどっちが勝ち上がろうと俺がそれを上回るだけだ)

 

シルヴィが勝ち上がろうと暁彗が勝ち上がろうと俺は負けるつもりはない。ここまで来たら優勝を目指すだけだ。

 

そこまで考えていると……

 

pipipp……

 

オーフェリアのポケットから音楽が流れだす。この着信音は……

 

「……試合前に八幡から預かった端末ね」

 

やはり俺の端末に着信が来たようだ。というか試合前にも沢山電話が来たが狙っているのか?

 

疑問符を浮かべていると、オーフェリアはポケットから俺の端末を取り出して俺に渡そうとするも……

 

「…………」

 

「何故そこでジト目で俺を見る」

 

「………ノエルからの電話よ」

 

「………ふーん。決勝進出のお祝いの言葉なんじゃない?良かったね八幡君」

 

恋人2人からジト目で見られる。理不尽過ぎる……そりゃ試合前に2人の前で大好きって言われたから睨まれるのは仕方ないけどさ、これについては俺、悪くないだろ?(*ノエルは試合前に電話した際はオーフェリアとシルヴィアに気付いていないです)

 

「……出ないの?」

 

「出て良いのか?」

 

「……八幡に来た電話なのだから私達がどうこう言うつもりはないわよ」

 

そう思うならジト目は止めてください。胃が痛くなるので。

 

「(ともあれスルーするのは申し訳ないし出るか)じゃあ失礼して……もしもし?」

 

空間ウィンドウに表示してから繋げるとノエルの顔が空間ウィンドウに映る。

 

『あ、八幡さん!決勝進出おめでとうございます!』

 

「ありがとな」

 

『試合を見ましたが本当に格好良かったです』

 

「そうか?泥臭い戦いだっただろ?」

 

奇策に奇策を重ねてギリギリ勝ったのだ。泥臭い勝負でガラードワースの人間からしたら受け入れられない勝負だと思う。

 

「いえ。諦めないで勝ちに向かう姿勢を見せていた八幡さんは格好良くて……ますます好きになってしまいました……」

 

「お、おう……」

 

頬を染めるノエルを見て思わず言葉に詰まってしまうが、そういった事をハッキリと言うのは止めて欲しい。でないとドキドキしてしまうし、恋人2人に睨まれて胃が痛くなってしまう。

 

するとノエルは一度首を振ってから俺に話しかけてくる。

 

『そ、それより!明日の決勝なんですけど、院長から許可が下りたので直接応援に行きますから頑張ってください!』

 

「そ、そうか。それはありがた「はちまーん!」……うおっと!」

 

『ええっ!』

 

そこまで話しているといきなりレナティが現れて俺に抱きついてきて、空間ウィンドウに表示されるノエルの顔に驚きの色が混じりだす。

 

「決勝進出おめでとー!レナ、明日の決勝も見に行くから頑張ってね!」

 

持ち前の純粋無垢な子供のような笑顔を浮かべてくる。癒されるわぁ……

 

レナティの純粋さに癒されていると……

 

『あの、八幡さん……もしかして彼女も八幡さんの事を……』

 

ノエルが不安そうな表情で俺を見てくる。悪い事をしてないのに罪悪感が湧いてくるな……

 

しかしノエルの質問に対する答えはNoだろう。俺自身レナティに懐かれている自信はあるが、ノエルと違って恋愛感情はないと判断出来る。

 

そう返事をしようとすると、その前にレナティが割って入る。

 

「あー!はちまんと似た鎧を付けた人だー!初めまして!」

 

『え?ええっと……初めまして?』

 

「昨日の試合見たけどすごかったー!今度はレナともバトルしよう!」

 

『えっと……バトル?』

 

「うん!バトル!」

 

言いながらレナティはシャドーボクシングをする。そこらの人が見たらレナティは可愛らしく見えるが、1発1発の破壊力を知っている俺からしたら全然可愛くない。

 

まあそれはともあれ、レナティの純粋な言葉にノエルは不安そうな表情を消して焦りだす。どうやらノエルもレナティの純粋無垢な性格に戸惑っているのだろう。

 

しかし……

 

『ごめんねレナティちゃん。私の学校は基本的にバトルが禁止されているんだ』

 

ノエルの所属するガラードワースは決闘が禁止されている。俺や星露が鍛えた時は異空間だからバレなかったが、それ以外の場所で他所の学園の生徒と戦うのは厳しいだろう。ましてレナティは擬形体だから星武祭期間外に学園の外に出るのは厳しいだろう。

 

「ちぇー、じゃあ仕方ないかー」

 

レナティは不満タラタラの表情を浮かべるも無理に挑むつもりはないようで簡単に引き下がった。

 

その時だった。

 

「あー、居たー!」

 

後ろからそんな声が聞こえてきたので振り向けばレナティの母親のエルネスタが顔を真っ赤にして怒りを露わにしながらこちらに走ってくる。そういやさっきは試合前だから途中で逃げたな。

 

今回は疲れているので逃げよう。

 

「じゃあレナティ、お前の母ちゃんが怖いから逃げるわ。また明日な。行くぞオーフェリア、シルヴィ」

 

言いながら俺は走りながらオーフェリアとシルヴィを顎で来るように促すと、2人もそれに従って走りだす。後ろから叫び声が聞こえてくるか気にしないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

2分後……

 

「そんな訳で明日応援に来るなら無理はするなよ?」

 

カノープスドームの外に出た俺はノエル相手に先程の電話の続きをする。エルネスタ本人は運動神経が悪いようで直ぐに撒けた。

 

『もちろんです。あ、それとシルヴィアさん、私としては八幡さんとシルヴィアさんの試合が見たいので夕方からの試合、頑張ってください』

 

「あ、うんありがとう。もちろんそのつもり」

 

ノエルの応援にシルヴィは一瞬キョトンとするも直ぐに頷く。昨日の今日だし揉めないか心配だったが、思った以上に仲が悪くなくて良かった。

 

『あ、私検査があるので失礼します。お時間を取らせていただいてありがとうございました!』

 

「おう。また明日」

 

『はい!では失礼します』

 

ノエルが一礼すると通話が終わったので空間ウィンドウを閉じる。

 

「さて……シルヴィの試合まで時間はあるが飯でも食いに行かないか」

 

天霧の試合でかなり疲れたし、美味いものを食べて体力を回復しておきたい。シルヴィについても夕方にある試合に備えて英気を養っておきたいだろうし。

 

「もちろん。じゃあ行こっか?」

 

「……どうせなら行政区の立派なレストランにでも行きましょう。八幡の勝利祝いとシルヴィアの景気付けに」

 

それが良いだろうな。たまには行政区にある美味い飯屋で食事をしたいし。しかしその前に……

 

 

 

 

 

 

「そろそろ顔に付いてあるキスマークを落として良いか?」

 

既に天霧との試合で全世界に発信されたとはいえ恥ずかしいですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分後

 

2人の許可を貰ってキスマークを落とした俺は行政区にある割とゴージャスなレストランで飯を食う事になった。流石に高級レストランとまでは言わないが予約無しで食える店にしては上出来な店だ。

 

俺はそんな店で先程の試合で溜まった疲れを癒そうと考えていたのだが……

 

「八幡君八幡君、このハンバーグ美味しいよ?あーん」

 

「八幡、こっちのムニエルも美味しいわよ?あーん」

 

恋人2人が俺に密着して全ての料理をあーんで食べさせてきて、周囲から殺意の混じった視線を受けまくりで癒しが半減しております。

 

家の中でなら慣れてるが、今回はいつも以上に積極的な気がする。2人の食器を持ってない方の手は俺の太腿をさすってくるし、さっきソーセージを食べた時はソーセージゲームをさせられたし。

 

「なぁ、お前ら……なんかいつも以上に積極的じゃね?何があったのか?」

 

「……だって王竜星武祭が始まってからイチャイチャする時間が減って寂しいから」

 

それについては否定しない。オーフェリアはともかく、俺とシルヴィは王竜星武祭(特に本戦)が始まってからイチャイチャする時間が大幅に減った。特に壁を越えた人間と戦った時や大ダメージを受けた時はイチャイチャせずに寝たし、王竜星武祭が始まって以降、俺は2人を1回も抱いていない。

 

まあ翌日に試合がある以上仕方ないっちゃ仕方ないが、物足りないのは事実だ。だから今いつも以上に積極的なのだろう。

 

「……それに八幡、ノエルに告白されていたし」

 

「うっ……それは済まん」

 

「別に八幡が謝ることじゃないわ。誰が誰に恋しようと自由なのだから。単純に私が嫉妬してるだけよ。それより……んっ」

 

オーフェリアはポテトを咥えて俺に突き出してくる。これはアレか?ソーセージゲームに続いてポテトゲームをしろって言いたいのか?

 

(仕方ない。2人は寂しいみたいだしやるか。てかソーセージゲームをやった時点で今更だろうし)

 

そう思いながら俺はオーフェリアの咥えるポテトの反対側を咥えて食べ始める。するとオーフェリアは見た目によらず物凄いスピードでポテトを食べだす。どんだけキスをしたいんだお前は?

 

俺は内心呆れながらもオーフェリア同様にポテトを食べて……

 

 

 

ちゅっ……

 

オーフェリアとの唇の距離をゼロにする。同時にオーフェリアの柔らかい唇の感触が伝わってくる。そして周囲の客はカメラを構えているが、もうどうでも良いや。撮られるのは慣れたし。

 

そう思っているとオーフェリアが俺の首に腕を絡めようとしてくるので俺はオーフェリアから距離を取る。

 

オーフェリアは不満そうな表情を浮かべるが、オーフェリアが腕を俺の首に絡める=ディープキスをするってのはわかっている。飯を食い終わってない状態でディープキスをしたら店を出るのが数時間後になってしまうのは簡単に想像できるから、心を鬼にしてオーフェリアを引き離す。

 

するといきなり右肩を叩かれたので横を見ると……

 

「んー……」

 

シルヴィがサラダのアスパラガスを咥えて俺に突きつけてくる。お前もかシルヴィ……

 

(まあオーフェリアにもやったんだしやらないとな)

 

そう思いながら俺がアスパラガスを口にすると、シルヴィは物凄い勢いよくアスパラガスを食べ始める。オーフェリアもそうだがお前らどんだけキスをしたいんだ?

 

(まあ俺も嫌じゃないけどさ……)

 

そう思いながらもアスパラガスを食べだして……

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

そのままキスをする。やはりキスというものは麻薬のように恐ろしいな。ちゃんと頻度を考えてしないといけない。

 

結局俺達は飯を食い終わるまでこのようなやり取りをしながら食事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後……

 

「じゃあ八幡君、オーフェリア。行ってくるね」

 

プロキオンドームのシルヴィの控え室にて、シルヴィは俺とオーフェリアにそう言ってくる。

 

シルヴィは今から準決勝があり、界龍の序列2位の暁彗と戦う。勝った方が明日の決勝で俺と戦う事になる。

 

「……気をつけて」

 

「だな。相手は間違いなく強いが、頑張れよ」

 

「ありがとう……あっ、その前にお願いがあるんだけど良いかな?」

 

「何だ?」

 

「正直に言うと結構緊張してるんだ。だから……3人揃ってのキスがしたいな」

 

シルヴィはそんな事を言ってくるが、その程度の事ならお安い御用だ。

 

オーフェリアを見ると小さく頷いたので俺達は身体を寄せ合い……

 

 

 

 

「「「んっ………」」」

 

そのまま3人で唇を重ねる。俺の唇にはオーフェリアとシルヴィの唇の感触がするので、試合をするシルヴィの唇には俺とオーフェリアの唇の感触がするだろう。

 

暫くキスをしているとシルヴィが唇を離して満面の笑みを浮かべてくる。

 

「ありがとう2人とも……行ってきます」

 

その言葉を最後にシルヴィは控え室から出て行った。顔を見る限り緊張は無くなっているようだ。これなら試合もベストな状態で挑めるだろう。

 

「さて……俺達は応援するぞ」

 

「……そうね」

 

そう言いながら控え室に備え付けのテレビをつけるとプロキオンドームのステージが映されて……

 

 

『長らくお待たせいたしました!これより準決勝第2試合を開始致します!』

 

実況の声が聞こえてると、一拍置いて控え室に轟音が響きだす。星武祭に参加している人間ならこの正体を知っている。

 

これは歓声だ。試合を待ち望んでいた観客達の歓声である。しかしこれほどの歓声は星武祭でも余り聞かないほどだ。

 

しかしそれも仕方ないだろう。

 

何せ今から戦う人間は世界の歌姫とアスタリスク……いや、世界最強の一番弟子なのだから。

 

 

こうして歌姫と武神の戦いの幕が上がる。


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