学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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遂に王竜星武祭最終日が始まる

pipipi……

 

アラーム音が耳に入ったので薄っすらと目を開けると、部屋の窓からは眩しい朝の日差しが部屋全体を照らしていた。

 

それによって完全に目を覚ました俺は未だに鳴り続けているアラームのスイッチを切ってベッドから身体を起こして伸びをする。そして左右を見渡すと誰も居なかった。どうやら俺が最後のようだ。

 

(しっかし決勝に相応しい程良い天気だな……)

 

改めて窓を見れば雲1つないまさに快晴だった。今日の正午には王竜星武祭の決勝があるが、最後の試合に相応しい天気と言って良いだろう。

 

そんな事を考えていると部屋の外から良い匂いがしてくる。おそらく俺の可愛い恋人が朝飯を作ってくれているのだろう

 

「嗅いでいたら腹が減ってきたな……」

 

 

早速朝飯にありつくべく、俺はベッドから降りてパジャマを脱ぎ捨ててレヴォルフの制服に着替える。

 

真っ黒の制服を身に纏い寝室を出てから階段を下りてリビングに向かうと……

 

「あ、おはよう八幡君。ちょうど今起こそうとしてたんだ」

 

「……おはよう八幡。もう少しで出来るから座っていて」

 

恋人であるシルヴィとオーフェリアが優しい笑みを浮かべながら俺を迎えてくれる。

 

「おはよう」

 

2人に挨拶を返した俺は席に座ってついてあるテレビを見れば予想通り今日の正午に始まる決勝の事に関するニュースで俺とシルヴィのこれまでの試合を映している。あ、今葉山の背中を殴るシーンが流れた。

 

「あ、八幡君。私試合前にペトラさんに呼ばれてるからご飯を食べたらクインヴェールに行くね」

 

今の時刻は9時ちょい。って事は9時半頃に家を出るのか。

 

「こんな時にも仕事の話か?」

 

「多分激励だと思うな。3年前も決勝前に呼ばれてペトラさんやルサールカから激励を受けたし。それに予備のフォールクヴァングを取りに行く予定だし」

 

そういやシルヴィの煌式武装のフォールクヴァングは昨日暁彗にぶっ壊されていたな。

 

「なるほどな。話はわかった。んじゃ次に会うのはステージだな」

 

「そうだね。私、八幡君と戦うのが今から楽しみだよ」

 

「俺もだよ」

 

俺はアスタリスクに来てから決闘や公式序列戦、星武祭であらゆる相手と戦ったがシルヴィとの戦いはトップクラスに楽しい戦いだった。

 

(というか楽しいと思える戦いが少ないんだよなぁ……良い勝負は割としてるが心から楽しかったと断言できる試合なんてシルヴィとの試合とレナティとの試合ぐらいだし)

 

そんな事を考えていると食器の音が聞こえたので考え事を中断して顔を上げるとテーブルの上に焼いたフランスパンを始め、ベーコンやスクランブルエッグ、コンソメスープなどいかにも朝食らしい料理が置かれていた。

 

見ればオーフェリアが優しい笑みを浮かべながらフォークとスプーンを並べている。

 

「さあどうぞ。召し上がって」

 

オーフェリアがそう言うので俺とシルヴィは両手を合わせて……

 

「「いただきます」」

 

言いながら食べ始める。同時に旨味によって先程まで溜まっていた眠気が吹き飛んでいく。試合に備えてしっかり食べておかないとな。

 

「あ、それと八幡。私は10時にクロエ達と商業エリアで待ち合わせをしているから9時半ごろに出るわ」

 

「シルヴィと殆ど同じ時間か。わかった」

 

「……八幡はどうするの?」

 

「俺は1番落ち着く家でリラックスしたいし、10時過ぎに家を出て10時半頃に会場入りするつもりだ。11時前に小町と会う約束をしているからな」

 

その際も影に潜って会場入りするつもりだ。例の葉山グループの襲撃があるかもしれないから万全を期していきたい。

 

「じゃあ今日は全員バラバラだね」

 

「まあ偶にはこんなこともあるだろ」

 

言いながら朝食を食べる。今日は試合が終わるまでは全員バラバラだな。まあ終わってから直ぐに会えるし我慢だな。

 

そんな事を考えながらも俺達は決勝当日にもかかわらず、楽しい朝食タイムを過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあまたね八幡君」

 

「次会うのはシリウスドームね」

 

午前9時半、俺は自宅の前でシルヴィとオーフェリアを見送る。シルヴィはこれからクインヴェールに向かって、オーフェリアは商業エリアに向かう。

 

「ああ。じゃあまた後で」

 

言いながら俺は2人に寄ると2人も同じように顔を寄せてきて……

 

 

ちゅっ……

 

3人でキスをする。2人の唇の感触が伝わり更に力が漲ってくる。これならどんな相手にも負ける気はしない。

 

暫くキスをすると2人は離れてから両者共に笑顔を見せて、各々の目的地に向かって歩き去って行った。

 

2人が見えなくなった俺は一息吐いてから自宅に入り、自室に向かって煌式武装の準備をする。『ダークリパルサー』も昨日の試合で何本か天霧の『黒炉の魔剣』に焼き斬られたし、予備の煌式武装をホルダーに入れる。

 

(というか今大会で有力選手が『ダークリパルサー』を使いまくっているが材木座は大丈夫なのか?)

 

俺とベスト8入りしたノエルと若宮が使ったし。ついでに言うとベスト16のヴァイオレットも使ってはいないが所有している。今更だが『ダークリパルサー』便利過ぎだろ?

 

そんな事を考えながらも煌式武装の準備をして、義手の内部にある仕込み武器の確認をする。

 

(荷電粒子砲にアサルトライフル、臭い付き爆竹に自爆機能もちゃんとあるな……良し、装備は万端だな)

 

装備を確認した俺はベッドに座り、昨日までのシルヴィの戦闘記録を見直す。要注意なのは昨日の暁彗戦で見せた光の槍。アレは多分俺の影神の終焉神装を一撃で打ち破れる可能性はあるだろう。

 

(だが槍の使い方は圧倒的って訳じゃないし何とか出来るだろう……)

 

見る限りシルヴィの槍の使い方は一流だが、フォールクヴァングを使っている時のシルヴィの方が強く感じる。アレは一撃必殺だろうし、直ぐに使う事はないだろう。

 

(となると厄介なのは光の衣だな)

 

今大会で始めて披露して、雪ノ下陽乃戦で見せた光の衣。見る限り単純性能なら俺の影神の終焉神装の方が上だが、能力を使用する俺とシルヴィのバトルセンスを比べたらシルヴィの方が一枚上手だ。さてさて、どう攻めるか……

 

俺は改めて今回の王竜星武祭のシルヴィの記録を見直したのだった。

 

 

 

 

30分後……

 

「んじゃ……行くか」

 

記録を見直してある程度の作戦を考えた俺は自身の影に星辰力を込めて影の中に入り、そのまま家を出る。これで控え室まで行けば観客に捕まる事はないし、葉山グループのメンバーから襲撃を受ける事もないだろう。

 

そうして影に潜った俺は可能な限り速くシリウスドームに向かうと、沢山の人が色々な店を見渡している。これらの人間は決勝を直で観れずテレビで見る人間だろう。ドームで直で観れる人間は既にドーム入りしている筈だ。実際3年前の決勝では殆どの人間が2時間以上前からドーム入りしていたし。

 

(しかし世界で一番人気のイベントーーーそれも最も盛り上がる場面に俺が出るとはな……本当、人生ってのは良くわからんな)

 

アスタリスクに来る前は力を隠してノンビリと過ごしていたんだがな。それが今は王竜星武祭ファイナリストだし。

 

そんな事を考えながらもシリウスドームに向かうと、進むにつれて影越しでも凄い熱気が伝わってくる。ドームの外にある露店の利用客も今か今かと待ち望んでいるような表情を浮かべている。

 

(こりゃ影の中に入って良かった。でなきゃ間違いなく捕まって色々と話を聞かされそうだし)

 

内心安堵の息を吐きながらも俺はドームの中に入り、選手控え室に向かう。選手控え室がある区画は今大会に参加した選手及び選手が同行を許した人間しか入れない。

 

つまりその区画に入れる人間は今大会の参加者256名+αと少ないので熱気はそこまでないだろう。

 

そう考えながら目的の区画に入ろうとすると……

 

「うげっ……」

 

三浦や葉山グループの三馬鹿を筆頭にガラードワースの生徒がズラリと歩いていた。そしてその背後には複数の手練れの気配を感じるが、前に葉山を拘束した面々もいるだろう。

 

三浦達は全員ポケットに手を突っ込んでいるが、ポケットの中には間違いなく待機状態の煌式武装があるだろう。馬鹿正直に煌式武装を出したら巡回する警備員に捕まるからな。

 

しかも今はただ歩いているだけだから至聖公会議が動く事は無理だろう。連中も出来るだけ顔を表に出したくないだろうし。

 

(ちっ、闇討ちなんて馬鹿げた考えは持ってる癖に保身に関しては上手いな)

 

内心舌打ちをしている時だった。

 

俺の頭上を歩く音が聞こえたので顔を上げると……

 

「あ、ヒキオの妹じゃん。ちょっとツラ貸せし」

 

試合前に会う約束をしている小町が三浦達に呼び止められていた。小町は俺に会いにきたのだろうが、向こうからしたら俺を呼ぶ為の餌でしかないだろう。というか小町の奴、両腕に包帯を巻いているが大丈夫か?

 

そんな事を考えていると、三浦の上から目線の要求をされた小町は……

 

「お断りします。小町は暇じゃないですし、どうせ兄を呼んで逆恨みを晴らす為の餌にするつもりでしょうから」

 

普通に要求を蹴った。まあ少しでも見る目を持つ人間なら余裕でわかるだろう。

 

しかし向こうからしたら当然納得する筈もなく……

 

「は?あの屑の妹の癖に逆らってんだし」

 

当然のように文句を言ってくる。それに対して小町は怒らずに嘲笑を浮かべる。

 

「いやいや。お兄ちゃんが屑なら、その屑に1回戦で負けた貴女達のボス猿はそれ以下ですよ?というかアルディさんに秒殺された貴女も良い勝負ですからね」

 

小町がそう言うと三浦率いるガラードワースの面々は……

 

「はぁ?!何ふざけた事言ってんだし!隼人が負けたのはヒキオが卑怯な事をして、あーしが負けたのは偶々だし!」

 

『そうだそうだ!葉山君があんな屑に負ける訳ない!』

 

『葉山君は序列16位で今大会に参加したガラードワースのメンバーではノエルさんの次に強いんだぞ!』

 

案の定キレて小町に突っかかる。てか今大会に参加したガラードワースのメンバーでノエルの次に強いだぁ?俺からしたら3回戦で戦った黒騎士の方が葉山より強かったぞ。

 

(確かに黒騎士を除いたらノエルの次に強いかもしれないが、ノエルとの差は雲泥の差だろ?)

 

ノエルはシルヴィ相手に良い勝負を出来たし、壁を越えた人間と戦える実力を持っているが、葉山はぶっちゃけ雑魚だろう。

 

そんな事を考えていると小町も同じような事を考えたのか露骨にため息を吐く。

 

「あー、はいはい。話はわかったんで失礼します。小町これから兄に会うんで雑魚に構ってる暇はないんです」

 

言いながら小町が俺の控え室に向かおうとする。すると葉山グループの面々は猿のように真っ赤になってポケットに手を入れて……

 

「ふざけんなし!屑の妹があーしらに逆らうなし!」

 

煌式武装を取り出そうとする。予想通りの展開だ。しかし妹に手を出させる訳にはいかないので俺は影から出て止めようとするが……

 

 

「がっ……!」

 

小町は瞬時に先頭にいる三浦と距離を詰めて足払いをしたかと思えば、バランスを崩して地面に倒れた三浦の顎を蹴って気絶させる。流石魎山泊のメンバーだけあって鮮やかである。

 

それを見たガラードワースの面々はポカンとした表情になるも、直ぐに顔に怒りを浮かばせてポケットから煌式武装を取り出そうとするも、小町はそれよりも速く地面に倒れ臥す三浦の腹に蹴りを入れてガラードワースの面々に叩きつける。

 

「うわあっ!」

 

それによってガラードワースの面々は驚きを露わにしてメチャクチャ動揺する。戦場において必要以上に動揺するのはこの上ない愚行である。

 

そんな隙を小町が見逃す筈もなく……

 

「三浦さんになんて事を!絶対に許さながっ!」

 

「なっ!なんで両手を骨折しているのに……ぐぅっ!」

 

「だ、だべぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

「がはっ!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 

高速で全員の頭や顎に蹴りを入れる。すると全員頭を揺らされて脳震盪を起こしたのか地面に倒れ臥す。やはり小町も魎山泊で鍛えただけあって強くなってるな。

 

(一応影の外に出て戦う準備はしていたが、俺が出る幕はなかったようだな。しっかし三浦達が弱過ぎる。幾ら小町が強いからって両手を使えない状態で何も出来ずに負けるか普通?)

 

内心呆れながら倒れている葉山グループのメンバーを見ると、小町が息を吐いて口を開ける。

 

「それじゃあ小町は行きますが……そこでコソコソ隠れている人達。今回はガラードワースに訴えないので後はよろしくお願いしますね」

 

そう言って小町は俺の控え室に向かって行った。暫くすると虚空から4人のスーツ姿の男性が現れる。内2人は以前葉山を拘束したスティーブとヴォルグがいるから至聖公会議のメンバーだろう。

 

4人はアイコンタクトをすると三浦達を担ぎ上げて再度虚空に消えた。仕事が早いのは第三者に見られたくないからだろう。俺は見ているけど。

 

そんな事を考えながら俺は小町の後を追ったのだった。

 

 

尚、いきなり影の中から出て小町に話しかけたら小町はメチャクチャビビって腰を抜かしてしまった。

 

お前さっきアレだけ暴れたのにそれだけでビビるっておかしくね?


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