学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

291 / 324
比企谷八幡とシルヴィア・リューネハイムは決勝前に激励を受ける

「ではシルヴィア、そろそろ会場に向かいましょう」

 

「うん、わかってる」

 

クインヴェールの理事長室にてペトラがシルヴィアに話しかけるとシルヴィアは頷いて立ち上がる。

 

「んじゃ私も行くわ。例の葉虫一派がシルヴィアちゃんを狙う可能性は0じゃないし」

 

「よろしくお願いします」

 

同時にペトラの横に座っていた涼子も立ち上がりペトラにそう言うとペトラも頷く。万が一これから決勝に参加するシルヴィアが試合前に怪我でもしたら大問題なので、ペトラとしてもシルヴィアの護衛に世界で10本の指に入る実力者の涼子を就けるのは賛成である。

 

「じゃあ行こうぜー」

 

涼子がテンションを上げながらシルヴィアとペトラの手を引っ張りながら理事長室を出る。そしてエレベーターで一階に降りてから送迎用の車がある場所に向かうと……

 

 

「シルヴィアさーん!」

 

いきなり甲高い声が聞こえたのでシルヴィアが振り向くと、そこにはクインヴェールのNo.2アイドルのルサールカリーダーのミルシェを筆頭に沢山の生徒が揃っていた。その数は200人以上であり、中には冒頭の十二人のメンバーなどの高位序列者もいて、クインヴェールの戦力の殆どが集まっていた。

 

「決勝頑張ってくださーい!」

 

「クインヴェールの序列1位底力を比企谷の奴に再度見せてやれー!」

 

「久しぶりにクインヴェールが王竜星武祭優勝を果たすのよ!」

 

「頑張って……!」

 

「後から応援に行きます!」

 

「優勝トロフィーを持ち帰ってくださいお姉様!」

 

「クインヴェールに栄光を!」

 

沢山の生徒がシルヴィアを応援する。同時にシルヴィアは自身が序列1位であること、生徒会長である事を改めて認識した。

 

(そうだよね……今日の決勝戦が私の最後の試合……頑張ろう)

 

恋人である八幡には悪いが決勝戦を譲るつもりはない。自分が負けず嫌いであるから、クインヴェールの序列1位にして生徒会長であるから、そして自分の学園の生徒の期待に応えたいから。

 

だからシルヴィアは持ち前の笑顔を浮かべてから笑顔で手を振る。

 

「皆……行ってきます!」

 

それに対してミルシェ達の応援陣は一瞬ポカンとした表情を浮かべて顔を見合わせるも……

 

 

『行ってらっしゃい!』

 

すぐに満面の笑みを浮かべて手を振り返した。

 

それを見たシルヴィアは幸せな気分になりながら再度手を振って、送迎用のリムジンの後ろに乗る。そしてペトラが前の席に、涼子がシルヴィアの横に座るとリムジンはゆっくりと動き出して、クインヴェールの校門をくぐって、アスタリスク中央区ーーーその中心であるシリウスドームに向かって走り出したのだった。

 

(待っててね八幡君。絶対に負けないから……!)

 

シルヴィア不敵な笑みを浮かべながら遠くに見えるシリウスドームを眺めだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん頑張ってね。もう妨害はないだろうから全力を出しても大丈夫だし」

 

シリウスドームにある俺の控え室にて俺は実妹の小町から激励を受けている。妹からの激励って本当に元気になるなぁ……

 

「わかってる。ところで身体は大丈夫なのか?」

 

小町はさっき三浦率いる葉山グループのメンバーにちょっかいをかけられた際に両腕の骨が折れた状態でぶちのめしたが、怪我がないか心配である。

 

「大丈夫だって。1発も食らわなかったし」

 

「なら良いが……」

 

「お兄ちゃんってば本当に心配症だなぁ……というかあの人達弱過ぎじゃない?」

 

否定はしない。獅鷲星武祭の時に比べて殆ど強くなってないし。三浦は後一回星武祭に参加する資格を持っているが、今のままじゃ葉山同様に全て1回戦負けで終わるのが目に見えるわ。

 

「だな。そういや小町は最後の星武祭は何に参加するんだ?」

 

「当然3年後の王竜星武祭に決まってんじゃん!大舞台でお兄ちゃんと戦いたいし、星露ちゃんも出るだろうしね」

 

ああ……そういや3年後には星露も王竜星武祭に参加出来る歳になってるな。そう考えるとマジでやる気が削がれてくる。あいつマジで強過ぎてやる気が削がれるし。オーフェリアが力を制御して弱体化した以上、星露に勝てる人間はいない気がするな。

 

「そうかい……まあ頑張れ」

 

「うん!……っと、そろそろ小町行くね。シルヴィアさんの所にも行かないといけないし」

 

「そうか。じゃあまたな」

 

「うん!じゃあ頑張ってねー!」

 

小町はそう言ってから控え室から出て行った。いつも通りハイテンションだ。

 

(まあ見ていてこっちも癒されるけどな……)

 

そう思いながら俺は軽いストレッチをし始めた。決勝まで1時間弱、万全を期しておかないとな。

 

そう思いながら暫くストレッチをしているとインターフォンが鳴り出すので空間ウィンドウが表示すると……

 

『は、八幡さん……いらっしゃいますか?』

 

俺の愛弟子の1人にして、一昨日俺に告白をしたノエルが控え室前にいるのを理解したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルヴィアがリムジンに乗ってシリウスドームに到着してドームに入り選手の控え室がある区画に向かうと、その区画の手前にて取材陣が待ち伏せしていて一斉にシルヴィアに詰め寄りにかかる。

 

これは予想内である。3年前も似たような事を経験したし、今シーズンの獅鷲星武祭ではルサールカもドームに向かう時に取材陣や観客に詰め寄られた事がある。

 

その時にはシルヴィアは試合前だから若干鬱陶しく思っていたが……

 

 

 

 

「退け、試合前にシルヴィアちゃんの邪魔すんな。潰すぞ」

 

今回は涼子という最強の護衛が全てを擦り潰すが如く圧倒的なプレッシャーを噴き出して取材陣を追い払った。

 

マスコミは基本的に文句を言われたら有る事無い事を報道する傾向があるが、涼子に対してそれをやることは厳禁としている。

 

涼子は学生時代に雑誌記者に取材を受け、不躾な質問をされた際に堂々と死ねと言った。結果その雑誌記者は涼子を悪く書いた雑誌を出版した。

 

しかしその雑誌が出版された翌日、涼子は元レヴォルフ序列2位『釘絶の魔女』谷津崎匡子を始めとした舎弟らを引き連れて、雑誌の出版社に殴り込みをして、出版社のビルを倒壊させた。

 

結果としてテレビ局や雑記の取材記者は涼子を悪く報道するのは厳禁であると学んだのだった。したら自分の会社ビルも倒壊させられると内心ビビりながら。

 

レヴォルフ最強の喧嘩屋は報道の自由すら捩じ伏せるのであった。

 

 

閑話休題……

 

その考えは今でも受け継がれていて、涼子のプレッシャーを感じた取材陣は逆らわずにシルヴィア達から距離をとった。

 

「……メディア嫌いは相変わらずですね。まあ試合前にシルヴィアに対して邪魔になる可能性のある要素を排除するのはありがたいですが」

 

「だろー?もっと褒めて良いぜペトラちゃん」

 

「だからと言って殺気を出し過ぎです」

 

「はいはーい……って、オーフェリアちゃんに赫夜のメンバーじゃん!」

 

涼子の視線の先にはオーフェリアとチーム・赫夜の5人がいた。美奈兎だけは暁彗との戦闘の傷が癒えておらずボロボロになっているが1人も欠けずに揃っていた。

 

「シルヴィアさん!シルヴィアさんと八幡君の応援に来ました!」

 

先頭を歩く美奈兎はボロボロになりながらも持ち前の笑顔を浮かべながら寄ってくると、シルヴィアも自然と口元が緩む。

 

「シルヴィアさんと八幡さんの試合、楽しみにしてます」

 

「是非とも2人の全力が見たいですわ!(……そして八幡さんの格好良い所も見たいですわ)」

 

「2人とも頑張って……!」

 

「クインヴェールの生徒としては問題かもしれないけど、私達は中立だから、2人とも頑張って欲しいわ」

 

続いて柚陽、ソフィア、ニーナ、クロエがシルヴィアに応援する。その際に全員自分と八幡の応援に来たと口にする。

 

「シルヴィア……貴女と八幡の試合、どっちが勝つかわからないけど、どちらも頑張って」

 

そして最後にオーフェリアがシルヴィアの前に立ち優しい笑みを浮かべて激励してくる。

 

(なるほどね……ここにいるメンバーは全員中立か)

 

普通に考えればシルヴィアと同じクインヴェールに所属する美奈兎達が八幡の応援をするのはあり得ないが、シルヴィアは仕方ないと考えている。

 

美奈兎達は八幡から協力を得て獅鷲星武祭で準優勝と好成績を残した事もあって、八幡の事を恩人と考えている。

 

(というかソフィア先輩、普通に八幡君の格好良い姿を見たいって言ったの聞こえてるからね?)

 

見ればオーフェリアも気が付いたようでソフィアをジト目で見ていた。しかし当の本人は気づいてないのか、はたまた気づいていながら無視をしているのかわからないが特に表情を変えずにいた。

 

「ありがとうね皆、そう言って貰えると嬉しいよ。そう言えば八幡君の応援には行ったの?」

 

「……いいえ、まだ行ってないわ。もう少ししたら行くつもり」

 

しかしシルヴィアはそれを表に出さずに笑顔で礼をする。しかしオーフェリアは気付いていた。シルヴィアの口元がほんの、ほんの僅かだけ引き攣っている事を。同時にオーフェリアの口元も引き攣り始める。

 

((何故八幡(君)はモテるのかしら(モテるんだろう)?八幡(君)の馬鹿、アホ、八幡、女誑し、絶倫、鬼畜……!))

 

2人は顔に笑みを浮かべながらも、心の中で自身の恋人のモテっぷりに対して悪態を突き始める。

 

それに対して2人の様子がおかしい事を気付く者は居なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ決勝か……俺は比企谷に嵌められてここを出れないが……優美子、戸部、大和に大岡に皆……俺に代わって比企谷の暴挙を止めて冤罪で捕まった俺を出してくれ。そうしたら俺が優美子達ーーーガラードワースを、最終的にE=Pの最高幹部になって世界を良い方向に導くから。比企谷が捕まれば、比企谷に嵌められて事で奪われた俺の星武祭の挑戦権も戻ってくる筈だから……!」

 

 

 

『そろそろ決勝か……俺は比企谷に嵌められてここを出れないが……優美子、戸部、大和に大岡に皆……俺に代わって比企谷の暴挙を止めて冤罪で捕まった俺を出してくれ。そうしたら俺が優美子達ーーーガラードワースを、最終的にE=Pの最高幹部になって世界を良い方向に導くから。比企谷が捕まれば、比企谷に嵌められて事で奪われた俺の星武祭の挑戦権も戻ってくる筈だから……!』

「……マジで何を言っているんだ?」

 

「俺が知るか……って、マジか?」

 

「どうした?」

 

「たったいま至聖公会議から連絡があって葉山隼人のお仲間を拘束したみたいだ」

 

「て事はまた比企谷八幡に闇討ちをしようとしたのか?……わかった。到着次第持ち物を全て没収して懲罰房にぶち込むぞ」

 

 

俺は今途轍もなく緊張している。顔は熱く、心臓がドクドクと高鳴っているのを自覚する。

 

しかしこれは試合が近いから生まれる緊張ではない。試合による緊張は3年前から経験しているので、そこまでドキドキすることはない。

 

では何故緊張しているかというと……

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

理由は簡単。一昨日俺に告白してきた女子と2人きりだからです。俺に告白してきた女子ーーーノエルは俺の隣に密着してきて、顔を赤くしながら何も言わずにチラチラとこちらを見てきて、目が合うと更に真っ赤になって目を逸らし、暫くするとまたチラチラ見てくる。

 

さっきからこれの繰り返しで俺の顔も熱くなってくる。一昨日ノエルの告白は断ったとはいえ……

 

ーーー八幡さん。私は八幡さんの事が好きですーーー

 

ーーー…………大好きですっ!ーーー

 

ノエルに言われた言葉を思い出して顔を熱くしてしまう。あの時のノエルは比喩抜きでクソ可愛かったし。

 

そんな風に暫く無言の時間が続くも……

 

「あの、八幡さん……」

 

遂にその時間は終わりを迎えた。ノエルが俺に話しかけてくる。ぶっちゃけまだ恥ずかしいがシカトする訳にはいかないのでノエルを見れば顔を真っ赤にしながら俺を見ていた。身長差があるので上目遣いをしているように見えて破壊力がヤバ過ぎる……

 

「な、なんだ?」

 

「その……もう直ぐ決勝ですけど……頑張ってくださいね」

 

言うなりノエルは折れていない左手で俺を手を握ってくる。それはとても柔らかく、とても温かく、とても気持ちが良かった。

 

「そのつもりだ。お前や小町、若宮やヴァイオレットも頑張ったんだしな」

 

今回の王竜星武において魎山泊のメンバーは大半が病院送りになるほどボロボロになるまで戦った。どの試合も見ていて本当に格好良いと思った。

 

魎山泊のアシスタント講師として参加していた俺もノエル達に恥じない戦いをするべき……と考えている。

 

「ありがとうございます……ですが、八幡さんも頑張っていて、その、凄く格好良くて………試合を見る度に八幡さんを好きだという気持ちが大きくなりました……」

 

っ……だから!お前はマジで恥ずかしい事を言うな!お前はアレか?応援に見せかけて俺を悶死させて試合に出場出来ないようにするつもりなのか?

 

「そ、そうか……」

 

「はい……激励の言葉を言えたので私は失礼します……これ以上ここにいたら恥ずかしいので」

 

是非お願いします。ノエルを嫌っている訳ではないが、2人きりで過ごしたら緊張と恥ずかしさで胃がやられてしまうしな。

 

「わ、わかった。じゃあな……」

 

「はい……じゃあ……」

 

俺がさよならの挨拶をすると、ノエルは俺に近寄り……

 

 

ちゅっ……

 

俺の唇に限りなく近い頬にキスを落としてくる。俺は顔を動かせない。顔を動かしたら間違いなく唇同士がぶつかり合う自信がある。

 

暫くノエルからキスを受けているとノエルは俺から離れて……

 

「頑張ってください……!」

 

顔を熟した林檎のように真っ赤にしてから逃げるように控え室から出て行った。同時に顔に熱が溜まるのを自覚する。ノエルが自発的に俺にキスをしたのはこれで2回目(ラッキースケベをした時に何回かされた事はある)だが、恥ずか死ぬわ……

 

だから俺は顔の熱を冷ますべく備え付けの水道から水を出して頭から被る。真冬に真水を被れば当然寒いが、顔に熱が溜まった俺からしたら特に問題なかった。

 

暫くの間水を被り、やがて冷たさを感じるようになったので水道の水を止めて、備え付けのタオルで頭を拭きストレッチを再開する。

 

頭が冷えると恥ずかしい気持ちは失っていて嬉しい気持ちで胸が一杯になる。あそこまで激励されたらやる気が出るのが人の常だ。

 

「ありがとな、ノエル」

 

そう呟きながら暫くストレッチを続けていると……

 

pipipi……

 

試合開始5分を切るのを意味するアラームが鳴り出す。そろそろ時間だな……

 

俺は一度伸びをしてから控え室を出る。すると……

 

「あ、まだ居た!」

 

横からそんな声が聞こえてきたので見ればオーフェリアとチーム・赫夜の5人がこちらに向かってやって来た。この状況で来るって事は……

 

「もしかして激励に来てくれたのか?」

 

「うん!もう直ぐ試合だけと頑張ってね!」

 

「どちらが勝つかはわかりませんが良い勝負を」

 

「最後に格好良い所を見せてくださいまし!」

 

「2人の戦い、楽しみにしてる……」

 

「クインヴェールの人間としては間違った考えだけど、2人とも頑張って欲しいわね」

 

俺が尋ねると赫夜の5人は首肯しながら激励してくる。ハッキリと言われたらこっちも嬉しくなる。

 

そして……

 

「……八幡」

 

恋人であるオーフェリアを呼んだかと思えば……

 

 

 

 

 

 

ちゅっ……

 

優しい笑みと共に俺の唇にキスを落としてくる。ノエルにされた時と違って正真正銘のマウストゥマウスだ。

 

『ええっ!』

 

後ろにいる5人は驚きの表情を浮かべるが、オーフェリアは特に表情を変える事なくキスを続けて、唇を離したかと思えば……

 

 

「……行ってらっしゃい」

 

ただ一言、そう言ってくる。同時に胸に温かい気持ちが湧き上がってくる。オーフェリアの言葉に対する返事は決まっている。

 

 

 

「ああ……行ってきます」

 

俺は一言、そう返してからオーフェリアと赫夜の5人に小さく会釈をしてから、背を向けて入場ゲートに向かって歩き出した。

 

色々な人から激励を受けて今の俺のコンディションは最高だ。これならシルヴィが相手でも勝つ自信はある。

 

 

 

そう思いながら入場ゲートに到着すると……

 

『長らくお待たせいたしました!これより王竜星武祭決勝戦です!』

 

実況が最後の試合が始まることを告げて観客席からは大歓声が沸き起こったのだった。

 

いよいよだな……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。