学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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最終決戦、比企谷八幡VSシルヴィア・リューネハイム(中編)

『比企谷選手、リューネハイム選手の放った光の奔流を地面に叩きつけたぁ!』

 

『3年前に負けた技に打ち勝ったか。そうなればここからが本番だな』

 

大歓声の中、実況と解説の声が耳に入るも俺は気にせず、目の前にいる白銀の騎士鎧を纏ったシルヴィを見据える。対するシルヴィは特に焦りの色を浮かべていない。寧ろ当然とばかりの表情だった。

 

「あー、やっぱり3年前に使っていた技じゃ勝てないか」

 

やはり予想はしていたようだ。

 

「そりゃこっちも鍛えたからな」

 

「だろうね。それでどうするの?八幡君も強くなったけど、その鎧じゃ私には勝てないよ?」

 

だろうな。影狼修羅鎧を纏った俺は今のシルヴィーーー白銀の騎士鎧を纏ったシルヴィに勝つ事は出来ても、切り札である光の衣を纏ったシルヴィに勝つのは無理だ。

 

よって……

 

 

 

 

 

「だろうな。……って訳でそろそろお互いに本気でやろうぜ」

 

チマチマやるのは趣味じゃない。最後の試合、それもシルヴィが相手なんだし全力でやりたいのが本音だ。

 

それはシルヴィも同じのようで頷く。

 

「オッケー。それじゃあお互いに本気でやろうか。恨みっこなしだからね?」

 

「たりまえだ」

 

俺がそう返すとシルヴィは目を閉じて大きく息を吸う。そして吸い終えるとカッと目を見開き……

 

「私は纏う、愛する者を守る為、支える為、共に戦う為」

 

最強の技を発動する為に歌い始める。同時にシルヴィの周囲の万応素が荒れ狂い、シルヴィ自身の体内から膨大な星辰力を膨れ上がり、シルヴィの身体から光が生まれ出す。

 

 

それに対して俺も最強のカードを切るべく……

 

「呑めーーー影神の終焉神装」

 

ただ一言、そう呟く。同時にシルヴィ同様、俺の周囲の万応素が荒れ狂い、体内の星辰力が爆発的に噴き上がり、影狼修羅鎧に纏わり付いたかと思えば、押し付けるように圧縮が始まる。

 

同時に俺の身体からギシギシと音が鳴り若干の痛みが生まれるも何時もの事なので、気にせずに限界まで影狼修羅鎧を圧縮するように星辰力を操作する。

 

そして遂に限界まで影狼修羅鎧を圧縮し切り、背中から悪魔の如き翼を生やし……

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

 

影神の終焉神装を身に纏う。これで俺の準備は整ったが、シルヴィはまだ準備が終わってないので攻撃は仕掛けない。勝ちを優先するなら今の内に叩くべきだが、それやったら全世界から顰蹙を買いそうだからな。

 

何より俺自身そんな詰まらない勝ち方を嫌う。星武祭でシルヴィと戦うのは最後だし悔いのない試合にしたい。

 

 

 

 

そんな事を考えているとシルヴィの歌が一層強く響く。

 

「纏いて私は動き出す、誰よりも強く、誰よりも速く、愛する者を奪おうとする敵を討ち滅ぼす為に……!」

 

次の瞬間、シルヴィアの身体が光に包まれたかと思えば……

 

 

「遂に出やがったな……」

 

光の衣を身に纏ったシルヴィが12枚の光の翼を羽ばたかせて俺と対峙する。手には圧倒的な星辰力を感じる光の剣と、これまでに何度も見ているが本当に大天使のような姿だ。シルヴィの美貌を加えたら女神だ。比喩抜きで美し過ぎる。悪魔のような翼を生えた俺とは対称的で、本当に神話のような戦いになりそうだな。

 

準々決勝のレナティとの戦いでは悪魔と幼女のぶつかり合いと酷い絵面だったが、今回は幾分かマシだろう。

 

「じゃあやろっか、八幡君」

 

シルヴィは圧倒的な力を纏いながらも穏やかな口調で俺に話しかけてくる。そしてあたかも楽しそうに笑っている。

 

なら俺の返答も決まっている。

 

「ああ、やろうぜシルヴィ」

 

俺も自分で驚くほど穏やかな口調でそう返す。レナティの時と同じだ。今はただシルヴィと戦いを楽しみたい。

 

俺達はお互いに笑いながら拳と剣を構えて……

 

 

「「はぁぁぁぁぁっ!」」

 

お互いに叫び声を大きく上げながら翼を羽ばたかせて距離を詰めにかかる。

 

 

 

 

 

 

 

それから2分、八幡とシルヴィアは互いの力を遠慮なくぶつけ合っている。2人の激突によってステージは徐々に崩壊して、それに比例するかのように会場及び視聴者は大盛り上がりしている。

 

そんな中……

 

 

「今の所は拮抗していますね……」

 

「だよねー。小町の見る限りスピードは互角で、パワーとディフェンスはお兄ちゃんの方が上だと思うけど……」

 

「バトルセンスはシルヴィアの方が上でしょう」

 

「……加えて星辰力の消耗具合次第で流れは変わる」

 

「更には奥の手を隠している可能性もあるからな」

 

「要するに予想がつかないって事だね」

 

星導館の専用観戦室では小町がチーム・エンフィールドの5人と勝敗を予想して……

 

 

 

 

「くくくっ……良い!実に良い!」

 

「……師父、本当に楽しそうですねー」

 

「当然じゃろうセシリーや強者と強者のぶつかり合いは見ていて血が騒ぐ!今すぐにでも儂もあの場に入って戦いたいのう!」

 

「いやいや!入っちゃダメですからね!」

 

「なんじゃ虎峰、随分と頭が固いのう」

 

「俺も反対です師父。今師父が入ったら試合は中断されるでしょう。ですから王竜星武祭が終わってから2人を界龍に招いて三つ巴をするのが良いかと」

 

「そういう問題ですか大師兄?!」

 

「確かにそうじゃのう……良し!暁彗や、王竜星武祭が終わったら八幡とシルヴィアを界龍に招くから、2人と儂とぬしの4人で四つ巴をやるぞ。間違いなく楽しい勝負になるわい」

 

「……御意!」

 

「……ねー、虎峰。師父のことだから絶対にやるよね?」

 

「でしょうね。その時は絶対に直接見るのは止めましょう。4人がぶつかったら冗談抜きで防護フィールドが吹き飛びそうですから」

 

界龍の専用観戦室では星露が楽しそうに予定を立てて、暁彗が笑みを浮かべながら星露の提案に従い、虎峰とセシリーは顔を引き攣らせていた。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり八幡さんもシルヴィアさんも凄いなぁ……」

 

「まああの2人は今大会でもトップクラスの実力だからね。でもノエルも準々決勝で見事な試合を見せたじゃないか」

 

「そうですわ。1年であそこまで成長したノエルも立派ですわ」

 

「おかげでガラードワースの評価も最悪の事にならずに済んだし……ノエルはよくやってくれたよ」

 

「ううん。私なんかまだまだだよお兄ちゃん。だから最後の星武祭ーーー2年後の獅鷲星武祭までにもっと強くなるよ」

 

「そうか……なら僕も会長として頑張るから、獅鷲星武祭では頼りにしてるよ」

 

「うん!(それに、もっと強くなって八幡さんとオーフェリアさんに認めて貰わないといけないし……)」

 

「……ノエル、聞こえてますわよ」

 

「ふぇ?!」

 

「どうしたんだい?レティシア、ノエル?」

 

「な、何でもないです!」

 

「そうですわね。男性であるアーネストとエリオットは聞かなくて良いですわ」

 

「「???」」

 

ガラードワースの専用観戦室ではノエルが顔を真っ赤にして、レティシアは若干呆れ顔をしていて、アーネストとエリオットは頭に疑問符を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何でヒキタニがあんなに強いのよ?!」

 

「あんな屑が……俺達の憧れた場所で戦うなんて……!」

 

「ふざけんなよ!世の中間違ってるだろ!」

 

「そうよそうよ!あんなのが決勝に行けるなら私達だって……!」

 

総武高3年の教室では、相模を始め昔八幡を見下していた人間は、自分達が八幡より劣っている事実を認めずに文句を言い合っていた。

 

 

 

 

 

 

「行け行けー!」

 

「2人とも凄いですね……」

 

「壁を越えた人間でも上位クラスの実力ですから当然でしょう……それにしても八幡さん……格好良いですわ」

 

「……むぅ」

 

「修羅場……」

 

「お願いだからここでは起こらないで欲しいわ……」

 

観客席にてオーフェリアはチーム・赫夜の5人と一緒に八幡の試合を見るも、八幡をウットリとした表情で見るソフィアにヤキモチを妬いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

俺とシルヴィが最強の技を使ってから5分……

 

「はぁ!」

 

「光神の撃剣!」

 

俺達は一歩も譲らずに戦闘をしている。互いに叫ぶと同時に拳と光の剣をぶつけ合う。

 

それによって地面にはクレーターが出来上がるも、シルヴィはクレーターに意識を向けることなく即座に剣を引き、返す刀で蹴りを放ってくる。だから俺は敢えてその蹴りを受ける。すると鎧越しにほんの僅かだが衝撃が走るも、それを無視してシルヴィに必殺の右ストレートをぶちかます。

 

しかし俺の拳がシルヴィの腹に当たる直前にシルヴィは翼を広げて空中に回避する。だから俺も翼を広げて空に飛ぼうとするが……

 

「させないよ!」

 

「ちぃっ!」

 

シルヴィがその前に光の剣を俺の足元に叩きつける。同時に足元の床がバラバラになって、飛んでいなかった事により足を地面に付けていた俺もバランスを崩してしまった。

 

舌打ちしながらも上を見上げると……

 

「光神の神弓」

 

シルヴィの空いている左手に巨大な光の弓が生まれて、右手に持つ光の剣を矢のように構えて弓を引き始める。あの技は知っている。確か……

 

(昨日の準決勝で暁彗相手に見せた技……いや、違う!)

 

見れば光の剣の形が変わっていく。元々シルヴィの光の剣はバスタードソードタイプだが、レイピアタイプに変わっている。

 

(おそらく貫通力を高めたな)

 

だとしたらマズい。バスタードソードの状態で放った一撃は錬星術とかいう力によって防御に特化した星辰力を生み出して全身に纏わせた暁彗にダメージを与えた技だ。マトモに食らったら俺の影神の終焉神装も打ち破るかもしれない。

 

慌てて体制を立て直してその場から距離を取ろうとするも……

 

 

「光神の滅矢」

 

それよりも早く光の剣は一直線に俺に向かって放たれて……

 

 

 

「ちぃっ!」

 

地面に着弾する。しかし昨日と違って大爆発は起きずに、刺さった箇所に深い穴を開けた。予想通り貫通力を高めたようだ。

 

そして光の剣は俺の左の義手に掠って、義手を影神の終焉神装ごと貫き、腕部分の鎧の一部が剥がれて穴の開いた義手からはバチバチ火花が飛んでいる。試しに動かして見るも義手は動かす事も、アサルトライフルを出す事も出来なかった)

 

(これは使えないな……全く、何つー破壊力だよ)

 

内心驚愕しながらも俺は義手を切り離してから足元にある影に星辰力を込めてから影の義手を作る。

 

そしてグーパーして動くのを確認した俺は影の義手の上に鎧を修復してから翼を広げてシルヴィと同じように空を飛ぶ。

 

「やってくれんじゃねぇかシルヴィ……今のは効いたぜ」

 

言いながらシルヴィとの距離を詰めて蹴りを放つとシルヴィは再度光の剣を生み出して受け止める。

 

「八幡君こそやるじゃん。今の一撃で倒すつもりだったんだけどね」

 

シルヴィは褒めながら剣で押し切ろうとしてくるので、足に星辰力を込めて逆に押し返す。

 

「残念だったな。アレはもう食らわん」

 

食らったら即負けに繋がりそうだからな。てか頭に食らったら貫通してそうだな。まあ影神の終焉神装は頭と首、金的など急所の周囲を一段と分厚くしてるから大丈夫だとは思うが。

 

(しかし義手の性能を無力化させられたのは痛いな)

 

俺の義手は冗談抜きで強いと思う。実際本戦に上がってからは何度も義手の恩恵を受けているし、準決勝に至っては義手のおかげで勝てたし。

 

とはいえ義手が無くても戦いようは幾らでもあるから問題ない。

 

そう思いながら俺は光の剣を押し返した勢いに乗ってシルヴィの脇腹目掛けて突きを放つとシルヴィは……

 

「うっ……!」

 

攻撃を回避しなかった。光の衣は突き破れなかったが衝撃は打ち消せなかったようで苦しそうな表情を浮かべるも動きを止めずに……

 

「はあっ!たあっ!」

 

一度光の剣を消したかと思えば間髪入れずに俺の顔面に拳を叩き込む。

 

「ちっ……!」

 

シルヴィの攻撃に対して内心舌打ちをしながら紙一重で躱す。大したダメージはないが、顔面パンチは怖いからこれ以上食らいたくない。

 

「勝つのは俺だ」

 

言いながら俺はシルヴィが再度放ってきた正拳突きをわざと受ける。それによって一瞬ビビるが、それを無視してシルヴィの腕を掴む。

 

シルヴィは驚きの表情を浮かべながら空いている方の腕で腹や腕を殴るが我慢だ。何故なら今が絶好のチャンスなんだから。

 

「はあっ!」

 

「うぅっ!」

 

俺が空いている腕でシルヴィの鳩尾を殴るとシルヴィは呻き声を上げて攻撃を止める。

 

当然そんな隙を逃すつもりはなく……

 

「ふんっ!」

 

そのままシルヴィをぶん投げて地面に叩きつける。それによってシルヴィの周囲に半径3メートル以上のクレーターが出来て、シルヴィは仰向けになって倒れるのが目に入る。

 

だから俺はトドメを刺すべく翼に星辰力を込めてシルヴィとの距離を詰めにかかる。

 

するとシルヴィはよろめきながらも起き上がり……

 

「裁きの光剣よ、我が翔ける翼を贄に捧げて、必滅の神槍に昇華せよ」

 

そう呟くと同時に背中に生えた12枚の光の翼が切り離されて、光剣の周囲を周り、最終的に剣に纏わりつき、1メートル程の槍となる。

 

(出たなシルヴィの一撃必殺……!)

 

そう思いながら俺は右腕に星辰力を込めて、左腕の部分の鎧を右手に移譲する。

 

本来なら全身の鎧を腕に集中させたいが、万が一シルヴィが俺の校章を狙っている場合、校章を剥き出しにするのは危険なので胴体部分の鎧は右腕に移譲しない事にしたのだ。

 

そして俺が拳を振りかぶるとシルヴィも槍を構えて……

 

 

 

 

「「はぁぁぁぁぁっ!」」

 

お互いに叫び声を上げながら衝突した。

 

 

決着まで、そう長くはない。

 

 


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