「「はぁぁぁぁぁっ!」」
お互いに叫び声を上げながら衝突する。俺の影神の終焉神装を纏った右腕とシルヴィの高密度の光の槍がぶつかり合う。
同時に俺の拳と槍の先端から激しい火花と圧倒的な衝撃が生まれ、俺達の足元にあるステージの床は崩壊して、近くにある防護フィールドからはギシギシと悲鳴が生まれる。
「ぐぅぅぅぅっ!」
「うぅぅぅぅっ!」
腕に激痛が走るが俺はそれを無視して槍を破壊するべく力を込める。しかしシルヴィも負けたくないとばかりに押し返してくるので破壊する事が出来ずにいた。
「この、負けず嫌いめ……!」
「それはこっちの、セリフだよ……!八幡君は面倒くさがりなんだからギブアップしなよ……!」
「面倒だが、それ以上にお前に負けたくないんでな……!」
3年前の悔しさは1日たりとも忘れてない。シルヴィは大切な恋人だが、同時に1番のライバルと思っている。だからこそ俺は負けるつもりはない。何が何でも勝つ、だから……
「おぉぉぉぉぉっ!」
押し勝つ為に更に力を込める。右腕からは骨が軋む音が聞こえるが知ったことじゃない。今日は決勝、つまり最後の試合だから試合が終われば治療院で治癒能力による治療をして貰えるのだから。
「くっ……!まだまだぁっ!私だって、負けたくないんだよ!」
後一歩で押し切れそうになった時、シルヴィは光の衣を解除して槍に移譲していた。
同時に槍が少しずつ太くなり圧力が増して押し返される。おそらくシルヴィは俺が一点に影神の終焉神装を集中させる技を使ったのだろう。既に俺の戦い方を何度も見たシルヴィなら出来てもおかしくない。
(とはいえこのままじゃ押し負けるし、こっちも動くか……全ての力を右腕に移譲する!)
内心そう呟くと鎧が解除されて、その全てが右腕に集まり右腕は丸太のように太くなる。これで条件は同じ、後は気合や体力の勝負だ。
そう思った瞬間だった。
ピシリ……
何かがヒビ割れるような音が耳に入る。何事かと思えば俺の影神の終焉神装とシルヴィの光の槍にヒビが入っている。俺のシルヴィの一撃は並大抵のものじゃ打ち破れない高威力の技だが、高威力同士の激突だからかお互いに深いダメージを受けているようだ。
そして遂に……
バキィッ……!
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
限界が訪れたのか俺の鎧とシルヴィの槍が破壊されて、高威力同士の激突によって生じた衝撃が俺達を吹き飛ばして背中から地面に叩きつけられる。
(クソッ……全身が痛え)
最後は右腕以外は生身になったので背中に入った衝撃はモロに伝わって激痛が走る。星脈世代だから良かったが普通の人間なら間違いなく背骨が折れているだろう。
痛みに悶えながらも身体を起こすとシルヴィも同じように身体を起こしていた。ただし制服もシルヴィ本人もボロボロになっていて世界の歌姫らしくない姿だ。
しかし目は死んでおらず強い視線を俺に向けてくる。やはりまだ戦意はあるようだ。
(まあ俺もあるけどな)
そう思いながら自身の中に残っている星辰力を確認する。今俺の中にある星辰力は最大値の1割前後とかなり少ない。これじゃ影神の終焉神装は当然として影狼修羅鎧や影狼夜叉衣も使えないな。
とはいえ諦めるつもりはない。レナティ戦では俺もレナティも星辰力とエネルギーが殆ど0だったからジャンケンで勝敗を決めたが、星辰力が残っている以上戦うつもりだ。つーか決勝戦をジャンケンで勝敗を決めたらそれこそ大顰蹙を買いそうだし。
見ればシルヴィもフォールクヴァングを斬撃モードにして構える。向こうもどちらかの校章を破壊もしくは意識が消失するまて戦うだろう。
俺は息を吐いてからなけなしの星辰力を影に注ぎ込み……
「羽ばたけーー影雛鳥の闇翼」
俺は自身の足首に小さい影の翼を何枚も生やしてシルヴィに向かって走り出す。遠距離からチマチマ攻めても簡単に回避されるから星辰力の無駄だ。
「ぼくらは壁を打ち崩す、限界の先に境界を越えて、傷を厭わずに、走れ、走れ」
対するシルヴィも俺を迎え撃つべく自身の歌声をステージに響かせる。同時にシルヴィアの身体の奥から力が噴き上がるのを理解する。
するとシルヴィも俺と同様に距離を詰めにかかる。その速度は速いっちゃ速いが、ダメージが蓄積しているからか万全の状態に比べたらかなり遅い。
しかし……
「はあっ!」
「ちっ!」
シルヴィの袈裟斬りに対して足首に生やした翼を羽ばたかせて回避して、身体に鈍い痛みが生まれる。俺自身もダメージを蓄積しているので能力の補助がないと回避するのは厳しい速さだ。能力を使えば回避は出来るも、半ば無理やり身体を動かしているので当然ボロボロの身体に激痛が走る。
俺はそれを無視して再度シルヴィとの距離を詰めて、シルヴィのフォールクヴァングにアッパーをぶちかまして跳ね上げる。そうしてガラ空きになったシルヴィの胴体ーーーより正確に言うと胸の校章に拳を放とうとする。
しかしその前にシルヴィはフォールクヴァングを持っていない左手で俺の左拳をを鷲掴みにする。
シルヴィの掌から骨が軋む音が聞こえてシルヴィは苦悶の表情を浮かべるが口元には笑みを浮かべていた。
「貰ったよ……!」
アレはマズイと思ったのは束の間、シルヴィはそのまま跳ね上がっていたフォールクヴァングを俺の校章に振り下ろしてくる。肉を切らせて骨を断つってヤツか……!だったら俺も……!
「ぐうっ……!」
俺もシルヴィに負けじと右手でフォールクヴァングの刀身を掴む。同時に腕の骨が軋み血が流れるが、ここで手を離したら負けに繋がるので死んでも離すつもりはない。
現在俺達は下手に動けない状況となった。俺の左拳はシルヴィに掴まれていて、フォールクヴァングを持ったシルヴィの右腕は俺の右手が掴んでいる。つまり両者共に腕を使えなくなっている状況だ。そうなれば……
「おらあっ!」
「やあっ!」
俺とシルヴィは自身らの右足に星辰力を込めて互いの左足に叩きつける。腕が使えないなら足を使うしかない。
しかし、俺達の足から骨が折れる音が聞こえ、今まで以上の激痛が走る。やはり骨が折れるのは痛い上に動きに支障が出るから面倒だ。
だが俺は動く。そんな痛みに気を取られて負けるなんて絶対に嫌だ。ここまで来たらシルヴィに勝ちたい。
だから俺はシルヴィに掴まれた影で出来た左腕を無理やり振り解いてシルヴィの校章目掛けて正拳突きを放つ。するとシルヴィは校章を守る為に身体をズラして拳の着弾箇所を左腕にしながら、右手に持つフォールクヴァングの刀身を大きくして、刀身を掴んでいる俺の右腕に流星闘技を放ってくる。
結果……
「がぁぁぁぁぁぁっ!」
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
俺の右腕に巨大な斬撃痕が刻まれて、シルヴィの左腕からは骨が折れる音が聞こえてくる。これには思わず俺も我慢出来ずに膝をついてしまい、シルヴィもよろめきながら尻餅をついてしまう。
『ここで両者共にダウン!共に激痛に耐えられなくなったのか?!』
『まあ両者共に全身にダメージを受けて腕と足が使用不能になっているから仕方ないだろう。なんにせよ決着は近いな……』
だろうな。俺は左手は影の義手で右手は斬られてマトモに動かせずに、左足は骨折。対するシルヴィも左腕と左足の骨折と似たような状態だ。
加えて骨が折れる前に受けたダメージや、昨日の準決勝で天霧と暁彗にやられたダメージもあって、俺は当然として、シルヴィも疲労困憊だろう
しかし……
「やって、くれるね……!」
シルヴィは瞳をギラギラ輝かせながらも笑みを浮かべて立ち上がる。足はよろめき折れている左腕はブラブラ揺れているが戦意は微塵も衰えず、寧ろ更にプレッシャーを感じてしまう程だ。
「そっちこそ、な……長い付き合いだが、お前がここまでギラギラした目をするのは余り見ないぞ」
俺がラッキースケベをした日の夜に、俺から搾り取る時に似たような目をするが、その時よりは遥かに強い力を感じる。
「そうかもね……負けず嫌いだから、この状況でそういう目が出来るんだと思うよ……」
言いながらシルヴィは折れてない右手に持つフォールクヴァングの鋒を俺に向けてくる。
「勝負はこれからだよ……!先に言っとくけど、両腕両足が折れても校章が破壊されない限り、意識がある限り戦うからね……!」
シルヴィが負けず嫌いなのは知っていたがここまでとはな。
(だが……俺も負けるつもりはない。こっちも校章が無事で意識があるなら戦い続けてやる)
だから俺も左足が折れているにもかかわらず、膝を起こしてシルヴィと向き合う。
(俺はもうマトモに能力を使えるほど星辰力はないがシルヴィもだろうな)
もしもシルヴィが星辰力を残しているなら空を飛んで遠距離戦に徹すれば勝てるだろうし。
つまり互いに防御に星辰力を回せないので後1、2発食らったら負けだろう。
(まさかここまで極限な戦いになるとはな……星露に毒されたからか、楽しくなってきた)
こんな状況にもかかわらず、楽しいと思ってしまう俺は間違いなくイカれてるだろう。
そう思いながらも俺は息を吸って……
「行くぞシルヴィ……!」
「うん……!」
シルヴィと言葉を交わしてからお互いに距離を詰めにかかる。互いに左足が折れていて痛みが生じているので、観客からしたら鈍臭い動きかもしれないが、今の俺達にとっては全力である。
そして距離を詰めると俺は左手の影の手に力を込めて、シルヴィはフォールクヴァングを上段に構えて……
「はあっ!」
「はっ!」
互いにぶつけ合う。同時にフォールクヴァングから俺の身体に衝撃が伝わってくるがシルヴィも限界に近いのが耐えられるレベルだ。
同時に俺はフォールクヴァングを受け流して、隙を突いてシルヴィに殴ろうとするもシルヴィも同じ事を考えていたようで、俺よりも早く動き、フォールクヴァングで俺の拳を受け流して……
「ぐうっ……!」
そのまま俺の胴体を斬りつける。幸い校章には当たらなかったが、胸からは血が噴き出して力が抜ける。全身のダメージに加えて大量の出血、最早俺の意識は朦朧としてきている。
しかし……
「負けて、たまるか……!」
俺は舌を噛んで無理矢理意識を覚醒させて、影で出来た左手になけなしの星辰力を込めてシルヴィの右腕を殴りつける。
「ぐっ……うぅぅぅぅっ!」
すると骨が折れる音が聞こえると同時にシルヴィは苦しそうな表情を浮かべながら右手に持つフォールクヴァングを地面に落とす。慌てて拾おうとするが右腕に自由が効かないようで、拾えずにフォールクヴァングは地面に落ちる。これでシルヴィに攻める手段はない。
そう思っていたが、そうは問屋が卸さなかった。シルヴィの右腕に一撃を当てると、その時に使った影で出来た左手はボロボロに崩れながら俺の足元にある影に吸い込まれた。
これは俺の体力と星辰力と精神力に殆ど限界が来て、能力の維持が出来ないからだろう。
(ここでかよ……!後一歩って時に武器を無くすなんて……!)
マジでヤバい。右手はシルヴィに斬られて上がらないし、左腕は今崩壊して使えなくなった。左足も折れていて残りは右足だけだが、折れている左足だけで俺の身体を支えるのは無理だろうから右足は上げれないだろう。
そうするにシルヴィを倒す手段がないって事だがそれは、シルヴィもだろう。星辰力は枯渇寸前、両腕の骨折、左足の骨折と使えるのは右足しかないが、俺と同じ理由で使えないだろう。
(てかマジでどうすんだ?このまま武器がないんじゃ勝て……あ)
あるじゃねぇか。最後の武器が。しかもその部位は酷いダメージを受けてないので充分勝ち目はある。
内心歓喜の感情を抱いた俺がシルヴィを見ると、シルヴィは何かを閃いたような表情を浮かべたかと思えば俺にボロボロな笑顔を見せてくる。それを見た俺は確信した。シルヴィも俺と同じ事を考えている、と。
(実際シルヴィも俺と同じ武器を持ってるからなぁ……)
そう思いながら俺とシルヴィはボロボロの身体に鞭打って密着ギリギリまで距離を詰める。
「……八幡君」
するとシルヴィが唐突に話しかけてくる。
「どうした?」
予想外の展開に一瞬驚いたが直ぐに返事をするとシルヴィは笑ったまま口を開ける。
「負けないから」
「こっちのセリフだ」
言いながら俺も笑ってしまう。最後の最後って時にこんな穏やかに談笑するとはな。
内心苦笑しながらも俺は息を大きく吸うと、シルヴィも同じように大きく息を吸う。
そして……
ゴッッッッッッ……!
俺とシルヴィは互いの頭を振りかぶってからぶつけ合う。同時に頭から鈍い音と衝撃が生まれ、生温かい感触が生まれる。おそらく血が流れているのだろう。
最後の勝負は頭突き勝負だ。俺もシルヴィもお互いに星辰力は尽きて能力が発動出来ず、両手足も全くと言って良いほど役に立たなくなった以上、俺達に残された武器は頭しか残っていない。
しかしシルヴィを倒すには至れてないのでもう一度振りかぶり……
ゴッッッッッッ……!
再度お互いに額をぶつけ合う。すると更に血が生まれて左目が血で見えなくなるが、目の前にいるシルヴィから意識を逸らすのは危険なのでスルーする。つーか左手は無くて右腕は斬られて感覚がないから拭えない。
「この、石、あたま、が……っ!」
「そ、れは……こっちのセリフ、だよ……!」
互いに悪態を吐きながらも、再度頭を振りかぶって……
ゴッッッッッッ……!
3度、頭突きをして額をぶつけ合う。最早頭の感触もなくなってきたが止まる訳にはいかない。
(ここまで来たら、勝ちてぇ……!)
だから俺はシルヴィよりワンテンポ早く息を吸って……
ゴッッッッッッ……!
「ううっ……!」
4度目の頭突きをする。今回はシルヴィが振り切る前に頭突きをしたので俺が押し勝ち、シルヴィは後ろによろめく。
しかし俺は止まらない。シルヴィの精神力から察するに勝負が決まるまで1ミリたりとも油断するつもりはない。
だから俺は再度、これまで以上に大きく息を吸って頭を振りかぶり……
「これで……終わりだ!」
ドゴッッッッッッッッッ……!!
最後の力を振り絞り、渾身の一撃を叩き込む。
(立つな……!俺は、もう……限界だ……!)
今はなんとか意識を保っているが一瞬でも気を抜いたら即座に意識を失う自信がある。
そんな事もあって祈るように目の前にいるシルヴィを見れば、シルヴィはこちらを見ながら笑みを浮かべて……
「……おめでとう」
小さく、それでありながらハッキリした口調でそう言うと、口元に笑みを浮かべたままゆっくりとこちらに倒れてくる。地面に倒れ伏すも起き上がる気配はない。
すると……
『シルヴィア・リューネハイム、意識消失』
『試合終了!勝者、比企谷八幡!』
そんな声が耳に入る。同時に俺は理解する。俺がシルヴィに勝利した事を。
そして俺の胸中には歓喜が流れてくる。
(はっ……遂にやった……って、俺も限界か……)
優勝した事に安堵したのか気が抜けてしまい、意識が朦朧としながらも横に倒れていくのを理解する。
(ま、勝ったし良いや……楽しかった、ぜ……シル、ヴィ……)
そのまま床に倒れ伏す。最後に感じたのはステージの冷たい床の感触だった。
次回、本編最終回です