学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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材木座義輝の1日

我は材木座義輝。元剣豪将軍である。

 

何故元かと言うと大学を卒業して30になる直前に急に恥ずかしくなったからだ。今は厨二病だったと理解しているが、昔は本気で将軍だと思っていたので恥ずかし過ぎる。

 

しかも十数年間も厨二病にかかっていたのか一人称も我になってしまった。初めは直そうとしたが、気付いたら我と言っているので諦めた。

 

そんな我が今、何をしているのかと言うと……

 

「ふぅ……目玉焼きは焼けたし、後は紅茶を淹れたら起こしに行くか……」

 

2人分の朝食を作っているのだ。我は二つの皿に目玉焼きを一つずつ乗せて、傍にソーセージを添える。

 

我の自宅はアスタリスクの外縁居住区、加えてアルルカントとレヴォルフの中間にある。我の仕事先である技術開発局はアスタリスク中央区にあるので外縁居住区からは距離があるが、中央区は人が住むのに適してないので我は外縁居住区に住んでいるのだ。

 

(さて、紅茶も入ったし起こしに行くとするか……)

 

我は内心ため息を吐きながらキッチンを出て、階段を上って自室に向かいドアを開ける。そこには……

 

 

「むにゅ〜、ふにー」

 

我が宿敵にして居候のエルネスタ殿が我のベッドで眠っている。

 

我は内心ため息を吐きながらもベッドに近寄り、そのままエルネスタ殿の頭が乗せられている枕を引っこ抜くとエルネスタ殿は目を覚ます。

 

「起きろエルネスタ殿、出勤20分前であるぞ」

 

「にゅ〜、将軍ちゃんおはよ〜う」

 

エルネスタは眠そうに挨拶をするが、やはり我の宿敵である。既に将軍は辞退したのに未だに将軍と呼び続けているし。

 

とはいえ長い付き合いからエルネスタ殿が我を将軍呼びする事を止めないのは簡単に理解できるのでどうこう言うつもりはない。それよりも今はエルネスタ殿を起こす事が重要だ。

 

「それよりも朝食は出来てるから早う食べろ。カミラ殿がアスタリスク郊外に出張しているから気が抜けておるな」

 

「まあ否定はしないな〜。とりあえず起きるから将軍ちゃん着替えさせて〜」

 

「はぁ……わかった」

 

我を内心ため息を吐きながらエルネスタ殿のパジャマのボタンを外してから脱がして、それに続くかのようにズボンを脱がし、エルネスタ殿を下着姿にする。下着は上下オレンジ色の派手な下着でありエルネスタ殿の抜群なスタイルと合っていた。

 

学生時代の我なら間違いなく焦っているが、我は既に10年以上ーーー軽く千回はエルネスタ殿の着替えを手伝っているから慣れてしまっている。

 

(しかしこの女、元々研究以外ではダメ人間であったが、我と同棲してからそれが増しておるな)

 

我は内心呆れながらお姫様だっこをしてエルネスタ殿をベッドから地面に立たせて上着とスカートを着せる。その際にエルネスタ殿は欠伸をしていたので思わずラリアットをしたくなったが我慢した。我の忍耐力凄くね?

 

「ふぁ〜、ありがとう将軍ちゃん。ところで朝ごはんは〜?」

 

「トーストと目玉焼きとソーセージである。早く行くぞ」

 

「あ、待ってよ将軍ちゃん」

 

我が自室を出て一階に降りると後ろからエルネスタ殿の気配を感じる。

 

(全く……エルネスタ殿は本当にだらし無いのう……)

 

我がエルネスタ殿と同棲を始めたのは大学を卒業してから少し後のことだった。当時我とエルネスタ殿は別々に暮らしていた。しかしある日エルネスタ殿はガスの元栓を開きっぱなしで外出した為に火事になって家が燃え、我の家に滞在させろと言ってきた。

 

当時の我は火事が原因なら仕方ないと判断して、家を買うまでなら……と、同棲を認めたが、それから10年以上経過した今でもエルネスタ殿は家を買っていない。

 

既に何度か尋ねてみたが、「良い家が見つからない」とか「将軍ちゃんみたいに良い下僕……お世話係がいない」云々言って家を買う気配がないので仕方なく家に置くことにしたのだ。

 

ちなみにエルネスタ殿が下僕と言った時はコークスクリュー・ブローをぶちかましたが我は悪くないだろう。

 

(……まあ生活費は折半だし、技術開発局の設立をする際に資金の何割かを提供してくれた恩があるので叩きだすような真似はしないであるがな)

 

技術開発局は我とカミラ殿が設立した、世界中に煌式武装を中心にあらゆる製品を売り出す会社である。その設立の際にはエルネスタ殿にも協力して貰い、エルネスタ殿自身も擬形体部門の長をしている。

 

当初は色々問題があったが、今は世界最大の技術会社として認知されている。我としては死ぬまでに四色の魔剣を超えた煌式武装を開発したいものである。

 

 

閑話休題……

 

そんなこともあって会社設立の恩もあってエルネスタ殿を家に置いている訳だが……

 

「エルネスタ殿、ケチャップをかけ過ぎであるし、口元が汚れているぞ」

 

「将軍ちゃん、拭いて〜」

 

「やれやれ……」

 

研究以外でダメ人間であることに対して危機感を持って欲しいのである。

 

我は呆れながらもティッシュでエルネスタ殿の口元を拭くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

それから5時間後……

 

「義輝、例の武装の試作品が出来たから実験場を貸して欲しい」

 

アスタリスク中央区にある技術開発局地下5階にて、我が1つのマナダイトで複数の武器を生み出す煌式多種顕現武装の開発をしていると、後ろから眠そうな声が聞こえてきたので振り向く。

 

「紗夜殿か。もう開発が完了したのか」

 

そこにいたのは天霧紗夜ーーー旧姓沙々宮紗夜殿であった。紗夜殿は技術開発局煌式武装開発部門長補佐、つまり我の右腕である。普通部下が敬語を使わないのは問題かもしれないが、紗夜殿とは高校時代からの知り合いなので気にしていない。

 

「ん、結構苦労した」

 

「それはご苦労であったな。データを見せてくれ」

 

我がそう言えば紗夜殿は空間ウィンドウを展開して我に渡してくる。

 

(ふむふむ……四十五式煌型撃滅砲ディザスターカノン……マナダイトの数は……12で出力はデータによると……あり過ぎであるな。というか暴発がしないか不安であるな……)

 

実に興味深い煌式武装だ。しかし……

 

「これ……実験場の壁が耐えられるか?」

 

「わかんない。ギリギリ」

 

問題はそこだ。技術開発局の実験場の壁はかなり強固であるが紗夜殿の開発した煌式武装はデータを見る限り桁違いの破壊力である。ぶっちゃけ防げるか不安だ。

 

(しかし折角開発したのだし研究者として是非……待てよ)

 

よく考えたら実験場の壁に撃つ必要はない。実験場の壁より遥かに強固な存在を我は知っている。

 

そこまで考えた我は端末を取り出してある人物に電話をかける。すると直ぐに相手は電話に出たので……

 

 

 

 

 

 

「あ、八幡であるか。実は八幡に頼みがあってだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後……

 

「では八幡、よろしく頼むぞ」

 

「へいへい。んじゃ紗夜。さっさと撃て」

 

 

実験場にて我が友人である八幡がそう呟く。その身には最強の鎧である影神の終焉神装を纏っている。

 

紗夜殿の新作煌式武装は実験場の壁すらも破壊しかねないので、我は最強の鎧を持つ八幡に的になってくれと頼んだ。

 

八幡も最初は渋っていたが、我が会社の最新煌式武装を無料で提供すると提案したら受けてくれた。学生時代からそうであったが八幡は現金である。

 

ともあれ八幡が了承したので問題ないだろう。

 

「了解ーーー四十五式煌型撃滅砲ディザスターカノン」

 

紗夜殿も頷き煌式武装を展開するが……

 

「デカ過ぎだろ……」

 

八幡がそう呟くが無理もない。紗夜殿が起動した煌式武装は5メートルを超える巨大な煌式武装であって、紗夜殿のお気に入りのヴァルデンホルトを上回る大きさであるからな。

 

そして……

 

「どどーん」

 

紗夜殿が緊張感のない声がそう呟くとディザスターカノンに備わった12個のマナダイトが光り輝き、青白い光の奔流が八幡に向かって襲いかかる。

 

対して影神の終焉神装を纏った八幡は右腕を突き出して光の奔流を受け止める。

 

しかし、それと同時に足元に巨大なクレーターが生まれながらも八幡が後ずさりする。それはつまりディザスターカノンの一撃は、影神の終焉神装を纏っている八幡の右腕だけでは防げない事を意味する。

 

すると八幡は左腕も上げて光の奔流に突き出すも……

 

「マジか……」

 

そのまま光の奔流は八幡を飲み込んだ。そして

 

 

 

 

ドゴォォォォォン……

 

光の奔流はそのまま壁にぶつかって大爆発が生じた。煙も大量に生まれてどうなったか見えないが……

 

『実験場の壁が崩壊しています!データ、数値化されました!直ちに送ります!』

 

実験場の外にいる職員からデータが送られたので空間ウィンドウを開いて確認する。

 

「ふむ……単純な出力なら四色の魔剣の一角『赤霞の魔剣』に匹敵するな……八幡、生きておるかー?」

 

学生時代に万有天羅と激戦を通り越して死戦を行った八幡が死ぬ訳ないが、念の為に声を掛けてみると……

 

「生きてるに決まってんだろ……」

 

半ば呆れた声が聞こえて、煙の中から八幡が現れる。ただし両腕部分の鎧は吹き飛んでいて、左腕の義手からは火花が散って、右腕からは血が流れていた。

 

「……私の最高傑作でその程度のダメージ……予想はしていたがちょお悔しい」

 

紗夜殿はそう言っているが、影神の終焉神装を纏った八幡にダメージを与える事自体凄い事であると我は考えている。八幡が最後に挑んだ王竜星武祭では万有天羅以外の人間、八幡に傷を付けられなかったのだから。

 

「いやいや。正直純星煌式武装よりビビったぜ。ちなみにその煌式武装、次撃てるのにどのくらい時間がかかるんだ?」

 

紗夜殿が開発したのだしディザスターカノンは複数のマナダイトを多重連結するロボス遷移方式を取り入れている。破壊力はご覧の通りであるが、高出力を維持する為に一回の攻撃ごとに長大のインターバルを必要とする欠点を持っている。

 

八幡の義手にもロボス遷移方式を取り入れているのでそんな質問をしたのであろうが……

 

 

 

 

 

 

「多分5分ちょっと」

 

「……ピーキー過ぎだろ」

 

……うむ、やはりマナダイト12個を多重連結したのは凄いが、それだけ接続したらインターバルも長くなるな、うん。これは仕方ない

 

我は八幡の呆れ顔を眺めながらもデータの整理を始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

6時間後……

 

「それで結局八幡には報酬を上乗せする事に……って、エルネスタ殿。シャンプーを使っているときはシャワーを出しっ放しにするでない」

 

「はいはーい。まあ八幡ちゃんもそれなりにダメージを受けたんだし、要求するのも当然でしょ」

 

仕事を終えた我は自宅に帰宅して風呂に入っている。するとエルネスタ殿はいつものように一緒に入ってくるが、偶には我一人で入りたい。エルネスタ殿必ず湯船ではしゃぐし。

 

そんな事を考えていると……

 

「えーいっ!」

 

身体を洗い終えたエルネスタ殿は湯船に飛び込み、水飛沫が我の身体に飛び散る。幾ら我の家の湯船が10人以上入れる湯船とはいえ、はしゃぐのは勘弁して欲しい。

 

「エルネスタ殿。何度も言うが湯船に飛び込むのは「とりゃあっ!」……」

 

エルネスタ殿に注意をしようとしたが、その前にエルネスタ殿は我の顔面に水をかけてくる。首を振るって顔にかかった水を振り払うと、視界には楽しそうに笑うエルネスタ殿が目に入る。

 

 

……よろしい、戦争だ。

 

我はお返しとばかりにお湯をエルネスタ殿の顔面に放つ。しかしエルネスタ殿はそれより早く湯船に潜ったかと思えば、そのまま我に近寄り湯船から出て直ぐに我の肩を掴んでそのまま押し倒してくる。

 

湯船に沈められたら我が不利である。だから我は顔が湯に浸かる前にエルネスタ殿の脇を掴み、押し上げる事で押し倒すのを妨げる。

 

そしてお返しとばかりにエルネスタ殿の身体を起こし、今度は我がエルネスタを湯船に沈めようとする。力と力のぶつかり合いなら我の方が有利であるから。

 

しかし……

 

 

「こうなったら……道連れだよ!」

 

後一歩でエルネスタ殿を湯船に沈められるという時だった。エルネスタ殿は我の背中に手を回して抱きついてくる。

 

(しまった……!このままエルネスタ殿を沈めたら我も沈んでしまう……おのれ!卑怯な手を使いよるわ!)

 

我はエルネスタ殿を振り払おうとするもエルネスタ殿は離す気配はない。まあ引き離されたら負ける事を理解しているからだろう。

 

暫くの間互いに一糸纏わぬ姿で抱き合ったまま攻防を続けていると疲れが生まれてくる。見ればエルネスタ殿だ。我やエルネスタ殿は星脈世代ではあるが八幡や紗夜殿と違って身体を動かさないから、スタミナは常人と比べて大差ないからだろう。

 

すると……

 

「ねえ将軍ちゃん、謝るから休戦にしない?」

 

エルネスタ殿がそんな提案をしてくる。それに対して我も疲れているので……

「うむ……休戦にしようか」

 

エルネスタ殿の提案を受けた。こうして不毛な争いは幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

30分後……

 

 

「じゃあ寝るぞエルネスタ殿」

 

「はーい。おやすみ将軍ちゃん」

 

自室の電気を消してベッドの上に乗ると横から気配を感じる。言うまでもなくエルネスタ殿の気配だ。エルネスタ殿が同じベッドで寝るのはいつもの事だ。同棲し始めた当初、エルネスタ殿が純情な我を揶揄う為にベッドに潜り込んできたのが一緒に寝るきっかけであった。当初は焦りまくったが直ぐに慣れて、焦る事はなくなった。

 

しかしそれでもエルネスタ殿は我と同じベッドで寝るのだ。理由は知らない。聞いたところで毎回はぐらかすから聞いても無駄である。

 

エルネスタ殿は我の宿敵であるので一緒に暮らしたり同棲する事は普通はあり得ないだろう。

 

しかし長く一緒に暮らしているウチに、2人で過ごす時間も悪くないと思うようになった我もいる。

 

我とエルネスタ殿の関係は宿敵同士であるが、最近になってそれ以外の関係もあるのかもしれないと思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間経過すると、ベッドで寝ている2人は眠りにつきながらも寝返りをうち、お互いに幸せそうな表情で身体を抱き合うのであった。




登場人物紹介

材木座義輝 (38)

技術開発局煌式武装開発部門長

アルルカントを卒業してからカミラ、エルネスタと一緒に技術会社を設立。社内での立場は社長のカミラに次ぐNo.2だが、デスクワークは殆どせず、工場で率先して煌式武装の開発をしている。自身の立場を誇示せず煌式武装の事を最優先にしている故に部下からの信頼は厚い。

30代に上がる直前に厨二病を卒業するも、長年の癖で一人称は我のままであったり、時々昔のような発言をする。

エルネスタとは同棲しているが結婚はしていない。しょっちゅう口喧嘩はするも学生時代と違って敵意は薄れていて一緒に飯を食べたり、一緒に風呂に入ったり、一緒に寝たり、長期の休みには2人で旅行に行くなどそれなりに仲は良い。



エルネスタ・キューネ (39)

技術開発局擬形体開発部門長

アルルカントを卒業してからカミラと材木座と一緒に技術開発局を設立して、以前金枝篇同盟に頼まれて作ったがお蔵入りとなった量産型戦闘擬形体ヴァリアントを統合企業財体やPMCに売りつけて莫大な資金を得た後に、擬形体と人間が対等の立場になるように日々努力している。

現在は材木座と同棲していて、家にいる時は家事は基本的に材木座に任せぐうたらしている。喧嘩はしょっちゅうするも学生時代と違って、そこまで敵意を抱いておらずなんだかんだ一緒にいる内に、2人で過ごす時間をそれなりに楽しんでいる。

唇同士のキスも夜の営みも結婚もしていないがエルネスタ自身「別にしても良い」と思っていて、周りからは下手な夫婦より仲が良いと思われている。




天霧紗夜(38) 旧姓:沙々宮紗夜

技術開発局煌式武装開発部門長補佐

綾斗の妻の一人で星導館卒業後にカミラと材木座に誘われて技術開発局に就職する。現在は極限の武器の開発を目指していて日々煌式武装開発に取り組んでいる。

結婚してからは綾斗相手にデレデレとなるが、シルヴィアの影響を受けて綾斗がラブレターを貰ったり告白をされたなら嫉妬心が爆発して、その日の夜はクローディアと一緒に搾り取る。

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