学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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いよいよ合宿が始まる

「さて……んじゃお前ら。繰り返し言うが、今回は合同合宿だ。くれぐれも他学園とのトラブルを起こすなよ。でないと俺の給料に響くから」

 

クインヴェール女学園の校門の近くにて、俺は今回合宿に参加する生徒40人弱にそう指示を出すと生徒からはクスクス笑いが生まれる。

 

「ハッチー先生はお金あるでしょう?学生時代に星武祭で好成績出してるし、妻3人もお金持ちだし」

 

1人の生徒がそんな事を言ってくる。確かに星武祭で結果を出せば優勝出来なくても大金が手に入る。俺自身星武祭でかなり稼いだし、W=Wに就職してからもかなり収入がある。

 

加えて俺の嫁3人はと言うと……

 

シルヴィア=元世界の歌姫

 

オーフェリア=王竜星武祭二連覇

 

ノエル=ヨーロッパ屈指の名家の娘

 

……と、かなり金持ちだ。実際に生徒らがトラブルを起こしつ減給食らっても生活に支障はない。支障はないが……

 

(なんか給料を減らされるのは嫌なんだよなぁ……)

 

前にお袋は金があっても昇給されたら嬉しいし、減給されたら嫌だと言っていた気持ちを働くようになって理解した。

 

とにかく話を戻すと……

 

「金があるないじゃない。減給されんのが嫌なんだよ。それよりも早くバス乗れ。飛行機が飛んでから空港に到着したんじゃ洒落にならないからな」

 

俺がそう言うと教え子達はハッとしたような表情を浮かべてからぞろぞろとバスに向かって乗り始める。

 

「よし、んじゃ歌を歌奈……じゃなくて比企谷も乗れ」

 

「わかったよ、パ……先生」

 

最後に生徒会長の歌奈にそう指示を出す。学校では一応教師と生徒だから苗字呼びにしている。俺自身名前で呼んでも良いと思うが一応念の為だ。まあ偶に今みたいにウッカリ名前呼びしてしまう時もあるけど。

 

それは歌奈もで偶に俺をパパと言ってしまうが、お互い様なので気にしない。

 

「これで全員……んじゃよろしくお願いします」

 

俺もバスに乗って運転手さんにそう頼むと、バスのドアが閉まってゆっくりとクインヴェールの校門をくぐり空港のある方向へと走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

1時間後……

 

空港に到着した俺達は大津に向かう飛行機の搭乗ゲートに向かうと、そこには既に星導館とガラードワースの生徒が集まっていた。どうやら俺達クインヴェールは3番目のようだ。まあ集合時間には間に合ったし、ビリじゃないから良しとしよう。

 

「よーっす綺凛。久しぶり。ノエルは朝ぶりだな」

 

言いながら話しかけると綺凛は穏やかな笑みを、ノエルは僅かに頬を染めながら笑みを浮かべていた。

 

「直で会うのは久しぶりですね八幡さん。お久しぶりです」

 

「はい。朝ぶりですね、八幡さん」

 

「今日から宜しく頼むわ……てめーらも3日世話になるんだし挨拶しとけ」

 

『宜しくお願いします!』

 

俺がそう言うと俺の生徒らは一斉に星導館陣営とガラードワース陣営に頭を下げる。

 

『宜しくお願いします!』

 

すると向こう側も同じように挨拶をしてくる。俺が学生だった頃は、一部のガラードワースの生徒の民度は低かったが、今のガラードワースはそうでもないみたいで安心した。

 

「今日から宜しくお願いしますね、歌奈さん」

 

「あー、うん。宜しくね優子。茨も宜しくね」

 

「はい!是非合宿は成功させましょう!」

 

内心そんな事を考えていると歌奈はガラードワースの生徒会長の茨と、星導館の生徒会長の優子と談笑している。とりあえず六花園会議の時の様に腹の探り合いはしないようだ。

 

(まあして貰っても困るんだがな……アレ結構神経使うし)

 

学生時代に俺は生徒会長をやっていたから月に一度の六花園会議に参加していたが、星武祭が近い時の六花園会議は新しいルールの導入関係でマジで醜い腹の探り合いをしていた。

 

やれ複数の純星煌式武装の所有許可だの、やれ擬形体に純星煌式武装を持たせる許可だの、やれ校章の強度の強化だの色々あった。思い出すだけで頭が痛ぇ……

 

すると……

 

「ほほう!錚々たる面々じゃのう!見るだけで胸が高鳴るのう!」

 

そんな楽しそうな声が聞こえてくる。聞いたことのある声ーーーというか一生忘れない声が聞こえてくる。

 

声のした方向を見れば万有天羅こと范星露とセシリー、それに続く形で虎峰が目を腐らせながら胃に手を当てて歩いていた。

 

それを見て察した。おそらく虎峰は、今回の合宿で間違いなく問題が起こるから……と、セシリーに道連れにされたのだろう。

 

「よう星露にセシリー。虎峰は……ドンマイ」

 

「……今直ぐに帰りたいですけど」

 

虎峰は目を腐らせながらため息を吐く。不憫だ……学生時代にも星露やセシリーに振り回されていたのに、40近くになっても振り回されるとはな……

 

「ごめんってば!でもさ、私1人で今回の合宿に参加するのは荷が重いし、そこは夫婦としてよろしく!」

 

「はぁ……次からは勘弁してください……」

 

セシリーは苦笑いしながら両手を合わせてお願いすると、虎峰は諦めたようでため息を吐く。ドンマイ

 

内心虎峰にドンマイコールをしていると、1人の少女ーーー俺の娘が他の界龍の生徒を押しのけるように出てきて俺に向けてニカッと笑みを浮かべてくる。

 

「あっ!父さん久しぶり!」

 

そう言って挨拶するのは俺とシルヴィの娘にして歌奈の双子の姉である竜胆。界龍の序列1位にして生徒会長だから代表として今回の合宿に参加したのだろう。

 

(しかも見る限り最後に会った時より遥かに強くなっているな)

 

体つきや感じる星辰力は前より遥かに増していて序列1位に相応しい雰囲気を醸し出している。今の界龍で竜胆を止められる生徒はいなくて、教師の中でも星露と暁彗、アレマくらいだろう。

 

「久しぶりだな。偶には家に帰って来いや」

 

歌奈は世界の歌姫だから仕方ないが、竜胆と翔子も茨のように週に一度は帰ってきて欲しい。

 

「やー、ゴメンゴメン。界龍って強い奴がいるから楽しくて……とううか父さんが遊びに来てよ。そしたら思い切り暴れられるし」

 

このバトルジャンキーめ……俺はそんな子に育てた覚えはないぞ。星露の影響を受けまくったのだろう。

 

「まあ気が向いたらな……」

 

「はいよー……あっ!茨達も既に来てんのか!」

 

そう返すと竜胆は生徒会長3人がいる所に向かって走り出した。そして暫くすると3人は困った顔をしているが大方竜胆に戦闘するように頼まれたのだろう。アイツはサイヤ人か?

 

「と、とりあえず飛行機に乗りましょう!もう直ぐ搭乗時間です」

 

俺が内心呆れる中、綺凛は話を逸らすように手を叩くが賛成だ。この空気を変えるには多少強引さは必要だろう。

 

「綺凛の言う通りだな。全員ゲートに向かうぞ。忘れ物がないか各自しっかりと確認するように」

 

『はい!』

 

教え子達が大きく返事をしたので、生徒らを引率する形で搭乗ゲートに向かって歩き出す。

 

(アスタリスクの外に行くのは今年の初めにノエルの実家ーーーメスメル家に行った以来だな……とりあえず合宿は成功させたいものだ)

 

俺は内心合宿の成功を祈りながら飛行機に乗ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「さて皆、四学園の生徒は全員乗ったし俺達も行こうか」

 

搭乗ゲートから離れた場所にいる葉山隼人が周囲にいる自分の仲間に声をかける。そんな彼は黒髪のカツラを付けてサングラスをかけていて、普段の彼とは明らかに別人だった。

 

「変装したとはいえバレる危険性もあるから飛行機では無駄に雑談すんなし」

 

『りょうかい!』

 

隣に立つ三浦優美子も銀髪のカツラを付けてポニーテールにしているなど見事な変装をしている。他のメンバーも髪の色や形を変えて変装をしている。

 

その数約20人。これが八幡を粛清しようと考えているメンバーである。全員刑務所に入った人間だが、自分達は間違っていると考えている人間は一人としていない。八幡を殺す事は正義の名の下において当然だと考えているのだ。

 

そして葉山と三浦を除いた18人が三浦に引っ張られる形で搭乗ゲートをくぐると、葉山はワンテンポ遅れてそれに続く。

 

(今度こそ……今度こそ比企谷を殺して沢山の人にかけられた洗脳を解かないといけない。もしも解けたら……)

 

葉山は醜悪な笑みを浮かべながら、八幡が死んで洗脳が解けた場合の未来を想像する。

 

葉山の想像する未来とは……

 

ーーー葉山君!あの卑怯者にかけられた洗脳を解いてくれてありがとう!ーーー

 

気にしなくて良い。人を助けるのは当然なんだから。

 

ーーーなんだ、やっぱり葉山君は悪くないじゃん!!ーーー

 

ーーー葉山君最高!ーーー

 

それは過大評価だよ。俺は大したことないさ。

 

ーーーまさか我々も洗脳にかけられていたのか……これは葉山君に恩賞が必要だなーーー

 

止してください。俺は当たり前の事をしただけですから。

 

シルヴィアが葉山に感謝したのを筆頭に世界中の人々が彼を賞賛して、統合企業財体も彼に感謝の意を示して……

 

 

ーーー葉山さん!私を助けてくれてありがとうございます!それで……葉山さんさえ良ければ私と結婚してくれませんか?ーーー

 

ノエルちゃん……俺なんかで良いのかい?

 

ーーーはい!本当は比企谷さんなんかじゃなくて葉山さんの事を好きになっていた筈だったので!ーーー

 

……わかったよノエルちゃん。宜しくね

 

ーーーいやー、君のように世界の救世主がメスメル家に婿入りしてくれるとは……父親として鼻が高いよ!ーーー

 

俺もメスメル家に相応しい人間になれるように努力します

 

ーーー葉山君、君さえ良ければE=Pで働かないかい。君のように世界の救世主が入ってくれれば我がE=Pは更なる飛躍を遂げる事が出来るーーー

 

俺なんかで良ければ宜しくお願いします

 

ーーー隼人さん、洗脳されてない状態では初めてですので……優しくお願いしますーーー

 

わかったよノエルちゃん。んっ……

 

ーーーんっ、隼人、さ、ん……ーーー

 

ノエルと結婚してメスメル家に婿入り、そして統合企業財体の一角のE=Pの幹部入りする想像だった。

 

(最高だな……待っててくれ皆。直ぐに比企谷を殺して洗脳を解いてみせるから)

 

そう思いながら葉山はポケットから手帳を取り出して表紙裏に貼られたノエルの写真を見る。

 

(そして待っててねノエルちゃん。洗脳を解いた暁には俺と結婚して本当の幸せを教えてあげるから……例え優美子達を犠牲にしても)

 

葉山はそのままノエルの写真にキスをしてから三浦達に追いつくように早歩きで歩き出したのだった。

 

 

 

 

「ひっ!」

 

「どうしたノエル?!」

 

飛行機に乗るとノエルはいきなり悲鳴をあげて怯え出す。幸い俺とノエルは個室を使っているので、ノエルの悲鳴によってトラブルは生じてないが結構驚いたのは事実だ。

 

「い、いえ、その……」

 

「その?」

 

「何か今……八幡さん以外の男性に洗脳されて、襲われる光景が頭によぎって……」

 

言いながらノエルは震えだす。同時に俺の中にはかつてないほどの怒りが生まれだす。

 

(誰だ人の嫁に手を出す屑野郎は?!そいつが実在するなら絶対にぶっ殺す……!)

 

ノエルが自分の意思に従って俺と別れ違う男の元に向かうならガチ泣きはするが止めはしない。

 

しかし誰かに襲われるってなら、襲った人間は必ず殺す。これはノエルに限らずオーフェリアやシルヴィ、翔子や竜胆、歌奈に茨でも同じだ。俺の家族に害を与える奴は容赦しないで殺すつもりだ。

 

ともあれ今はノエルを安心させる事が重要だな。

 

「落ち着け、ここには俺とノエルしかいないんだ。俺以外の男に襲われるって事はあり得ないからな」

 

言いながらノエルを抱き寄せて頭を撫でる。するとノエルは少しずつ震えを無くして、顔から恐怖を消していく。

 

「……もう大丈夫です。ありがとうございます」

 

「なら良かった。でも何でいきなりそんな事が頭に浮かんだんだ?」

 

「わかりません。本当にいきなりだったので……もしかして予知とかじゃないですよね?」

 

「俺はお前じゃないから何とも言えないが……もしも予知でお前が襲われるってなら俺が死んでもお前を守る」

 

「あっ……はち、まん、さん……」

 

言いながら俺はねノエルを抱きしめると、彼女も小さい吐息を漏らしながら抱き返してくる。

 

「もしも予知なら覆すだけだ」

 

「ありがとうございます八幡さん……大好きです」

 

ノエルはさくらんぼの様に真っ赤になりながら更に強く俺を抱きしめて……

 

 

ちゅっ……

 

そっと俺の唇にキスを落としてくる。ノエルだけは未だにキスをすると真っ赤になる。

 

「俺もだよ……んっ……」

 

「ちゅっ……んんっ」

 

言いながらノエルにキスを返すと、ノエルも負けじとキスを返す。見れば顔には恐怖は無くなっていて真っ赤な顔でキスを続けるノエルがいた。

 

(本当に可愛い奴め……しかし洗脳か。昔葉山は俺が洗脳していた云々言っていたが……奴が何か企んでるのか?)

 

綾斗と小町からはつい最近葉山グループは刑期を終えて出所したって聞いたし。連中の事だ。また俺に襲撃をしてくるかもしれないし警戒しとくべきだろう。

 

(まあ今は良いや。今はノエルとのキスを楽しまないといけないし)

 

そう思いながら俺は飛行機が発進してから大津に着くまでの1時間の間、ノエルとキスをし続けたのだった。

 

尚、降りる時に唾液が座席に零してしまったのは申し訳なかったです。


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