「おー……ここが銀河の本拠地か。W=Wの本拠地とはまた違った雰囲気だな」
大津に到着して銀河の専用空港から降りた俺は、銀河の本社を見て思わずそう呟いてしまう。目の前には高さ500メートルを超える巨大なビルが威風堂々と聳え立っている。W=Wの本社は高さ300メートルちょいのツインタワーだが、あのビルとは勝るとも劣らない雰囲気だ。
「(っと……雰囲気に呑まれてる場合じゃないな)全員集合しろー」
俺がそう呼びかけると俺の前に歌奈を先頭にクインヴェールの生徒が並ぶ。隣にいるノエル、綺凛、セシリーの前にも同じ感じで各学園の生徒が生徒会長を先頭に並んでいる。
「それでは今後の予定をお話しします。今からホテルの鍵を渡すので受け取ったペアは割り振られた部屋に向かって、荷物を置いてからロビーに集合してください。その後ステージに向かいます」
綺凛がそう説明するので俺は事前に渡されたカードキーをカバンから取り出して口を開ける。
「んじゃ今からカードキーを渡すから呼ばれた奴は前に来い。先ずは中1から行くぞ。ペアの桐ヶ谷と比企谷。前に来い」
今は教師だから歌奈の事も苗字で呼ばないといけない。ここで名前呼びは示しがつかないからな。
「はーい」
「はい」
言うなり2人は俺の前に来るのでカードキーを渡す。
「ありがとうございます……あ!今日の特訓が終わったら部屋に遊びに来ても良い?」
「あ、私も良いですか?!」
『じゃあ私もお願いします!』
『狡い!私も!』
『私も!先生と戦術について議論を交わしたいです!』
『あんたそんな事を言って比企谷先生に攻め込むんでしょ?!この前先生にラブレター渡したの知ってんだから!』
『貴女だって比企谷先生に告白したじゃないの!抜け駆けを考えてるんでしょ?!』
歌奈の発言をきっかけに後ろにいる女子が叫び出す。てか最期の2人。そんな事を堂々と発言すんな。嫁が怒るから。
チラッと横を見れば……
(ヤベェ……怒ってはないが……今にも泣きそうだ)
メチャクチャ悲しそうな表情で見ている。俺がシルヴィやオーフェリアなら夜に搾り取られるが、ノエルの場合搾り取りに来ないから対処が難しいんだよなぁ。
ともあれ……
「却下だ」
妻がいるのに他の女、ましてや生徒を自分の部屋に入れるなんて論外だ。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
すると生徒の大半が不満を露わにしているが知った事じゃない。そもそも戦術なんてホテルのロビーでも普通に話せるし。
「煩い黙れ。黙らないと今期の戦闘科目の単位やらないぞ」
俺がそう言うと生徒らはブーブー言いながらも少しずつ落ち着きを取り戻す。やはり単位を盾にするのは正解だったな。
「おら、比企谷と桐ヶ谷はさっさと部屋に行け。次行くぞ。テスタロッサと劉、前に出ろ」
言いながら俺は次の1年生ペアに向けてカードキーの準備をするのだった。
それが終わった後にどうやってノエルのご機嫌をとるかについて考えないとな。
20分後……
「いやだから本当に悪かったって。部屋に入れるつもりはないから悲しそうな顔をしないでくれ」
自分の泊まる部屋に着いた俺は、一緒の部屋に泊まるノエルに頭を下げる。
「……八幡さんは悪くないです。ただ私が勝手に嫌な気分になっただけなんですから……」
ノエルは気にしてないように笑うが、いつも浮かべる笑顔に比べて暗い。怒っているわけではないようだが、嫌な気分になって自己嫌悪しているのだろう。
お前が自己嫌悪する必要なんてないのに。
「いや、嫌な気分になるのは悪くない。俺もお前らが他の男と一緒にいるのを見ると嫌な気分になるし……ごめんな」
言いながらノエルをギュッと抱きしめる。それなりに女子と交流を持っているが、自分が心から愛している女は妻と子供だけである事を知って貰うように。
「い、いえ!八幡さんは悪くないですよ!ただ……寂しいのは否定しません。だから……その、今日の練習が終わったら……甘えても良いですか?」
不安そうな表情+上目遣いで俺におねだりをしてくる。破壊力がヤバ過ぎる……
「……本番抜きなら好きにしろ」
俺がそう言うとノエルは不安な表情を消して笑顔を浮かべる。守りたいこの笑顔。
「わかりました。では宜しくお願いします」
「はいよ」
了承した俺はノエルから離れて、スーツから戦闘服に着替える。俺の戦闘服はレヴォルフの制服そっくりだ。学生時代は10年近く着ていたからか、戦闘服も似たような感じにしてしまった。
(まあノエルの戦闘服もガラードワースの制服そっくり……緑か)
そんな事を考えながらノエルの着替えをつい見てしまう。髪の毛と同じ色の下着は中々刺激的だ。
とはいえガン見していたらノエルはメチャクチャ恥ずかしがるし、これ以上は止めておこう。
そう思いながら俺はノエルに背を向けてから煌式武装を装備したのだった。
30分後……
「それでは今日の流れを説明します。今日は今回の合宿の目的の一つである本番での緊張を軽減することです」
琵琶湖のほとりにある特設ステージにて俺達教師は四学園の生徒らと向かい合っている。
「基本的に他学園と決闘する事はないので、今日は他学園のペアと戦って本番の空気に慣れる事をします。またコンビネーションについての相談があるならいつでも受け付けますよ」
綺凛はそう言って生徒らを見渡す。俺もまだまだ未熟だし生徒に対する接し方といい学ぶべき箇所はあるな。
「では最初に界龍とクインヴェールが戦ってみましょう。その間に星導館とガラードワースが基礎練、コンビネーションの確認……って感じで行きたいと思います。何か質問とか要望とかはありますか?」
綺凛が確認すると竜胆が手を挙げるのを確認出来た。何だ?アイツは鳳凰星武祭に出ない筈だが……
何か嫌な予感しかしねぇ。そう思っていると……
「要望なんだけど、父さんと星露ちゃんが戦っているのが見たいなー」
竜胆ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!何余計な事を言ってんだよ?!星露が来た時点で予想は出来ていたがわざわざ言ってんじゃねぇよ!
その言葉に騒めきが生まれる。まあ長い星武祭の歴史の中で唯一決着が付かなかったからな。世間では今でもあの時の続きが見たい……って声もあるし。
「だ、そうじゃ八幡。愛娘が見たがっているようじゃがどうする?」
星露はニコニコ否、ニヤニヤしながらそう言ってくる。あの野郎、俺が娘の頼みを断れないのを知ってそう言ってるな……
結論を言うと俺自身星露と戦うのは怠いが嫌って訳じゃない。王竜星武祭で決着を付けれなかったのは納得してないし。
問題は……
「ステージの強度は大丈夫なのか?」
問題はそこだ。防護障壁を壊せるのに戦ってまたステージがブッ壊れるとか嫌だからな?
そう思いながら綺凛を見ると綺凛は首を横に振る。
「合宿前に銀河からはメインステージで八幡さんと星露さんは戦わせるなと言われてるので無理ですね。2人が戦っていいのは琵琶湖に浮かぶ人工島以外認めないとのことです」
「人工島?そんなの琵琶湖にあるんですか?」
虎峰がそう尋ねる。
「私の権限では利用目的は知りませんが、以前銀河がなんらかの目的で琵琶湖に作ったんですよ。もう使用されてないので戦うなら自由に使って良いと言われました」
言いながら綺凛は空間ウィンドウを開いて俺達にデータを見せてくる。
(大きさは直径400メートルの円形……シリウスドームの5倍近くの大きさで、島の位置は1番近い岸から5キロ以上離れている……悪くないな)
防御障壁はないようだが岸から5キロ以上離れているなら第三者に巻き添えは食らわないだろう。
つまり俺と星露が戦う際の障害はないという事を意味する。またそれは星露との戦いは避けれない事も意味している。障害がない以上星露はどんな手を使っても俺と戦おうとするのは容易に想像出来る。
よって……
「わかったよ。綺凛、その人工島に案内してくれ」
戦いを受ける以外の選択肢はなかった。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
同時に生徒の間からは歓声が上がる。まあネットじゃ俺と星露の再戦を希望する声が続出、今も王竜星武祭が近づくとニュースで俺と星露の話を聞く事もあるし。
「そうかそうか!儂はその返事をずっと待っておったのじゃ!」
星露は子供のようにはしゃぐ。今はスタイル抜群の美女になっているが中身は全く変化してないようだ。
「わかりました。では最初に八幡さんと星露さんの戦いを見学したいとおもいます」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
綺凛の言葉に再度歓声が上がる。中にはガラードワースの生徒もいる。決闘が禁止されているガラードワースとはいえ、ここいるのは星武祭に参加する人間。決闘を見るのを趣味としている奴はいるのだろう。
「いやー、あの戦いがまた見れるなんて来た甲斐があるなー、ねー虎峰?」
「続きが気になるのは同感ですが、出来るなら仙具は使わないで欲しいですね。前回の件で僕は上からネチネチ嫌味を言われたので」
虎峰は目を腐らせながら俺と星露を見てくるが、こればっかりはどうしようもないだろう。
俺と星露の王竜星武祭決勝にて、星露は初代万有天羅と二代目万有天羅、そして三代目万有天羅である星露自身が作り出した仙具をこれでもかと使いまくり、俺はその内の半分以上をぶっ壊したのだ。
界龍の宝である仙具をぶっ壊した事に対して星露は笑って許してくれたが、統合企業財体は当然良い顔をしなかった。
仙具の所有者にして製作者にして万有天羅たる星露が許してくれたから大きな問題にはならなかったが、許さなかったら間違いなく揉めていただろう。実際虎峰の胃に穴が開いたし。
「安心せい虎峰。今回は仙具の中でも初代が残した仙具しか使わないつもりじゃ」
マジか……初代が残した仙具だけした使わないのかよ。
俺は王竜星武祭で幾つも仙具を壊したが、初代万有天羅が残した仙具については対処は出来たが破壊は出来なかった。そうなるとかなり厄介だ。
「(まあ決まった以上、どうこう言っても仕方ないな……)それよりもやるなら早くやろうぜ。後のスケジュールに支障が出る」
「そうじゃのう。済まんが綺凛よ、例の人工島まで案内を頼む」
「はい……それでは私は案内するのでそれ以外の方は待機していてください。このステージにあるモニターから2人の戦いは見れますので」
綺凛がそう言って歩き出すと星露もそれに続く。顔を見るとワクワクしているのが丸わかりだ。
「じゃあノエル。ちょっくら言ってくるわ」
「はい……じゃあその前に……」
ノエルは言うなり俺に顔を寄せて……
ちゅっ……
そっと俺の唇にキスをしてくる。
『キャァァァァァァァッ!』
すると今度は女子を中心に黄色い声が上がる。まさかノエルが人前でキスをするとは完全に予想外だ。
そう思いながらノエルを見ると、ノエルは茹で蛸のように真っ赤にしながらも俺の首に腕を絡めてキスをする。あたかも第三者に見せつけるように。
暫くキスを受けているとノエルは真っ赤になったまま俺から離れて……
「か、勝ってください!」
強く激励をしてくる。今の俺の胸中には色々な気持ちがある。いきなりキスをするなと思ったり、星露に勝てなんて無茶言うなと思ったり、その他にも色々な感情が浮かぶ。
しかし……
「ああ」
妻の期待に応えないつもりはない。俺は勝てる保障はないが勝つと返事をする。
するとノエルはひまわりのように明るい笑顔を見せてくる。そんな期待が籠もった顔を見せられたら頑張らないとな……
内心苦笑しながらも俺は綺凛と星露に続いて歩き出したのだった。
『葉山君。比企谷八幡が船に乗って琵琶湖の上を移動してる』
「琵琶湖を渡っている?少し調べるから待ってくれ」
琵琶湖のほとりにあるホテルの一室にて、葉山隼人は仲間から通信を受けたので調べてみると、壁に設置してある巨大モニターに船に乗って移動している八幡と綺凛、星露が、モニターの端には巨大な人工島が映されている。
「なるほどな……岸から離れた人工島で万有天羅と戦うつもりか。しかしそれなら防護フィールドがないから干渉出来るな」
葉山は言いながら他の回線を開く。
「優美子、戸部、大和に大岡。比企谷が万有天羅と戦い始めたら、『シーボンバー』を遠隔操作して人工島に設置、状況によって起爆してくれ」
『でも隼人。アレでヒキオを倒せるとは思えないんだけど』
「倒さなくても隙を作れたらそれで良い。そしたら万有天羅の攻撃をモロに受けて終わりだ」
葉山が立てた作戦は幾つかあるが、その内の一つは星露の力を利用する作戦だった。
『そっか!そうすればあーしらが殺した事にならないね!』
『さっすが隼人君。マジぱないわー!』
『だな』
『それな』
4人も賞賛の声を葉山に浴びせてくる。それを聞いた葉山は内心ほくそ笑む。
(比企谷を殺せたら良し、殺せなくとも爆弾を使ったのは優美子達だから問題ない。仮に優美子達が捕まったとしても俺の名前を出す前に口封じをすれば問題ないな)
そんな風に考えた葉山は仲間との通信を切って、カバンからアルバムを取り出す。そこには大量のノエルの写真があった。
ガラードワースの制服を着たノエルの写真、私服を着たノエルの写真、八幡と結婚した時のウェディングドレスを着たノエルの写真(八幡の部分は切ってある)、そして学生時代に盗撮した下着姿やスクール水着姿のノエルの写真など、まさに千差万別だった。
「待っててねノエルちゃん。優美子達を犠牲にしてでも君を助けて、俺と結婚して俺との子供を作るって世界で1番幸せなイベントを体験させてあげるからね」
葉山自身、八幡を殺してノエルを手に入れる事が出来るなら仲間を切り捨てる事に対して躊躇うつもりは一切なかった。
葉山は醜悪な笑みを浮かべノエルの写真に声を掛けながら作戦の成功を祈るのだった。
「それでは擬似校章をどうぞ。ルールは星武祭と同じで校章の破壊、意識消失、ギブアップ宣言によって勝敗が決まります。宜しいですね?」
「うむ」
「ああ」
人工島に着いた俺と星露は綺凛から擬似校章を渡されながらルールの確認を受けるので頷く。
「では私はこれで失礼します。5分後に開始宣言を通信でしますので、両者共にご武運を」
綺凛は一礼して船に乗って元来た道を戻り始める。巻き添えを出さないって意味では正しいだろう。
そう思いながらも俺と星露は人工島の中心に向かって歩き出す。急いで行った所で直ぐに試合が始まるわけではないのでゆっくりと。
「いよいよじゃのう八幡。儂はこの時をずっと待ち望んでいたぞ」
隣を歩く星露は昔と変わらず楽しそうな笑みを浮かべいる。
「そんなに楽しみだったのかよ?」
「うむ。儂はこれまで八幡以外にも暁彗を始めとして陽乃や冬香、綾斗やアーネスト、前警備隊長など様々な強者と戦ったが、決着がつかなかった試合は八幡との試合だけじゃ」
まあそうだな。俺の知る限り、星露は基本的に無敗。負けた試合は1度も見た事がないが、勝てなかった試合は唯一俺との試合がある。
「だから前回の続きをするのを夢にまで見たくらいじゃよ。八幡もあの時よりも力を付けているようだし楽しみで仕方ないわい」
「そりゃどうも……が、俺も負けられないんでな」
ノエルと約束したってのもあるが、それ以上に一度でいいから星露に勝ちたいって気持ちがある。
そんな事を考えていると中央に着いた。どうやら話してる内に随分と歩いたようだ。
「さて……んじゃ50メートル位離れようぜ」
「うむ、楽しみにしておるぞ」
最後に一言だけ言葉を交わした俺達は星武祭のルールと同じように数十メートル距離を取る。
いよいよだ。18年ぶりの星露との戦いだ。クインヴェールの教師に就いてから壁を越えた生徒とは何度も戦ったが、格上との対決は本当に久しぶりだ。気を引き締めていかないとな……
そう思いながら構えると星露も似たような構えを見せてくる。しかし顔は餓狼のように獰猛な笑みを浮かべていた。早くもやる気満々のようだ。
そして……
『試合開始!』
胸の校章から試合開始の合図か響き試合が始まったのだった。