学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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怪物VS怪物 比企谷八幡VS范星露(前編)

『試合開始!』

 

試合開始の合図があった直後だった。瞬時に50メートルくらい離れた場所にいる星露が消えて……

 

「ふんっ!」

 

「おっと」

 

次の瞬間、俺との距離を詰めて右手による掌打を放ってくるので、俺は身体を僅かにズラして回避する。

 

それと同時に星露が最初にいた周辺地面が抉れて吹き飛ぶ。それはつまり星露の速さが桁違いだという事を意味する。

 

俺が星露の初撃を躱すと、星露は次に左手による張り手を放ってくるので右手に星辰力を込めて放つ。

 

同時に右手に衝撃が走り、右手から足元に衝撃は伝達して、俺と星露の足元には巨大なクレーターが生まれる。

 

しかし俺はそれを無視して、クレーターが出来た事によって浮き上がった星露の回し蹴りを当たる直前に左手で受け流す。それによって左手に若干の痛みが走るが回し蹴りをモロに受けるよりはマシだから気にしない。

 

「くくっ……鎧抜きで儂の攻撃を対処出来るとは腕を上げたのう!」

 

「ある程度だけだ」

 

これは事実。生身でも星露の攻撃に対してある程度対抗出来るようになったがある程度だ。受け流す事は出来ても反撃するのは至難だし、長引けば徐々に綻びが生じて負けるだろう。

 

よって……

 

「影の刃軍」

 

俺はわざと後ろに跳んで星露との距離を取るや否や影の刃を生み出す。数にして1000。学生時代に比べて成長したので当時より出せるようになっている。

 

「ほほっ!良いぞ良いぞ!」

 

しかし成長しているのは星露だけではないようだ。満面の笑みを浮かべて1000の刃を全て回避する。しかもよく見れば制服すら切れていない。

 

(野郎……だったら……!)

 

そう思いながら俺は影の刃を維持したまま『ダークリパルサー・改』を1本起動して星露の真上に投げつける。

 

そして……

 

「爆!」

 

そう叫ぶと『ダークリパルサー・改』は爆発して、そこから超音波か周囲に放たれる。『ダークリパルサー・改』は最近材木座が開発した煌式武装であり、今のように所有者の意思で超音波爆弾にする事も可能な煌式武装である。

 

「ほほう!広範囲に超音波を放てるようにしたのか!」

 

対する星露は笑ってはいるが少し、ほんの少しだけ動きが鈍っている。大抵の人からしたら変わってないように見えるだろうが、俺にはハッキリと動きが鈍っているのがわかる。

 

当然そんな隙を逃すつもりはない。俺はそのまま影のある1000本を一斉に星露に向けて放つ。並の相手なら全身串刺しとなってあの世行きだろうが星露なら死ぬ事はないだろうなら問題ない。

 

そう思った時だった。突如星露の周囲の空間がグニャリと歪んだかと思えば形状が芭蕉の葉に似た扇が出てきて星露の手に収まったかと思えば……

 

「ふんっ!」

 

星露がそれを振るう。同時に扇が光ったかと思えばそこから圧倒的な突風が生まれて影の刃を一瞬で吹き飛ばす。

 

それどころか俺自身も吹き飛ばそうとしてくるので、俺は脚部に星辰力を込めて爆発的な加速をしてこの場を離れる。するとさっきまで俺がいた場所の地面が吹き飛び、地面に穴が生じて琵琶湖の水が跳ね上がる。

 

(風を生み出しただけでこれ程の衝撃……思い当たるのは一つしかねぇな)

 

それは……

 

「仙具だな?」

 

「如何にも。初代が作り出した仙具の一つ『芭蕉扇』である」

 

言いながら星露は手に持つ巨大な扇を見せてくる。

 

(芭蕉扇……大妖魔牛魔王の妻である鉄扇公主が持っていたと言われる、神風を生み出す秘宝だったっけか?また面倒な物を持ってきやがって……)

 

嫌な気分にはなっているが驚きはしない。何せ王竜星武祭では闘戦勝仏が所有していたと言われる『如意金箍棒』を使ってきたし。

 

ともあれ向こうが初代万有天羅が作った仙具を使ってくるなら生身では戦いにすらならないだろう。

 

だから俺は……

 

「纏え、影狼修羅鎧・改」

 

言いながら影に星辰力を注ぐ。同時に影が俺の身体に纏わりついて、狼を模した西洋風の鎧と化す。

 

しかし普段の影狼修羅鎧と違って背中には黒い翼ーーー影狼夜叉衣に備わっている竜のような翼が生えている。

 

そして装備を完了すると同時に翼と脚部に星辰力を込めて……

 

「はあっ!」

 

瞬時に星露との距離を詰めて右拳を振るう。狙いは『芭蕉扇』を持つ星露の左腕だ。

 

「ほほう!」

 

「ぐっ……」

 

対する星露は楽しそうに笑いながら身体を捻って回避しながら俺の腹を軽く蹴ってくる。鎧越しとはいえ結構痛え……

 

内心舌打ちしている星露は大きく後ろに跳んで距離を取り『芭蕉扇』を振るう。同時に『芭蕉扇』からは竜を模した豪風が地面を削りながら俺に向かってくる。

 

しかしモロに食らうつもりはないので、豪風が届く前に翼を羽ばたかせて『芭蕉扇』の生み出す豪風を回避して直ぐに星露との距離を詰める。

 

星露の近接戦闘能力は恐ろしいが、遠距離戦だと強力な仙具を使ってくるだろう。対する俺の遠距離攻撃は仙具に比べたら勝てない。よって俺が勝つ為には必然的に近接戦になるのだ。

 

「おらあっ!」

 

左ストレートを放つ。すると星露は右手で俺のストレートを受け流し、左手に持つ『芭蕉扇』を振るおうとしてくる。近距離で食らっては不味い……

 

その前に俺は左足を蹴り上げて『芭蕉扇』を跳ね上げる。今がチャンス……

 

そう思って俺は右手に星辰力を込めて星露の顔面に拳を振るう。

 

「それを食らうのは得策ではないのう」

 

しかしその前に星露は『芭蕉扇』を盾にして、俺の拳が『芭蕉扇』に当たった瞬間に後ろに跳ぶ。

 

(当たった瞬間に後ろに跳んで威力を殺したな……)

 

俺も会得している技術だが、星露がその技術を使えば殆ど無傷で済むだろう。

 

「ふははっ!良いぞ八幡!実に良い!」

 

星露はボロボロになった『芭蕉扇』を持ちながら満面の笑みを浮かべて立っている。口元を見れば僅かに血を流しているが予想通り殆ど無傷だ。

 

「八幡、そなたのその鎧、影狼修羅鎧と影狼夜叉衣を混ぜ合わせた鎧であるな?」

 

「そうだ」

 

星露の問いに頷く。

 

影狼修羅鎧は硬いが遅く、影狼夜叉衣は速いが脆い。つまり前者を纏った攻撃は綾斗や綺凛みたいなスピードタイプには当て難く、後者を纏った場合星露や暁彗みたいにタフネスな奴からカウンターを食らったら即アウトになってしまう。

 

だから俺は多少出力を落としても両方の鎧の長所を兼ね備えた鎧を開発したのだ。勿論苦労した。影神の終焉神装みたいに肉体に負荷が掛かる鎧なら簡単に作れるが、そこまで肉体に負荷が掛からない鎧を作るのは星辰力の細かい制御が重要だから。

 

しかし何とか完成させる事に成功。以降は任務で良く使う程だ。

 

普段の俺のパワーと防御とスピードを1000とすると、影狼修羅鎧と影狼夜叉衣を纏った時の俺は……

 

影狼修羅鎧

 

パワー10000

防御10000

スピード1200

 

影狼夜叉衣

 

パワー10000

防御1000

スピード12000

 

って感じで、影狼修羅鎧・改は……

 

パワー7500

防御8000

スピード7000

 

とバランスよく作られた鎧で、肉体にもそこまで負荷が掛からないので弱点らしい弱点はないのだ。

 

「くくっ……!これだから戦いは止められない!壁を超えし者は常に儂の予想を上回る!さあ!続きと行こうぞ!」

 

言うなり星露は笑いながらボロボロになった『芭蕉扇』を投げ捨ててから瞬時に俺の元まで来て掌打を放ってくる。

 

だから俺も迎え撃つ。レヴォルフ時代に星露の影響を受け過ぎて白兵戦が好みになってしまったが故に。

 

(ま、星露もそうだが俺と殴り合える人間なんて少ないんだし、久々に殴り合いをやりますか)

 

そう思いながら俺は胸の内の高鳴りを拳に乗せて掌打を放ち、星露の拳とぶつけ合うことで足元に巨大なクレーターを生み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』

 

ステージにいる四学園の生徒らはモニターに映る八幡と星露の戦いを見てテンションを最高潮まで高めている。

 

「いやー、やっぱりあの2人は桁違いだねー。まるで天災同士のぶつかり合いだよ」

 

観客席にいるセシリーは興奮しながらモニターを見る。モニターでは星露の拳が八幡の鎧の兜を破壊している。

 

「そうですね……ああ、『芭蕉扇』はもう使えないみたいですし、また上から嫌味を言われそうだ……」

 

セシリーの隣に座る虎峰は目を腐らせながら今後の未来を想像して頭を抱える。虎峰は合宿が終わると同時に界龍上層部に嫌味を言われると確信を持っていた。

 

「えっと……止めた方が良かったですか?」

 

「いえ……綺凛さんが止めても師父は聞かなかったと思いますのでお気になさらず」

 

「うん、絶対に止まらないね」

 

綺凛が若干申し訳なさそうに言うと、虎峰は苦笑しながら首を横に振り、セシリーはうんうん頷く。星露を良く知っている虎峰とセシリーからしたら止めるのは絶対に無理と思っている。

 

「そうですね……それにしても2人とも全く本気を出してないですし、どうなるのでしょう?」

 

八幡の妻にして、一時期星露から教えを受けていたノエルからしたら2人は全く本気を出していないのが丸分かりだ。

 

それはノエルだけでなくこの場にいる全員がそう思っている事だ。八幡は最強の鎧を纏ってないし、星露もシリウスドームを壊す要因となった仙具を使っていないから。

 

(厳しい戦いなのは知ってますが……頑張ってください、八幡さん)

 

ノエルは祈るように手を合わせて愛する夫を応援する。そこには夫に対する愛しか存在せずそれ以外の男など眼中に無かった。

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

『葉山君!俺の担当していた『シーボンバー』が2人の戦闘の余波で破壊された!』

 

『こっちも壊れた!』

 

『こっちは大丈夫……あ!今壊れた!』

 

「(クソッ、これで6つ目か!高い金を払って買ったのに……!)わかった。とりあえず生きてる『シーボンバー』は全て撤収してくれ」

 

とあるホテルの一室にて葉山隼人は仲間から入る報告に内心舌打ちをしながら指示を出す。

 

『シーボンバー』は技術開発局が開発した使い捨ての水中戦用の爆弾型煌式武装である。元々は水中を移動させて敵の戦艦の底に貼り付けて爆発させる用途で作られた煌式武装である。

 

葉山達は人工島の底に貼り付けて八幡がその上に乗った瞬間に爆発させる算段だったのだが……

 

(万有天羅め!余計な事をするな!)

 

星露が放つ一撃一撃は全て桁違いで人工島全体に衝撃が走り、起爆する前に片っ端から『シーボンバー』を破壊しているのだ。

 

『シーボンバー』は誤爆を防ぐ為に所有者の操作以外で壊れる事は絶対にないが、今回はそれが仇となって壊れても爆発せずに湖底に沈んでいく。

 

だから葉山は生きている『シーボンバー』を撤収する方針を取ったのだ。『シーボンバー』を始めとした八幡を殺す為の武器には大金を払ったので無駄にしたくないが故に。

 

尚、出所したばかりの葉山達がどう稼いだかと言うと、再開発エリアにいるチンピラを複数で襲って金を奪ったのだ。明らかに犯罪行為だが、葉山達は『比企谷という悪を消す為に社会のゴミから資金を寄付して貰った』と一切気にしていない。

 

閑話休題……

 

そんな訳で葉山は無駄な損害を避ける為に『シーボンバー』を全て撤収させたのだ。

 

「クソッ……万有天羅め!俺達は世界の為に動いているのに余計な事を……!」

 

葉山は内心毒づきながらモニターを見れば、八幡と星露が殴り合いをして人工島をガンガン壊している。

 

「比企谷にしても卑怯な手を使っている癖に……そんなんで勝って恥ずかしくないのか!」

 

葉山は未だに八幡は卑怯な手を使っていると考えている。星武祭で負けたのも八幡がイカサマをしたと考えている。

 

「だが俺は諦めない……!そして必ずノエルちゃんを救ってみせる!」

 

葉山はそう叫びながら違うモニターを起動する。するとステージにて八幡と星露の試合を見ながら祈るように手を合わせているノエルが映る。

 

「待っててねノエルちゃん。君がいる場所は比企谷の隣じゃないんだ。直ぐに助けて俺の花嫁にしてあげるからね?」

 

葉山はそう言いながらモニターに映るノエルを見て薄く笑い、手元にあるノエルの写真にキスをして息を粗くするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

既にどれだけ時間が経過したかはわからない。

 

俺が拳を振るうと星露はそれを避けたり受け流したり、モロに受けながらもカウンターを仕掛けてくる。

 

そして星露が拳を振るってくる時は敢えて受けてカウンターをしている。それによって身体には痛みが走るがこうでもしなきゃ星露に攻撃を当てるのは難しい。

 

「はあっ!」

 

「はっ!」

 

すると今度は偶然にも互いの拳同士が当たり地面に衝撃が走り、人工島に穴が空くので湖に落ちる前に無事な箇所に移る。試合が始まってから5分程度なのに人工島の半分は壊れている。

 

「くくくっ……!やはり八幡との戦いは良いのう!胸が熱く高鳴りが止まらん!」

 

星露は口から血を流しながらも心から楽しそうに笑う。やはり星露が折れるって事はあり得ないだろう。

 

「じゃがまだじゃ」

 

星露がそう呟くと星露の手元の周囲が歪んだかと思えば虚空に穴が現れ始める。

 

「儂が本当に戦いたいのは、その状態の八幡ではない」

 

虚空からは神々しさを秘めた漆黒の槍が現れる。その槍の刃の片側には三日月状の刃が付いて鈍い輝きを放っている。

 

俺はその槍を知っている。アレは……

 

「『方天画戟』……!」

 

シリウスドームの防御障壁を破壊した、星露の持つ仙具の中でも最強の破壊力を持つ仙具であった。

 

「行くぞ八幡よ!」

 

俺が戦慄するが、星露は『方天画戟』を持って圧倒的な速度でこちらに詰め寄ってくるので意識を星露に集中する。

 

そして……

 

「呑めーーー影神の終焉神装」

 

こちらも負けじと最強のカードを切る事にしたのだった。

 

 

 

 

 

怪物と怪物の激闘は苛烈さを増していく。




登場人物紹介

葉山隼人(39)

皆仲良くを地で行く優等生(ただし八幡を始めカースト外の人間は除く)

皆で仲良く楽しい学園生活を送る為に中学卒業後はガラードワースに進学。入学当初は順調に過ごしていたが、鳳凰星武祭に参加した際に八幡を無意識のうちに見下した態度を取った事からオーフェリアの逆鱗に触れる。

以後徐々に八幡に対して負の感情を抱くようになり、八幡や八幡と繋がりのある人間は卑怯な事をしていると思い始める。獅鷲星武祭でチーム・赫夜に瞬殺された事によって感情が爆発。

八幡が卑怯な事をした、ありとあらゆる人間を洗脳したと判断してグループの人間と共に、八幡の罪を裁くべく動き出す。その際に八幡を殴ったり、学内で八幡の悪口を言うグループを作ったりした。それによってガラードワースの評価は下がったが自分は関係ないと思っている。

その後王竜星武祭で八幡と当たる。その際に八幡を倒して皆を救うと意気揚々と挑むも、背中を見せて逃亡する醜態を全世界に公開される。

その件によってグループメンバーの大半を失い、それも八幡の所為と思い込み、好き勝手させないと八幡に闇討ちを仕掛けるがE=Pの諜報員に拘束される。そして王竜星武祭最終日に同じように八幡に闇討ちをしようと考えて拘束された三浦達と一緒に八幡の粛清を誓い合う。

王竜星武祭が終わって少ししてから懲罰房から出して貰うも八幡に対する憎悪は晴れず、グループメンバー30人前後と鍛錬をする。この間特に問題は起こしていない。

その4年後、ノエルがシルヴィアとオーフェリア同様に八幡と結婚するニュースが世界中に流れて、八幡はノエルを洗脳してメスメル家やE=Pとのコネを手に入れようとしていると判断する。

即座にグループメンバーと共に闇討ちを仕掛けるも呆気なく返り討ちにあって全員懲役15年以上の刑に処された。

獄中でも八幡に対する憎悪を滾らせていてノエルを救うと強く思っていた。それが暫くの間続くと、ノエルは洗脳されているから八幡と結婚したのであって本当は自分の事が好きだと思うようになる。

それが15年以上考えた結果出所する頃には自分とノエルは運命の赤い糸で結ばれている、自分とノエルは両想いとまで思うようになり、八幡の粛清と同時にノエルとの結婚も夢見るようになった。


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