学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は妹に協力すると約束する

肌を刺すような7月の日差しは昼になると一層厳しくなり、学生だけでなく大人までもそれを忌避するだろう。

 

俺がいつも昼飯を食べるベストプレイスは日差しを遮る物がない。よって普通の学生なら雨の日や今日みたいな日差しが強い日は利用しないだろう。

 

 

 

 

 

普通の学生なら

 

 

 

 

「……やっぱり八幡は魔術師というより道士に近いわね」

 

オーフェリアはパンを食べながら若干感心しているような雰囲気を出しながらそう言ってくる。

 

影の中で

 

そう、今日は日差しが強いって事で俺とオーフェリアは俺の影の中で昼飯を食っている。影の中は熱を遮る事が出来るので日光に苦しむ事なく過ごせる。

 

普通なら女子と密閉された空間で2人きりなんて無理だが、オーフェリアとは長く一緒にいるからか緊張はなく、寧ろ少しの安心感があって心地良い。

 

「まあ俺の力は攻撃、防御、支援どれもそこそこ使えるから道士寄りかもな」

 

影の刃、影の鎧、影による分身体なんでも出来るから否定はするつもりはない。

 

「それよりオーフェリア、さっきの六花園会議の話の続きを頼む」

 

俺はさっきまで話していた事について聞いてみる。

 

 

 

六花園会議 それはアスタリスクにある六つの学園、星導館学園、クインヴェール女学園、レヴォルフ黒学院、アルルカント・アカデミー、界龍第七学院、聖ガラードワース学園の生徒会長が1ヶ月に一度アスタリスクの中央区にある高級ホテル、ホテル・エルナトで行われる会議である。

 

その場に参加出来るのは各校の生徒会長のみだが、会議の後で生徒会役員や生徒会長と関わりが深い人間は会議の内容を知る事はあり得る事だ。

 

そしてオーフェリアはレヴォルフの生徒会長であるディルク・エーベルヴァインと関わりが深いからある程度の情報を持っている。だから俺は偶にオーフェリアから話しても特に問題ないと思える話を聞いている。

 

「ええ。確か……何処まで話したかしら?」

 

「確かアルルカントが人工知能を搭載した(自我を持った)機械をアスタリスクの学生として受け入れて星武祭への参加を提案して他の学園に却下された所までだな」

 

俺は人工知能を持っている機械はそこそこ興味が湧いて戦ってみたいとは思ったが上の人間からしたら迷惑千万だろう。

 

仮にその提案が通っても有利になるのはアルルカントだけだ。それなりに根回しをするか、他の学園に対するメリットを示さない限りそんな提案一蹴されるのがオチだ。

 

「……そうだったわね。それで却下されたから自我を持った機械を武器として星武祭で使う事をアルルカントは考えているらしいのよ」

 

「ほう武器として、か……」

 

それを聞いて俺は納得した。確か星武憲章には道具……つまり武器武装の使用に関して、形状でそれを制限するような項目はなかったと思う。

 

普通の単純作業しかできない自動制御の擬形体なら速攻でスクラップになるのが目に見える。しかし……その擬形体に人間と同じような判断力を持たせればどうなるかはわからない。

 

その上、強力な煌式武装や装甲を取り入れたら星武祭は荒れるかもしれない。

 

「ふーん。このタイミングでそれを提案するって事は鳳凰星武祭で出てくるのか?」

 

出来るなら王竜星武祭に出て欲しいな。俺アスタリスクに来てから戦闘狂になったし。

 

「そうじゃない?興味ないけど」

 

オーフェリアはいつもの表情でそう返す。

 

「ったく……相変わらずだな。少しくらい興味がある物とかあるのか?」

 

ぼっちである俺すら読書とプリキュアがあるってのに……そんなんじゃ退屈だろうに。

 

すると……

 

「……私が今興味があるのは八幡だけよ」

 

オーフェリアは事も無げにそう言ってくる。それを聞いた俺は顔が熱くなるのを感じる。

 

勿論オーフェリアにその気がないのは理解している。理解してはいるが……はっきりと言われるのは恥ずかしいな。

 

「……マジで?」

 

つい聞いてしまう。オーフェリアは平然としたまま頷く。

 

「ええ。……八幡といると何だか安らぐのよ」

 

そう言ってパンを食べ終えたオーフェリアは俺の肩に寄りかかる。以前オーフェリアが俺の肩を借りて寝て以降、オーフェリアはよく俺の肩に寄りかかってくるようになった。

 

俺自身恥ずかしいという気持ちはあるが心に蓋をしてそれに耐える。それでオーフェリアが安らいでくれるなら羞恥心なんて無視するつもりだ。出来る事ならオーフェリアには裏の仕事をしていない時には安らいで欲しい。

 

そんな事を考えながらオーフェリアの頭の重みを感じているとポケットにある携帯端末が着信を知らせる。俺はポケットから端末を取り出すと画面に『比企谷小町』と表示されている。

 

「すまんオーフェリア。電話が来たから出ていいか?」

 

一応一緒にいるオーフェリアから許可を取らないとな。

 

「いいわよ」

 

了承を得たので空間ウィンドウを開く。

 

するとそこには星導館に通う最愛の妹の小町の顔が表示されていた。

 

 

『もしもしお兄ちゃん?』

 

「おう。どうした小町?」

 

『うん。実はお願いが……って、お兄ちゃんの周囲真っ暗だけど何処にいるの?』

 

小町が不思議そうな顔で見てくる。あー、そういや忘れてたな。

 

「ああ。日光がきついから影の中で飯食ってる」

 

『ほぇ〜。お兄ちゃんの能力ってやっぱり多彩だね。アスタリスクで1番じゃないの?』

 

それについては否定しない。アスタリスクの生徒の間では1番強い異能者はオーフェリア、1番万能な異能者はシルヴィ、1番多彩な異能者は俺と評されている。

 

「そうかもな。ところで何か用か?さっきお願い云々言っていたが」

 

『あ、そうそう。鳳凰星武祭まで1ヶ月切ってるじゃん?だからお兄ちゃんに稽古付けて欲しくて』

 

「俺?」

 

『うん。同じ学校の人には手を晒したくないしね』

 

「だからって何で俺……ああ、ひょっとして前シーズンの王竜星武祭の予選で俺が使ったアレを練習に使うのか?」

 

『そうそう。アレなら充分な実力もあるし良い練習になると思うからね』

 

なるほどな。確かにアレなら良い練習になるだろう。

 

「わかった。どうせ暇だし付き合ってやる」

 

『本当?!ありがとうお兄ちゃん!』

 

うん、妹に礼を言われるのは実に気分が良いな。

 

「俺達は学園は違うから練習場所は学外中央区にあるトレーニングジムでいいな?」

 

『それなら大丈夫だよ。既にステージは鳳凰星武祭が始まるまでの1ヶ月間予約してあるから。冒頭の十二人の肩書きって便利だよね〜』

 

それについては否定しない。住む部屋や学費免除、学校での待遇その他もろもろが優遇されるからな。

 

「わかった。じゃあその場所のデータを俺の端末に送っといてくれ。今日からで良いのか?」

 

『うん!今日からで大丈夫?』

 

「問題ない」

 

『じゃあ今日の6時からよろしく。またね!』

 

そう言われて通話が切れるので端末をポケットにしまう。

 

通話を終了した俺はペットボトルの水を飲んでいるとオーフェリアに制服の裾を引っ張られる。……何かその仕草可愛いな。

 

「八幡の妹は鳳凰星武祭に出るの?」

 

「まあな。そんで今日からトレーニングに付き合うつもりだ」

 

「……ああ。確かに八幡の能力なら良い訓練になるわね」

 

俺の力を1番知っているオーフェリアは納得の表情を浮かべる。

 

「そういう事だ。良かったらお前も来るか?」

 

「……八幡、私の体を忘れたの?」

 

いやいや。忘れていない。その上で提案している。

 

「いや、覚えている。瘴気で周りに迷惑がかかると言うならこうすればいい」

 

俺はそう言って影をオーフェリアの服の内に入れる。そして影は形を変えてオーフェリアの服の下に展開される。

 

「……これは?」

 

「こうやってお前自身の服だけでなく、俺が作った影の服で二重にすれば確実に外に瘴気が漏れる事はないと思うぞ?」

 

俺の影を破るには多量の星辰力を必要とする。そりゃオーフェリアが少しでも本気を出したらこんな服一瞬で破壊されるだろう。しかし本人の意志を無視して出てくる瘴気程度なら防ぐ事も可能だろう。

 

「………」

 

オーフェリアは無言で自分自身の体を見渡している。そして暫くしてから口を開ける。

 

「どうだ?」

 

「……大丈夫だわ。これなら瘴気が漏れる事はないわね」

 

オーフェリアはそう言って頷く。

 

「なら良かった。じゃあ来てくれないか?小町も以前お前に会えなくて残念がってたし」

 

オーフェリアはそれを聞いて暫く考える素振りを見せてから無言で頷いた。

 

「そうか。悪いな」

 

「……別に構わないわ。それよりもお願いがあるのだけど」

 

「お願い?何だ?」

 

こいつが頼み事なんて完全に予想外だ。出来ることなら叶えてやりたいが……

 

「……いえ、また今度にするわ」

 

「ん?今はいいのか?」

 

「……ええ。まだ心の準備が出来てないから」

 

心の準備?よくわからないが今は頼み事をしないようだな。

 

「わかった。じゃあ心の準備が出来たら言ってくれ。俺に出来ることなら全力を尽くす」

 

「んっ……」

 

オーフェリアは頷いて俺の肩に頭を乗せてくる。こいつが何を願うか知らないがそれが吉となる事を願うだけだ。

 

俺は目を閉じているオーフェリアを見ながら肩を貸し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3時間……

 

「すまんオーフェリア、遅れた」

 

「集合時間前だから別にいいわ」

 

午後の授業が全て終わったので俺達は小町が教えてくれたトレーニングジムに行く事になった。

 

今の時刻は4時半、トレーニングジムの場所はレヴォルフからゆっくり歩いて1時間くらいの場所にあるから歩くつもりだ。そうすれば集合時間30分くらい前といい時間だしな。

 

「じゃあ行こうぜ」

 

「……ええ」

 

オーフェリアが頷いたのを確認して歩き出す。隣にはオーフェリアもいるので問題ないだろう。

 

そう思いながらレヴォルフの校門を出た時だった。

 

俺はピタリと足を止めてしまう。それに気付いたオーフェリアも不思議そうな顔をしながらも足を止める。

 

しかし俺は前から歩いている4人に意識を割いていた。

 

1番手前にいる眼鏡をかけて気の弱そうなレヴォルフの生徒は知っている。ディルクの秘書をしている樫丸ころなだ。もの凄いドジって事くらいしか知らないが、何故ディルクが彼女を秘書にしているかはアスタリスク七不思議の一つとなっている。

 

その後ろに並んで歩いているのはアルルカントの制服を着た2人組だ。

 

1人は褐色肌の女性で、切れ目の目と、生真面目そうな口元が冷たい印象を与えている。

 

もう1人の女性は天真爛漫な笑顔を浮かべていて褐色肌の女性と比べて元気という印象を与えている。

 

しかしその3人については大した問題じゃない。

 

問題は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははははっ!久しぶりだな八幡!我が相棒よ!」

 

夏なのにアルルカントの制服の上にコートを着て、指抜きグローブを装着している見覚えのあるデブだけだ。

 

 

それを見た俺はこう思った。

 

 

何やってんだ材木座?

 

 

俺の目の前にはかつて同じ中学にいた男、材木座義輝が褐色肌の女性には蔑まれた視線で見られながら剣を構えているようなポーズを取っていた。

 

 


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