学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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合宿2日目、生徒らが活発に動く中、不穏な動きが存在する

合宿は2日目に突入した。合宿に参加している生徒らは初日に他校の生徒と交流したからか、昨日より張り切って鍛錬や模擬戦に励んでいる。どのペアもイキイキした表情やギラギラした瞳を持って積極的に訓練に励んでいる。

 

そんな中、俺は……

 

 

 

 

 

「おらおら。鎧を纏ってない俺に勝てないようじゃ竜胆を超えるなんて夢のまた夢だぞ……呑め、影波」

 

言いながら影に星辰力を込めて黒い大波を生み出してステージにいる界龍第七学院序列4位の趙龍苑と序列5位の趙燐音にぶつける。

 

「させないっ……急急如律令、勅!」

 

すると燐音が呪符を取り出しながら叫ぶと、そこから雷の龍が生まれて影の波の一部を破壊する。そして雷の龍によって生まれた穴からは龍苑が出てきて俺に襲いかかってくる。その足には界龍が誇る純星煌式武装『通天足』が装備されている。

 

龍苑と燐音は虎峰とセシリーの子供で、ウチの竜胆と同じく今年の春に入学した。そして親と同じスタイルを身につけている。

 

息子の龍苑は父親の虎峰同様に体術をメインウェポンに、娘の燐音は母親のセシリー同様に雷系の星仙術を武器にしていて、見る限り学生時代の虎峰とセシリーと同格以上の動きを見せている。

 

とはいえ……

 

「馬鹿正直過ぎだ」

 

まだ子供故に攻撃が割と単純だ。そう言いながら龍苑の蹴りを紙一重で受け流す。確かに蹴りの速度は一級品だ。それについては否定しないが虎峰に比べれば鋭さはないし、それ以前の話として星露の蹴りを何百回と食らった俺からしたら簡単に見切れる速さだ。

 

暫くの間、龍苑の蹴りを受け流し続けていると、蹴りが徐々に鈍くなっている。これについて一発も直撃させてない事によるストレスと焦りが原因だと判断出来る。

 

俺は龍苑の蹴りを受け流しながらも、チラッと龍苑の後ろを見れば燐音は呪符を取り出してはいるものの攻めあぐねている。

 

理由は多分、燐音の星仙術は母親同様にパワー型で細かい制御が出来ず、下手に攻撃したら龍苑も巻き込んでしまうからだろう。

 

(さて、そろそろ終わらせるか。次のペアも待ってるだろうし)

 

方針を決めた俺はそのまま龍苑が放つ踵落としを掴む。既に焦りによって龍苑の蹴りの質は下がっているので簡単に掴めた。

 

「影よ」

 

そして足元の影から触手を生み出して龍苑の両足首を縛り付ける。これで『通天足』は使えないし、自由に動くのは無理だろう。

 

「行け」

 

俺が触手に指示を出すと触手は龍苑を俺の上に運びグルングルン回転させる。

 

「うわわわわわわわわわわっ!」

 

頭上からは龍苑の悲鳴が聞こえ、その声は徐々に弱々しくなってくる。少し可哀想かもしれないが模擬戦でも手を抜くつもりはない。

 

そしてそのまま燐音に向かって走りだす。対する燐音は呪符を俺に向けてくる。

 

だから俺は……

 

「急急如律りょうわぁっ!」

 

星仙術を使用する前に俺と燐音の間に龍苑を投げつける。すると燐音は龍苑を巻き込むつもりはないのか星仙術の発動を止める。

 

当然そんな隙を逃すはずもなく、俺は腰のホルダーから『ダークリパルサー』を取り出して目を回している龍苑を切り、間髪入れずに燐音に投げつける。只でさえ目を回しているのに『ダークリパルサー』の超音波を受けたのだ。気を失ってなくても実質戦闘不能だろう。

 

それに対して燐音は身体を動かして回避するも、ほんの少し掠ったようで苦悶の表情を浮かべる。

 

勿論こんな隙を見逃すつもりはない。

 

「纏えーーー影狼夜叉衣」

 

そう呟くと俺の影から緑色の魔方陣が展開され、同時に俺の両手足には分厚い鎧が、背中には天女が纏うような羽衣と竜の背中に生えているような巨大な翼が生まれる。

 

そして展開すると同時に……

 

「詰みだ。負けを認めろ」

 

背中にある羽衣も翼に星辰力を込めて、圧倒的な速度で燐音の後ろに回り込み燐音の首に触れる。

 

「ま、参った」

 

燐音は両手を上げて降参の意思を示す。流石にこの状況から逆転は無理と理解したのだろう。

 

だから龍苑を見てみれば……気絶しているし。何度も回転させてからの『ダークリパルサー』の二連攻撃はやり過ぎたか?

 

俺は多少やり過ぎた事を完成するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ総評に入るぞ。先ず龍苑だが真っ直ぐ過ぎる。大抵の相手なら問題ないが壁を超えた人間には通用しないからな。『通天足』を使い際は三次元での高速移動だけじゃなく、緩急もつけろ」

 

「わかりました!」

 

試合が終わって龍苑が目が覚めたので総評をする。今日は昨日と違って俺も生徒と戦う方を担当している。

 

「次に燐音。母親がガサツだから仕方ないが、もう少し小手先の技術も身に付けろ」

 

「何だとー!」

 

少し離れた場所からセシリーが文句を言ってくるが知らん。お前がガサツでズボラなのは事実だろうが。

 

「ゴリ押しを否定するつもりはないがそれだけじゃ勝てないからな。教わるならセシリーじゃなくて暁彗あたりに頼め」

 

「はーい」

 

燐音は母親に似た陽気な笑みを浮かべながら手を挙げる。頼むから母親のようにズボラな女になるなよ……?

 

「わかってるなら良い。そんじゃあ今から他所の学園……そうだな。冒頭の十二人がいるペアに勝負を挑んでこい。勝ち負けはどうでも良いが、今言った事を最優先に試してみろ」

 

俺が指示を出すと2人は頷いてステージから去って行ったので成績を付け始める。若さ故に実戦経験が少ない事が弱点となっているな。

 

ただ、スペックそのものは高いから3年後4年後にはとんでもない2人組になるのは間違いない。

 

(とりあえず今日も皆やる気を出しているな……これなら星武祭も盛り上がるな)

 

俺としては可能な限り星武祭を盛り上げていきたい。理由は妻のシルヴィが星武祭の運営委員会のメンバーだからだ。俺達が盛り上がる為に裏で動き、運営委員会のシルヴィがそれを活かす。そうすればシルヴィは更に上に行けるだろう。

 

シルヴィの目標は運営委員長になる事だから俺も協力を惜しまないつもりだ。

 

そう思いながら成績のチェックをしていると、いきなり首に腕を回されて痛みを感じる。

 

「は〜ち〜ま〜ん?誰がガサツだって〜?」

 

後ろを振り返る事は出来ないが声からしてセシリーだろう。セシリーはガサツ呼ばわりされる事を不満に思っているようだが……

 

「事実だろうが。前にお前の部屋の写真を見たがアレを見てお前をガサツと思わない奴はいないと思うぞ?」

 

「ぐっ……そこを言われたら返せない……というか写真って何さ!」

 

「あん?前に虎峰に見せて貰った」

 

男子会をする度に虎峰はセシリーの散らかしっぷりを愚痴っている。前に写真を見せて貰った時はドン引きしてしまった。

 

男子会に参加するメンバーの自室は基本的に綺麗だ。例外として材木座の部屋は煌式武装や部品などで汚いが、一定期間したら掃除をするので虎峰に掃除を任せているセシリーよりはマシだろう。

 

「虎峰〜!何をバラしてんのさ〜!」

 

セシリーは怒りを露わにするが、虎峰は今違うステージにいるからな?

 

「こうなったら虎峰の黒歴史もバラしてやる!知ってる八幡?」

 

「何だよ?」

 

「実は何度か虎峰に女装させて街を歩いたんだけど、その度に虎峰、最低3回はナンパされたんだよ」

 

「マジで?」

 

「マジで」

 

へぇ……まあ、確かに……奴が女装したら完璧な美少女だろう。ナンパする奴が居ても不思議じゃない。

 

しかし妻が夫に女装させるってどんな夫婦だよ。材木座とエルネスタの甘々夫婦もだか、俺の周囲にいる夫婦って変な奴多過ぎだろ?

 

まあそれはともかく……

 

「良い情報をありがとさん。今度ネタにさせて貰うわ」

 

こんな面白いネタを俺の胸の内に仕舞っておくなんて勿体ない。是非とも次の男子会で話そう。

 

「おーおー、八幡も悪い人だねー」

 

「バラしたお前が言うな。てか今は休憩時間じゃないんだからそろそろ戻れ」

 

「ほーい」

 

セシリーはそう言って元の場所に戻っていった。それなりに長い付き合いだが破天荒な奴だ。

 

(にしても虎峰の女装か……ネットに落ちてないか?)

 

ふと興味が湧いたのでネットで『趙虎峰 女装』と検索してみる。すると……

 

(ヤベェ、クソ可愛い……)

 

ありました。ミニスカートを履いて恥じらいの表情を浮かべている虎峰の写真がありました。ネットの反応を見ると『似ている』『本物か?』『いや、そっくりさんだろ』など肯定的否定的な意見があって断言はしてないが、俺にはわかる。これは絶対に虎峰本人だ。20年近くの付き合いがあるのだから俺の目は誤魔化せん。

 

てかマジで可愛過ぎる。これならナンパしても仕方ないだろう。普通に美少女にしか見えない。

 

気が付けば俺は無意識のうちに保存をしていた。いや、これは違いますよ?虎峰をからかう為に保存したんで目の保養目的じゃないですからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2時間後……

 

昼食の時間になり、俺達教員は生徒と共に食べることになったのだが……

 

「は、はい八幡さん。あーん」

 

「お父様、あーんです」

 

「……あーん」

 

可愛い嫁であるノエルと可愛い娘である茨にあーんをされてます。

 

マジで恥ずかしい。この場にいる全員が俺達を見ている。茨同様、俺の娘である歌奈は呆れ顔を、竜胆は楽しそうに笑っている。

 

綺凛は恥ずかしそうに、虎峰は呆れながら、星露とセシリーはニヤニヤ笑いを浮かべながら俺達3人を見ている。

 

「お父様。私とお母様のあーんは如何ですか?」

 

しかし当の茨は全くに気にせずに笑顔で聞いてくる。何故こうなったのかと言うと……

 

①昼飯の時間になる

 

②弁当が配られる

 

③茨が俺に近づいてあーんをしてくる

 

④茨、ノエルに一緒に俺にあーんをさせようと提案する

 

⑤ノエル、暫く悩んだ末に了承する

 

⑥俺、あーんされている

 

……って感じだ。茨は堂々とファザコンっぷりを露わにしていて、ノエルも茨に乗せられて甘えてくる。

 

ぶっちゃけメチャクチャ恥ずかしいが、昨日生徒らの前でノエルにキスをされた時よりはマシなので我慢だ。

 

ともあれ茨の質問には答えないとな。

 

「最高だ。ありがとな」

 

「ふふっ、ありがとうございますお父様」

 

茨は既に甘え全開だ。マジで俺の娘可愛過ぎる。

 

「八幡さん……こちらもどうぞ」

 

そして恥じらいながら卵焼きを差し出してくる妻も可愛過ぎる。もうアレだ。幸せ過ぎて死んでしまいそうだ?

 

俺は口元に笑みを浮かべながら2人からあーんをされ続けたのだった。後半になると恥ずかしい気持ちは無くなったが、その時はどうでも良かった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「くそっ……!比企谷の奴、俺のノエルちゃんに手を出すなんて身の程を弁えろよ……!」

 

ホテルの一室にて、葉山隼人はモニターに映る八幡達3人の食事を見て苛々している。

 

葉山は本気で怒りを露わにしていた。葉山にとってノエルは自分の運命の相手であり、自分と結婚して子作りをするのは必然と考えている。

 

「万有天羅に勝ったのも卑怯な手を使ったに決まってる。卑怯な手を使うだけじゃなくて俺のノエルちゃんを犯して、孕ませる……ふざけるな!」

 

怒りの余り、テーブルを殴りつけて叩き壊す。今は自室で1人だから他人の耳目を気にせずに怒りを剥き出しにしている。

 

「とはいえ、今比企谷を殺すのは無理だ。比企谷は不意打ちをすれば殺せるが、教員らは桁違いの人間。生徒らの中にも序列1位がいる以上今動くのは無理だ」

 

葉山としては八幡を殺すだけでなく、八幡を殺した後にノエルと結婚する事を目標としているので捕まってはいけないのだ。よって無理な殺しは厳禁だ。

 

「やっぱり比企谷が1人の時じゃないとダメか……皆、聞こえるか?とりあえず監視の半数は一旦ホテルに戻ってきてくれ」

 

葉山は一部の人間を残して仲間を撤退させる。今殺したらリスクが高いので夕方以降に闇討ちをする方針に切り替える。

 

「問題はどうやって比企谷を他の連中と引き離すかだな……そこまで時間がある訳ではないし、落ち着いて考えないとな」

 

葉山はそう言ってから煌式武装とトラップの調整を始めるのだった。その瞳は真剣そのもので葉山の性格を知らない人からしたら真面目に見えるだろう。

 

「いざとなったら念の為に用意した技術開発局の使い捨て巨艦型煌式武装を使ってでも……」

 

言うなり葉山は巨大な砲塔を備えた巨大煌式武装を見て下卑た笑みを浮かべるのだった。

 

 

そして数時間後、彼らは動き出す。

 

 

 

 

同時刻……

 

 

「んっ!何故か我の開発した煌式武装が悪の手に渡った気が!」

 

「何言ってんのさ将軍ちゃん。それより音羽の瀧の水だけどどれを飲む?」

 

「うーむ……学業は社会人だから要らんし、恋愛についても結婚してるから……長寿の水であるな」

 

「だよねー。私も将軍ちゃんと長く一緒に居たい長寿だね。じゃあレッツゴー」

 

「わかったからいきなり腕を組んで恋人繋ぎをするのは止めんかい!」

 

「えー?良いじゃん、昨日は一杯愛し合ったんだし」

 

「いや、まあ、そうだがな……しかし普段破天荒なエルネスタ殿が子兎の様に怯えるとは思わなかったわい……まあ可愛かったけど」

 

「う、うるさいよ!初めてだったからしょうがないじゃん!それより!ほら!早く行くよ!」

 

「痛っ!エルネスタ殿、強く握り過ぎである!」

 

「知らないよ!将軍ちゃんのバカ!」

 

清水寺の音羽の滝近くにて、世界最大の技術会社の重鎮夫婦が喧嘩しながらも幸せオーラを撒き散らし、周囲の人々に砂糖を吐かせていたのだった。


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