「やっぱり星導館の生徒が1番総合力が高いな」
「ありがとうございます。ですが個々の実力ならクインヴェールと界龍の方が上だと思います」
「おー、良いこと言うねー、ありがとうね綺凛ちゃん」
「でも連携ならガラードワースが1番じゃね?フォローの仕方も上手いし、星武祭じゃなくて実戦なら1番重要だ」
「はい。ガラードワースで助け合いの精神を信条としていますから」
「良い心掛けですね。僕達が学生時代の頃のガラードワースは比喩表現抜きで酷かったですから」
「そういえば八幡に闇討ちするようなうつけが居ったのう」
「アレはガチで不愉快だったから話すの止めろ」
「それは済まんかったのう」
2日目の訓練を終えて俺達教員は専用の部屋でミーティングという名の雑談をしながら飯を食べている。
そんで今各学園の総評に入ったが、ガラードワースの話をした際に葉山グループの話が出てきたので思わずイラッとしてしまった。
しかし仕方ないだろう。連中は学生時代に俺の事を貶める運動をしたり、俺を殴ったり、挙句に返り討ちにしたから良いものの俺や小町に闇討ちを仕掛けてきたのだからな。
その後に刑務所に入れられて、つい最近出所したらしいが、また襲撃をしてきそうな気がする。
「とりあえず大体話したい事は終わったしそろそろお開きにするか」
今の話の所為で大分イラついたし。
「そうだねー、じゃあ解散。明日の朝にまたねー」
セシリーがそう言って解散の宣言をするので俺達は席から立ち上がり、部屋を出て各々の部屋に向かう。
「八幡さんはこれからお風呂ですか?」
「いや、今日はシャワーだけで良いや」
昨日虎峰の裸を見てドキドキしてしまったし。男なのにあの色っぽさは反則だ。もしも奴が女で、俺がレヴォルフではなく界龍に編入していたら告白している自信がある。
「そうですか……で、でしたら一緒に入りませんか?」
「もちろん」
ノエルが真っ赤になりながら魅力的な提案をしてくるので即答するが仕方ないだろう。妻と一緒にシャワーを浴びるなんて普通の事だし。
(折角だし洗いっこをしたないな……)
そんな事を考えている時だった。突如メロディが流れだす。俺の端末の着信音ではないので……
「あっ、ちょっと失礼します」
ノエルの端末の着信音となる。ノエルは端末を開く。すると真剣な表情を浮かべながら空間ウィンドウを見て、やがて俺に申し訳なさそうな表情を見せてくる。
「すみません八幡さん。機密事項なので詳しい事は言えませんがE=Pの方から銀河に仕事があり、私も同伴しろと指示が来たのでちょっと銀河の本社に行かないといけない事になりました」
ノエルの言葉に俺は頷く。仕事が入った事については仕方ない。俺もよくW=Wの幹部が他所の統合企業財体の幹部と会談する時に呼ばれることもあるし。
「それはどんぐらいかかるのか?」
「わかりませんが仕事の内容から察するに……30分から1時間くらいだと思います」
「じゃあそれまで散歩してるから仕事終わったらメールしてくれ」
「えっ?!い、いや大丈夫ですよ!私に気遣わずに先に入ってください」
「いやお前と一緒に入りたいから待ってる」
ぶっちゃけノエルと風呂に入れるなら30分から1時間どころか4時間以上待っても余裕で我慢が出来ると断言出来る。
するとノエルは真っ赤になって俺を見上げてくる。上目遣いの破壊力やば過ぎだろ?
「もう八幡さんったら……じゃあ待ってて貰っても良いですか?私も……八幡さんと一緒に入りたいですから」
「もちろんだ。仕事頑張れよ」
「はい!」
ノエルは笑顔で俺に一礼してから走り去っていった。走り方も可愛いなぁ……
「さて……適当に時間を潰しますか」
折角だし琵琶湖のほとりでも歩くか。昨日は星露との戦いに意識を集中していて碌に見てなかったが、観光地としては有名だし。
『葉山君!比企谷八幡が一人でホテルから出て来たよ!』
「なんだって?!」
琵琶湖の近くにあるホテルの一室にいる葉山隼人はホテル周辺の見張りを担当している仲間からの伝令を聞いて声を上げる。葉山自身、そんな絶好のチャンスが生まれるとは予想外であった故に声には驚きの色が混じっていた。
しかし直ぐに醜悪な表情に変わる。
「わかった。じゃあホテルから離れた所で襲撃をかけよう。ただし捕まらない事を最優先にね」
『了解!』
仲間から了解の返事を聞いた葉山は笑みを深めて通信を切る。
「さて……いよいよ比企谷を殺す時が来た。ノエルちゃんの為に死んでくれよ?」
葉山の中には既に三浦達に対する仲間意識は無く、ノエルを手に入れる為の駒以上の価値を感じていなかった。
「ふぅ……1人ってのは存外寂しいな……」
琵琶湖の近くにある自然公園のベンチに座りながらそう呟く。散歩をしてから20分、琵琶湖のほとりを歩いた俺は何となく目に付いた自然公園に入って、何となく目に付いたベンチに座っている。
学生時代ーーーそれこそ高等部に進学する前までは1人で過ごす事を好んでいたのだが、高校1年の夏にオーフェリアとシルヴィの2人と付き合うようになってからは、1人で過ごす時間は減っていった。
しかしその事に対して不満は抱かず、寧ろ1人で過ごす時間を寂しい時間と思うようになったくらいだ。やっぱり散歩をしないでホテルで誰かと雑談しとけば良か「お父様!」この呼び方は……
「茨?」
見れば俺の娘の茨が笑顔でこちらに向かって走ってくる。見ているだけで俺の中の寂しい気持ちは吹き飛んでいく。
「お父様!こんな所で会えて嬉しいです……ああ、お父様の温もり……」
そんな中、茨は立ち上がって迎えようとした俺に遠慮なく抱きついて甘えてくる。ファザコンなのは前から知っていたから驚きはしない。
「俺も会えて嬉しいが、何でお前はここに?」
「私は散歩をしていたらお父様を発見しましたので。お父様も散歩ですか?」
「ああ。ノエルは急な仕事でいないから……っ!」
その時だった。急に殺気を感じたかと思えば少し離れた場所の茂みかは大量の光弾がこちらにやってくる。その数軽く数えて300以上だ。
同時に俺は足元の影から触手を生み出して、茨は腰にあるホルダーからレイピア型煌式武装を取り出して全ての光弾を払い落とす。
「まさか銀河のお膝元で襲撃してくるとはな」
「そうですね。狙いは私かお父様のどちらでしょう?」
「確証はないが多分俺だ。時期的にお前が襲われる理由はない」
茨はガラードワースの序列1位、つまりチーム・ランスロットのリーダーだ。だから獅鷲星武祭に備えて闇討ちする奴もいるかもしれない。
しかし今は鳳凰星武祭直前で獅鷲星武祭は1年以上先だから、時期的に茨が狙われる理由はない。
よって狙われているのは絶対とは言わないが俺だろう。俺は学生時代に色々な連中から恨まれてるし、W=Wに就職して以降汚れ仕事も経験済みだし恨んでる人間が居てもおかしくない。
ともあれやられっぱなしは趣味じゃない。俺1人ならともかく、茨を巻き込んだ時点で容赦するつもりはない。
俺は内心ブチ切れながらも影の触手を伸ばして光弾が飛んでくる方向に叩きつける。
すると2人が宙に舞うが2人とも仮面を付けていて素顔がわからない。
そして光弾の数からして他にもいるだろうから、とりあえず1人を捕まえよう。そうしたら芋づる式で犯人がわかるはずだ。
そう判断した俺は影の鎧を纏いながら走り出す。影狼修羅鎧や影神の終焉神装に比べたら威力は低いが、今放たれた光弾レベルなら簡単に弾けるだろう。
チラッと横を見れば茨も走り出している。敵がどんな奴か知らないが吹っ飛んだ人間の身のこなしから察するに大した実力はないだろう。
そう思った時だった。茂みの中からカプセルが投げられたかと思えば空中で爆発して紫色の煙を辺りに噴出する。
「(色からして毒か?)下がれ茨!」
俺は茨を掴んで後ろに跳ぶ。俺は昔からオーフェリアの毒を食らっているからある程度毒の耐性はあるが、茨は耐性がない筈だ。
加えて経口摂取ではなく、目や耳にダメージを与える毒なら俺も耐性はないし、無理に攻め込むのはリスクが高過ぎる。
俺は襲撃者がいる場所から距離を取って自分と茨の周囲に影の壁を展開する。これなら光弾は無効化出来るし、煙は四方八方に広がってはいるがまだ俺達がいる場所には届かないので問題ない。
そう思っていると……
「お父様!」
いきなり影の壁に穴が開いたかと思えば、光の奔流が流れてきて俺の義手を吹き飛ばした。
幸い腕に掠っただけだが……
「……いい度胸してんじゃねぇか」
ここまでやられて反撃しない程俺は人間が出来ている訳ではない。
「呑め、影波」
言うと影の壁が波の形となって、そのまま毒煙を呑み込む。完全に呑み込んだ瞬間、右手で握り拳を作ると影の波はそのまま丸い球体となる。これで毒煙は閉じ込めたから俺を阻む物はない。
前を見れば例の仮面集団が離れた場所にいて俺に背を向けて走って、やがて琵琶湖に飛び込む。
俺が琵琶湖のほとりに向かうと誰一人見つからない。その事から察するにダイビング装備を準備していたと推測出来る。
いくら俺でも夜中に湖の中にいる人間を見つけだすのは無理だ。影の刃を使って湖に突き刺せば殺せるかもしれないが、殺すと後処理が面倒な上に娘が見ているので却下だ。
(どんだけ用意周到なんだよ……だが、墓穴を掘ったな。さっき吹き飛ばした2人を残してる)
最初にぶっ飛ばした2人は回収されておらず未だに地面に倒れ伏している。こいつらを捕まえて尋問すれば他の連中の正体もわかるだろう。
そう思った俺は犯人2人に近づこうとすると茨が心配そうな表情でこちらに詰め寄ってくる。
「お父様大丈夫ですか?!」
今にも泣きそうな表情だが心配は無用だ。
「ああ。義手は吹っ飛んだが、肉体にはダメージがないから問題ない」
強いて問題があると言うなら久しぶりに義手が壊れたので、久しぶりに左肩から先が軽くなっている事くらいだろう。
「それより問題は襲撃者だ。今から拘束して銀河に連れて行く。一応お前も付いてきてくれ」
「はい!」
言いながら俺は影の触手を生み出して犯人2人を拘束した後に仮面を剥がす。すると明らかに人相の悪い2人の男性の顔が露わになる。見る限り外国人だが、どっかで見たような気がする。
(まあ良いや。とりあえず銀河で人物照会をするか)
そう判断した俺は影の触手を影の球体に変えて、そのまま犯人2人を中に閉じ込める。俺が直で拘束するのは危険だから念には念を入れるべきだろう。
その時だった。
ドォォォォォォォォォンッ……
「ぐっ……!」
「きゃあっ!」
影の球体に綻びが生じたかと思えば、いきなり爆発して爆風が俺と茨に襲いかかる。
影の球体を見れば徐々に爆風は無くなるも、そこには犯人2人の影も形もなかった。恐らく木っ端微塵になったと推測出来る。
(まさかこいつら捕まるのを恐れて自決したのか?それとも口封じか?)
何にせよ爆発の所為で死んだのは間違いない。人の死を見た事は何度もあるが慣れるのは難しいな……
「う、嘘ですよね……人が死んで……」
茨は明らかに怯えた表情を浮かべる。幾ら壁を超えた人間と言っても中学1年の女子。人の死を見るのは無理なのだろう。
「落ち着け茨」
「あっ……」
俺は茨をそっと抱きしめる。こうする事しか出来ないが、今は茨から離れてはいけない。
「怖いのは当然だ。ゆっくりで大丈夫だから落ち着け」
「お父様……怖かったです」
茨は俺の背中に手を回し抱き返してくる。こんなんで茨が落ち着くなら喜んで付き合ってやる。
(自決だが口封じだか知らないが、人の娘にトラウマを刻んだ奴など万死に値する……!)
俺は久しぶりの本気の殺意を胸に押し込めながら茨を抱きしめ続けた。
結果茨が落ち着いたのはそれから30分後だったが、その間俺の中の殺意が薄れる事は無かったのは言うまでもないだろう。