学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうしてトラブルだらけの合宿は終わる

「皆、聞いて欲しい。先程入った情報だが、トーマスとダグの2人だが、比企谷に拘束される前に自決した……」

 

琵琶湖の近くにあるホテルの一室にて、葉山隼人は悲痛そうな表情を浮かべてそう口にする。部屋には葉山以外に三浦や戸部、大和に大岡など八幡に襲撃を仕掛けてあの手この手を使って逃げたメンバー15人弱がいた。

 

葉山の言葉にその場にいる全員が大小差はあれど驚きを露わにする。まさか死ぬとは……と思っているのだろう。

 

『そんな……』

 

『嘘だろ?』

 

案の定不穏な空気が流れだす。しかし葉山はこの空気を変えるべく口を開ける。

 

「2人が死んだのは悲しい。だが……だからこそ比企谷を裁かなくてはいけない」

 

葉山がそう言えば騒めきは無くなり部屋にいる面々が顔を上げる。そして全員が葉山を見ると葉山は口を開ける。

 

「俺はあいつらが自害することを知らなかった。という事はあいつらは俺達の情報を漏らさない為に自害したんだ。そこまで覚悟を持ったあいつらの遺志を継ぐべきだ!そうだろ!」

 

葉山が握り拳を作りながらそう宣言すると……

 

「隼人……うん!そうだよね!」

 

『そうだ!俺達は間違ってない!』

 

『あいつらの遺志を継いで比企谷を殺すぞ!』

 

『そしてあの屑の頭蓋を2人の墓の前に突きつけてやるべきよ!そうすれば2人も成仏するわ!』

 

『皆、葉山君の言うようにこれからも頑張ろう!』

 

『HA・YA・TO!フゥ!HA・YA・TO!フゥ!』

 

『HA・YA・TO!フゥ!HA・YA・TO!フゥ!』

 

『HA・YA・TO!フゥ!HA・YA・TO!フゥ!』

 

部屋にいる面々は一斉に葉山を祝福する。それを見て聞いた葉山は小さく頷き口を開ける。

 

「ありがとう。とはいえ自害して爆発した以上、バレるリスクもあるし撤収しよう。今回は残念だったが、また作戦を練ってアスタリスクで裁こう」

 

『了解!』

 

言いながら葉山以外の人は全員部屋を出て各々の部屋に向かった。それに対して葉山は笑顔で手を振って見送るも、誰も居なくなると笑みを消してドカッと荒々しい音を立ててソファーに座る。

 

 

「ふぅ……比企谷の殺害は失敗したが口封じは出来たから良しとしよう」

 

葉山は安堵の息を吐く。

 

実際トーマスとダグは自害するつもりはなかった。しかし葉山は口封じの為に高火力の爆弾を護身用の閃光玉と偽って渡して、八幡に捕まった瞬間に起爆して殺害したのだ。自分らの存在をバレないように。

 

葉山の中に罪悪感は無く……

 

「全く……比企谷程度相手に捕まるなんて無様で、死んで当然だな」

 

寧ろ葉山の為にと動いた2人に対して侮蔑の感情を抱いていた。最早葉山の中に仲間意識は無く、三浦達にも同じ爆弾を持たせている。

 

「加えて10人以上で闇討ちした結果が左手の義手。右手を吹き飛ばすならまだしも、義手を破壊しても意味ないだろう……本当に使えない連中だな」

 

口に出してこの場にいない三浦達を毒づく。役立たずだと。

 

そして葉山は立ち上がり片付けを始める。銀河のお膝元で暴れたのだ。銀河に目を付けられても仕方ない。

 

「さて……これ以上暴れるのは危険だし続きはアスタリスクに帰ってからのお楽しみにしますか」

 

言いながら葉山は荷造りをしながらノエルの写真を取り出して……

 

「待っててねノエルちゃん。直ぐに比企谷から助けてあげるから。そしたら俺と結婚して幸せに過ごそうね」

 

ちゅっ……

 

下着姿ノエルを写した写真にキスをしてから片付けを再開するのだった。アスタリスクに帰ってから八幡を殺す為の作戦を練りながら。

 

葉山は本当にやる気満々であった。目標や手段などは最悪であるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って事があったんで、今日は茨も一緒に寝かせるからな?」

 

「わかりました。母親として少しでも安心させたいですし賛成です」

 

襲撃を受けてから2時間、俺は妻のノエルにそう話す。アレから俺と茨は銀河に報告をして、僅かに残っていた襲撃犯の皮膚の一部を鑑識に渡して、事情聴取を受けて少し前に解放され、今は合流したノエルに事情を話している。

 

一応銀河の連中には爆発によって焼けた襲撃犯の皮膚の一部を渡したが、余りにもボロボロになっていて人物照会は難しいと言われた。1人でもわかれば芋づる式に仲間がわかるというのだから残念極まりない。

 

ちなみに茨は今は着替えを取りに行っていてここには居ない。一緒に行きたいのは山々だが、他の生徒にバレると面倒なので我慢だ。

 

「それより八幡さんは大丈夫ですか?」

 

「あん?見た目はバイオレンスだが怪我はしてねぇよ」

 

幸い向こうは影に隠された俺を撃ったので狙いは甘くら義手以外にダメージは一切なかった。

 

尚、義手についてはアスタリスクに帰ってから付けるつもりだ。銀河の連中からも義手の提供をされたが材木座の作った義手が1番と言って断った。というか銀河の連中が作った義手には盗聴器とか仕込んでそうだし。

 

「それもですけど……私が言ってるのは胸の中にある殺意についてです」

 

「っ……よくわかったな」

 

「何年八幡さんの妻をやっていると思ってるんですか?隠してるつもりかもしれませんがバレバレです。多分オーフェリアさんとシルヴィアさんも1発で見抜きますよ」

 

当然のようにそう言ってくる。胸の中に仕舞って出さないように尽力を尽くしていたのだかな……

 

「八幡さんが怒るのは当然です。私もそうですから……ですが、殺しはしないで欲しいです」

 

ノエルが悲しそうな表情を浮かべながらそう言ってくる。正直に言うと、俺を殺そうとしたり茨に酷いものを見せた襲撃犯一味を皆殺しにしたいと思っている。

 

しかしノエルの言葉を聞いて殺意が少しだけ薄くなる。殺したいのは事実だが、妻に殺しは止めろと言われたら躊躇ってしまう。加えてもしも公になった場合、W=Wが庇ってくれるかもしれないが妻や娘が風評被害を受ける可能性が高い。

 

それだけはダメだ。自身の殺意を発散して大切な人に迷惑をかけるのだけはやってはいけない。

 

「……わかった。殺しはしない」

 

家族がいる中で私情を挟むのは論外だ。俺はノエルの頼みを聞いて、特に不満を持たずに了承した。

 

「そう言ってくれて良かったです。さ、部屋に行きましょう」

 

言いながらノエルは優しい笑みを浮かべて右腕に抱きついてくるので、俺はノエルをエスコートする形で自室に向かった。その時には怒りは溜まっていたが、殺意は殆ど薄れていた。

 

 

ちなみにオーフェリアとシルヴィにこの件について報告したら、2人とも(特にオーフェリア)がブチ切れて鎮めるのが大変でした。

 

 

 

 

 

 

30分後……

 

「んじゃ寝るぞ」

 

自分の部屋にて、俺は嫁と娘に話しかける。部屋に戻った後、茨と合流して一緒に風呂に入ってパジャマに着替えて、今から寝るところだ。

 

既に時計は11時を回っていた。明日は帰るだけだが、早く寝るに越したことはないだろう。

 

「はい……あの、今日もお休みのキスを……」

 

茨は恥ずかしそうにお休みのキスをおねだりしてくる。当然断るつもりはない。

 

「はいよ。デコ出せ」

 

俺がそう言うと茨はデコを出すので俺は茨を抱き寄せて……

 

ちゅっ……

 

そっと額にキスをする。そしてノエルはそれに続く形で……

 

ちゅっ……

 

同じように茨の額にキスをする。同時に俺とノエルは茨を挟んでベッドに入り、茨を抱きしめる。

 

「茨ちゃん。寝られないなら直ぐに言ってね。私と八幡さんが何とかするから」

 

「いえ。こうしてお父様とお母様に抱きしめて貰ってるだけで充分です」

 

茨は笑顔を見せながらそう言ってくる。顔を見れば既に恐怖は殆どないし、これなら明日には元の調子に戻るだろう。

 

しかし油断は出来ない。仮に調子を戻しても、些細なことでトラウマとして蘇る可能性もあり得る。当然毎日茨の側にいるのは不可能だが、一緒に居られる時は可能な限り気を配らないといけない。

 

「よし、じゃあ寝るぞ」

 

「「はい、お休みなさい」」

 

妻と娘がそう言ったので、俺は妻と一緒に娘を抱きしめて瞼を閉じる。今日も疲れたし、早く眠れるだろう。昨日と違ってノエルと情事はしないし。

 

俺は突如やってくる睡魔に逆らう事なくゆっくりと目を瞑り眠り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日……

 

「……という感じですね。鳳凰星武祭まで短いので、今回の合宿で得た経験を活かして精進してください。では八幡、最後に一言お願いします」

 

虎峰はそう言って俺にマイクを渡してくる。

 

今日は合宿最終日。と言っても帰るだけだかな。今は教員が生徒らに最後の挨拶をしていて、綺凛、ノエル、星露、セシリー、虎峰が話し終えて最後に俺の番になる。

 

俺が前に出ると空気が変わるが、これは俺の左手がない事だろう。既に生徒らは俺と茨が襲撃を受けた事に関する情報は共有しているが、改めて俺の左手の存在がない事を知ってビビっているのだと推測出来る。

 

(まあ無い物をどうこう言っても仕方ないか……)

 

そう判断した俺は変わった空気を気にすることなくマイクのスイッチを入れて口を開ける。

 

「んじゃ話すがお前らも長話を聞くのは興味ないだろうし手短に話すわ」

 

生徒は基本的に教師の長話を忌避する。これについては俺が子供の頃から変わってない事実だろう。

 

「とりあえずお疲れ。初めての合同イベントって事で戸惑いもあったかもしれないが記録を見る限り、それぞれ自分達のやるべきことを理解出来ただろうし、本番までに研鑽し続けろ。そんで本番ではその事を見せてみろ。お前らがぶつかり合うのを楽しみにしている……以上」

 

細かい事を言うなら、まだまだ足りないが大体こんなもんで良いだろう。俺は一息吐いてから綺凛にマイクを返す。

 

「ありがとうございます。それではただいまをもちまして閉会式を終了致します。尚、帰りは銀河が用意した飛行機を使用して帰りますので生徒の皆様は各学園の先生の指示に従ってください」

 

行きは民間用の飛行機で来たが、俺が襲われた事もあって帰りは万全を期して銀河が専用の飛行機を用意してくれた。銀河の幹部も乗る飛行機だけあって並の煌式武装なら簡単に防げる程の強度を誇った飛行機を。

 

「おらお前ら。俺についてこーい」

 

「パパ。怪我は大丈夫なの?」

 

すると歌奈が話しかけてくる。まあ父親の左腕が吹き飛んでいたら普通気になるよな?

 

「問題ねーよ。ただ生活に支障が出るから帰ったら材木座に頼んで作って貰う」

 

確か材木座は今日の夕方にアスタリスクに帰ると言っていたから明日にでも作って貰うつもりだ

 

「なら良いけど……困ったら遠慮なく言ってね?」

 

「ああ、ありがとな……さて、そんじゃ行くから付いて来い」

 

『はーい』

 

生徒らが了承したので俺は先導する形で飛行機に乗る。そして生徒らを指定された箇所に座らせてから自分の席に座る。すると5分くらいしてからガラードワースの生徒を誘導したノエルが俺の隣に座ってくる。

 

「お疲れ様です八幡さん」

 

「お疲れ。合宿は終わりだが、内容は良かったし獅鷲星武祭でもやらないか?」

 

今回の合宿についてだが内容そのものは間違いなく成功だろう。普段戦わない他学園との戦いをして刺激的だっただろうし。

 

「そうですね……私としても賛成です。チーム戦は自分の学園のみでやるのは難しいですから。ただ……その場合、しっかりと防衛策を練るべきでしょう」

 

ノエルは俺を見ながらそう言ってくる。まあそうだよな。今回俺は大事にするつもりはないが、普通に問題行為だし。

 

「だな……っと、そろそろ発進するからシートベルトを付けないとな」

 

「あ、はいそうですね」

 

俺達がシートベルトを安全の為に付け、5分くらい経過すると飛行機は発進して空を舞う。窓からは銀河の本社ビルと琵琶湖がハッキリと見えて美しかった。

 

(とりあえず合宿は終わったが……やっぱり平和に終わらなかったな、うん)

 

内心苦笑しながら俺はアスタリスクに着くまでノエルの頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

2時間後……

 

「ああ、我が家が懐かしい」

 

「そうですね。だった数日離れただけなのに凄く懐かしいです」

 

俺とノエルは自宅を前にして幸せな気分になる。

 

銀河本社からアスタリスク空港まで1時間、アスタリスク空港からクインヴェールまで40分、クインヴェールから自宅まで20分近くかけて漸く帰って来たのだ。

 

「とはいえいつまでもここに居てもアレだし開けるぞ」

 

「そうですね。今開けます」

 

言うなりノエルが鍵を取り出して玄関のドアの鍵を開けるので……

 

「「ただいま」」

 

2人で挨拶を返す。するとリビングの方から足音が聞こえてきて……

 

「「おかえりなさい!」」

 

オーフェリアとシルヴィがやって来て俺とノエルに抱きついてくる。

 

「義手を破壊された時は驚いたけど……八幡はそれ以外に怪我してない?」

 

「ああ。心配かけて悪かったな」

 

「本当だよ!それと茨ちゃんも現場にいたらしいけど大丈夫なの?」

 

「はい。翌日には落ち着きを取り戻していました」

 

「なら良かった。八幡君、ノエルちゃん」

 

「「何だよ(何ですか)?」」

 

改まった感じの空気になったので俺とノエルは身構える。そんな中、オーフェリアとシルヴィは俺達を抱きしめたままだった。

 

「色々大変だったと思うけど……」

 

一息、

 

「「お疲れ様」」

 

ちゅっ……

 

唇を寄せてきて4人でキスをする。それによって幸せな気持ちが湧き上がってくるのを実感する。

 

やはり4人でいるのが1番だ。ノエルと2人きりで過ごす時間も良かったが、やはり4人揃っているのが1番だ。

 

「ああ、ありがとな」

 

俺はそう言って暫くの間玄関で3人とキスをし続ける。オーフェリアとシルヴィに会うのは2日ぶりなので思い切り堪能させて貰おう。

 

結果、俺達は2時間以上キスをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、一度襲撃に失敗した以上、暫くは動かない方が良いな……待ってろよ比企谷。優美子達を道連れにしてでもお前を殺す。ノエルちゃんは俺が幸せにするからお前は地獄で歯を食いしばっているんだな」


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