家族露天風呂を入ること40分……
「ぷはっ!ねえ将軍ちゃん。熱くなったしそろそろ上がろっか」
我とキスをしていたエルネスタ殿が唇を離しながらそう言ってくる。言われてみれば身体が熱くなってきている。エルネスタ殿とのキスに夢中になっていて失念していた。
前に八幡が『妻とキスをしていたら時間を忘れる』だの『妻とのキスは麻薬だ』と言っていたがガチのようだ。既に20分以上キスをしていたし、まだしたいと思っている自分がいる。今後は中毒にならないように注意しよう。
「そうであるな」
「にひひ〜」
そう思いながら風呂から上がると、エルネスタ殿も風呂から上がり我の腕に抱きついてくる。顔を見れば楽しそうな表情ーーー我が1番好きな笑顔を浮かべていて、こちらも自然と笑みを浮かべてしまう。
そして脱衣所に着いたので我はタオルを取ろうとするが、その前にエルネスタ殿が先に取って……
「私が拭いてあげるからじっとしてね〜?」
のんびりとした口調で我の身体を拭き始める。何故いきなり我の身体を拭くのかは理解出来ないが、それなりに気持ちが良いことに加えて本人が望んでいるようなので任せることにした。
エルネスタ殿の拭き方はまるで親が小さい子供の身体を拭くように優しい拭き方で、それだけで不思議と気分が良くなってくる。子供扱いされているようで少々恥ずかしいが。
そして3分近く経過すると全身を拭かれたので下着を着て、そのまま持ち込んだ浴衣に着替え、未だに一糸纏わぬ姿のエルネスタ殿の方を見る。しかし当の本人は特に身体を隠さず我に話しかけてくる。
「どう将軍ちゃん?ちゃんと拭けたかな?」
「うむ。ちゃんと拭けておるぞ。感謝する」
「じゃあご褒美にちゅーして」
エルネスタ殿は笑ってから目を瞑り唇を突き出してくる。此奴、最初からそのつもりで我の身体を拭いたのか?
とはいえエルネスタ殿が折れる事はないし、するとしよう。我自身風呂での一件で特に恥じらう気持ちはないのだから。
そう判断した我はそのままエルネスタ殿の唇にキスを落とす。
「んっ……ご馳走様でした。じゃあ次は私の身体を拭いて」
言いながらエルネスタ殿は新しいタオルを渡してくるので、我は最初にエルネスタ殿の頭を拭き始める。既に10年以上やっている事なので問題ない。
「やっぱりエルネスタ殿の髪は綺麗だな」
「そう?別に興味ないから手入れをしてないけど」
それはつまり手入れしなくても綺麗だという事。それはそれでエルネスタ殿は選ばれた人間である事を意味している。つくづく我は思う。我の妻はとんでもない存在であるのだと。
そんな事を考えながらも我はエルネスタ殿の髪を拭き、終えると肩や腕に胸と徐々に下の方を拭き始める。それから2分してエルネスタ殿の美しい脚を拭いた我はタオルを専用の置き場に置く。
「ほれ、これで全て拭いたのである」
「ありがとね将軍ちゃん……んっ」
するとエルネスタ殿は我の唇に自分の唇を重ねてくる。おそらくさっき我がしたように身体を拭いた礼のつもりなのだろう。
暫くキスを受けているとエルネスタ殿は我から離れて、水色の下着を着てから浴衣を着る。湯上がり姿のエルネスタ殿は色っぽく見えて興奮してしまう。
「では部屋に戻るか?」
「うん、お酒飲んでぐうたらしよ?」
エルネスタ殿は我の提案に頷きながら自分の腕を我の腕に絡めてくるので、我がエスコートする形で脱衣所を後にした。
家族露天風呂というものも、中々良いものであるな……
『……というわけで2人の戦いは琵琶湖の水質や周囲の環境に大きな影響を及ぼしています。銀河、ひいては他の統合企業財体からの声明はまだですが、場合によっては全世界で2人の戦いが禁止される可能性はあり得るでしょう』
「ほぇ〜、やっぱりあの2人の戦いは次元が違うね」
エルネスタ殿がテレビを見ながらそう呟き、ビールを一気に飲み干す。現在我とエルネスタ殿は部屋のテレビを見ながら酒盛りをしているが、テレビでは八幡と星露が戦った後の琵琶湖が映されている。
「全くであるな」
我はそう返しながら焼酎を飲む。実際テレビのキャスターが言うように、八幡と万有天羅の戦いはアスタリスクのみならず全世界で禁止される可能性もあり得るだろう。
「そしてそんな八幡ちゃんを殺そうとしてた……葉虫だっけ?アイツ馬鹿だよねー」
「同感だな」
葉山隼人ひいては彼のグループは八幡がノエル殿を洗脳して自分のモノにしようとしたのを止めた云々言っていたがらしいが、我からしたら馬鹿極まりない。八幡の能力は影を操る能力だし、それ以前に八幡の性格からしてそんな事をするとは思えない。
「しかも彼奴らつい最近出所したようだが、また八幡に闇討ちをしてきそうであるな」
「いやいや将軍ちゃん。流石に15年以上ブタ箱に入れられたんだし、それはないでしょ?」
エルネスタ殿は笑いながら否定をする。ふむ……確かにそうだろうな。15年以上服役しておいて反省しないなど馬鹿を通り越した馬鹿だろう。
「いや、まあ無いとは思うが、どうも友人が心配でな」
「将軍ちゃんって心配性だね〜。そんな事有り得ないのに」
「ははっ!そうであるな。少し気にし過ぎたようだな」
「そうだよ。お酒飲んでリフレッシュしなよ」
エルネスタ殿はそう言って我のカップにビールを注いでくる。
全くだ。いくら葉山グループでも15年もすれば反省して危害を加えることはないであろう。仮にあったとしても今の八幡の実力を知れば危害を加えるなど馬鹿な考えをするとは思うまい。
(どうやらエルネスタ殿のように少し心配性になり過ぎたようだ。心配性になる事は悪い事ではないかもしれないが、度が過ぎると判断力が鈍るだろうし注意しておこう)
「うむ。では頂くとしようか!」
我はそう言ってエルネスタ殿がカップに注いでくれたビールを一気飲みする。葉山グループなど詰まらない事など忘れてエルネスタ殿との時間を楽しむべきだろう。
1時間後……
「さてエルネスタ殿、そろそろ寝ようか」
「は〜い」
買い込んだ酒も底を尽きたのでエルネスタ殿に話しかけると、エルネスタ殿は顔を赤くしながら手をフラフラと挙げる。事前に予想はしていたが相当酔っているな……
内心呆れながらも敷かれた布団に入る。するとエルネスタ殿は2つ布団が敷かれているにもかかわらず……
「えへへ〜」
笑いながら我の布団に入って抱きついてくる。この甘えん坊めが、元々子供っぽい性格だが更に子供っぽい性格になっておるな……
内心呆れている時だった。
「ねぇねぇ将軍ちゃん。もう寝るの?夜はまだまだこれからだよ〜?」
言いながらエルネスタ殿は自身の肢体を我の身体に絡めてくる。酔っている事もあって一際色っぽく見える。
「当然であろう。既に11時を過ぎているのだ。酒も無くなった以上、特にする事がないのだから。他にする事でもあるのか?」
普段我もエルネスタ殿も深夜番組は見ないし、偶に徹夜でゲームをする事はあっても旅行にはゲームを持ってきていない。そうなると必然的に寝るぐらいしか無いと思う。
そんな我に対してエルネスタ殿は蠱惑的な笑みを浮かべてから我の耳に顔を寄せて……
「あるじゃん……エッチとか?」
「ぶふぉっ!」
いきなり爆弾を投下してきた。予想外の一撃に我は思わず噎せてしまっが仕方ないだろう。
「大丈夫将軍ちゃん?いきなり吹き出して」
「だ、誰の所為だと思っておるのだ?!いきなり恥ずかしい事を言うでない!」
そんな風に馬鹿正直に言われたらどう対処したら良いのかわからないではないか!
「ダメかな?もう結婚したんだしおかしくないよね?……それとも40近い私なんかより若い子としたいの?」
するとエルネスタ殿は不安そうな表情を浮かべてそんな事を言って、我の内側に罪悪感を生み出す。
「そ、そんな事はない!ただ恥ずかしいと思っただけでエルネスタ殿が嫌という訳ではない!」
これについては事実だ。我はまだ童貞である。過去に何度も風俗に行こうとするも、店に入る直前にエルネスタ殿の笑顔が浮かんでいて、気がつけば風俗に背を見せていた。
昔は何故エルネスタ殿の笑顔が浮かぶのか理解出来なかったが、今ならエルネスタ殿の事を無意識のうちに好いていたのだと理解出来る。
「じゃあ良いじゃん……ね?」
エルネスタ殿は途端に不安な表情から蠱惑的な表情に変えて、再度我の身体に自身の身体を絡めてくる。流石にそこまで言われて何もしないというのは男ではないだろう。
「……本当に良いのであるな?」
「……良いよ。好きにして」
「………わかった」
据え膳食わぬは男の恥とも言うし我も覚悟を決めよう。それ以前にエルネスタ殿にここまで攻められ、我自身我慢が出来なくなっている。
我はそのまま身体を起こしてエルネスタ殿を押し倒す体勢となり、間髪入れずに浴衣を剥がす。
そして水色の下着に包まれたエルネスタ殿の顔に近寄る。見れば艶のある瞳で見上げてくる。
「じゃあ……」
「……うん。優しくお願いね」
「承知した」
我は一度頷くと、右手でエルネスタ殿のブラジャーに手をかけて、更にエルネスタ殿の顔に近付きそっとキスを落とし……
2時間後……
「すぅ……んんっ……」
我の隣にてエルネスタ殿が一糸纏わぬ姿で幸せそうに寝息を立てていた。そんな姿を見ると幸せな気分になってくる。
「しかも夜の営みは人を変えると聞いていたがマジなようだな……」
我より遥か前に結婚した八幡や綾斗殿から『夜の営みをする時の妻は昼間とは大きく変わる』と言われていたがマジであった。
前戯の時は普段通りであったが、いざ本番となるとエルネスタ殿は普段絶対に見せない子兎のように怯えるような表情で我を見てきたのだ。まあ嗜虐心が目覚めて遠慮なく食べたけど。
「やれやれ……こうなった以上しっかりと責任は取らんとな」
同意の上とはいえ、エルネスタ殿を食べた以上、我はこれから一生かけて責任は取らないといけない。
(まあ嫌ではないがな……)
言いながら我はエルネスタ殿の頭を撫でる。昔ならいざ知らず、今の我はエルネスタ殿を好いている事を理解しているのだから。
そう思いながら我は自身が眠りにつくまで我の身体に抱きつくエルネスタ殿の頭を撫で続けるのだった。