俺はどうしたらいいんだ?
目の前には見覚えのあるデブがアルルカントの制服を着て剣を構えているポーズを取っている。
……なんでコイツがここにいんだよ?
そんな疑問が頭を占めていると制服の裾を引っ張られるので見るとオーフェリアが不思議そうな顔で制服を引っ張っていた。
「……八幡、知り合い?」
「知らない。こんな奴は知ってても知らない」
即答する。知らないものは知らない。寧ろ知ってたまるか。
「まさかこの相棒の顔を忘れたとはな…見下げ果てたぞ!八幡!」
「相棒って言ってるわよ?」
「違うからな」
何でこいつと相棒なんだよ。俺の相棒がこいつなんて嫌だ。組むなら戸塚やオーフェリアやシルヴィが良いわ。
「それに相棒。貴様も覚えているだろう、あの地獄のような時間を共に駆け抜けた日々を…」
「体育でペア組まされただけじゃねぇか...」
「ふん。あのような悪しき風習、地獄以外の何物でもない。好きな奴と組めだと?クックックッ、我はいつ果つるともわからぬ身、好ましく思う者など作らぬっ!」
相変わらず鬱陶しい奴だ。もういいや。
「はぁ……何の用だ、材木座?」
ため息を吐きながら返事をする。
「いかにも!我は剣豪将軍材木座義輝だ!」
そう言って高らかに手をあげる材木座。……今更だがこんな夏にロングコート着て暑くないのか?
もういいや。こいつは放置して話が通じそうな褐色肌の女性に聞くか。
「あのー、すみませんがこのデブは何で「酷いぞ八幡!」黙れデブ。何でこのデブがここにいるんですか?」
材木座のツッコミをスルーして褐色肌の女性は息を吐きながら口にする。
「……ああ。こんなのでも一応私の右腕なのだが、私がレヴォルフに行くと言ったら付いていくと聞かなくてな……」
え?何?この女性はかなり出来る雰囲気だが、材木座の奴彼女の右腕なの?
「おい樫丸。このアルルカントの人達は何者だ?」
顔見知りの樫丸ころなに質問をしてみる。
「あ、はい!こちらはアルルカント・アカデミーのカミラ・パレートさんとエルネスタ・キューネさんと材木座義輝さんです!」
いや、名前じゃなく何でアルルカントの生徒が来たかを聞いているんだが……
内心突っ込んでいると褐色肌の女性ーーカミラ・パレートが口を開ける。
「今度我が学園がレヴォルフ黒学院と星導館学園の三校で新型の煌式武装の開発をする事になってな。その挨拶に来たのだよ」
あん?共同開発?んな事してもアルルカントにメリットがあるとは……
一瞬そう思ったが直ぐに理由を悟った。
……つまりあの人形使いのサイラスが馬鹿やらかした見返りって訳か?
しかし腑に落ちない点がある。
「それはわかったが何でレヴォルフも?共同開発する事になった理由はサイラス云々だろうけど普通は星導館だけじゃないのか?」
俺がそう尋ねるとカミラは若干驚きの表情で見てくる。まさかはっきりとサイラスの名前を出すとは思わなかったのだろう。俺についてはサイラスを充分嬲ったので今は特に含むものはない。……少しやり過ぎたし。
話を戻すと、サイラスがやったのは星導館の生徒を襲った事だ。レヴォルフは関係ない筈だが。
「レヴォルフからは『彼がレヴォルフの生徒に攻撃を仕掛けた』と追及されてな。その結果レヴォルフとも共同開発をする事になったのだよ」
レヴォルフの生徒……俺かよ?!
つまりレヴォルフはサイラスが俺に攻撃を仕掛けたって事を盾にアルルカントから技術を貰うって腹か。
随分いやらしいやり方だ。サイラスが俺に攻撃を仕掛けたのは事実だが、簡単に無効化して寧ろ返り討ちにしたのに俺を被害者扱いにしてアルルカントから技術を奪いに行くとは……
自身の通う学校の貪欲さに呆れているとエルネスタって女子が手を上げてくる。
「それでカミラがレヴォルフに行くって知って、あたしと剣豪将軍くんは君に会いたくと同伴したんでーっす!」
エルネスタって奴はそう言って笑顔でぴょこぴょこ飛び跳ねる。カミラとは随分違うな。
「……なるほど。てか材木座、何でお前はアスタリスクに来たんだ?」
こいつの将来の夢はライトノベル作家だった筈だ。わざわざアスタリスクに来る理由がわからん。
「うむ、実は我の両親はアルルカントの卒業生で実家も煌式武装の開発を仕事としているのでな。だから普段仕事を手伝っている我もアルルカントに行けと言われたのだよ」
「ふーん。つまり小説家の夢は諦めたのか?」
「否!我は決して諦めるつもりはない!両親は我に跡を継いで欲しいようだが我は小説家以外で大成するつもりは毛頭ないわぁ!」
そう言って手を高く上げてポーズを取る。なんか我が生涯に一片の悔いなし!とか言って死にそうなポーズをしているがお前がやるとカッコ悪く見えるな。
材木座に呆れているとカミラは呆れたようにため息を吐く。
「……私としては小説家の夢を諦めて煌式武装の開発に集中して欲しいのだが。もう試作を読むのは疲れたよ」
……ああ。この人も材木座の小説(偽)を読んだのか。凄く疲れた顔をしてるよ。あの苦痛は読んだ者にしかわからないからな。
「つーかこいつの煌式武装の開発の腕はどうなんすか?」
「……悔しいが一流と言っても過言ではない。彼の作る煌式武装は素人でも簡単に使えて、それでありながら優秀な人間が使えば優れた武器になる。我らが『獅子派』の象徴とも言える立派な技術者さ。……それなのに何故彼の書く小説はつまらないのだろうな?」
「へぼぇっ!」
それを聞いた材木座はさっきまで取っていたポーズを止めて地面に崩れ落ちる。
……それはともかくカミラは技術者としての材木座の事は本気で評価している。『獅子派』は確か煌式武装の開発の専門で、アルルカントにおける最大派閥と聞いた事がある。その象徴とも言えるって事は本当に優秀な技術者なのだろう。
それを聞いて俺は思った。
「材木座、お前は小説家として大成しないから技術者になれ。そっちの方が間違いなく大成するぞ」
「はぶぅ!」
材木座はそれにより地面に仰向けに倒れる。少し言い過ぎたか?
一瞬そう思ったが直ぐにその考えを打ち消した。ここで慰めると直ぐに調子に乗るのが目に見える。ここはシカトでいいだろう。
そう思っているとエルネスタが材木座に笑顔で近寄る。
「大丈夫だよ!剣豪将軍くんの小説を面白いって思う人は世界に1人くらいはいると思うから!」
「ひぐぇっ!」
あ、エルネスタの奴、トドメを刺しやがった。材木座は呻き声を上げて口から魂を出しているし。こいつが1番容赦ないな……
とりあえず気絶している材木座がいる理由はわかったが……このエルネスタは俺に会いに来たと言っていた。何をしに来たんだ?
「で、あんたは何で俺に会いに来たんだ?」
そう尋ねるとエルネスタが笑顔で俺に近寄ってくる。って近い近い近い!!
良く見たらこいつ凄く美人だし、髪からは良い匂いがするし緊張するんだけど?!
顔が熱くなっているのを自覚しているとエルネスタは……
「いやー。私の人形ちゃんを100体纏めて木っ端微塵にした君と鳳凰星武祭で1番の脅威になりそうな剣士くんをこの目で一度拝んでみたくってさー」
そう言ってにぱっと笑う。
おいマジか?この女、まさに今「私が黒幕です」と告白しやがったぞ。いくら手打ちになったとはいえ自分からバラすか普通?
呆気にとられている中、エルネスタは俺の体を触りながら顔を近づけてくる。
「ふーん。実際に見ると記録より遥かに雰囲気を感じるねー」
ちょっと?!マジで勘弁してください!てか俺が少しでも顔を動かしたらキスしそうなんですけど?!
誰か助けてくれ!そう思ってエルネスタの後ろを見るとカミラは内心呆れた表情をしながら俺に謝りのジェスチャーをしてくる。その様子じゃ助けてくれないようだ。
材木座は未だエルネスタの一撃をくらって屍になっていているから役に立たない。
(……あれ?これ詰みじゃね?)
内心諦めてかけている時だった。
「……八幡、そろそろ行かないと集合時間に間に合わないわよ」
オーフェリアが俺の制服の裾を引っ張りながらそう言ってくる。言われて時計を見ると5時前だった。確かにオーフェリアの言う通りこのまま話していると遅れるかもしれない。ここはオーフェリアに感謝するべきだろう。
しかし……
(……何だ?オーフェリアの奴怒ってるのか?)
……オーフェリアの顔を見るといつも通りの悲しげな表情だが、少しだけムスッとしている気がする。
根拠はない、根拠はないが……今のオーフェリアは機嫌が悪いと思う。
まあ今はオーフェリアの話に乗ろう。
「……あ、ああ。そうだな。っー訳で悪いが俺は行かせてもらうぞ」
そう言ってエルネスタから離れる。
「にゃはは、ざーんねん!あたしとしては君に興味あるし、昔、『大博士』の元にいた『孤毒の魔女』ともお近づきになれなら嬉しいんだけどなー」
俺はそれを聞いて少し驚く。オーフェリアは昔ディルクの下ではなくアルルカントの『大博士』の元にいたのは噂で聞いていたがまさか事実とはな……
オーフェリアを見ると特に表情を変えずに首を振る。
「……興味ないわ」
「ちぇー、残念っ」
「それより八幡、行きましょう」
オーフェリアはそう言ってスタコラ歩き出した。気のせいかもしれないがいつもより足が速い気がする。
「あ、おい!じゃあ俺も行く」
アルルカントの連中に適当に挨拶をして走り出す。
(にしても……アルルカントの煌式武装開発か……場合によっては俺も自分の煌式武装を改良したいな)
アルルカントの3人を見ながらオーフェリアの元に近寄る。
「待てよオーフェリア。どうしたんだよいきなり早歩きしてよ」
こいつが早歩きするなんてマジで珍しいだろ?何か悪い事したか?
「……何でもないわ」
オーフェリアはそう言っているが直ぐに嘘だと理解する。
「嘘つけ。いつも一緒に過ごしている俺からすれば不機嫌なのはわかるからな?」
他の人はオーフェリアの表情を見抜く事は出来ないが半年以上一緒に過ごしていた俺からすれば丸わかりだ。
俺がそう尋ねるとオーフェリアは一瞬俺を見てから更に足を速める。マジで何かあったのか?
疑問に思っていると……
「…………バカ」
オーフェリアの口からそんな言葉が出てきた。え?今のオーフェリアが言ったの?
疑問に思っている中、オーフェリアは俺に構わずに歩いて先に行っている。
それに気付いた俺は慌ててオーフェリアの後を追いかける事しか出来なかった。