学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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鳳凰星武祭は近い

合宿から帰った翌日……

 

「すみません。12時から材木座とアポを取ってる比企谷ですけど」

 

俺は今材木座が幹部をやっている技術会社『技術開発局』にいる。理由は簡単。合宿中に義手を壊されたから新しい義手を作らないといけないからだ。

 

「いつもありがとうございます。こちらにも話を届いております。執務室でお待ちとの事です」

 

言いながら受付のお姉さんは許可証を渡してくる。これは毎度のことなので俺は慣れた手つきで許可証を受け取り、エレベーターに乗り指定の階を選択する。

 

そして指定の階に到着すると既に何十回も歩いた廊下を歩き、執務室の前に着いたのでインターフォンを押す。

 

『今開ける』

 

その言葉と同時に扉が開くので中に入ると、材木座は作業着姿で書類作業をしていた。

 

「済まんな八幡よ。今ちょっとキリが悪いからそこに座って話し相手になってくれないか?」

 

「それは構わないが話しながらでも出来るのか?」

 

「重要部分は終わって、あとはサインするくらいの仕事だからな」

 

「なら良いが……とりあえず頑張れ」

 

「うむ。それより八幡よ、合宿では災難だったな」

 

「全くだ」

 

まさか合宿で10数年ぶりに義手を吹っ飛ばされるとは思わなかった。戦闘訓練は有意義だったし、ノエルや茨と過ごした夜は最高だったが、あの闇討ちの所為で微妙な合宿になってしまった。

 

「しかし貴様、学生時代からそうであったが、イベントがある度に面倒事に巻き込まれるな」

 

「言うな。俺が1番わかってる」

 

認めるのは癪だが否定はしない。星武祭期間中には誘拐事件の解決に動いたり闇討ちを受けたりして、文化祭では手を斬り落とされたりしたからな。

 

「てかお前はお疲れさん。エルネスタと大人の階段を上ったんだろ?」

 

この前そんなメールが来ていたし、今の材木座は一皮剥けた如く男らしく見える。言うまでもなく童貞を卒業したのがわかる。

 

「う、うむ。八幡の言う通りだった。あの時のエルネスタ殿ーーー嫁は本当に可愛かった」

 

「だろ?」

 

普段の嫁も可愛いが、夜に淫らになる嫁は昼とは別の魅力がある。

 

シルヴィは夜になるとドSになるし、オーフェリアは昼に比べて恥じらいの色を見せて、ノエルはヤる前は恥ずかしがるがいざ1つになると物凄い喘ぎ1番激しく動く。

 

3人とも昼とは全く別だが、昼の状態と比べても勝るとも劣らない。普通に全員魅力的に感じる。

 

「で?ヤった時のエルネスタってどんな感じなんだ?」

 

気になるのはそこだ。以前男子会で、嫁持ちはヤった時の嫁の状態を説明したんだ。材木座もヤった以上説明する義務がある。てか聞きたい。

 

「うむ……前戯の時はエルネスタ殿がリードしていたな。いつものように揶揄う感じで」

 

「それはなんとなく想像出来るな」

 

寧ろ主導権を握らないエルネスタはエルネスタじゃない。

 

「しかしな……」

 

すると材木座は神妙な表情を浮かべる。そのせいか俺も思わず背を伸ばして材木座の一挙一動に注目してしまう。

 

「しかし?」

 

「アレであるな?エルネスタ殿はいざ本番となった瞬間、怯え出して涙目で見てきてグッときてしまった」

 

「何それ見たい」

 

エルネスタが涙目+怯えとか見たいわ。まあそんな表情を見れるのは材木座の特権だから無理だけど。

 

「だろう?我も見た時は理性を吹っ飛ばしてしまったわ」

 

「そりゃ良かったな。ちなみに何回戦までヤった?」

 

「4回戦であるな」

 

「ド変態め」

 

「最高で6回戦までヤった貴様に言われたくないわ」

 

ぐっ……そこを言われたら返す言葉がない。しかしだからと言って4回戦も充分変態だろう。

 

「否定はしない。ともあれおめでとさん」

 

「うむ……って、書類は終わったしラボに行こうか」

 

材木座がそう言って空間ウィンドウを閉じながら立ち上がるので、俺もそれに続く形で立ち上がり執務室を後にする。

 

「しかし今回の襲撃犯だが、誰だか予想出来たか?」

 

「微妙だな。俺が捕まえた襲撃犯2人は爆死して、銀河によれば爆発が凄過ぎて情報を掴めなかったらしい」

 

まあ肉体が全くと言っていい程だったからな。

 

「ふむ……我の方でも調べてみるぞ?」

 

「助かる」

 

一応俺も統合企業財体の幹部だからW=Wの兵隊を使う事も可能だが、連中は俺以外の兵でもあるので余り信用していない。

 

何せW=Wの中には俺を嫌っている人間もいるからな。そいつらと繋がりを持っている以上、俺が狙われているって情報は知られたくない。流石に堂々と危害を加えることはないだろうが、軽い嫌がらせをしてくる可能性は0じゃないし。

 

しかしマジで襲撃犯は予想出来ないな……誰だが知らないが茨に軽いトラウマを与えたんだし、生き地獄を味あわせてやるつもりだ。

 

そんな事を考えながらも材木座の所有するラボに着いたので中に入る。すると既に義手と義手を取り付ける装置が用意してあった。

 

「では始めるぞ八幡よ。我は装置の電源を入れているからそれを飲んで座っていろ」

 

材木座はそう言って中身の入った試験管を渡してくるので一気飲みする。これは一時的に飲んだ人間の痛覚を遮断する薬だ。義手を取り付ける時、この薬が無いとメチャクチャ痛い。てかあっても結構痛い。

 

「飲んだぞ」

 

「うむ。では行くぞ」

 

材木座がそう言うので俺は左肩を上げる。同時に装置が義手を俺の方に動かして……

 

 

 

「ぐっ……!」

 

そのまま俺の肩と接続した。

 

 

 

 

 

 

30分後……

 

「処置完了である。試しに動かしてみるが良い」

 

義手の装着を完了するので腕を動かす。痛みは感じないし、上手く稼働している。材木座の腕を疑っている訳ではないが成功して良かった。

 

「特に問題ないな」

 

「ならば良し。もしも異変に感じたら直ぐに連絡するがよい」

 

「わかった。今回も世話になったな。失礼する」

 

「うむ。それと八幡よ。これをやる」

 

言いながら材木座はポケットからある物を取り出してくるが……

 

「カブト虫?」

 

「正確にはカブト虫型自律思考擬形体だ。エルネスタ殿が開発してくれたもので設定した対象と対象の周囲を監視する。今後それを貴様の周囲に付けておくといい」

 

「つまり俺に付けておけば襲撃された場合に情報を得られると?」

 

「うむ。加えてこれは自律思考擬形体故に、襲撃された記録を手に入れた場合、その後に最善と思える行動を取る……それこそ逃げ出した襲撃犯を追尾したりとか」

 

マジか……仮に合宿の時みたいに俺が逃してもこの擬形体が追ってくれる訳だ。もし俺が追わなかったら向こうも死ぬことはないだろうから情報を得られるだろう。

 

「わかった。ありがたく受け取っておく」

 

「うむ。貴様が負けるとは思ってないが気をつけておくのだぞ」

 

「ああ……っと、そんな良い物を貰ったんだしこっちも礼をしないとな」

 

言いながら俺は空間ウィンドウを開いて材木座にある物のデータを渡す。

 

「こ、これは?!」

 

それを受け取った材木座は驚きを露わにしながら俺と空間ウィンドウを交互に見る。

 

「今度それ買ってエルネスタに使ってみろ。メチャクチャ興奮するぞ、ソースは俺」

 

「い、一応考慮はしておく……しかし八幡よ、お主も中々Sであるな」

 

「自覚はある。またな」

 

俺は材木座に軽く会釈をしてラボを後にする。今日は仕事もないし帰って寝るか。まだ合宿の疲れが取れ切ってないし。

 

 

 

 

 

八幡が去った後……

 

「ふむぅ……一応買ってみるか」

 

材木座は唸りながらも八幡が渡した空間ウィンドウを操作して購入ボタンを押す。空間ウィンドウには『どんな女も一発絶頂!史上最強の媚薬』と表示されていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……って、誰もいないんだった」

 

自宅に帰った俺はため息を吐きながらリビングに向かう。今日は俺以外誰もいない。シルヴィは鳳凰星武祭が近いから仕事が忙しく、ノエルはE=Pの幹部と会食、オーフェリアはシリウスドームのVIP席に置く花について運営と話をしていていない。

 

俺は教師としてもW=Wの人間としても非番だ。昔の俺なら休みで喜んでいると思うが、今は寂しくて仕方ない。

 

早く帰ってきてくれと思った時だった。突如端末が鳴りだしたのでポケットから取り出す。誰だが知らないが暇潰しに付き合ってくれるとありがたい。

 

そう思いながら電話の相手を見ると一瞬だけ思考が停止する。電話の相手が予想外だったからだ。

 

しかし無視をするのは論外なので電話に出る。

 

「もしもし」

 

『もしもし、八幡さんですよね?お久しぶりですわ』

 

「そっすね。お久しぶりですーーーソフィアさん」

 

電話の相手はソフィア・フェアクロフさん。学生時代にシルヴィによって縁が出来た人だ。最初は余り良く思われてなかったが、時が経つにつれて仲良くなれて、今でも割と連絡をしている。

 

そして……

 

『そうですわね。もう少しマメに電話してくださいな。想い人との電話は何よりも楽しみなのですから』

 

そう、かつてノエルと同じく、俺と付き合う為に物凄いアプローチをしてきたのだ。

 

告白されたのは俺が大学1年の頃で、ソフィアさんの願いである『フェアクロフ家の当主になる事』を叶えて直ぐの事だった。

 

当初フェアクロフ家はアーネストさんに当主を継がせる予定だったが、チーム・赫夜と関わりソフィアさんの願いを知った俺は願いを叶えるべく色々と動いた。例を挙げるならフェアクロフ家にフェアクロフ家と敵対する家の機密情報を片っ端から提供した事とかだ。

 

結果、フェアクロフ家はソフィアさんを次期当主にする事を約束して、それを理解したソフィアさんは俺に礼をした後に告白をしてきたのだ。

 

当然オーフェリアとシルヴィは反対したが、ソフィアさんはノエル同様に全く諦めることなく俺にはアプローチを、2人には交渉をし続けた。

 

それが暫く続いた時だった。ソフィアさんが俺にアプローチをしている事が本家にバレて猛反対を受けた。

 

それは仕方ない事だ。フェアクロフ家はヨーロッパ最大の名家。幾ら協力したとはいえ、レヴォルフのNo.2、それも二股掛けてる男を家に取り入れるのは無理だろう。

 

当時ソフィアさんはノエル同様に家の人間の反対を押し切ろうとした。しかし俺と付き合うなら次期当主はアーネストさんにすると言われ、ソフィアさんは悩んだ末に家の要求を受け入れて俺に対するアプローチは止めた。

 

ノエルの場合は絶縁してでも俺と付き合おうとしたから成功出来たが、ソフィアさんの場合アーネストさんに代わって当主になるのが願いであるので、絶縁は絶対に出来ないことである。

 

そんな訳でソフィアさんとは結婚してないが、もしも家の反対が無かったらソフィアさんは殆ど確実に俺と結婚していたと思う。ノエル並みに積極的だったし。

 

閑話休題……

 

そんな訳でソフィアさんもプライベートでは堂々と俺の事を好きと言ってくる。以前その事を軽く注意したら、政略結婚故に夫も自分に自分以外の女性に愛しているのを公言しているから問題ない、と一蹴された。

 

要するにソフィアさんは結婚しているが、政略結婚なのでソフィアさんもその夫もそれぞれ違う人を愛しているのだ。

 

「そりゃどうも。てかわざわざ電話するって事はなんか用事があるんすか?」

 

『ええ。実は私、鳳凰星武祭を見に来ますので、よろしければ一緒に見ません?美奈兎さん達も一緒ですの』

 

そういや同僚のクロエを除いたチーム・赫夜のメンバーと会うのは久しぶりになるな。偶に連絡を取り合うとはいえ直接会いたいのは事実。

 

故に……

 

「わかりました。可能な限り仕事をないようにしておきます」

 

俺はソフィアさんの誘いを受けることにした。

 

『それは良かったですわ。では詳しい予定は鳳凰星武祭が開催される3日前あたりに決めましょう。ところで今はお時間ありますの?』

 

「ありますがどうかしましたか?」

 

俺がそう尋ねるとソフィアさんは表情を真っ赤にしながら口を開ける。

 

『いえ、折角ですのでもう少しお話がしたいですわ……』

 

「もちろん良いですよ」

 

俺は即答する。そんな表情を見せられたら断るのは無理だ。

 

『ありがとうございます。実はですね……』

 

こうして俺はソフィアさんと2時間近く電話したのだった。久しぶりの彼女との雑談は楽しくて俺の暇を潰してくれたのだった。

 

だから俺は鳳凰星武祭でソフィアさんひいてはチーム・赫夜のメンバーと会う気持ちがより一層強くなるのだった。

 

ただソフィアさん、電話を切る時に投げキッスをするのは止めてください。一応ソフィアさんの初めてを奪ったとはいえクソ恥ずかしいですからね?

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「もう直ぐ鳳凰星武祭が開催される……その時警備隊は外部からの客によるトラブルの対応があるし、比企谷を殺す為の漬け込む隙はある……」

 

暗い部屋で葉山隼人は空間ウィンドウを開きながら八幡を殺す計画を立てている。

 

それを10分近く続けているとキリが良くなったので、葉山は空間ウィンドウから顔を逸らしてポケットからノエルの写真を取り出す。

 

「待っててねノエルちゃん。鳳凰星武祭では絶対に比企谷を殺して洗脳を解いて、俺の花嫁にしてあげるからね?そうすれば君は世界で一番幸せな人間になれるから」

 

ちゅっ……

 

そして写真に写るノエルの唇にキスをして、再度空間ウィンドウに目を向けるのだった。

 

 

ーーー鳳凰星武祭の開幕は近い


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