『ーーーというように今回も無事に鳳凰星武祭が開催出来ることを誇りに思い……』
「しっかし何年経っても開会式はつまらないな……」
鳳凰星武祭当日、俺は今観客席にて開会式を見ている。一応クインヴェールの教師だからクインヴェールの観戦席に入れるが今回は違う。
何故かと言うと……
「仕方ないじゃない。これも星武祭のしきたりなんだから」
隣にはオーフェリアがいるからだ。一応俺が同伴すれば入れない事はないが他の教師は良い顔をしないし、生徒らがオーフェリアに色々質問してきそうだからクインヴェールの観戦席には行かないつもりだ。
ちなみにシルヴィは運営委員として星武祭期間中は忙しくて夜以外会わなくて、ノエルはガラードワースの教師同士でガラードワースの観戦席にいて、クロエを除いたチーム・赫夜のメンバーは仕事の都合上2日目にアスタリスク入りをする。
「でも、私は久しぶりに八幡と2人きりで嬉しいわ」
言いながらオーフェリアは優しい笑みを浮かべて俺の肩に頭を乗せてくる。自由になってからオーフェリアはどんどん感情を取り戻して、今や普通の女性と同じくらいになっている。そんなオーフェリアはとにかく愛おしい。
「そりゃどうも。確かにお前と2人きりになるのは久しぶりだな」
4人一緒に過ごすことは多いが2人きりは余りない。シルヴィとはご無沙汰だし、ノエルも合宿の時は2人きりだったが合宿の前に2人きりなったのは半年以上前だ。
「ええ。だから楽しみだわ……んっ」
オーフェリアは俺の首にキスをしてくる。この甘えん坊め。
「ったく……」
俺はオーフェリアの攻めにドキドキしながらも頭を撫でる。大切な妻にそんな風に甘えられたら俺に拒否する選択はない。
結果、俺は開会式が終わるまでオーフェリアとお互いに甘え合ったのだった。
1時間後……
「んじゃどこのドームに行くか?俺としてはこのシリウスドームかカノープスドームで試合を見たいんだが」
開会式が終わり、俺達は売店で昼飯を買いながらそんな話をする。
今日行われる有力ペアによる試合は、シリウスドームで行われる綾斗の娘ペアによる試合とカノープスドームにて行われる虎峰の子供ペアによる試合だ。
今回の鳳凰星武祭で優勝候補2トップの試合である以上、見ておきたいが時間の都合上、生で見るのはどちらか片方だけだろう。
「カノープスドームが良いわ。あの女の娘が負けるところが見たいわ」
オーフェリアは即答する。そういや虎峰の子供の龍苑と燐音ペアの対戦ペアはアレだったな。
言いながら端末を取り出して空間ウィンドウが表示する。そこには……
界龍第七学院
趙龍苑&趙燐音
VS
聖ガラードワース学園
相模綾乃&玉縄正義
そう表示されている。以前トーナメント表が発表されてから調べてみたが相模綾乃はあの相模南の娘だ。それを知った時の嫁3人はメチャクチャ不機嫌になったが、今でもハッキリ覚えている。
というかあの悪辣女と結婚する男がいる事に驚き……いや、あいつ外面は良かったんだったな。
ともあれオーフェリアが見たいなら止めはしないし、カノープスドームに行くか。
「わかった。じゃあカノープスドームに「八幡ちゃぁぁぁぁぁぁんっ!」うおっ!え、エルネスタ?!」
売店から出ると同時にエルネスタが猛スピードでこちらに突っ込んでくる。その顔には羞恥と憤怒の色が含まれている。
そしていきなり俺の胸倉を掴んでくる。マジでいきなりどうした?それなりに恨まれる事はやっているが、エルネスタに恨まれる事はした覚えはない。
予想外の展開に俺だけでなくオーフェリアも驚いているとエルネスタが俺の胸倉を掴んだまま口を開ける。
「八幡ちゃん将軍ちゃんに媚薬を教えたでしょ?!アレ凄いヤバかったんだけど?!」
あ?媚薬……あー、アレか。前に材木座か闇討ちに備えてカブト虫型自律思考煌式武装を貰った礼に、凄い媚薬の紹介をしたな。まあ元々アレ、ロドルフォから紹介された物だけど。
「アレを教えたの?八幡も中々容赦ないわね」
例の媚薬を経験済みであるオーフェリアは若干呆れ顔で俺を見てくる。まあアレを飲ませた嫁3人は雌犬と化すからな。
「まあな。でもエルネスタよ、何だかんだ楽しんだだろ?」
実際俺の嫁3人は終わった後に興奮したと言っていたし、例の媚薬を綾斗ハーレムにも紹介したら4人全員凄かったと評価したし。
「そ、それはそうだけど……だからって初っ端からアレはキツ過ぎるよ!将軍ちゃんに媚薬を渡すならもうちょっと効果の薄い媚薬にしてよ!」
エルネスタは更に俺に対して文句を言ってくる。まあ確かにあの媚薬はその手の業界では凄過ぎると評判だ。
しかし……
「え?て事は薄い媚薬なら良い……もしかして雌犬になる事自体は嫌じゃないと?」
「なっ?!〜〜〜っ!馬鹿っ!」
俺がそう言うと真っ赤になって……
パァンッ!
「へぶっ!」
俺の頬に平手打ちをして走り去って行った。その速さはまさに電光石火の一言だ。
「……八幡、今のはデリカシーなさ過ぎよ」
オーフェリアがジト目で俺を見てからポカポカと頭を叩いてくる。その仕草可愛過ぎだろ?威力も全然ないし。
とはいえ今回は流石にズケズケ言いまくった俺が悪いな、うん。今後は少し自重しよう。
(しかし材木座の奴が今後自重するかはわからないがな)
あの媚薬、女子に使うと凄くエロくなり男からしたら何度も使いたくなる一品で、俺も毎日使っているわけではないが月に3、4回は使う程気に入っているくらいだ。多分材木座も何度か使うだろう。
「悪かった、次からは気を付ける。それよりもカノープスドームに行こうぜ」
まだ時間に余裕はあるが念には念をってヤツだ。
「そうね」
そう思いながら俺がオーフェリアに手を差し出すと、オーフェリアは小さく頷いてから手を差し出して恋人繋ぎをしてくる。
オーフェリアの手から感じる温もりによって幸せになりながらも歩き出す。大切な女と手を繋いで行動する……実に幸せだ。
そんな風に幸せな気分のまま、カノープスドームに行くべくシリウスドームの出口に向かおうとすると……
「だからノエルちゃん。比企谷と離婚して俺と結婚するんだ!」
「ですから!私が愛する人は八幡さんであって貴方ではないです!」
「君は騙されている。君の隣に立つべきなのは俺なんだ。絶対に幸せに出来るし、君は比企谷と別れるべきだ!」
「知りません!私は今が一番幸せなんです!」
一瞬で幸せな気分を失った。見れば俺を殺そうとした葉山がトイレの前でノエルを口説いていたのだ。
そして俺の胸中には怒りの感情が湧き上がってくる。あの野郎……人の女を口説くとかふざけてんのか?そんな奴見た事ねぇよ。どっか別世界のアスタリスクにはいるかもしれないけど。
「おい葉山。ブタ箱から出たかと思えば人の女を口説くなんていい度胸してんじゃねぇか……」
内心ブチ切れながら2人の元に向かう。するとノエルはパアッと明るい表情を浮かべ、対称的に葉山は殺意を込めた表情を浮かべる。
「……相変わらずふざけた言動をするな君は。まあ良い、ここは引こう……ノエルちゃん。いつか君にかけられた比企谷の洗脳を解いて俺の花嫁にしてあげるからね」
言いながら葉山は踵を返して走り出すが、ノエルを花嫁にするだと?!ふざけた事を言ってんじゃねぇよ!
俺は反射的に自身の影に星辰力を込めようとするが……
(ちっ!人が多過ぎて捕まえられねぇ!)
葉山が逃げた先には一般客やアスタリスクに所属する学生が溢れかえっていて葉山だけを捕まえるのは無理だ。第三者の存在を無視すれば捕まえるのは可能だが、それをやったら俺が捕まるだろう。実際葉山がやった事は俺からしたら許されないが、犯罪行為ではないのだから。
「(まあ捕まえられない以上ほっとこう。それよりも……)大丈夫かノエル?」
嫁の心配が第一だ。俺は半ば慌てながらもノエルに話しかけるも、ノエルは笑顔で頷く。
「大丈夫ですよ。助けていただきありがとうございます」
「そのくらいは良いんだが……何があったんだ?」
俺が気になった事を話しかけると、ノエルは笑顔を消して嫌そうな顔をする。コイツがこんな顔をするって事は相当不愉快だったのだろう。あの葉虫、人の嫁になんてことをしやがるんだよ?
「えっと……ガラードワースの観戦席で開会式を見届けた後に解散となって、お手洗いに行った後に話しかけられて……」
「で、口説かれたと?」
「……はい」
「あの野郎マジで良い度胸してるな……ノエル」
「何ですか?」
「一応言っとくが俺はお前を洗脳してな「そんな事は知ってます!」お、おう……」
念の為にノエルに洗脳してない旨を告げようとしたら、途中でノエルの大声がそれを遮る。
「八幡さんに洗脳能力がないのは知ってますし……何より私は自分の気持ちに従った結果、八幡さんを好きになったんです!この気持ちは嘘偽りない本物の気持ちです!」
ノエルは強い口調で俺に詰め寄ってくる。そこには嘘偽りはなかった。
「そう言ってくれると俺も嬉しい。ありがとな」
「いえ。妻として当然です」
俺が礼を言うとノエルは小さい、それでありながら僅かに膨らんでいる可愛らしい胸を張る。仕草可愛過ぎだろ?
「そう言ってくれると助かる。てかお前は1人か?」
「はい。ですから何処のドームに行くか悩んでいて……」
「なら私達と一緒にカノープスドームに行くのはどうかしら?私と八幡が居ればあの葉虫もノエルに寄ってこないでしょう?」
するとオーフェリアがそんな提案をしてくる。まあ一理ある。ノエルは見た目は気弱そうだから1人で居たらまた葉虫が寄ってくる可能性は充分にあり得るだろう。しかし俺とオーフェリアが側に居れば向こうも近づいて来ないだろう。
そんなオーフェリアの提案に対してノエルは少々申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「それはありがたいですけど……良いんですか?」
「?何がかしら?」
「その……オーフェリアさんにとって八幡さんと2人きりの時間を邪魔しちゃうので……」
ノエルがそう言うとオーフェリアはキョトンとした表情になるも直ぐに優しい笑みを浮かべる。
「馬鹿ね。確かに八幡と2人きりの時間は欲しいけど、それよりもノエルの安全の方が欲しいわよ。出会った当初ならいざ知らず、今の私にとって貴女は八幡やシルヴィアと同じくらい大切なんだから」
オーフェリア……お前イケメン過ぎだろ?今のはグッときたぞ。
「っ……!はいっ!ありがとうございます!」
「決まりね。じゃあカノープスドームに行くわよ」
「はい!」
言いながらオーフェリアは左腕に、ノエルは右腕に抱きついて甘え全開だ。クソ可愛過ぎて死んでしまいそうだ。
「了解。じゃあ行くぞ」
俺はそう言ってから2人をエスコートする形でシリウスドームを後にしてカノープスドームに向かった。
2人の温もりを感じながら、葉虫に殺意を抱くことを忘れずに。
「クソッ……俺と結婚するという幸せを一蹴するなんて、相当強い洗脳をされてるな。だがいつか絶対に比企谷の洗脳を解いて、沢山の人を救ってノエルちゃんと結婚してやる……!今に見てろよ比企谷……!」
おまけ
「全く!八幡ちゃんはデリカシーがないんだから!」
「どうしたのだエルネスタ殿?」
「あ、将軍ちゃん?実は……って感じなの」
「彼奴本当にデリカシーがないのう……」
「でしょ?……ところでさ将軍ちゃん。将軍ちゃんはさ、私を雌犬にしたいのかな?」
「ふむ……まあ確かにあの時のエルネスタ殿は興奮した……が」
「が?」
「やっぱり我にとって1番見たいエルネスタ殿の表情は普段の笑顔であるからな。偶に雌犬にする事はあっても、雌犬に定着させるつもりはない」
「い、いきなり変な事を言わないでよ将軍ちゃんの馬鹿!」
「え?!なんか我変な事を言ったか?」
「煩い!将軍ちゃんの馬鹿!アホ!厨二病!大好きだよバーカ!」
「何故我そこまで罵倒されるの?!我もエルネスタ殿の事大好きだけど!」
「っ……!だからハッキリと言わないでよ!義輝の馬鹿!」
「き、貴様こそいきなり名前で呼ぶな恥ずかしくて仕方ないわ!」
ギャーギャーワーワー!!
「甘ぇ……」
「あのバカップルめ……TPO弁えろよ……」
「やっべ……口から砂糖が出てきやがる」
「急いでブラックコーヒーを買わないとな……」
「俺も買おう」
「僕も……」
「私も」
鳳凰星武祭初日、シリウスドームに売られているブラックコーヒーが全て売り切れるという事態が発生したのだった。