学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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グダグタな試合は白ける

カノープスドームの観客席にて……

 

「第1試合が始まるまで後20分ちょいか……短いように感じるが長いな」

 

 

「そうですね。私も待ち遠しいです」

 

「まあ私が楽しみにしてる試合は少ないけど」

 

俺は今ノエルとオーフェリアに挟まれながら試合を待っている。シルヴィは運営委員会としての仕事があるから居ないのが悔しい。星武祭の時期になるといつもそうだ。オーフェリアとノエルと過ごす事はあるが、シルヴィと過ごす時間は殆どない。

 

寂しい気持ちはシルヴィも同じのようで星武祭が終わって一息つくと暫く会えなかった反動でいつも以上に甘えん坊になるが、今回もメチャクチャ甘えてくるだろう。だから俺は思い切り甘えさせてやるつもりだ。

 

「だろうな。今日カノープスドームで試合をするペアで優勝候補なのは龍苑と燐音ペアだけだからな」

 

虎峰とセシリーの子供にして、界龍第七学院序列4位の趙龍苑と序列5位の趙燐音。今日カノープスドームで試合をするペアではこの2人がぶっち切りで強い。合宿で俺にボコボコにされて以降奮起したのか、最新のデータは合宿前のそれに比べて大きく成長していたし。

 

そこまで考えていると……

 

『やっはろー!ってわけで第32回鳳凰星武祭第二会場であるカノープスドームだよ。実況は私、ABCアナウンサーの雪ノ下結衣、解説は星導館学園OGにして星猟警備隊隊長補佐をやってる比企谷小町ちゃんに来てもらったよ。小町ちゃんやっはろー』

 

『結衣さんやっはろー!』

 

そんなやり取りが耳に入る。星武祭の解説者は基本的に『かつて星武祭で優秀な成績を残した人間』かつ『現職が六学園と深い繋がりを持っていない仕事である人間』が選ばれる。つまり六学園で教師をやっている俺やノエル、綺凛やセシリーが解説に呼ばれる事はない。呼ばれるとしたら退職してからだろう。

 

ちなみに今花屋で働いているオーフェリアは偶に解説に呼ばれる事があり、偶に割と容赦ない評価を下す事から一部のドMからは人気が出ている。

 

(てかお前らもう直ぐ40歳になるってのに、まだやっはろー言ってんのかよ……)

 

学生時代にも恥ずかしいと思っていたが、30代になってもやってるって結構痛いぞ。まあ本人ら楽しそうだから良いけど。

 

『いよいよ始まるけど小町ちゃんから見て今回の鳳凰星武祭はどうかな?』

 

『うーん……ま、星導館の零ちゃんと紗枝ちゃんは凄く強くて優勝候補だと思いますよ。綾斗さん繋がりで何度か模擬戦してますけど紗枝ちゃんは私と互角で零ちゃんは私より強いですから』

 

『へー、やっぱり天霧警備隊長の子供だけあって強いんだ。他にはどうですか?』

 

『やっぱり界龍の趙兄妹とかガラードワースの聖騎士コンビあたりですかね。今回はサプライズ的な選手は居ませんし』

 

『なるほど〜。そういえば私達が鳳凰星武祭に出た時はアルルカントがすっごいロボットを出してたよね!』

 

『ええ。そのシーズンは厨二さんとエルネスタさんとカミラさんのアルルカントトリオが色々引っ掻き回してましたよね〜。それと結衣さん、ロボットではなく擬形体ですからね?』

 

そんなやり取りを聞きながら俺は昔ーーー高1の頃行われた鳳凰星武祭に思いを馳せる。

 

「懐かしいなーーー俺ん時は色々ぶっ飛んだイベントがあったし」

 

誘拐事件が起こったり、星武祭実行委員長に襲撃されたりと前代未聞な事件が起こりまくった。

 

「そうね。確かに色々な事件があったわ。でも私は最終日に八幡の恋人になれた事は今でも鮮明に覚えているわ」

 

オーフェリアは笑顔でそう言っているが、それについては俺もだ。世界最強の魔女と世界の歌姫に告白されて付き合うなんてイベントを忘れる方が無理って話だ。

 

「私は当時八幡さんとは接点が無かったですけど、オーフェリアさんとシルヴィアさんが幸せそうに笑っているのは容易に想像出来ます」

 

ノエルの言う通りだ。あの時の2人の表情は1番印象に残っていて一生忘れない確信がある。

 

「っても、ノエル。お前が俺の彼女になった時も同じ表情を浮かべてたぞ?」

 

加えてガチ泣きしてたし。俺がそう言うとノエルは顔を真っ赤にして上目遣いで俺を見てくる。

 

「だ、だって……4年近く願った恋ーーーそれも至難な恋が叶ったからつい……」

 

まあ確かに……既に彼女を、それも2人持っていた俺を振り向かせるのは至難だろう。実際シルヴィは優し過ぎたからともかく、オーフェリアに認められるまで3年弱、俺が了承するまで4年近く掛かったし。

 

「ふふっ……可愛いわね」

 

「あっ……」

 

オーフェリアが妖艶な笑みでノエルに顎クイをやると、ノエルは恥ずかしそうに喘ぐ。何その百合プレイ。もっとお願いします。

 

『そろそろカノープスドームでも第1試合の時間だね。先ずは東ゲート!界龍第七学院序列4位『疾風怒濤』趙龍苑と序列5位『雷霆』趙燐音の趙兄妹だよー』

 

結衣ののんびりした声と同時に東ゲートから界龍の制服を着た趙兄妹がステージに立つ。同時に歓声が上がる。優勝候補が出ると必ず盛り上がるのは必然だ。

 

『かつて星武祭で大暴れした趙さんとセシリーちゃんの子供が遂に参戦!親譲りの体術と星仙術のお披露目が楽しみだね!』

 

『そうですね。今の時代は小町達の子供達が星武祭に参加するのが、多いけどこの2人はかなり強い方ですね……まあ小町の姪4人がトップですけど』

 

 

小町の姪、つまり俺の娘4人を意味する。まあ否定はしない。俺とオーフェリアの娘の翔子はレヴォルフの序列1位で、俺とシルヴィの娘の歌奈と竜胆はクインヴェールと界龍の序列1位、俺とノエルの娘はガラードワースの序列1位だからな。それについては理解出来るが俺の身内を自慢するな。

 

そんな事を考えていると、反対側から対戦相手の相模&玉縄ペアが現れる。とはいえ会場の空気は趙兄妹が勝つ空気になっていて、この中でいつも通りに戦うのは無理だろう。

 

(というかデータを見る限りいつも通りに戦っても負けるだろうな)

 

散々人に迷惑をかけた女の娘だから……と、データを見たが特徴がないのが特徴ってくらい平凡な戦闘スタイルだった。そしてそれは相方の玉縄も同じだ。

 

ちなみに普段の学園生活はどうかというと、ノエル曰く、相模はクラスのリーダーで引っ込み思案な性格の子をパシらせたりして、玉縄ってのはクラス委員長らしいが、委員会ではロジカルシンキングだのグランドデザインだのオミットだのわざわざカタカナ語を使っていて委員会を混乱させているらしい。

 

(今更だがガラードワースって名門呼ばわりされてるけど、ロクデナシ多過ぎだろ?)

 

ガラードワースの話は結構聞いているが、銀翼騎士団以外からは良い話を余り聞かないし。てか俺の時は闇討ちしてくるアホもいるし。

 

そんな事を考えながらステージを見ると4人が向かい合う。趙兄妹はいつも通りの表情を浮かべ、相模が勝ち誇った笑みを浮かべ、玉縄は真面目な表情を浮かべながらろくろを回すようなジェスチャーをしている。最後については意味がわからん……

 

『じゃあいよいよ時間だね!2回戦に上がれるのは界龍か?!はたまたガラードワースか?!』

 

結衣の声に4人が開始地点に立って向かい合う。ネットのオッズでは趙兄妹は1.0009倍で、相模&玉縄コンビは1905倍だったが果たして……

 

 

『鳳凰星武祭Cブロック1回戦第1試合、試合開始!』

 

 

 

 

 

 

『鳳凰星武祭Cブロック1回戦第1試合、試合開始!』

 

「行くわよ!足を引っ張ったら許さないから!」

 

試合開始と同時に相模綾乃は剣型煌式武装を展開しながら相方である玉縄正義に叫ぶ。

 

「もちろんさ。僕と君のボンズとエフォートがあればロウズする可能性はナッシング「はあっ!」……えっ?」

 

『玉縄正義、校章破損』

 

対する玉縄は両手でろくろを回すようなジェスチャーをしながら了解の返事をしようとしたが、ろくろを回すようなジェスチャーをしていたが故に武器を出していなかったので、龍苑の拳によって校章が破壊された。

 

「そ、そんな……!この僕が……!こんなのディスアグリーだ……!」

 

玉縄は未だにろくろを回すようなジェスチャーをしながら愕然とする。

 

「ちょっと!何遊んで「隙だらけだよ〜?」しまっ……!」

 

『相模綾乃、校章破損』

 

『試合終了!勝者趙龍苑&趙燐音!』

 

玉縄の奇行に相模が怒鳴っていると燐音の放った呪符が爆発して相模の校章を破壊した。

 

こうして優勝候補ペアによる試合は10秒もしないで幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『ここで試合終了!勝ったのは界龍の趙兄妹ペア!』

 

『うーん。1ヶ月前の公式序列戦の記録は見ましたが、随分と機動力が上がってますね〜。合宿でお兄ちゃんにボロカスにされたって聞いたし、その屈辱が強くしたんだと思いますね』

 

 

結衣と小町の声を聞きながら俺はステージを見るが酷い試合だった。玉縄はろくろ回しをしただけだし、相模も何かする前に負けたし。これまでの星武祭で最も酷い試合は俺と葉山の試合とネットでは評価されているが、今の試合によって最も酷い試合は変更されるかもしれない。

 

ちなみに1番人気の試合は俺とシルヴィの2度目の試合で、1番ぶっ飛んでいる試合は俺と星露の試合で、1番予想外だった試合は俺とレナティの試合だ。何でもいいが全ての試合に俺の名前が載っているのが解せない。

 

閑話休題……

 

「酷い試合ね……ノエル、ガラードワースの評価がまた下がったかもしれないけど頑張って」

 

「あはは……まあ、私達が結婚する時に起こった事件に比べたらマシですから何とかなりますよ」

 

オーフェリアも俺と同意見なようでノエルを励まし、対するノエルは弱々しい笑みを浮かべながら否定はしない。実際あの試合は酷かった。てか玉縄は何故ろくろを回すようなジェスチャーをしていたんだ。アレは何か技を放つ為のルーティーンなのか?だとしたら奇妙過ぎるルーティーンだな。

 

そんな事を考えていると趙兄妹はステージを後にして、相模は玉縄に文句を言っている。しかし俺からしたら50歩100歩だからな?

 

そんな感じでカノープスドーム最初の試合は酷い試合として幕を下ろして、その後は流れるように試合が行われて星武祭1日目が終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー……最初の試合はアレだったが、星武祭のレベルは年々上がってるな」

 

1日目の試合が終わり、俺とオーフェリアとノエルはカノープスドームを後にして自宅に向かっている。

 

「そうですね。序列外ペアと序列入りペアの試合でも結構良い試合をしている事もありましたね」

 

「ええ。でも予選だからイマイチ盛り上がりに欠けるわね。予選から盛り上がった星武祭なんて八幡が高3と大学3年の時に出た王竜星武祭くらいじゃない?」

 

今の王竜星武祭も人気だが、オーフェリアが今言った2つの王竜星武祭はぶっち切りの人気だ。予選から高位序列者と星露の私塾である魎山泊に通う人間がぶつかり合ったし。

 

「まあ今は星露も上から煩く言われて魎山泊をやってないし「あ、八幡君、オーフェリア、ノエルちゃん!」この声は……シルヴィ」

 

いきなり横から話しかけられたので見れば、スーツ姿のシルヴィがこちらに向かって元気良く走ってくる。

 

「奇遇だね。今から帰るなら一緒に帰って良いかな?」

 

「もちろん構わないが、今日は随分と早いんだな」

 

今は7時前だが、シルヴィ毎回星武祭の時期では9時過ぎまで働いているのでここで会ったのは結構驚いた。

 

「今日はW=Wのお偉いさんの対応だけだったから」

 

なるほどな。星武祭の方の仕事はやってないなら試合が終わった時点で帰れるだろう。

 

「そうか。じゃあ帰ろうぞ」

 

「はーい」

 

シルヴィが了承したので俺達4人で一緒に帰る。それだけで俺は幸せな気分だ。こうやって4人で一緒に居るのが1番だ。

 

そんな事を考えながら10分近く歩き、自宅に到着するも……

 

「あれ?電気が点いてるな」

 

見ればリビングの窓からは光が見える。確か電気の確認はした筈だが……

 

「もしかして茨ちゃんが来てるんじゃない?」

 

「あー、週に一度ウチに来る茨ならあり得るな。ともあれ開けるぞ」

 

言いながら俺は玄関の鍵を開けて中に入る。すると……

 

「あ、お帰り」

 

「え?歌奈?」

 

丁度トイレから歌奈が出てきた。シルヴィは驚いているが同感だ。歌奈はクインヴェールに入学してから一度も帰ってきてなかったし。

 

すると……

 

 

 

 

 

 

「あ、皆様お帰りなさい!」

 

「おー、お邪魔してるよ〜」

 

「足を踏むな竜胆!……久しぶりだな親父にお袋」

 

俺と嫁3人の子供である茨に竜胆に翔子がリビングからやって来る。それはつまり俺の子供が全員揃っている事を意味している。

 

(マジで何があったんだ?)

 

茨はともかく、他の3人は各学園に入学してから1回も帰ってきてない。そんな3人と茨が一堂に会するなんて完全に予想外だ。

 

(まあ……久しぶりに家族8人揃ったんだし良いか)

 

俺は幸せな気分のまま靴を脱いでリビングに向かった。折角の家族団欒を楽しまないといけないからな。




すみませんが、明日から26日まで所用でおやすみさせていただきます

人物紹介

比企谷小町(37)

星猟警備隊隊長補佐として綾斗の補佐を担当している。星露との鍛錬の元、鍛え抜かれた実力は時として壁を超えた人間相手に勝てる時もある。学生時代、最後の王竜星武祭の準々決勝で八幡と戦い、途中まで追い込めたものの、影神の終焉神装を使われて敗北。

現在の職場では部下からの信頼は厚いが男との縁はない。最近婚期を気にして綾斗に迫るもユリスを始めとした綾斗ハーレムに止められている。





雪ノ下結衣 (39)(旧姓:由比ヶ浜結衣)

クインヴェールOG。大学3年の時に最後の王竜星武祭に参加した際は5回戦で星露と激突して敗北。負けはしたが、壁を超えていない人間尚且つ魎山泊に通っていない人間でありながら星露に一撃を与えた唯一の人間として名を挙げた。

卒業までに雪乃に勉強を教わり、何とかABCテレビに入社。学生時代から健在しているアホなキャラを使って人気アナウンサーとして絶賛活躍中で、30になってから星武祭の実況を担当するようになった。

同じABCアナウンサーとして入社した雪乃とはずっと仲良しで、一緒に過ごしている内に友情以上の感情が生まれ、30の時に雪乃と結婚して世間を騒がせた。


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