学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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久しぶりに家族が集まる

 

 

「しかし……茨はともかく、歌奈達3人が来るとは思わなかったぞ」

 

鳳凰星武祭初日の夜8時、俺は今嫁3人と子供4人と一緒にリビングでのんびりしながらそう呟く。こうして家族全員でのんびりするのは4ヶ月ぶりだ。

 

「別に私は中央区で美味い飯を食おうとしたら茨に捕まったんで好きで来たわけじゃねぇよ。そんで連行されてたら歌奈と竜胆が歩いていて、付いてきたって感じだよ」

 

そんな俺の呟きに対して俺とオーフェリアの娘である翔子が母親譲りの白い髪をいじりながらぶっきらぼうに返事をする。好きで来たわけじゃないって……お父さん悲しい。

 

内心悲しんでいると、俺とノエルの娘である茨が優しい笑みを浮かべながら口を開ける。

 

「でも翔子さん、偶にはお父様達に甘えたら……って私が誘った時嬉しそうでしたよ」

 

「え?マジで?」

 

茨の言葉に思わず聞き返してしまう。今のは完全に予想外だわ。

 

「は?!茨テメェ何言ってんだよ?!私は別に親父に甘えたいなんて思ってねぇからな!」

 

対する翔子は真っ赤になりながら茨の言葉を否定するが、それが照れ隠しである事は翔子以外の全員が理解出来ているだろう。

 

「いや、それはないでしょ。翔子って昔から嫌な事は絶対にしないし。だから本当は甘えたいんじゃないの?」

 

「竜胆は黙ってろ!」

 

次に翔子は竜胆に食ってかかるが、俺からしたら全く怖くなく……

 

「そうかそうか。そいつは嬉しいな」

 

「っ……止めろクソ親父!離せ!」

 

愛おしく思ってしまい、俺は翔子を抱えて自分の膝の上に乗せて抱きしめる。対する翔子は離せと怒鳴るが形だけの抵抗なのは容易に想像出来る。何せ翔子の体術は俺より上だから本気で暴れたら容易に離れられるし、

 

それ以前に俺は抱きしめてはいるが力は全く込めていない。それこそ非星脈世代でも解ける位緩い拘束にもかかわらず、翔子は俺の拘束から逃れない。

 

「そう言うな。久しぶりに会ったんだし」

 

言いながら俺は翔子の頭を撫で撫でする。母親譲りの白い髪の撫で心地は母親のそれと似た感触だ。

 

「頭を撫でるな!私もう13だぞ!」

 

「大丈夫だって。茨はウチに帰ってきたら毎回一緒に風呂に入ったり寝てるぞ?」

 

言いながら翔子の頭を撫で続ける。

 

「茨はファザコンだからな!てか撫で方上手過ぎだろ!?」

 

「基本毎日誰かの頭を撫でてるからな」

 

「だからって……あ〜!もう!好きに撫でろよ!今回だけだからな!」

 

漸く素直になったか。ならば遠慮なく可愛がろう。俺は翔子を抱きしめる強さを強めて、髪の毛をくすぐる。

 

「くっ……!この歳になって可愛がられるとか屈辱過ぎる……いっそ殺せ」

 

「リアルでくっころを聞くと思わなかったぞ……で?最近学校はどうだ?」

 

「ん?毎日決闘やってて楽しいぜ。マフィアを潰すのもやりがいあるし」

 

翔子は抵抗するのを止めてそう返す。ネットには毎日ありとあらゆる決闘や序列戦のデータが流れていて、翔子のデータはかなり出ている。

 

沢山決闘をやっているのは知っていたが楽しんでいるなら何よりだ。

 

「もう……翔子さんったら。決闘を沢山するのはダメですよ?」

 

「そうだよ。しかも再開発エリアや歓楽街のマフィアグループをボコボコにするのはやり過ぎじゃない?」

 

「え?何それ楽しそう。今度も私も連れてってよ」

 

比較的温厚な茨と歌奈は翔子に苦言を呈し、好戦的な竜胆は楽しそうに同伴の許可を求める。対称的だな……

 

「別に良いけどオモ・ネロには喧嘩売らない方が良いぞ。ロドルフォの奴、クソ強いし竜胆からしたら相性悪いし」

 

翔子はそんな事を言っているが、今とんでもない事を聞いたような……

 

「翔子?貴女、ロドルフォ・ゾッポに挑んだの?」

 

オーフェリアが何処から呆れたような表情で翔子に話しかける。見ればシルヴィと歌奈は引き攣った笑みを、ノエルと茨は驚いた表情を、竜胆は面白そうなものを見る表情を浮かべていた。

 

俺は自分の顔を見れないが多分呆れた表情を浮かべているだろう。オモ・ネロはレヴォルフの元序列2位のロドルフォが率いるアスタリスク最大のマフィアグループだ。

 

俺がアスタリスクに来る前から存在していたマフィアグループだが今は俺が学生時代だった頃に比べて大きく成長している。

 

当時の構成員は1000人近くだったが今は2000人以上であり、加えてロドルフォは世界最大の技術会社である技師開発局の最高幹部の材木座と友好関係を築いている。

 

そんな大マフィアの頭領に戦いを挑むなんて我が娘ながらぶっ飛んでいやがる……

 

「まあな。っても負けたけど。綾斗のオッさんみたいに奴の反応速度を上回って倒そうととしたけど無理だった」

 

ロドルフォの能力は一定範囲内の星辰力へ干渉。能力の範囲内なら他人の星辰力へ干渉する事も出来て、拳や脚に星辰力を込めて攻撃力を高める技は阻害され、相手の星辰力に干渉して暴発させる事も出来る。よって近接戦でロドルフォは無敵に近くて、ロドルフォと戦う際は遠距離で戦うのが基本だ。

 

そんで綾斗は王竜星武祭でロドルフォと戦った際は高速機動を駆使して能力を使う前に倒す戦術を使った。まあその戦術は終盤になって使えなくなり、最終的には『黒炉の魔剣』のチート能力で勝ったけど。

 

そして翔子も同じ戦術を使ったのだが負けたと言っている。

 

「まあこればっかりは相性が悪過ぎだから仕方ないだろ」

 

「そこで優しく頭を撫でんな!……まああん時は私が弱かったのが悪い。次にやる時はもっと速くなって奴の反応速度を上回ってやるぜ」

 

翔子は俺の膝の上で小さく握り拳を作る。そんな翔子を見ると愛おしく思える。

 

「……ほどほどにしなさいよ」

 

オーフェリアはジト目で翔子を見ながら注意をする。母親としては娘が危ないことに首を突っ込んで欲しくないのだろう。

 

「はいはい。ってか親父。そろそろ降ろせ。茨が羨ましそうに見ていて鬱陶しいから」

 

「なっ?!い、いきなり何を言っているんですか翔子さん!」

 

「違うのか?違うなら良いや。私がこれからずっと親父の膝の上に「ダメです!」やっぱり羨ましいんじゃん。さっさと乗れ」

 

言いながら翔子はニヤニヤした表情を浮かべながら俺の膝から降りて茨に座るように促す。

 

「翔子さん意地悪です……お父様。お父様の膝の上に乗っても良いですか?」

 

茨は不安そうな表情で見てくるが……

 

「もちろんだ。好きなだけ乗れ」

 

断る理由はないので喜んで了承する。それで茨が喜ぶなら安いものだ。

 

「では……」

 

言うなり茨は俺の膝の上に座るので、翔子の時同様に優しく抱きしめて頭を撫でるのだった。

 

「あっ……」

 

すると茨はピクンと跳ねて色っぽい声を出す。声音から察するに気持ちが良いようなので安心した。だからもっともっと気持ち良くさせてあげないとな。

 

「えいっ!」

 

「あっ……お母様……」

 

するとノエルが正面から俺と茨に抱きついてくる。それによって俺とノエルは茨を挟む形で抱き合う体勢となる。どうやらノエルも茨を甘やかしたいようだ。

 

(だったら2人で思い切り甘えさせてやるか……)

 

そう思いながら俺は茨が満足するまで頭を撫で撫でするのだった。

 

 

 

 

 

「相変わらず茨はファザコンだねー」

 

「そうだね。歌奈と竜胆も久しぶりに私の膝の上に乗らない?」

 

「ママ……じゃあ久しぶりに」

 

「あ、じゃあ私も歌奈の次にお願い」

 

「はいはい。じゃあ5分したら竜胆ね」

 

「じゃあ翔子も私の膝の上に乗って」

 

「お袋もかよ?!いいよ別に!親父で充分「遠慮しないで」って乗せようとする!……わかったよ!自分で乗るから乗せようとするな!」

 

そんな感じで家族全員温かな雰囲気を醸し出していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

2時間後……

 

「んじゃ寝るぞお前ら」

 

風呂に入って寝室に入った俺はそう言いながら電気を消す。今日はベッドを使わずに布団を敷いて8人全員同じ部屋で寝る。元々娘が各学園の寮に入るまではこうやって8人揃って寝ていたのでおかしい事はない。

 

ちなみに風呂も8人揃って入りたかったが、茨を除いた娘3人は反対したのが残念だった。まあ茨が例外であって年頃の女子が親と一緒に風呂に入るのは普通に考えて少ないからな。俺も小学校に上がった頃には一人で入っていたし。

 

「父さんと寝るのは久しぶりだなー」

 

「そうね。恥ずかしいけど、偶には悪くないわ」

 

俺の両隣で寝る竜胆と歌奈はそう言ってくる。寝る際の並び方は一列で、順番は寝室の扉から翔子、オーフェリア、シルヴィ、竜胆、俺、歌奈、茨、ノエルって感じだ。ちなみに順番についてはくじ引きで決めたが、この並び方になった時、茨が悔しそうにしているのが印象的だった。

 

「だな。お前らは明日も生徒会の仕事があんのか?」

 

「私は生徒会というよりアイドルの仕事かな」

 

「私はある。本来なら龍苑に任せたいけど龍苑は鳳凰星武祭に出てるし、私がやらないといけないんだよなー」

 

竜胆はため息を吐きながら愚痴るがそれが普通だからな?

 

てか俺の学生時代、当時界龍の生徒会長だった星露は虎峰に仕事を任せていて、今の界龍の生徒会長の竜胆は虎峰の息子に仕事を任せる……アレか?虎峰の血を引く人間は苦労人の業を背負っているのか?

 

「(まあ龍苑にやらせないなら大丈夫か)とりあえず頑張れ。茨も生徒会の仕事があるだろうし、翔子はどうすんだ?」

 

「私?私は舎弟の連中と寮で騒ぎながら鳳凰星武祭を見る予定」

 

「理想の過ごし方だな。つーかお前は生徒会長をやらないのか?なれば結構な権力が手に入るぞ?」

 

俺も生徒会長をやったが在籍中は結構な権力が手に入る。所属する学園の運営母体の統合企業財体の人間を使えたり、学内でありとあらゆる箇所で優遇されたりと中々の権力だ。

 

俺はディルクをクビにする為だけに生徒会長になったが、生徒会長になって以降は手に入れた権限をフルに使ったくらいだし。

 

そんな俺の質問に対して翔子は……

 

「魅力なのは否定しないけどそこまで興味ないな。そもそも私、書類作業嫌いだし」

 

そう返す。まあ否定はしない。生徒会長の権力は魅力的だったが仕事はガチで面倒だった。単純な書類作業を始め、ソルネージュとの会談や会食、落星工学技術会社との提携関係、他学園との腹の探り合いなど面倒な仕事が多々あったしな。

 

「ま、気持ちはわかる。俺も面倒だったからな」

 

「にもかかわらず生徒会長をやったのはあのデブを抑える為だろ?」

 

「良く知ってんな。お前には話した覚えはないが」

 

「こっちも色々とコネを持ってんだよ」

 

なるほどな……まあディルクが表に出ることはないだろう。ディルク本人はソルネージュの監視下にあって、マディアス・メサは未だに投獄中、ヴァルダは警備隊が危険だと破壊したらしいし。

 

よって俺の平穏を崩す馬鹿は葉山グループだけとなった。一度投獄されたにもかかわらず、未だに復讐心を持っていて尚且つノエルを狙っている。ハッキリ言って万死に値する存在だ。可能なら星武祭期間中に捕まえたいものだ。

 

「あんまり危険なコネは持つなよ?場合によっては面倒になるから」

 

「わぁってるって。てかそろそろ寝ようぜ」

 

「だな……んじゃお前らそろそろ寝るぞ、お休み」

 

「「「「「「「お休み(なさい)」」」」」」」

 

俺がお休みと言うと嫁3人と子供4人が返事をしてくれるので、幸せな気分のままゆっくりと瞼を閉じた。明日は久しぶりにチーム・赫夜の5人全員と会うし今から楽しみで仕方ない。

 

そんな事を考えながら俺は瞼を閉じてゆっくりと意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「ああ……ノエルちゃんノエルちゃん……本当は俺の事が好きなのに比企谷の洗脳の所為で俺に冷たく当たって可哀想に。でも俺は気にしてないよ。必ず比企谷を殺して洗脳を解いて俺の花嫁にしてあげるからね」

 

再開発エリアのホテルの一室にて葉山隼人は執念に塗れた瞳をギラギラと輝かせながらノエルの写真を見ていた。

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「ああ……いよいよ明日には美奈兎さん達や八幡さんに会える……早く明日になって欲しいですわ……」

 

アスタリスク中央区にある高級ホテルの一室にて、ソフィア・フェアクロフは自分にとってかけがえのない友人、そして自分が恋心を抱き、自分のありとあらゆるものを捧げた相手を想像して心から幸せそうな笑みを浮かべていた。


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