学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は妹と友人に鳳凰星武祭の為の訓練を施す(前編)

午後5時45分、俺とオーフェリアは中央区にある小町が指定したトレーニングジムの入り口にいる。

 

集合時間の15分前か……まあ悪くない時間だな。

 

「じゃあオーフェリア、入ろうぜ」

 

「……ええ」

 

オーフェリアはそう言って頷く。さっきまでの不機嫌さは既に無くなっている。

 

レヴォルフを出てから30分、その間オーフェリアは不機嫌だったがトレーニングジムに着く直前で……

 

 

 

 

『……ごめんなさい。私が勝手に嫌な気分になって八つ当たりしてしまったの。八幡は悪くないから謝らないで』

 

そう言って謝ってきた。理由は知らないがあの時のオーフェリアはいつもより悲しげな表情をしていたので俺は特に言及しなかった。オーフェリアのあんな顔は見たくないし。

 

 

トレーニングジムに入りフロントに小町が借りている部屋を聞くと、従業員は若干ビビりながらも案内してくれた。まあレヴォルフの序列1位と2位の2人が来たら普通ビビるよな。

 

案内された部屋に着いたのでインターホンを鳴らす。

 

「おーい小町。来たから開けてくれ」

 

そう連絡すると空間ウィンドウが開いて小町の顔が見えてくる。

 

『あ、お兄ちゃん。今……開ける……え?!オーフェリアさん?!』

 

小町が隣にいるオーフェリアを見て驚きの表情を見せてくる。

 

「ああ。今日は来てくれた。それと瘴気については対策をしてあるから害はない」

 

あの後念のため、もう1着影の服を作ったし。

 

『そうなんだ……っと、ごめんごめん。今開けるね!』

 

小町からそう言われて20秒後、機械音がして扉が開くので中に入る。

 

中に入ると中々大きいトレーニングルームが目に入る。大きさは半径30メートル以上の円形ステージ。隅にはギャラリーが見れるような観覧席と記録を見直す為のパソコンらしき物もある。

 

俺はいつもレヴォルフのトレーニングルームを使うから知らなかったが学外にも中々良いのあるじゃん。

 

感心していると小町と戸塚がやって来た。

 

「来てくれてありがとう〜。それと……初めまして〜。お兄ちゃんの妹をやっています比企谷小町です。よろしくお願いします!」

 

小町はそう言ってオーフェリアの手を取る。こいつ俺と違ってコミュ力高過ぎだろ?てかお兄ちゃんの妹をやっているってどんな自己紹介だよ?

 

当のオーフェリアはいきなり手を取られて若干驚きの表情(多分俺以外にはわからない)を浮かべていた。多分だが、手袋越しとはいえ瘴気が出る手を取るとは思わなかったのだろう。

 

「……オーフェリア・ランドルーフェン。……よろしく」

 

オーフェリアは小町の手を振り払わずに挨拶を返す。

 

「八幡の友達の戸塚彩加です。よろしく」

 

戸塚も笑顔で自己紹介をしてくる。正直言って小町と戸塚ならオーフェリアに対して優しく接してくれると思う。

 

そしてオーフェリアにはそういう人間が必要だ。オーフェリア自身も優しいんだから楽しい時間を過ごして欲しいし。

 

「……ええ」

 

オーフェリアは戸惑いながらも返事をする。多分俺以外には基本的に恐れられているからどう接すればいいのかわからないのだろう。

 

「いやー、まさかお兄ちゃんが自分から女の子を連れてくる日が来るとはね〜。アレ何でだろ?お兄ちゃんが遠くに行っちゃったみたいだな」

 

そう言って小町は涙ぐんでいるがお前は俺を何だと思っているんだ?

 

「うるせぇな。お前が以前連れて来いって言ったから連れて来たんだよ」

 

「えー。でもアスタリスクに来る前のお兄ちゃんだったら絶対連れて来ないと思うよ?」

 

ぐっ……そこを突かれたら否定は出来ない。

 

俺が苦い顔をして黙る中、小町はオーフェリアに嬉々として話しかける。

 

 

「それでオーフェリアさん。兄の事をどう「よし小町。今日のトレーニングは初めから本気でやろうか?」な、何でもないです!すみませんオーフェリアさん!気にしないでください!」

 

何か余計な事を言いそうになっていたので星辰力を出しながら軽く脅すと小町は大人しくなる。

 

「……どうしたの八幡?」

 

「大丈夫だオーフェリア。今の小町の質問については気にしなくていい。いや、寧ろ気にするな、気にしないでくださいお願いします」

 

「あ、あはは……」

 

それを見ていたオーフェリアはキョトンとした表情を浮かべ、戸塚は苦笑いをしている。

 

 

 

 

 

2人の違う顔を見ながら意識を切り替えて小町に話しかける。

 

「まあ初っ端から本気は出さないがそろそろ訓練を始めるが良いな?」

 

少し真面目な口調で言うと2人は真剣な表情になる。それを確認して俺はオーフェリアの横に立ち2人に話しかける。

 

「んじゃ先ずはお前らがどこまでやれるかを確かめる」

 

そう言って俺は意識を集中して影に星辰力を込める。ある程度溜まったのを確認して口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

「起きて我が傀儡となれーーー影兵」

 

俺がそう呟くと俺の影が黒い光を出す。

 

そして影からの五体の黒い人形が湧き出る。その姿は真っ黒ではあるが全て俺と同じ体格をしている。そしてレヴォルフの制服を着ている。まあ真っ黒だけど。

 

「出たねお兄ちゃんの影兵。一体あたりの実力はどれくらいなの?」

 

「今回は五体呼び出したから大体序列30位から50位……つまり鳳凰星武祭の予選を運が良けりゃ突破出来るくらいだな」

 

俺の能力の一つ、影兵。

 

簡単に言うと星辰力を消費して影の兵隊を作る能力だ。

 

影兵の実力は呼び出した数によって変化して、数が多ければ多い程弱くなり、数が少なければ強い兵隊となる。今回は五体呼び出したから五級影兵と呼んでいる。

 

五級影兵一体あたりの実力は序列30位から50位くらいだが、呼び出したのが一体だけ……一級影兵ならレヴォルフの冒頭の十二人の中堅クラスになれるくらい強い。

 

実際に前シーズンの王竜星武祭の予選で、面倒臭がりの俺は一級影兵を召喚して、それだけで本戦入りを果たした。

 

(……いや違った。クインヴェールの元序列8位のソフィア・フェアクロフだけは人形を倒したな)

 

アレはマジでビビった。冒頭の十二人中堅クラスの一級影兵を瞬殺したからな。兄のアーネスト・フェアクロフと同等の剣技を持つと評されているだけの事はあった。

 

まああいつ、生身の相手を傷つけられないって致命的な弱点があったから影兵が倒された後俺自身が瞬殺したけど。

 

閑話休題……

 

とりあえず目標は……鳳凰星武祭までの目標は二級影兵……序列で言うなら10位から20位……本戦出場確実クラスのペアを撃破する事だ。

 

それを苦戦する事なく倒せるようになればベスト8入りも可能だろう。

 

それが出来たら……本戦に出場しそうな連中の研究だな。

 

俺の見立てだと界龍の幻術兄妹やガラードワースの正騎士コンビあたりは出てくるだろう。

 

天霧とリースフェルトについては言っちゃ悪いが今の小町達じゃ勝てないから除外する。

 

そんな事を考えながら俺は持ち込んだジュラルミンケースを開けて待機状態の煌式武装を4つ取る。

 

そして五体いる五級影兵の内二体を呼んで煌式武装を2つずつ渡す。渡したのはナイフ型とハンドガン型の2種類だ。影兵は俺の分身体だから俺自身が使うタイプの武器が最適だ。

 

「んじゃやるぞ。ルールは鳳凰星武祭と同じように校章を破壊するか、相手を気絶させた方の勝ちだ。影兵の気絶については気絶するような攻撃をくらったら自然に消滅するからしっかり判定出来る。それでいいな?」

 

俺が最後の確認をすると小町と戸塚は頷きながら煌式武装の準備をし、待機位置に移動する。

 

俺とオーフェリアが観覧席に行くと同時に煌式武装を持った影兵は待機位置に移動して、残りの三体は俺とオーフェリアの後に付いてくる。

 

観覧席に着くと俺は記録する為のカメラを起動して撮影の準備をしながらオーフェリアに話しかける。

 

「オーフェリア、悪いんだけどよ……場合によってはお前もアドバイスしてくれないか?出来るだけあいつらを強くしたいんだよ」

 

まあオーフェリアは余り物事に興味を持たないから多分断られると思うが。それならそれでいい。今回は付き添いだし無理に手伝ってくれと言うつもりはないしな。

 

そう思っていると……

 

「……別に構わないわ」

 

意外にも肯定の意を示してきた。これには完全に予想外だった。

 

「……いいのか?」

 

「……ええ。八幡にはいつも優しくして貰ってるし構わないわ」

 

オーフェリアはそう言って観覧席に座ってステージを見つめている。

 

「ありがとな」

 

「……ん」

 

お互いに一言だけ交わして席に座る。ステージでは既に小町と戸塚と二体の五級影兵が待機位置に着いている。

 

それを確認した俺は息を吐いてマイクを手に取って声を出す。

 

『模擬戦、開始』

 

トレーニングルームに俺の声が響くと同時にステージにいる4つの存在が動き始めた。

 


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