学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は妹と友人に鳳凰星武祭の為の訓練を施す(中編)

始めに動いたのは小町だった。2つのハンドガン型煌式武装を一瞬の速さで出して発砲する。

 

煌式武装をホルスターから抜き放ち、起動して、発砲するまでの所作はメチャクチャ速い。2つ名が『神速銃士』というのも納得出来る腕前だ。

 

狙いは影兵の胸にある校章だ。しかしこの距離なら簡単に防げる。影兵はナイフ型煌式武装を振るって銃弾を弾く。

 

しかし小町もそれを理解していたようだ。銃弾が弾かれると同時に影兵との距離を詰める。

 

いくら小町が早撃ちが得意でも距離があったら防がれるだろう。だから牽制射撃をして影兵の隙を作るのが小町の本当の目的なんだろう。

 

 

当然影兵も近寄ってくる敵を無視するつもりはなくハンドガン型煌式武装を小町目掛けて発砲する。校章を無理に狙わずにダメージを与えるのを優先にしたのだろう。影兵の放った銃弾は小町の頭、胸、腹、足など様々な場所に向かって飛んでいった。

 

 

 

 

しかしその銃弾は1発たりとも小町に当たる事は無かった。

 

小町の前方に西洋風の巨大な盾が現れて銃弾を全て弾いたからだ。

 

小町と影兵から視線を外すとステージの一番端で戸塚がいて、その周辺には魔方陣が展開されていた。

 

(……なるほどな。以前小町から戸塚の能力は盾を生み出す能力と聞いていたがこんな感じなのか)

 

見たところ、結構頑丈な盾の様で銃弾が当たっても綻び1つ生じていない。その事から戸塚の魔女としての……じゃなかった、魔術師としての実力が優秀である事が理解できる。

 

放った銃弾が全て盾に防がれると同時に小町は横に跳んで二発発砲する。それによって1人の影兵が持っているナイフ型煌式武装とハンドガン型煌式武装が手から弾かれて地面に落ちる。

 

そんな隙を小町が逃す訳もなく再度発砲して手に煌式武装を持っていない方の影兵の校章を破壊する。まずは一体やられたか……

 

校章が破壊された影兵はドロドロと溶けて俺の足元に戻る。普通の人ならパートナーがやられたら動揺するが影兵には関係ない。

 

残った影兵はハンドガン型煌式武装を小町に向けて乱射しながら横に跳んで小町の右側に移動しながら近寄る。銃弾で動きを制限して近接戦に持ち込む、シンプルながら中々有効な手段だ。

 

しかし……

 

 

「別れて!」

 

戸塚がそう叫ぶと巨大な盾は2分割されて、片方は小町の正面に残り、もう片方は小町の右側に移動する。

 

(……へぇ。盾は分割も出来るのか。中々便利だな)

 

俺が感心していると小町の正面にある盾は銃弾を、右側にある盾は影兵の進行を防いだ。

 

「えいっ!」

 

戸塚が可愛い声を出すと影兵の進行を防いでいる盾が影兵をどついて吹っ飛ばす。それによって影兵はバランスを崩してよろめく。

 

「これで終わりっ!」

 

小町はそう言って影兵との距離を詰めながら発砲する。放った銃弾は寸分違わず校章に当たり砕け散った。

 

走りながら小さい校章の破壊を難なくこなせる銃使いはアスタリスクでもそう多くないだろう。こと銃の扱いにおいて小町の実力はガラードワースの序列5位パーシヴァル・ガードナーに匹敵するくらいの実力だし。

 

そう思っていると影兵がドロドロと溶けて俺の足元に戻るので模擬戦終了のブザーを鳴らす。

 

さて……次は今後の方針について話し合わないとな。

 

俺は息を吐きながら2人の所に向かって歩き出した。

 

「あ、お兄ちゃん!どうだったどうだった?!」

 

小町が俺に近寄りながら聞いてくる。

 

「そうだな……まあ本戦出場は今の実力でも問題ないだろう。……ただ、本戦で勝ち抜けるかとなると微妙だな」

 

俺の見立てじゃ本戦出場は可能だ。しかし本戦からは冒頭の十二人を始め各学園の上位の序列者が大量に出てくる。今の実力じゃ冒頭の十二人ペアには負けるだろう。

 

「んじゃ総評行くぞ。お前らのスタイルは小町が攻めに特化して戸塚が守りに特化した鳳凰星武祭じゃ割と珍しいスタイルだ」

 

鳳凰星武祭に参加するペアは基本的に2人とも攻守どちらにも対応するスタイルなので、小町達のペアは珍しい。

 

「もちろんそれを否定するつもりはないがお前ら……特に戸塚はある程度の攻めを覚えて貰う」

 

攻めの要の小町が負け=ペアの負けってのは少々リスクが高過ぎる。だから戸塚もある程度攻める手を覚えるべきだ。

 

「うーん。以前ハンバーガーショップで八幡からそれを聞いて剣や銃の練習をしてるんだけど……」

 

そう言って顔を曇らせる。どうやら結果が芳しくないようだ。まあ入学してから2ヶ月だ。こればっかりは仕方ないのかもしれん。

 

そこで俺は一案を思いつく。

 

「じゃあ戸塚、ちょっと待ってろ」

 

俺はそう言って持ち込んだジュラルミンケースから待機状態になっているある煌式武装を取り出して戸塚に投げる。

 

「そいつを起動してみろ」

 

「う、うん」

 

戸塚はそう言って煌式武装を起動すると大きさ60cmくらいの両手で持つタイプの銃が現れる。

 

戸塚はよいしょって可愛い声を出しながら銃を構える。ヤバいくそ可愛い。

 

そう思った俺はバレないよに手持ちのハンディカメラで撮影をする。撮れた写真を見るとそこには天使が銃を構えていた。うん、癒されるな。

 

俺が鼻の下を伸ばしていると制服の裾を引かれた。見るとオーフェリアがトレーニングジムに来る前と同じように微妙に不機嫌な表情で俺を見ていた。

 

「……何だよ?」

 

「……今は訓練中よ。2人は真面目にやっているのだから八幡も真面目にやったら?」

 

 

「あ、ああ」

 

まあ確かにそうだ。2人は鳳凰星武祭で勝ち抜く事を目標としているんだ。指導する者として真面目にやらないとな。

 

しかしまさかオーフェリアがそういう事を言ってくるなんてな。

 

そう思いながらハンディカメラを仕舞って戸塚を見る。……てかオーフェリア?何で制服の裾を引っ張ったままなんですか?

 

オーフェリアは未だに微妙に不機嫌な表情をしながら俺を見ている。真面目にやるからその目は止めてくれ。

 

オーフェリアにジト目で見られていると戸塚の準備が完了したようなので逃げるように戸塚に話しかける。

 

「じゃあ戸塚、早速こいつを撃ってみろ」

 

そう言って戸塚の正面に残っている五級影兵三体を配置する。

 

「わかった」

 

戸塚は頷いて煌式武装の引き金を引く。

 

すると銃口から50を超える光弾が広範囲に放たれて影兵を穿った。

 

影兵がドロドロに溶けて俺の足元に戻ると戸塚が話しかけてくる。

 

「八幡、これって……」

 

「散弾型煌式武装だ。これなら敵を狙うのが楽になる」

 

散弾はある程度狙いをつけるだけで相手に当てる事が出来るので初心者にはもってこいの武器だ。

 

「ただ星辰力の消費は大きいから必要以上には使うな。敵がお前に近寄ってきた時以外は使わないで小町を守る事に専念しろ」

 

いくら狙うのが楽になるとはいえ戸塚は初心者だし本来の仕事は小町を守る事だ。攻撃という苦手な分野に意識を割き過ぎるのは悪手だ。

 

「うん!わかったよ八幡!」

 

戸塚は笑顔でそう言ってくる。可愛い……守りたい、この笑顔。

 

一瞬鼻の下を伸ばしかけたが自重する。真面目にやらないとまたオーフェリアが機嫌を悪くしそうだし。

 

「とりあえずそれはやる。散弾の弾数や射程距離を変えたかったら装備局に行け。んで次は……」

 

 

 

そう言って小町をチラリと見ると小町は頷く。

 

「確か以前お兄ちゃんは小町が火力不足って言ってたよね?」

 

「ああ。今回の試合を見て確信した。今のお前じゃ星辰力の高い防御タイプの奴を崩すのは厳しいだろうな」

 

さっきの試合では小町の早撃ちや狙いの定め方、相手との立ち回り方は一流だった。しかしハンドガン型煌式武装から放たれた弾丸の威力は心許なかった。

 

俺が口を開けようとすると小町は真剣な表情で頷く。

 

「うん。だから小町はお兄ちゃんに言われた通り純星煌式武装を学園から借りたよ」

 

俺はそれを聞いて驚いた。純星煌式武装を借りられたのか?

 

「マジで?」

 

「うん。マジだよ」

 

小町はそう言ってポケットから待機状態の煌式武装を出して展開する。

 

 

すると小町の手元には真っ黒な銃が現れる。そしてその銃のグリップの部分には紫色のコアが輝いている。

 

普通の煌式武装のコアであるマナダイトは緑一色だ。しかし純星煌式武装のコアであるウルム=マナダイトは様々な色をしている。紫色という事はアレは間違いなくウルム=マナダイトで純星煌式武装である証明となっている。

 

「これが小町の借りた純星煌式武装『冥王の覇銃』だよ」

 

何だその物騒な名前は……明らかにヤバい雰囲気を醸し出してやがる。

 

純星煌式武装の雰囲気にドン引きしていると1つの不安が現れる。

 

「……なあ小町、その純星煌式武装の代償は何なんだ?」

 

純星煌式武装は強力だが所有者にリスクを背負わせる物もある。

 

例えばレヴォルフのイレーネが持っている『覇潰の血鎌』は誰にでも比較的高い適合率が出る反面、『所有者の血液』を代償として求めてきて燃費が悪いと言われている。

 

他にもガラードワースのアーネスト・フェアクロフの持つ『白濾の魔剣』は『物体をすり抜け任意の対象のみを切ることが可能』という糞ふざけた能力を持つ反面、『常に高潔でありながら私心を捨てて全ての行動において秩序と正義の代行者たらねばならない』という糞ふざけた代償を必要としている。

 

出来るなら危険ではない代償であって欲しいんだが……

 

「代償?これの代償は燃費の悪さだね」

 

「燃費の悪さ?どんな意味でだ?」

 

「それがとにかく星辰力の消費が凄すぎるんだよ。3発撃ったら星辰力切れで気を失っちゃうくらいなんだよ」

 

……え?マジで?燃費悪過ぎだろ?『覇潰の血鎌』より使い勝手が悪いだろ?

 

「そこまで代償が厳しいって事は相当強いんだろうな?」

 

「あ、うん。この前天霧さんとリースフェルトさんペアと模擬戦したらリースフェルトさんを防御ごと吹き飛ばして気絶させたから」

 

……随分過激な事をしてるなこいつ。てかリースフェルトも決して弱くないのに防御ごと吹き飛ばして気絶させるって……

 

小町がそう言ったのでリースフェルトと昔馴染みのオーフェリアを見てみるが表情に変化はない。少しくらいは表情を変えると思ったが……

 

まあ特にリアクションをしてないから今は置いていこう。

 

「わかった。じゃあちょっと俺に撃ってくれ」

 

決闘や公式序列戦なら映像データがネットに出るが、模擬戦ならデータがない時もある。だから実際に威力を知りたい。

 

「え?!それはお兄ちゃんが危ないよ!」

 

小町は慌てて手を振るが問題ない。こちらも相当のカードを切るだけだ。

 

「大丈夫だ。纏えーーー影狼修羅鎧」

 

俺がそう呟くと足元にある影が立ち上り俺の体に纏わりつき奇妙な感触が襲いかかる。それは徐々に広がり体全身に伝わると奇妙な感触はなくなり若干の重みを感じるようになった。これで装備を完了したようだ。

 

「あ!八幡それ……」

 

「王竜星武祭準決勝でシルヴィアさんと戦ってる時にお兄ちゃんが使ってた鎧じゃん!」

 

「まあな。この影狼修羅鎧は俺の持つ技の中で最強の防御力を誇る技で、使った相手はここにいるオーフェリアとシルヴィとイレーネだけだ。多分これなら耐えられるぞ?」

 

俺がそう言うと小町は一層驚いた顔で詰め寄ってくる。その表情は正に鬼気迫るものだ。何かあったのか?

 

疑問に思っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん?!シルヴィってシルヴィアさんの事を愛称で呼んでるけど仲良いの?!」

 

そっちかよ?!

 

そう言えば忘れてた。小町の奴シルヴィの大ファンだったんだ。そりゃ兄がシルヴィって愛称呼びしてから気になるよな!

 

でもこんな時にそんな事を聞くなよ?!

 

内心小町に突っ込んでいる時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………八幡。シルヴィア・リューネハイムと仲が良いの?」

 

横からは何かオーフェリアも同じ事を聞いてくるし。分かりにくいが不機嫌な表情してるし。

 

てか何で今日のオーフェリアは不機嫌になりまくってんだ。いつもは殆ど感情を出さないくせに。

 

小町とオーフェリアに見られて焦っていると地面に置いてある鞄から着信音が鳴り出した。俺の携帯端末に誰か連絡してきたようだ。

 

(よし。これを使って誤魔化そう)

 

「悪い。電話が来たからその話は後でな」

 

内心電話をしてきてくれた人に感謝しながら通話ボタンを押す。

 

すると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっほー、八幡君。今大丈夫?』

 

空間ウィンドウが開き、今話題に出ていたシルヴィア・リューネハイムが笑顔で笑いかけてきた。

 

 

………終わった。


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