沈黙が続く。はっきり言って音が全くしない。
周りの状態
戸塚 電話の相手が予想外の相手だったのか口に手を当てて驚いている
小町 電話の相手が自身が大ファンである世界の歌姫だと知って固まっている
オーフェリア 理由は知らないが更に不機嫌な表情になって俺を見ている。
そんな中、俺は緊張して固まっている。てかオーフェリアが怖い。ここまで感情を露わにするオーフェリアは初めて見た。てか何でこいつ機嫌が悪いの?
『おーい。八幡君?返事してよー』
疑問に思っていると事情を知らないシルヴィが不思議そうな表情で手を振ってくる。
シカトしたのは申し訳ない。しかしその上で言いたい。
(……このタイミングで電話すんなよ!)
もちろんシルヴィは一切悪くない。悪くはないが……タイミングが悪過ぎる。何なの?今日の朝占いで俺の星座最下位にもかかわらずラッキーアイテム持たなかった罰なの?
とりあえず無視するのは悪いのでシルヴィに話しかける。
「よ、ようシルヴィ。久しぶりだな」
するとシルヴィは………
『うん。この前八幡君とデートして以来だから……2ヶ月ぶりくらいかな?』
更に爆弾発言をしてくる。
待てコラァ!お前は火にガソリンを入れるのが趣味なのか?!そんなに俺を殺したいのか?!
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」
焦っていると後ろで小町が叫び出す。
『え?!八幡君?今の何?!』
シルヴィが驚いた表情で俺を見てくる。どうやらシルヴィからは小町が見えていないようだ。
そう思っていると足に痛みを感じたので見るとオーフェリアが俺の足を踏んでいた。痛い痛い痛い。
てか今日のオーフェリアは変だ。今も何か拗ねた表情で足を踏みながら制服の裾を掴んでるし。
こりゃ早くシルヴィとの電話を終わらせないと俺がヤバい。
「な、何でもない。それで何か用か?」
これ以上は俺の胃がヤバい。さっさと用件を聞いて電話を終わらせないといけない。
しかし……
『うん。欧州ツアーも半分終わって八幡君の声を聞きたくてかけちゃった』
そう言ってシルヴィはイタズラじみた表情で舌を出しながら新しい爆弾を投下してきた。
………終わったな。
こいつは狙ってやっているのか?ねぇそうなの?
「…………八幡?」
内心シルヴィに突っ込んでると横にいるオーフェリアがジト目で俺を見ながらどす黒いオーラを纏って近寄ってくる。そのオーラは星辰力とは別のような物だ。
しかし何故かメチャクチャ怖い。はっきり言って公式序列戦でオーフェリアと相対している時よりプレッシャーを感じる。
「いや待て。落ち着けオーフェリア。頼むからそのオーラをしまってくれ」
手を横に振りながら後退していると、シルヴィはオーフェリアが見えたようで若干驚きの表情を浮かべていた。
『あれ?八幡君、そこに『孤毒の魔女』がいるの?』
「ん?ああ、ちょっと一緒に妹の特訓に付き合っていてな……」
俺がそう返すとオーフェリアは空間ウィンドウを見て口を開ける。
「………シルヴィア・リューネハイム。一つ聞きたい事があるのだけどいいかしら?」
オーフェリアはいつもの悲しげな表情でありながら妙にプレッシャーを出しながらシルヴィに話しかけてくる。
「え?私に?」
シルヴィは意外そうな表情をしながらオーフェリアに返事をする。俺も正直驚いている。まさかオーフェリアが質問なんてするとは思わなかった。
「ええ。貴女でないとダメなの」
「うん……まあいいけど……何?」
シルヴィは若干緊張しながらオーフェリアに質問を返す。頼むから揉めないでくれよ……
俺や小町、戸塚がハラハラしている中、オーフェリアは口を開ける。
「……八幡とはどういう関係?」
………え?
俺は予想外の質問に固まる。何でオーフェリアは俺とシルヴィの関係について質問するんだ?完全に予想外だ。
「お?こ、これはもしかして………?!」
横では小町がいきなりテンションを上げだしたし……何なんだこの空気は?
シルヴィはキョトンとしている。まあこんな質問してくるなんて思わないよな。
『えーっと、私と八幡君の関係だよね?』
「……ええ。答えたくないなら構わないわ。八幡に聞くから」
俺かよ?!てかオーフェリアさん怖過ぎる!
『いや、別に答えるのはいいんだけど……』
そう言ってシルヴィは少し考える素振りを見せてくる。頼むから変な事は言わないでくれよ……
そう思っている中、シルヴィは口を開ける。
『そうだね……ライバル兼ボーイフレンドってところかな?』
更に爆弾発言をしやがった。
「えええぇぇぇぇ!お、お、お兄ちゃんとシルヴィアさんが?!」
小町は未だかつて見た事がないくらい驚きの声をあげている。違う!誤解だからな!!
小町に弁解をしようとすると制服を引っ張られたので見るとオーフェリアがいつもより悲しげな表情で俺を見てくる。
「……八幡。本当に八幡はシルヴィア・リューネハイムと恋人なの?」
……お前も誤解してんじゃねーよ!!普通に考えてボーイフレンド(恋人)じゃなくてボーイフレンド(友達)ってわかるだろ?!
…….てかその顔は止めてくれ。いつもより悲しそうな表情を見ていると俺も嫌な気分になるからな。
「ったく……オーフェリア。俺はシルヴィとは付き合ってねーよ。ボーイフレンドってのは友達って意味だよ」
「……本当?」
「本当だって。大体俺みたいなぼっちと世界の歌姫であるシルヴィは釣り合ってねーよ。……シルヴィも普通に友達って言ってくれよ」
ため息混じりにシルヴィを軽く睨むとシルヴィは苦笑いする。
『あー、ごめんね。あんまり男の子の友達いないから変な言い方しちゃったね。オーフェリアさんもごめんね?』
そう言ってオーフェリアにも謝ってくる。まあ人によって価値観が違うからボーイフレンドと呼んでも仕方ないかもしれないな。
「……別に構わないわ。でも一つだけいいかしら?」
え?良くないから。頼むから揉めないでくれよマジで。もう胃が痛くて痛くて堪らないからな?
『え?いいよ。何かな?』
俺が内心突っ込んでいるのを余所にシルヴィはオーフェリアと話している。
シルヴィから問われたオーフェリアは口を開いて………
「…………負けないから」
ただ一言そう言った。
え?負けないから?どういう事だ?オーフェリアの実力はシルヴィの数段上だ。
何か後ろでは小町が「宣戦布告キター!!」って喜んでいるが、オーフェリアがわざわざシルヴィに宣戦布告する必要性を感じない。
疑問に思いながらシルヴィを見ると俺同様キョトンとしていた。
しかし直ぐに理解したのか笑ってくる。
『あー、なるほどね。大丈夫だよ。私は勝負の土俵に上がってないから』
ん?どういう事だ?まだ実力が足りてないって事か?
「シルヴィ、何の話をしてんだ?」
疑問に思った俺はついシルヴィに聞いてみる。するとシルヴィは両手でバツマークを作ってくる。
『八幡君は知っちゃダメ。女の子には色々あるんだから』
……なるほど。どうやら女の子特有の話なのか。だったら無理に聞くのは野暮ってもんだな。
「わかった。じゃあこれ以上は聞かない」
下手に藪をつついて蛇を出す趣味はないしな。
『そうそう。それが正解……ん?』
シルヴィは笑っていたが妙な声を出してくる。空間ウィンドウでは下を向いているが何かあったのか?
そう思っているとシルヴィが顔を上げてくる。
『ごめん。マネージャーに呼ばれちゃった。余り話が出来なかったけどそろそろ切るね』
「仕事なら仕方ねーよ。頑張れよ」
『うんわかった。あ、最後にオーフェリアさん』
いきなりオーフェリアに話しかけてくる。既にいつもの表情に戻ってあるオーフェリアは空間ウィンドウ越しにシルヴィと向き合う。
「……何かしら?」
オーフェリアが質問をするとシルヴィが不敵な表情を浮かべて……
『今の私は勝負の土俵に上がってないけど上がった場合は負けないからね』
そんな事を言って空間ウィンドウが消えた。……何だったんだ?
「………負けない」
オーフェリアがブツブツ言っている事を疑問に思っていると小町が近寄ってきて肩を叩いてくる。
「お兄ちゃんやるねー!小町嬉しいよ!」
そう言ってバシバシ叩いてくるが意味がわからない。何でシルヴィがオーフェリアに宣戦布告しただけで俺が凄い扱いになってんだよ?
「よくわからん世界だ。それより本題に戻るぞ」
「……へ?本題って?」
小町はキョトンとしているがアホの子かこいつ?いや、アホの子だったな。直で会うのは久しぶりだからすっかり忘れてた。
「アホ。お前の純星煌式武装の威力テストだろうが」
俺がそう言うと小町は今思い出した様に手をポンと叩く。……本当に忘れてたのかよ?
「あ、そうだった。シルヴィアさんに驚いて忘れちゃってたよ」
「あ、あはは……」
戸塚は苦笑いしてるが忘れるなよ………
「はぁ……まあいい。俺はもう準備出来てるんだしお前も準備しろ」
そう言って俺はステージの開始地点に立つ。すると小町も直ぐに配置につく。しかしそれは若干不安そうな表情だ。
「……ねぇお兄ちゃん。本当に大丈夫なの?これ本当に凄い威力だよ?」
そう言って小町は起動状態になっている『冥王の覇銃』を見せてくる。
「大丈夫だって。こっちは公式序列戦で純星煌式武装を何度も相手してんだし。撃つなら早く撃て」
いくら凄い純星煌式武装でもオーフェリアの一撃に比べたら遥かにマシだと思うし。
それでも小町は躊躇っている。どんだけヤバい銃なんだ?
疑問に思っている時だった。
「……大丈夫よ。その銃で八幡を倒すのは無理だから」
いつもの表情に戻ったオーフェリアが小町にそう言ってくる。それを聞いて確信した。オーフェリアがそう言った以上『冥王の覇銃』で俺が大怪我する事はないだろう。
「小町。心配すんな。遅かれ早かれ星武祭では使うんだ。今更ビビってどうすんだよ?」
冒頭の十二人クラスのペアには使わないと厳しいだろうし。
俺がそう言うとようやく納得したような表情を見せてくる。どうやら覚悟は決まったようだな。
「わかった。じゃあ撃つよ」
そう言って小町は『冥王の覇銃』を構える。すると『冥王の覇銃』のウルム=マナダイトが紫色の光を出し始める。同じ紫色と言ってもイレーネの『覇潰の血鎌』とは違って比較的明るい気がするな。
それを確認した俺は鎧に包まれた左手を突き出して防御の姿勢を示す。
「よし、小町撃て」
俺がそう言うと小町は頷き……引き金を引いた。
すると銃口から紫色のスパークを帯びた黒い光が一直線に俺の左手目掛けて発射された。
(……弾速は普通のハンドガン型煌式武装より若干速いくらいだな。んで、威力は……)
『冥王の覇銃』の特徴について事細かに観察していると光が俺の左手の籠手の部分に飲み込まれる。
瞬間、籠手の部分からスパーク音と衝撃が響き渡る。
(……マジか?!こいつは予想以上だ)
籠手の部分に飲み込まれた光は抑えきれていないのか軋む音も追加されて俺の左手に痛みを与える。なるほど、確かに攻撃に特化した純星煌式武装という事もあるな。
そう思っていると影狼修羅鎧の籠手の部分が膨らんでいる。どうやら威力を削りきれずに溢れ出そうとしているのだろう。
そして……
轟音と共に左籠手が弾け飛んだ。その際に削りきれずに残った衝撃が左手に襲いかかり血が飛び散る。
「お兄ちゃん大丈夫?!」
それを見た小町は心配そうな表情で近寄ってくるが問題ない。
「大丈夫だ。ちょっと出血しただけだ。にしても中々の威力だな」
籠手だけとはいえ破壊するとは……単純な破壊力ならトップクラスだろう。
「とりあえず小町。『冥王の覇銃』は弾速はそこまで速くないから当てる状況を作れるようにしとけ。冒頭の十二人クラスなら避けるのはそこまで難しくないぞ」
しかも消費星辰力も半端ないからリスクがデカすぎる。
「まあ確かに天霧さんにはまるで当たる気がしないしね」
……ああ。まあ確かに天霧は速いからな。言っちゃ悪いがタイマンで天霧に銃弾を当てるのはガチで難しいと思う。
「まああいつは強いからな。とりあえず小町、鳳凰星武祭までにする事は①『個々の実力を高める事』②『2人の連携力を高める事』③『切り札の一撃を相手に当てる為の作戦を組み立てる事』の3つだ」
とりあえず俺がやるべき事は影兵を使って②と③を中心に仕込む事だろう。①については学校でもやれるし。
「うん。小町頑張るよ!」
どうやらやる気は出たようだ。なら俺も全力でサポートしないとな。
「じゃあもう一回影兵出すから再戦するぞ」
「待って!八幡の治療が先!」
すると戸塚が膨れっ面で注意してくる。
「いや別にこの程度「ダメ!」……わかったよ。ちょっと治療室行ってくる」
「あ、じゃあ僕も行く!」
戸塚が手を上げてくる。別に逃げるつもりはないんだが……まあいいか。
「わかった。じゃあ小町とオーフェリアは待っててくれ」
「………わかった」
「あいあいさー!」
2人の返事を確認したので俺と戸塚はトレーニングルームを出た。
それから10分……
俺は手に包帯を巻いた状態で戸塚と医務室を後にする。痛み止めも使ったので痛みも殆どない。
「ふぅ……良かった。大事にならなくて」
戸塚は自分の事のように安堵の表情を浮かべている。戸塚に心配されるってのは………中々良いな。
内心喜びながらトレーニングルームに入る。
すると……
「……それで八幡は私の手を直接握ってくれて私を肯定してくれたの」
「ふぉー!お兄ちゃんやるー!!」
オーフェリアと小町が駄弁っていた。てか話してる内容……
(オーフェリアの家で飯食った時の話じゃねぇか?!オーフェリアの奴、何話してんだよ?!)
アレは他人に絶対に知られたくない内容なのにあいつはペラペラ喋ってんじゃねぇよ!てかマジで死にたい!
内心荒れていると向こうも気付いたようだ。小町が良い笑顔で近づいてくる。
「いやーお兄ちゃんやるねー。いつの間にそんなテクニックを身につけたの?」
そう言って肩を叩いてくる。普段は可愛いと思う妹だが今はイラッとくる。
「テクニック言うな。アレは……その無意識にだな……」
「無意識っていう事は心の底からオーフェリアさんの事大切に思ってるんだ!小町嬉しい!」
そう言ってよくわからん踊りを見せてくる。それを見てブチっときた。
「……おい小町。治療も終わったし訓練の再開といこうか。先ずは個々の実力の向上からやるぞ。今から俺と戦うぞ」
俺が低い声でそう言うと小町がビビりだす。
「い、いやー、そ、それは小町にはまだ早い気が……」
「いやいや。王竜星武祭で俺に挑むんだろ?予行練習って事でやるぞ」
そう言って小町を引っ張りながらステージの中央に立つ。小町はビクビクしているが傷付けるつもりはない。目的は小町の戦闘能力の向上だから小町が攻めて俺が小町の攻撃を防ぐのが訓練内容だ。俺が一方的に攻めていては訓練にならないし。
「さぁ……始めようか」
「えっ……ちょ、待っ……」
小町がそう言うと同時に訓練開始のブザーが鳴った。
さあ、訓練の始まりだ。
1時間後、ステージには肉体的には傷1つ付いていない小町が疲労困憊の状態で寝転がっていた。