「やぁっ!」
小町の叫び声が聞こえると同時に光弾が俺に襲いかかる。それを確認すると同時に右手をスッと上げて地面から影の盾を出してそれを防ぐ。
そしてお返しとばかりに左手を振るって地面から影の刃を生やして放つ。一直線に飛んだ刃の狙いは小町の胸にある赤蓮の校章。
しかし影の刃は戸塚の出す巨大な盾に防がれる。防御力は中々だな。
そう思いながら俺は一歩下がり2人を纏めて視界に入れる。
「影の刃群」
そう言うと同時に影の刃が小さい100の刃に分裂されて2人の元に囲むように一斉に飛んでいく。これなら避けれないだろう。
そう思っていると戸塚は目を瞑り見た事のない魔方陣を作り出す。
そして……
「群がってーーー盾の軍勢!」
戸塚がそう言うと小町と戸塚の前に展開されていた巨大な盾がバラバラになり数百の小さな盾となり2人の周囲に展開する。その数は少なく見積もっても150はあるだろう。戸塚の奴、こんな隠し技を持ってるとはな……
そして小さな盾は影の刃群の射線上に展開されて衝突する。それを見ると同時に影に潜り戸塚に詰め寄る。
地上では影の刃と大量の盾がぶつかり合い相殺される。まあ影の刃群は当てる事を優先で威力は低いからな。
そう思いながら突き進む中、戸塚は目を開く。しかし直ぐに驚きの表情を浮かべる。
「あれ?!八幡はどこ?!」
「戸塚さん気をつけて!お兄ちゃんは影の中に潜ってます!」
小町は注意するがもう遅い。
俺は戸塚との距離を3メートルまで詰めると同時に影から飛び出してナイフ型煌式武装の黒夜叉を振るって戸塚の校章をぶった斬る。先ずは1人……
校章が破壊されるのを確認して小町を見る。ハンドガン型煌式武装で撃ってくるが影の盾が全て防ぐ。無駄だ。俺の防御を崩すには『冥王の覇銃』を使え。
そう思いながら俺は影の盾を前方に展開しながら小町に突っ込む。『冥王の覇銃』は威力は高いが避けるのはそこまで難しくない。少なくとも今みたいなタイマンなら避けられるだろう。
俺は勝ちを確信しながら小町に突っ込んでいる時だった。急に小町は驚いた表情を見せてくる。何だいきなり?
疑問に思っていると……
「え?!何でシルヴィアさんがここに?!」
横を指差しながら言ってきた。
は?いやいや、シルヴィは欧州ツアーに行っているはずだ。ここにいる筈がない。
……いや、もしかしたらいるかもしれん。シルヴィの奴、ステージの上で俺の事を好きだと言うと脅したり、寮に乗り込みに行くとかとんでもない事を言ったりするし。もしかしたら……
そう思いながら横を見ると………誰もいなかった。
「隙ありー!」
それと同時に小町がそう叫んだので前を見る。すると小町の手にはいつの間にか『冥王の覇銃』が握られていて放ってきた。
光が一直線に突き進んでくる。これは……避けれるか?
俺は身体を捻りながら横に跳ぶ。すると間髪入れずに光が通った。
光が通り過ぎると腕に痛みが走る。見てみると右腕にかすったらしく制服が破けて血が出ていた。
(……かすっただけでこれかよ。まあ戦闘には支障ないから良しとするか)
前を見ると小町が呆気に取られた表情をしていた。まさか躱されるとは思っていなかったのだろう。
しかし敵の前でボケーっとするのは感心しないな。
俺は更に小町との距離を詰めて影で『冥王の覇銃』を奪い取る。それによって漸く再起動したようだが遅いからな?
俺は自身の周囲に影を蠢かせながら小町を見る。小町は焦った表情をしながら周りを見る。しかし戸塚は既に校章を破壊されたので助けに来ない。俗に言う詰みってヤツだ。
暫くの間小町はキョロキョロしたかと思えば俺の方を向いて、
「てへっ」
舌を出してウィンクをしてきた。
それを確認した俺は影で小町の校章をぶった斬った。それによって校章は真っ二つになり地面に転がり落ちた。
それと同時にブザーが鳴り模擬戦終了を俺達に伝えた。さて、次は反省会だなぁ……
「……全くこの馬鹿が」
「痛い!痛いよお兄ちゃん!」
トレーニングルームにて模擬戦が終わったので反省会をしながら夕食を食べている。オーフェリアはディルクに呼び出されていない。
そして今買ってきたサンドイッチを食べながら小町の頭にチョップをしている。
「確かに相手の隙を突けと言ったがな……んなやり方があるか。星武祭でやったら笑い者だぞ?」
てか世界規模で放送される星武祭であんなフェイントによって負けたら末代までの恥になるぞ。
「こ、小町は悪くないよ!お兄ちゃんが強過ぎるのが悪いよ!」
そうきたか……全くこいつは。
「はぁ……まあいい。次に戸塚、お前の盾の分裂については中々良かったが防御以外にも使えるようになれ」
小町にチョップをするのを止めて戸塚と向き合う。
「防御以外?どういう事?」
「前回俺の影兵とやった際に盾をぶつけて影兵のバランスを崩しただろ?」
「うん」
「それと同じように大量の小さな盾を相手に飛ばすのを会得しとけ。散弾の煌式武装があれば相手はかなりウザがるだろうからな」
アレは多量の攻撃を防ぐより飛ばしてぶつけた方がいい。上手くいけば相手の隙を作れて『冥王の覇銃』を活かせるかもしれないし。
「わかった。やってみるよ」
「そうしろそうしろ。魔術師や魔女は多彩さがある方が有利だしな」
そう返しながら今日アスタリスクであった時事ニュースを見てみる。
(うわぁ……ガラードワースの『贖罪の錘角』の使い手が現れたのかよ。しかも5位のパーシヴァル・ガードナー。こりゃ獅鷲星武祭はまたチーム・ランスロットの優勝だな。んで次は……ん?)
ニュースを見てみると知った名前があった。あいつは何をやっているんだ?
そこには『刀藤綺凛、いきなりの決闘!対戦相手の天霧綾斗予想に反して良い勝負を繰り広げる!』と載っていた。
ちょうど今星導館に通っている上に天霧と交流のある2人もいるし聞いてみるか。
「おい小町に戸塚、これは何なんだ?」
「ん?どれどれ……ああ、これね。悪いけど小町は後になって知ったからよくわからないな。戸塚さんは?」
「あ、うん。えっと……お昼休みに僕と天霧君と矢吹君で食堂に行こうとした時に何か……刀藤さんが刀藤さんの伯父さんに叩かれて、それを天霧君が止めようとしたら決闘になったんだ」
色々言いたい事はあるが天霧が底知れないお人好しだという事はよくわかった。そしてリースフェルトの件といいトラブルに巻き込まれやすい体質であるという事も。
そう考えながらネットに落ちてある決闘のデータを見てみる。
そこにはハイレベルな戦闘があった。
特に天霧の『黒炉の魔剣』に触れないように攻撃の軌道を変えて攻める刀藤の剣、はっきり言って異常過ぎる。これで13歳とは恐れ入る。才能だけなら六学園の序列1位でもトップだと思う。
(こりゃ2年後や5年後の王竜星武祭は気を引き締めないと危ないな)
そう思いながら記録を見ていると天霧が攻勢に出た。このままじゃジリ貧と感じたのか多少のダメージを無視して攻め始める。しかし……見切りの間合いが近くないか?こんな攻めを刀藤クラスの敵にやったらカウンターで校章をやられるぞ。
すると予想に違わず、刀藤の放った斬り上げをくらって天霧の校章が破壊される。しかも天霧の奴、決着のアナウンスが聞こえるまで気付いていない風だったし。
(……そういやあいつ最近転入したばかりだったな。て事は校章の存在を忘れていたのかもな)
でなければあんな無理な攻めはしないだろうし。やれやれ……
息を吐きながら空間ウィンドウを閉じて立ち上がる。
「さて、そろそろ休憩は終わりだ。もう一本行くぞ。……言っとくが小町、次にあんなふざけたフェイントをしたら基礎トレ3倍だからな」
そう言ってステージの中央に向かって歩き出す。
後ろでは「お兄ちゃんの鬼!」とか「小町ちゃん、落ち着いて」とか言っているような気がするが気のせいだろう。
それから3日後……
『それでね。天霧さん刀藤さんも落としたっぽいんだよ。仲良さそうに歩いてて……これで4人目だよ』
「マジでギャルゲーの主人公なのかあいつは?」
深夜小町と電話していたら天霧の話になった。以前から天霧がリースフェルトと幼馴染の沙々宮って奴とクローディア・エンフィールドの3人と仲が良いのは知っていた。当初はリア充爆発しろと思ったが刀藤まで追加されると呆れの感情しか浮かばない。
「そうかもねー。ちなみに本命はリースフェルトさんだよ。まあ小町は生徒会長に賭けてるけど」
「小町ちゃん?賭けは良くないよ?」
いつの間にそんな悪い子になっちゃたの?お兄ちゃん悲しい。
「いやいや。公式序列戦で賭けしたり歓楽街で遊んでるお兄ちゃんに言われたくないからね」
「待て。何で知ってる?」
「昨日の訓練の時にオーフェリアさんから聞いた。別に止めろとは言わないけど身を滅ぼさないようにね?」
「大丈夫だ。毎月決められた額しか遊んでないから」
せいぜい月50万くらいしかつぎ込んでないし。
「ならいいけど。ふぁ〜。そろそろ眠いから切るね」
「おう。おやすみ」
「んっ、おやすみ」
そう言って電話が切れたので端末をベッドの脇に置いて俺も睡魔に逆らわずに眠りについた。
翌日……
ベッドから落ちた衝撃で目を覚ます。
痛みを堪えながら時計を見ると朝の5時前だった。微妙な時間だな……
息を吐いて立ち上がる。二度寝するには少し遅い時間なので散歩でもするか。
俺はクローゼットにあるレヴォルフの校章の付いたジャージを着て部屋を後にした。
外に出ると白くぼやけた世界が目に入る。朝のアスタリスクは湖の上にあるから湖の水と大気の温度差から霧が発生しやすい。
しかし今日の霧はいつもより深い。まるでイギリスの霧の都みたいだ。
霧の深さに驚きながら歩き出す。早起きすると寮の周辺を散歩するのはよくあるが今日は早く起き過ぎた。
よって今日は久しぶりにアスタリスクの外周をグルリと回る予定だ。湖があるせいか比較的涼しいし散歩するには絶好の場所だろう。
そう思って霧の中を10分程歩いていると………
「……八幡?」
いきなり横から話しかけられたので振り向くとオーフェリアがいた。白い髪と霧によって幻想的な雰囲気を醸し出していて見惚れてしまった。
……しかし気のせいか?いつもより悲しそうだ。
「お、おうオーフェリア。お前も散歩か?」
「早く起きたから。八幡は何処に行くの?」
「俺?俺はアスタリスクを外周する環状道路だけど」
「……私も一緒に行っていいかしら?」
オーフェリアが同行を求めてくるとは珍しい事だな。まあオーフェリアには気を遣わなくて済むしいいか。
「わかった。じゃあ行こうぜ」
「んっ……」
オーフェリアは頷くとジャージの裾を掴んでくる。最近よくやってくるようになったな。
俺は保護欲を駆り立てるオーフェリアの姿に苦笑しながら歩き出した。
アスタリスクを外周する環状道路は時間が時間だけあって人が殆どいない。偶に早朝訓練をしている学生とすれ違うくらいで、まだ街全体が眠ったように静かである。
俺とオーフェリアは霧に包まれた湖の岸沿いにある歩道をゆっくりと歩いている。
散歩して10分……
……やっぱりオーフェリアの様子はおかしい。散歩を始めてからずっと俺のジャージの裾を掴んでいる。
オーフェリアが俺の服を掴む事は高校に上がってからよく経験するが歩いている時にはして来なかった。だからいつもと様子が違うのが簡単に理解できる。
「なあオーフェリア」
「……何?」
「いや、何かあったのか?いつもと違う雰囲気だし」
そう尋ねるとオーフェリアはジャージから手を離して自身の胸に手を当てる。それは儚くて今にも壊れそうだ。
オーフェリアは暫くその体勢を取ってやがて口を開ける。
「……八幡、一つ聞いていいかしら?」
「何だ?」
俺がそう尋ねるとオーフェリアは息を一つ吐いて………
「……八幡は私の事、好き?」
そう言ってきた。
…………………え?