「……八幡は私の事、好き?」
オーフェリアはそう言ってくる。
え?ちょっと何を言ってるの?好きって聞かれても困るんですけど?
てかオーフェリアがこんな質問をしてくるなんて完全に予想外なんですけど。マジで何があったの?
(……いかん。とりあえず質問の意図を考えよう)
オーフェリアの事が好きかって?
………うん。質問の意図なんて丸分かりだな。とりあえずオーフェリアに事情を聞いてみるか。
「……えーっとだな、オーフェリアいきなりどうしたんだ?」
そう尋ねるとオーフェリアが口を開ける。
「……今日寝ている時に嫌な夢を見たの」
「夢?どんな夢だ?」
オーフェリアの夢の中で俺が何かやらかしたのか?だとしたら申し訳ないな。
「……八幡に嫌いって言われた夢。目が覚めた時に凄く胸が痛かったの。その後に外を歩いていたら八幡に会って……」
一緒に散歩する事になって俺から様子を問われて今に至る、って訳か。
なるほど、話はわかった。その上で言わせて貰おう。
「オーフェリア。誤解がないように言っておくが俺はお前の事を嫌ってない」
「……本当?」
「ああ。嫌ってるなら一緒に飯も食わないし、妹に会わせたりしないし、今だって一緒に散歩なんてしねーよ」
「……そう。なら良いわ」
そう言ってオーフェリアは軽く頷く。その表情はさっきに比べて大分マシになっている。(それでも十分に悲しげな表情だが)
安堵の息を吐いている時だった。
「……八幡が私の事を嫌っていないのはわかったわ。その上で聞きたいのだけど……八幡は私の事、どう思っているの?」
さっきより答えにくい質問をしてきた。
勘弁してくれ。さっきの質問は好きか嫌いの2択、しかも嫌いじゃないって答えも使えたから良かったが、今回の質問は自分の意見が答えの質問だ。マジで答えにくい。
「………八幡」
オーフェリアは俺に近寄ってくる。近い近い近いからね?顔には早く答えろって書いてあるしマジでどうしよう?
「えーっとだな……その、何だ……どこか放っておけない感じだな」
俺が今出せる最善の答えを出す。……恋愛感情かはわからない。しかし何故か一緒にいたいと思うし、どうにも放っておけない。
俺がそう返すとオーフェリアはよくわからない表情をしてくる。
「……わかったわ。じゃあ最後に一つ良い?」
まだあんのかよ?!もう勘弁してくれ!これ以上は胃がもたないからな。
「最後だぞ?」
「ええ。………八幡は好きな人がいる?」
どこか不安そうな表情で聞いてくる。マジで今日のオーフェリアは何なんだ?まさかと思うが俺の好きな人を聞いてdisるとか?……いや、オーフェリアはそんな事しないか。
「……いない、けど」
少なくとも今はいない。まあ気になる奴なら幾らかいるけど好きかどうかは知らないので言わなくていいだろう。
「……そう。だったらまだ……」
オーフェリアは後ろを向きながらブツブツ言っている。とりあえずオーフェリアの地雷は踏んでないようだな。それなら良いけど。
(……しかしオーフェリアが恋バナに興味を持つとはな……。それは嬉しいがそういう事は女子と話して欲しい)
俺は男子、しかもあまり女子と関わらない男子だからそういう話は無理だ。
そう思っているとオーフェリアは俺の方を向いてくる。
「……何度も質問をしてごめんなさい。もう大丈夫よ」
……確かに元のオーフェリアに戻ってるな。オーフェリアの心の中で何があったか知らないがもう大丈夫なのだろう。
「……そうか。じゃあ散歩の続きをするか」
「ええ」
オーフェリアは頷くと俺の横に立ち歩き出した。さっきと違ってジャージを掴んではいないがさっきより距離が近い気がする。
てか更に近寄って来てないか?
つい気になってオーフェリアに話しかけようとした時だった。
少し離れた場所から鈍い爆発音が聞こえてきた。
音源の方向を向いてみると霧とは別に煙が上がっていた。……何だ?テロか?
「オーフェリア、怪我人がいるかもしれんからちょっと行ってくる」
万が一テロで怪我人が多かったら俺の力は役に立つし行っておいたほうがいいだろう。
「……私も行くわ」
オーフェリアがそう言ってくる。俺はそれを見て一つ頷いて音源の方向に向けて足を運んだ。
現場に着くと巨大なクレーターが空いていた。クレーターの内部を見てみるといくつもの階層の下に水があった。アレはおそらくアスタリスクのバランスを取るための重りとして利用しているバラストエリアの水だろう。
そんな所まで貫く様な穴を開けるなんて明らかに人為的な物だろう。何を企んでやがるんだ?
(……とりあえずバラストエリアに人が落ちてないか確認しに行くか)
そう判断してバラストエリアに行く為に影の竜を召喚しようとした時だった。
周囲からガサゴソ音がして何かが近寄ってくる。
辺りを見渡して見ると靄の中から見た事のない生物が出てきた。その姿は恐竜のように爬虫類に近い顔を持ち口からは牙が見えていた。
その数は4体で明らかに俺とオーフェリアを睨んでいる。
「……アレは、確かフリガネラ式粘性攻体」
オーフェリアはどうやら知っているようだ。
「オーフェリア、アレなんだか分かるのか?」
「ええ。確かアルルカントの『超人派』が作った擬似生命体よ。昔見た事あるわ」
『超人派』の物か。まあかつて『超人派』に関わっていたオーフェリアがそう言うなら間違っていないのだろう。
「って事は狙いはお前か?」
だとしたら馬鹿としか思えない。こんな物じゃオーフェリアに傷一つ付けられないだろう。
「……わからないわ。私がレヴォルフに移ってからアルルカントに絡まれたのは今日が初めてだから」
……って事はオーフェリアが狙いとは考えにくいな。もしかして俺か?でも俺アルルカントと接点は……
(……あったな。この前レヴォルフに来た3人と接点あったな。しかしそれでも俺が狙いとは思えない)
3人と会った日の深夜にエルネスタとカミラと材木座について調べてみたが、エルネスタは『彫刻派』でカミラと材木座は『獅子派』でいずれも『超人派』ではなかった。
『獅子派』は昔『超人派』と組んでたらしいが数年前に手を切ったから関係があるとは思えない。
まあ奴らの狙いが俺であろうとオーフェリアであろうと関係ない。狙いに来た以上ぶちのめすだけだ。
そう思っているとオーフェリアが手を上げようとしているので慌てて手を掴んで止める。
「待てオーフェリア。お前が暴れたら周りを巻き込むから俺がやる」
オーフェリアの力は瘴気を操る力だ。体内を影で強化している俺はともかく関係のない人が瘴気をくらったらまず無事じゃ済まないし。
そう言ってオーフェリアを見るとオーフェリアは俺の事をガン見しているが顔に何か付いてるのか?
疑問に思っていると……
「………八幡。わかったから手を離して。………恥ずかしいわ」
オーフェリアがガン見しないとわからないくらい少しだけ頬を朱に染めてそう言ってくる。
そう言われて俺はオーフェリアの手を強く握っている事を理解した。
「わ、悪い!」
謝りながら手を離す。俺の馬鹿野郎。手を掴まなくても声をかければ良かったじゃねぇか。
手袋越しなのに凄くドキドキする。オーフェリアの奴に恥じらいがあるとは思わなかったし。てか凄く可愛い。これがギャップ萌えってヤツか?
内心心臓がバクバク鳴っているのを実感していると、痺れを切らしたのかトカゲもどきが雄叫びを上げて飛びかかってくる。
「……ったく、影の刃」
そう言って星辰力を影に込めると影の刃が4本現れてトカゲもどきの首を纏めて斬り飛ばした。弱すぎだろ?こんなんで俺やオーフェリアを狙ったのか?こんなん1億匹いても負ける気がしないな。
そう思った時だった。
斬り飛ばした首がその場で水飴のように溶け出した。そして半透明のスライム状態になったかと思えば首の付け根とくっ付いて、ものの10秒くらいで元の姿に戻った。
「んだこりゃ?オーフェリア、こいつら不死身か?」
「違うわ。確か……体の中に核があってそれを破壊しない限り何度も蘇るのだったと思うわ」
「サンキュー。だったら……」
俺は地面から影の塊を4つ作り上げて、それらを動かしてトカゲもどきの口の中に入れる。
それに対してトカゲもどきは口を大きく開けて焔を出そうとしている。まさか人間以外に万応素とリンクできる生物がいるとはな……
それについては驚いたが遅過ぎる。隙だらけだ。
「嬲れーーー暴れ影針鼠」
俺がそう呟くとトカゲもどきの腹辺りから大量の影の針が突き出した。
「オオオオオオォォォ!」
トカゲもどきは絶叫を上げ地面にスライムを撒き散らしながら暴れ出す。しかしトカゲもどきの体内にいる暴れ影針鼠はそれを無視して暴れ続ける。あたかも体内全てを蹂躙するかの如く。
暫く暴れているとトカゲもどきの体内から球状の物が出てきてバラバラになった。
同時に地面に蠢いていたスライムはピタリと動きを止めて再生する気配を見せなくなった。どうやらあの球状の物が核だったようだな。
全滅したのを確認するとオーフェリアが話しかけてくる。
「……初めて見る技ね」
「まあな。体内に潜り込んで相手の内臓を破壊する技だ。んなもん試合で使ったら間違いなく失格になるからな」
「そうね。……疲れてないと思うけどお疲れ様」
「サンキュー。さて次は……」
俺は息を吐いてクレーター内部の1番奥にあるバラストエリアを見る。
「こんな場所を爆発させるって事は俺達以外の誰かを狙った罠かもしれん。一応確認しに行くがお前も来るか?」
「……八幡が行くなら行くわ」
その言い方止めろ。何か恥ずかしいから。
俺はオーフェリアから逃げるように顔を背けながら影に星辰力を込める。
「目覚めろーー影の竜」
そう呟くと自身の影が辺り一面に広がり魔方陣を作り上げる。そして黒い光が迸り魔方陣を破るゆうに20メートルくらいの大きさの黒い竜が現れる。
竜は現れると頭を下げてくるので俺は頭の上に乗ってオーフェリアに手を差し出す。
「ほれ、摑まれよ」
「んっ……」
オーフェリアが俺の手を掴んだのを確認して引き上げる。頭に乗ると同時に竜の頭から影が伸びて、落ちないように俺とオーフェリアの足に絡みつく。
さて行くか……
俺が指示を出すと影の竜は雄叫びを上げて巨大なクレーターの中に飛び込んだ。
数十メートル潜るとバラストエリアに到着した。辺りを見回すと、下には広大な水面が、周囲には巨大な柱が無数にあった。これがアスタリスクを支えている場所か……
っと、とりあえず落ちた人がいないか確認しないとな。
俺は竜にゆっくり飛びまわれと指示を出す。指示を受けた竜は自転車と同じ位の速さでゆっくりと動き始める。
てかオーフェリアは背中に抱きつくの止めてくれないか?足に影が絡みついてるから落ちる心配ないし。さっきから背中に柔らかな感触がしてヤバいんですけど?
舌を噛みながら煩悩を退散させつつ水面を探してみるも人どころか、物一つ見つからない。もしかして誰も落ちてないのか?……まあそれなら安心だけど。
そう思っていると……
「……八幡。あれ見て」
背中に抱きついているオーフェリアが話しかけてくる。オーフェリアが指差した方向を見てみると少し離れた所に一部がくりぬかれている柱があり、人影が2つ見える。
……どうやら落ちた奴らは柱の一部をくりぬいて足場を作ったようだ。重要施設の構造物を破壊するとは中々やるな。
的はずれな事に感心しながらその場所に行くよう竜に指示を出すと一直線に突き進む。さてさて、さっさと助けてやらないとな……
そう思って目的地に着くと………
「………比企谷?」
知った顔がいた。何でこいつがここに?
「お前、天霧か?んでそっちの女は刀藤綺凛か?」
足場にいたのは顔見知りである天霧綾斗と星導館の序列1位『疾風迅雷』刀藤綺凛がいた。
両者ともに下着姿の状態で。
………え?何やってんのこいつら?まさかと思うが事後なの?
あまりの予想外の光景に俺は言葉を失ってしまった。