学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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早起きすると色々ある(後編)

俺は今予想外の光景を目にしている。

 

オーフェリアと散歩していたらバラストエリアに繋がる巨大なクレーターを発見。人が落ちていないか探していたら足場がある所に、星導館学園に通う天霧綾斗と刀藤綺凛がお互いに下着姿で向かい合っていたのだ。

 

向こうは俺達を見て驚きと恐れの混じった表情で見てくる。まあ悪名高いレヴォルフの2トップがいきなり現れたらビビるよな?

 

てかマジで何をやってんだ?バラストエリアで中学に上がったばかりの刀藤と、下着姿で今にもキスしそうな距離で向かい合っているし。

 

そう考えている時だった。

 

俺はふと天霧とリースフェルトが決闘した映像を思い出した。

 

あん時は天霧がリースフェルトを押し倒して胸を揉んでいたな。しかも転校初日で初対面なのに。

 

しかも天霧って小町曰く、お姫様、幼馴染、生徒会長、そして目の前にいる刀藤と仲が良いんだよな?

 

そう考えていると天霧達がここにいる理由って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(刀藤と情事に耽る為じゃね?)

 

もしそれならガチでヤバいぞ?刀藤は13歳、明らかに犯罪じゃねぇか。

 

 

俺はオーフェリアの方を向いて話しかける。

 

 

「おいオーフェリア。今直ぐ警備隊にバラストエリアにど変態がいると通報しろ」

 

ならさっさと通報するべきだ。

 

「わかったわ」

 

オーフェリアはそう言ってポケットから携帯端末を取り出そうとすると天霧は大慌てで口を開ける。

 

「ちょっと待ってちょっと待って!!誤解!誤解だからね!」

 

「黙れど変態。客観的に見て明らかにヤバい絵面だからな?」

 

まさかと思うがバラストエリアに開けたクレーターって刀藤と情事に耽りたい天霧が人目を避ける為に開けたんじゃねぇよな?

 

もしそうならガチで捕まるべきだ。それも無期懲役で。

 

オーフェリアが端末を取り出して通報しようとすると……

 

 

「待ってください!天霧先輩は悪くありません!天霧先輩は私を助けてくれたのです!」

 

刀藤が焦りながら弁解する。その様子は明らかに必死だった。てか気付いてないみたいだけど下着姿で近寄らないで!てかエロいな。こいつ本当に13歳か?

 

内心突っ込んでいると背中に痛みを感じる。痛ぇ!

 

後ろを見るとオーフェリアがジト目で俺の背中を抓っていた。痛いから止めろ!

 

「………八幡のバカ」

 

言いたい事を理解した。女の下着を見るなって事だろう。わかったから抓らないで。痛いから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほどな。つまりお前らもあのトカゲもどきに襲われた、と」

 

オーフェリアに背中を抓られてから数分、天霧と刀藤から事情を聞いている。

 

ちなみに天霧と刀藤は俺の影で作った黒い服を着ている。話をする前にオーフェリアに物凄い顔で、

 

 

 

 

 

「……今直ぐ八幡の能力で彼女に服を作って」

 

とドスの利いた声で言われ、ビビりながら刀藤の服を作りその際に天霧の服も作った。

 

「うん。ところで何で比企谷は『孤毒の魔女』と一緒にいたの?」

 

若干驚きながら聞いてくる。隣にいる刀藤なんてかなり怯えてるし。まあ俺はよくオーフェリアと戦ってるから慣れてるが、オーフェリアの戦い方はかなり禍々しいからな。

 

「あん?俺とオーフェリアは散歩してたんだよ。ところでお前は襲われる心当たりはあるのか?」

 

さっき俺達が襲われたのは『超人派』関係でオーフェリアを狙ったって理由が思いつくが天霧達が襲われる理由はないだろ?

 

「うんまあ、それなりに」

 

天霧は腑に落ちない顔をしながらもそう返す。それを見た俺は1つの考えが浮かぶ。

 

(……もしかしてあのエルネスタって女が関係してんのか?)

 

あの女、俺だけでなく天霧にも興味を持ってるって言ってたし、アルルカント繋がりで関係あるかもしれん。

 

まあエルネスタは有能みたいだからボロは出さなそうだし、仮に犯人でも証拠は掴めないだろう。

 

 

そう判断した俺はこの話は終わりにする事にした。

 

「わかった。じゃあこの話は終わりにするぞ。とりあえず星導館まで送るから乗れよ」

 

影の竜を指差す。

 

「あ、うん。ありがとう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

2人はおずおずしながらも竜に乗る。後は……

 

俺は竜の一部を抜き取って5メートルくらいの影の鷲を作り出す。

 

「オーフェリアは先に帰ってろ」

 

そう言ってオーフェリアに鳥に乗るように指示を出す。

 

「……何で私は先に帰るの?」

 

「ん?天霧の奴、鳳凰星武祭でリースフェルトと組むんだよ」

 

俺がそう返すとオーフェリアは天霧を見る。しかしそれも一瞬の事で直ぐに俺と向き合う。

 

「……彼がユリスと?」

 

「ああ。だからあいつらを送って星導館に着いた時、天霧を探しているリースフェルトとお前が鉢合わせしたら面倒になるからな」

 

そんな事になってみろ。リースフェルトは間違いなくオーフェリアに決闘を挑んでオーフェリアはそれを受けて星導館は瘴気塗れになるだろう。それで小町や戸塚が倒れたら笑えないからな。

 

「……そう。わかったわ」

 

オーフェリアは息を吐いて鷲に乗る。

 

「悪いな」

 

「……別に構わないわ。じゃあまた学校で」

 

「おう。また後で」

 

そう返して鷲に指示を出すと影の鷲は甲高い鳴き声を上げながら、オーフェリアを乗せてクレーターに向かって一直線に飛んでいき、そのまま地上へ出て行った。

 

影の鷲が見えなくなったのを確認して俺は竜に乗って2人に話しかける。

 

「んでお前らは星導館の校門までで良いか?」

 

「あ、うん。刀藤さんは?」

 

「わ、私もそれでいいです」

 

「よし。んじゃ行くか」

 

竜に指示を出すと雄叫びをあげながら飛び始めた。さて……安全運転をすりゃ星導館まで5分くらいか。

 

(……というかこのバカでかい穴は誰が修復するんだ?)

 

一瞬その事を考えたが直ぐに止めた。うん、アスタリスクの統合企業財体から人が派遣されるだろう。それに俺が壊したわけじゃないし咎められないだろう。

 

そんな事をのんびり考えながら地上に上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

地上に出た俺達は星導館に向けて一直線に進む。未だに霧は深く前は見えにくいがアスタリスクは名前の通りでわかりやすい地形をしているので迷う事はないだろう。

 

朝風を体に浴びていると後ろから肩を叩かれる。

 

「比企谷、1つ聞きたい事があるんだけどいいかな?」

 

そう言われて聞きたい内容は直ぐに理解できた。この場面で質問するって事はアレだろう。

 

「聞きたい事はわかる。どうせオーフェリアとリースフェルトの事だろ?」

 

「……うん。前にユリスが『孤毒の魔女』の名前を聞いた時に複雑な表情をしてたから」

 

まあリースフェルトはオーフェリアに対して怒りや悲しみなど色々な感情を持ってるからな。複雑な表情もするだろう。

 

「まあ気になるのも仕方ないか。でも悪いが話せない。かなり込み入った話だからな」

 

「そうか……わかった」

 

「ならいい。言っとくがリースフェルトに聞くのも諦めた方がいいぞ。あいつ多分『これは私とオーフェリアの問題だ!』って言って答えないと思うぞ」

 

「ああ……まあユリスならあり得るかもね」

 

「だな。それと俺からも1つ質問があるんだがいいか?」

 

「え?うんいいよ」

 

「じゃあ聞くぞ。この前サイラスとやり合った時にお前を縛った鎖、誰に付けられたか知らないがあれ何だ?」

 

今の今まで忘れていたが天霧を縛ったあの力は異常だ。

 

「あー、それはその……」

 

そう言って天霧は目を泳がせる。どうやら余り知られたくない事のようだ。

 

「言いたくないなら言わなくていいぞ?」

 

「あ、いや……比企谷にはあの時治療院に送って貰ったし話すよ。あれは俺の姉さんがかけたものだよ。姉さんの能力は万物を戒める禁獄の力なんだ」

 

「……なるほどな。つまりお前は一定時間しか全力を出せないと?」

 

「うん。5分以上持ったのはあの時が初めてだし。普段は3分が限界かな」

 

なるほど……3分しか力を出せないってどこのヒーローだよ?まあある意味こいつはヒーローみたいだけどさ。

 

そんな事より俺は知りたい事がある。

 

「なあ天霧。お前の姉ちゃんはお前の力を封印してるみたいだがよ、その力って『魔術師』や『魔女』にも通用するのか?」

 

「多分ね。それがどうかしたの?」

 

 

それを聞いた俺はある考えが浮かんだ。

 

「なあ天霧。いつかでいい。お前の姉ちゃんの力を貸して貰いたいんだが」

 

もし異能者の力も封じ込められるなら……

 

「うーん。でも姉さんは5年前に失踪して行方がわからないんだ」

 

「……そうか。野暮な事を聞いて済まなかったな」

 

「別にいいよ。姉さんには姉さんの事情があったんだろうし」

 

天霧はそう言って手を振っている。それに対して申し訳ない感情を持っていると竜が雄叫びを上げる。

 

下を見るといつの間にか星導館の校門の真上に来ていた。下を見ると人はいなかった。まあまだ朝6時前だからな。

 

それを確認した俺は竜に指示を出して地面に着地した。

 

竜が地面に足をつけると頭を下げるので天霧と刀藤を地面に下ろす。

 

「んじゃ俺は帰る。影の服は胸にあるレヴォルフの校章に触れたら解除される。自分の部屋に着いたら校章に触れろ。言っとくが今触れたらこの場で下着姿になるから触れるなよ?」

 

「あ、うんわかった。どうもありがとう」

 

「送っていただいた上、服まで貸して貰いありがとうございました」

 

「別に服は影で作ったもんだから気にすんな、もう行け」

 

そう言って星導館を指差すと2人はもう一度礼を言って校門に向かって去って行った。

 

俺は2人が見えなくなるまで見送って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人払いは済んだぞ。そろそろ出てきたらどうだ?」

 

後ろに向けて声をかける。

 

すると校門の影から見覚えのある顔が出てくる。

 

「あらあら。よくわかりましたね。流石『影の魔術師』」

 

そう言って薄い笑みを浮かべながら出てくるのは星導館の生徒会長のクローディア・エンフィールドだった。しかし今回は『パン=ドラ』を持っていないので凶々しさは感じないな。

 

「そいつはどうも。で、何か用か?」

 

「そうですね……先ずは綾斗と刀藤さんを助けて星導館まで送っていただいてありがとうございます」

 

どうやら俺が助けたのは理解しているようだ。随分情報が早い事で。

 

「別に構わない。それより本題に入れ」

 

お礼なんざ建前だろう。それだけだったらわざわざ隠れる必要はないはずだ。

 

そう思っているとエンフィールドが口を開ける。

 

 

「そうですね……単刀直入に言います。私と連絡先を交換していだだけませんか?」

 

……は?連絡先の交換だと?いきなりどうしたんだ?

 

「……とりあえず理由を聞こうか」

 

「簡単な話です。貴方と繋がりを持っておく事がメリットがあると思ったからですよ。何せ貴方は……」

 

軽く笑いながら一区切りすると真剣な表情で見てくる。

 

「レヴォルフのNo.2で圧倒的な力を持っている。にもかかわらずディルク・エーベルヴァインの手駒にならず、ソルネージュから『黒猫機関に入れ』という誘いを蹴りながら、何度も星導館の生徒を助けている人間ですからね」

 

別に星導館の生徒を助けたのは結果的にそうなっただけだ。しかしそれは大した問題ではない。俺が聞きたいのは……

 

「待て。何で俺が黒猫機関にスカウトされた事を知ってんだ?」

 

俺の力は戦闘だけでなく諜報能力にも優れている。何せ影の中に入れるだけでなく他の影に紛れる事も出来るからな。

 

それで序列2位に上がった頃にレヴォルフの運営母体であるソルネージュにスカウトされたが面倒だから断った。

 

あの件を知っているのは俺とレヴォルフの会長のディルクとソルネージュの幹部クラスの人間だけだ。星導館の諜報機関が知っているとは完全に予想外だ。

 

「実は影星にも貴方と同じように黒猫機関にスカウトされた人がいるのですよ。その人から貴方も候補と聞いたのですよ」

 

俺はそれを聞いて浮かんだのはサイラスの事件の時にいたあの男だ。理由はないが何となくあの男の様な気がする。

 

まあそれはどうでもいい。話を戻すと……

 

「……つまりレヴォルフの情報を流すスパイになれと?」

 

「そこまでの要求はしません。こちらが情報が欲しい時に手伝って欲しいのですよ。貴方の能力は私の知る限り最も隠密性に優れていますので」

 

つまり非常時に協力して欲しいって訳か。

「あんたにあるメリットはわかった。連絡先を教えてもいいが条件として俺自身が欲しい情報があった場合に協力する事を約束しろ」

 

俺もそれなりに情報網を持っているがディルクやソルネージュと繋がりがないからそこまで優れてはいない。

 

そう言った意味じゃ他所の学園と偶に協力するくらいなら悪くない。

 

「……いいでしょう。ただしあくまで私と貴方の関係は私的な物です。互いの目的が一致しない限りは私個人による情報網以外によって手に入る情報は渡しませんがよろしいですね?」

 

「……それでいい」

 

一般生徒の俺と違って生徒会長であるエンフィールドの情報網は間違いなく優れている筈だ。

 

俺はエンフィールドに頼まれたら情報を収集する、エンフィールドはエンフィールド個人の持つ情報網を俺に貸す。

 

………まあ損はしてないな。今まで影に潜って情報収集した際は一度もバレてないし。

 

「そうですか。では……」

 

そう言ってエンフィールドは端末を出してくるので俺も端末を出して連絡先を交換する。

 

「んじゃ俺は帰る。欲しい情報があったら連絡しろ」

 

「ええ。ごきげんよう」

 

エンフィールドの笑顔を背に俺はレヴォルフ近くにある自分の寮に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の俺はまだ知らなかった。

 

エンフィールドと連絡先を交換した事が今後の運命を大きく変えるという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀綺覚醒編 完


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