学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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長くなりそうなので3話構成にしました


比企谷八幡は試合に出ないが疲れ果てる(中編)

現在、シリウスドーム周辺は地獄と化している。空気が震え、圧倒的な威圧感が放たれている。

 

「……ねえ、貴方はわざと八幡の名前を間違えているのかしら?」

 

その威圧感を引き起こしてオーフェリアは絶対零度の視線で葉山を見ながらゆっくりと近寄っている。葉山との距離は5メートル。

 

周りを見ると選手や観客は距離を取りながらこちらを見ている。圧倒的過ぎてオーフェリアから目を逸らす事すら許されない。

 

憎悪の視線の対象となっている葉山は震えながら後ずさりする。余りの威圧感からか葉山の横にいた一色すら葉山から離れるがそれを責める者はいない。

 

オーフェリアは更に歩を進める。足取りはゆっくりだが一歩進む度に万応素が激しく吹き荒れる。

 

……つーかオーフェリアよ、俺がヒキタニ君って呼ばれるだけで王竜星武祭で出す力を出してんだよ?

 

俺が悪く言われたから怒ってくれるのは本当に嬉しいが……

 

(それだけでここまで怒るのはマジで勘弁してくれ!)

 

それだったら寧ろ怒らないで欲しいんですけど!てか怖い、怖すぎる。

 

「……もう一度聞くわ。何故貴方はわざと八幡の名前を間違えているのかしら?」

 

そう言って距離を詰める。葉山との距離は4メートル。

 

葉山は腰を抜かして地面に倒れこむ。しかしオーフェリアはそれを無視して歩を進める。葉山からしたら死神の足音の様に聞こえるだろう。

 

そして遂に葉山がビビりながら口を開ける。

 

「い、いや………間違えてヒキタニ君と言ってしまったんだよ」

 

嘘つけ。お前何度か比企谷って呼んだ事あるだろ。

 

しかしそれは口にしない。俺をヒキタニ呼びしてキレたオーフェリアにそれを言ったら更に怒るだろうし。

 

そう判断して黙っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に自身が総毛立つのを感じる

 

オーフェリアを見ると今さっきまでより更に星辰力が膨れ上がる。

 

それによって更に激しく万応素が暴れ回り地面のアスファルトを剥がし始める。

 

(……嘘だろ?!オーフェリアの奴、ここまで星辰力を持っていたのかよ?!)

 

完全に予想外だ。オーフェリアの奴、俺の予想していた星辰力の数倍を保持していたのかよ?!前回の王竜星武祭、シルヴィと戦った時ですらここまでの力は出していない。

 

これがオーフェリアの本気なら……俺が30人いても勝てるかわからないぞ。

 

今、俺は理解した。本気のオーフェリアに勝てる人間はこの世に存在しない。いるとしたらそれは間違いなく神の領域に足を踏み入れた人間だろう。

 

戦慄している中、オーフェリアは葉山に話しかける。

 

 

「……嘘ね。八幡は昨年王竜星武祭でシルヴィア・リューネハイムと一緒に最も盛り上がった試合をしたのよ?そんな有名人の名前を間違える筈がないわ。……つまり、貴方は八幡に悪意を持っているのね?」

 

オーフェリアがそう結論づけると星辰力が更に荒れ狂う。まだ本気じゃなかったのかよ?!

 

「あ、あ、あ……お、俺は……」

 

葉山は余りの恐怖に逃げる事すら出来ずに立ち止まってしまう。オーフェリアはそれを確認して更に距離を詰める。葉山との距離は3メートル。俺の予想だとオーフェリアは一切の躊躇いなく葉山を殺すだろう。

 

ヤバい。葉山が死んでも別に心が痛まないからどうでもいい。しかしオーフェリアが人を殺して犯罪者になるのは嫌だ。しかも理由が『俺がバカにされた』って下らない理由で犯罪者になるなんて絶対に許せない。

 

(……でもどうすればいいんだ?オーフェリアの怒りを鎮めるなんて無理だろ)

 

 

力づく?無理だ、秒殺される。

 

説得する?今のオーフェリアが話を聞いてくれるとは思えない。

 

 

じゃあ、どうすれば……

 

方針に悩んでいる時だった。

 

「お兄ちゃん!オーフェリアさんを鎮められる可能性がある方法を思いついたよ!」

 

小町が肩を叩いてそう言ってくる。マジか?!

 

「本当か?!早く教えろ!」

 

既に葉山との距離は2メートル。急がないとガチでヤバい!!

 

「うん!!………すればいいんだよ!!」

 

小町は案を提案してくるがふざけてるのか?

 

「おい小町。今はふざけてる場合じゃ「本当だって!以前オーフェリアさんがそれをして欲しいって言ってたの!!」……本当か?」

 

「いくら小町でもこんな時にはふざけないよ!急いで!あの金髪の人、殺されちゃうよ!」

 

見てみると葉山との距離は1メートルを切っていた。

 

(……背に腹は変えられないか。仕方ない)

 

俺はそう結論づけて小町の案を実行する為オーフェリアの元に走り出す。自身の周囲に星辰力を展開して、荒れ狂う万応素に逆らいながら突き進む。

 

前を見るとオーフェリアと葉山の距離は50センチを切って遂にオーフェリアが手を挙げる。それは葉山からすればギロチンの刃に見えるだろう。

 

「あ……い、嫌だ…」

 

葉山が嘆く中、オーフェリアは手を止める。後数秒で振り下ろすだろう。

 

俺はオーフェリアが引き起こす万応素によって体に走る痛みに耐えながらオーフェリアとの距離を更に詰める。

 

そしてオーフェリアが手を振り下ろそうとすると同時に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めろオーフェリア」

 

後ろからオーフェリアに抱きつき、オーフェリアの手に触れて振り下ろすのを防ぐ。

 

するとオーフェリアの手は動きを止める。直に触れる事でオーフェリアが引き起こす圧倒的な力によって激痛が体を襲うがそれを無視してオーフェリアを優しく抱きしめる。

 

小町から言われた提案は『オーフェリアに温もりを感じさせろ』だ。

 

普段の俺なら恥ずかしいから絶対にやらないだろう。しかしオーフェリアは別だ。俺は絶対にオーフェリアを否定しないと決めたからオーフェリアがそれを望むから恥なんて捨ててやる。

 

「……八幡?」

 

オーフェリアは手を振り下ろすのを止めて顔だけ後ろに向けてくるので俺は口を開ける。

 

「俺は特に気にしてない。だから怒りを鎮めてくれ。お前にそんな事をして欲しくない」

 

そう言って抱きしめるオーフェリアの体は冷えていた。こりゃ温もりを感じたい訳だ。

 

「……でも、あの男は八幡を……」

 

「あいつがどうなろうと知った事じゃないが、あいつを殺してお前が咎められるのは嫌だ。だから頼む」

 

誠意を持ってオーフェリアにそう言うとオーフェリアはそっと息を吐く。

 

「……わかったわ」

 

オーフェリアがそう言うと同時に周囲から禍々しい威圧感は消えて元の空気に戻る。

 

剥がれているアスファルトや倒れこんでいる雪ノ下達がオーフェリアの怒りの激しさを物語っていた。とりあえず怒りは鎮められたみたいで安心だ。

 

息を吐いているとオーフェリアは俺の腕の中から離れて葉山に話しかける。

 

「……今回は八幡が止めたから許すけど………次はないわ」

 

明らかに殺意を込めて葉山にそう言う。しかし葉山は既に気絶していたので耳に入っていないようだ。

 

「おい一色。葉山を連れてけ」

 

とりあえず倒れていても邪魔なので葉山のパートナーである一色にそう指示を出す。

 

一色は無言でコクコク頷きながら葉山を抱えて自分の対戦するステージに向かって走り去って行った。

 

とりあえず一件落着か……

 

息を吐いていると携帯端末にメールが来たので見るとシルヴィからだった。

 

内容は『今から3人でご飯食べない?可能なら12時半にカノープスドーム正面ゲートの近くにある噴水に来て』と書いてあった。

 

俺はオーフェリアにメールを見せる。

 

「……どうする?」

 

「……そうね。受けましょう」

 

オーフェリアが賛成の意を表明したので俺はシルヴィに『了解。今から向かう』と返信する。

 

 

 

メールを返信すると俺は小町と戸塚に話しかける。

 

「すまん小町。シルヴィの奴から呼び出しがかかったから俺とオーフェリアはもう行く。昼飯はお前らだけで食ってくれ。俺は元々オーフェリアとシルヴィと食う予定だったんだが……合流はしない方がいいだろう」

 

そう言ってチラリと2人の後ろを見ると雪ノ下達はオーフェリアに恐怖に塗れた視線を向けていた。こんな中シルヴィも合流して飯を食ったら気まずい事間違いなしだ。

 

小町と戸塚もそれを理解したのか頷く。

 

「……そうだね。わかったよ。シルヴィアさんによろしくね」

 

「わかった。またな」

 

「またね八幡にオーフェリアさん」

 

「……あ!その前に!」

 

小町はそう言ってオーフェリアの元に近づいて頭を下げる。

 

「あのっ!さっきは兄の為に怒ってくれてありがとうございました!」

 

オーフェリアはそれを聞いて目を見開く。まさか礼を言われるとは思ってなかったのだろう。

 

「……小町。本気で言っているの?後ろの人達みたいに怖くないの?」

 

「……正直に言うと少し怖かったです。でもあそこまで兄を想ってくれて嬉しかったです!」

 

「……本当に貴女と八幡は変わった兄弟ね」

 

オーフェリアは若干呆れの表情を浮かべている。まあ俺も小町も割と変わっているのは否定しないが。

 

「……ったくお前は。行くぞオーフェリア。それと今日はお前らAブロックの試合を見るから頑張れよ」

 

「うん!2人ともまたね!」

 

小町の笑顔を確認して俺とオーフェリアは背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリウスドームからカノープスドームまでは徒歩10分。この調子でいけば12時20分前に着くだろう。

 

道程の半分くらいまで歩くとオーフェリアが話しかけてくる。

 

「……八幡。さっきはごめんなさい。痛かったでしょう?」

 

さっきとはオーフェリアがブチ切れていた時に吹き荒れていた万応素の事だろう。

 

「別に怒ってないから気にしていない。俺こそいきなり抱きついて悪かったな」

 

非常時とはいえアレは立派なセクハラだ。警備隊に訴えられても文句は言えない。

 

「……いいえ。私は怒ってないし……嬉しかったわ。人の温もりなんて2度と感じる事はないと思っていたから。……私は皆に否定される存在だから」

 

それを聞いて俺は悲しくなる。昔は人の温もりを感じる事が出来たのに……今は無理だなんて神ってのは残酷過ぎる。

 

「……皆じゃねーよ。少なくとも俺は絶対に否定しない」

 

「……ありがとう。……それと八幡、一ついいかしら?」

 

「何だ?」

 

俺が尋ねるとオーフェリアは珍しく口籠る。こいつが口籠るってどんな事を言ってくるんだ?

 

若干ビビっている中、口を開ける。

 

「虫のいいお願いかもしれないけど……その……また、私の事を抱きしめてくれない?」

 

オーフェリアは不安そうな表情をしながら上目遣いで見てくる。予想以上の破壊力によりつい目を逸らしてしまう。こいつこんなに可愛かったのかよ……

 

さて、オーフェリアのお願いについてだが……

 

「……わかったよ。好きにしろ」

 

俺はオーフェリアの願いを叶える。そんな事でオーフェリアに安らぎを与えられるなら安い物だ。恥ずかしいなんて言ってられない。

 

俺がそう返すとオーフェリアは俺の胸元に飛び込んで背中に手を回してくる。

 

「……本当に温かいわ」

 

いきなりの行動に俺が驚く中、オーフェリアはそう言って顔を埋めてくる。

 

(……戦ってる時はあんなに怖いのに……やっぱり中身は普通の女の子だな)

 

オーフェリアの言葉を聞いて驚きの感情が消えた俺は苦笑しながらオーフェリアの背中に手を回す。周囲からは視線を感じるが今はどうでもいい。

 

「……八幡」

 

「何だよ?」

 

「……貴方に会えて、本当に良かったわ」

 

そう言って更に強く力を込めて抱きついてくる。

 

(全くこいつは……俺を過大評価し過ぎだからな?)

 

しかしそこで口に出す程空気の読めない俺じゃない。

 

俺は黙ってオーフェリアを受け入れて背中を撫でる。いつか…いつかわからないが、オーフェリアには誰かによって本当の自由と幸せを掴んで欲しい。

 

こうして俺達はオーフェリアが満足するまで抱き合っていた。

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