学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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修羅場にしようとしましたが止めました。

修羅場はシルヴィアが本格的に参戦してからガンガン出す事にしましたがご了承ください


比企谷八幡は試合に出ないが疲れ果てる(後編)

 

 

「お待たせ〜」

 

12時25分、カノープスドーム正面ゲートの近くにある噴水、俺とオーフェリアが突っ立って待っていると後ろから話しかけられる。

 

 

振り向くと栗色の髪をした可愛い女の子が走ってくる。それはお忍び姿のシルヴィア・リューネハイムだった。普段の姿だと目立って面倒になる事間違いないからな。

 

シルヴィは笑顔でこちらにやってくる。

 

「八幡君久しぶり。オーフェリアさんも王竜星武祭以来……ん?」

 

シルヴィは笑顔から一転訝しげな表情を見せてくる。いきなりそんな顔をしてくるとは完全に予想外だ。

 

 

「久しぶりだなシルヴィ。何か変な顔をしてるがどうかしたか?」

 

「あ、うん。……八幡君もオーフェリアさんも顔が赤い気がするけど風邪引いてるの?」

 

シルヴィはそう指摘してくる。

 

流石シルヴィ。俺はともかくオーフェリアの頬が染まっている事を見抜くとはな。オーフェリアの頬はしっかりみないと分からないくらいにしか赤くなっていないのに。

 

そう、俺とオーフェリアは顔が熱くなっているのだと思う。理由は簡単。今さっきまで市街地という公共の場で俺とオーフェリアは抱き合っていたからだ。

 

抱き合っている最中は気にしていなかったが抱擁を解いた瞬間、物凄い羞恥に襲われた。周りを見ると六学園の生徒だけでなく観客もこちらをガン見していたからだ。

 

特に印象に残っていたのは、以前サイラスの事件の際にエンフィールドと一緒にいた星導館の制服を着た影星と思えるチャラそうな男だ。あいつだけは嬉々とした表情でハンディカメラを回していたが、次会ったらぶっ殺す。

 

オーフェリアは人目を気にしていないようだが俺は恥ずかしくて仕方なかったので全力疾走でその場を離れた。その時は逃げれば勝ちと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそこからが本当に恥ずかしかった。

 

12時20分に俺達はカノープスドームの集合場所に着いた。

 

俺は恥ずかしさから逃れる為にオーフェリアに話しかけなかった。俺から話しかけたら悶え死ぬからな。

 

そう思いながらシルヴィを待っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……八幡。またお願い……』

 

オーフェリアの奴が頬を染めながら爆弾を落としてきた。それによって顔が熱くなるのを感じながら返事に悩んだが、一度了承した手前断れず再び了承してしまった。

 

了承すると恥ずかしさの余りオーフェリアから目を逸らしてしまった。

 

そしてシルヴィが早く来る事を祈ると同時にシルヴィに話しかけられて、今に至るという訳だ。

 

 

 

 

 

 

「い、いや大丈夫だって。心配するな」

 

「……ええ。問題ないわ」

 

俺とオーフェリアがそう返すとシルヴィは訝しげな表情で俺とオーフェリアの顔を交互に見る。……頼むから気付かないでくれよ。

 

内心祈っているとシルヴィは息を吐いて頷く。

 

「うーん。わかった。無理には聞かないけど風邪引いてるなら無理しちゃダメだよ」

 

どうやらこれ以上の詮索はしないようだ。ガチでありがたい。全部吐いたら間違いなく悶死する自信があるからな。

 

「頼む。それで飯は何処に行くんだ?あんまり目立たない場所にしてくれ」

 

何せ悪名高いレヴォルフの2トップが飯を食いに行くんだ。俺が飯屋の人間なら間違いなく門前払いする自信がある。

 

「大丈夫大丈夫。私が準備してきたから。はいこれ」

 

そう言ってシルヴィは俺にはヘアバンドを、オーフェリアにはヘッドフォンを渡してきた。

 

「んだこれ?」

 

「私がお忍びをする時に使う物と同じで髪の色を変えられるの。まあ、正確には変わっているように見せるんだけど」

 

そう言われたので早速付けてみて鏡を見ていると銀髪になっていた。マジか、似合わねえな。

 

オーフェリアを見るとシルヴィと同じ栗色の髪になっていた。白い髪も悪くないがこれはこれで良いな。

 

とりあえずオーフェリアに鏡を渡す。オーフェリアは鏡で自分の髪を見ると何処か懐かしそうな表情をしていた。

 

「どうしたんだオーフェリア?」

 

「……昔の髪の色と同じになったと思っただけよ」

 

ん?て事は実験の所為で髪の色が変わったのか?まあ髪の毛がどうだろうとオーフェリアはオーフェリアだ。

 

「まあこれならバレないな。んで飯は何処で食うんだ?」

 

「……とりあえず此処でいいかな?」

 

シルヴィが空間ウィンドウに表示した店は和洋中揃っている中々高級そうなレストランだった。

「わかった。オーフェリアもそれでいいか?」

 

「……ええ」

 

「そっか。じゃあ行こっか」

 

シルヴィがそう言って俺とオーフェリアの手を引っ張り出す。いきなり手を掴むとは相変わらずコミュ力の高い奴だな。

 

オーフェリアもいきなり手を掴まれて予想外だったのか目を見開いている。

 

俺達は特に逆らう事なくシルヴィに引っ張られながら目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地のレストランはかなりの生徒(特に星導館とクインヴェールの生徒)で賑わっていて席が満席だった。

 

待つ事10分、漸く案内された席は近くにある自然公園が丸ごと見える良い席だった。

 

「とりあえず頼もっか。私はシーフードグラタンにするけど2人は?」

 

「メニュー見る前から決めるって事は常連か?」

 

「まあね。お忍びで出かける時はよく使うよ」

 

「んじゃ俺は……中華ランチセットにするか。オーフェリアは?」

 

オーフェリアを見るとメニューのあちこちを眺めていて悩んでいる様子だった。

 

「……八幡。私、こういう店には来た事がないから決められないわ」

 

「……マジで?」

 

「え?仕事の時とかは?」

 

「……仕事先で用意された物しか食べないから。普段は惣菜パンしか食べないし」

 

「うーん。じゃあこのハンバーグセットにしたら?シンプルで美味しいよ?」

 

「……じゃあそれで」

 

オーフェリアが了承したのでシルヴィは注文をする。後15分くらいで食べられるだろう。

 

しかし問題がある。

 

(ヤバい。これ飯来るまで無言じゃね?)

 

何せ俺とオーフェリアはコミュ障だ。特にオーフェリアは星武祭にも興味を持ってないので話す事がなさそうだ。同じコミュ障の俺ならともかくシルヴィには荷が重いと思う。

 

下手したら飯が来るまで無言で気まずいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた。

 

「……それでよく八幡の肩を借りるけど凄く安らぐのよ」

 

「そうなんだ。今度私も借りて寝てみようかな?」

 

「………ダメ」

 

「あははっ。冗談だって」

 

オーフェリアとシルヴィは特に気まずい空気を出さずに話をしている。俺は無言で俯いている。気まずいのは俺だけだ。

 

発端はこうだ。

 

シルヴィが

 

『2人は普段どう過ごしているの?』

 

って聞いてきた。

 

するとオーフェリアの奴が俺と過ごした一時(俺にとっての黒歴史)を暴露した。そしてそれを聞いたシルヴィが楽しそうな表情でオーフェリアに質問をしてオーフェリアがペラペラと答えている。

 

それによって俺のメンタルはグリグリ削られて大ダメージを受けている。いつか心がぶっ壊れそうだ。

 

「……あ、後さっき凄く怒ったの」

 

「あー、開会式終わってから正面ゲートで凄まじい万応素が荒れ狂ってたらしいけど、オーフェリアさんがやったの?」

 

「……そう」

 

「アレ結構話題になってたけど何があったの?」

 

やっぱり話題になってたのかよ。てか咎められるんじゃね?

 

「……八幡がバカにされたから、ついその男を殺そうと……」

 

待てオーフェリア。お前はついであんな桁違いの力を出したのか?冗談抜きで怖過ぎる。

 

「なるほどね……気持ちはわかるけどそんな事しちゃダメ。オーフェリアさんが捕まったりしたら八幡君が悲しむよ」

 

「待て。何で俺の名前をだす?」

 

「えっ?だって八幡君、オーフェリアさんの事大切に思ってるでしょ?」

 

「……そうなの八幡?」

 

当の本人が聞くな!答えられないからな!

 

「あ、いや、そのだな……」

 

「そうだよ。だって八幡君と電話すると八幡君が話す内容っていつも妹さんとオーフェリアさんの事だから」

 

シルヴィィィィ!お前余計な事を言ってんじゃねぇよ!マジで恥ずかしい。ナイフで臓腑を抉られている気分だ。

 

(……決めた。次の王竜星武祭で絶対にシルヴィを叩き潰す)

 

「……そう。………嬉しいわ」

 

オーフェリアはほんの少し頬を染めながら言ってくる。その顔止めろ。マジで顔が熱くなる。

 

顔の熱を冷まそうとお冷を飲もうとすると注文した料理がやってきた。

 

「あ、料理が来たから一旦お話は止めよっか」

 

……ふぅ、助かった。これ以上続いていたら発狂していたかもしれない。

 

 

安堵の息を吐いていると目の前に頼んだ品が置かれる。チャーハン、キムチ、八宝菜など様々な中華料理の食欲をそそる匂いが鼻を刺激する。

 

他の2人の前にも料理が置かれる。

 

「じゃあ食べよっか。いただきます」

「いただきます」

 

「………」

 

オーフェリアは無言だ。

 

「オーフェリア、挨拶はしろ」

 

普段俺と飯を食ってる時は俺も言ってないから気にしてないが、今はシルヴィもいる。しっかり挨拶はするべきだろう。

 

「……いただきます」

 

オーフェリアは頷きながら挨拶をするので箸を持って食べ始める。うん、美味いな。流石世界の歌姫が認めるだけの事はある。

 

俺は夢中になって中華のランチに舌鼓をうっている時だった。

 

「八幡君」

 

シルヴィが呼んでくる。何だよ、また俺の黒歴史を聞いて臓腑を抉るのか?

 

疑問に思いながら顔を上げると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいあーん」

 

いきなり口の中にスプーンを入れられる。いきなり何だ?

 

シルヴィのいきなりの行動に驚きながらもスプーンの上にあるグラタンを食す。……美味え。何だこのソースは?絶品だろ。

 

「美味しい?」

 

「……美味い」

 

「そっか。なら良かった。それにしても八幡君結構可愛いね」

 

美味いのは認めるが……シルヴィの笑顔は腹立つ。後可愛いって言ったが男の俺に可愛い言うな。

 

内心シルヴィに毒づいていると視線を感じたのでそちらを見ると、オーフェリアがジト目で見ている。……何でそんなに機嫌が悪いんだよ?

 

そう思っているとオーフェリアはナイフで切ったハンバーグをフォークに刺して俺に突き出してくる。

 

「……えーっとだな、オーフェリア、それは……」

 

……食べろって事か?

 

しどろもどろに返しながらオーフェリアを見ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………八幡。………あーん」

 

そう言ってフォークを更に近づけてくる。

 

(……ヤバい。何か恥ずかしい)

 

普段感情を出さないオーフェリアからのあーん、何とも言えない背徳感がある。何かが込み上がってくる。

 

これは……逆らえない。

 

気がつくといつの間にか俺は口を開けていた。

 

そして口の中には肉汁たっぷりのハンバーグが入る。本来なら美味いと思うがオーフェリアからのあーんの破壊力がヤバ過ぎて味が一切わからなかった。

 

「……美味しい?」

 

「……あー、まあな」

 

「そう……良かった」

 

すまん。味を感じなかった。嘘を吐いたが許してくれ。

 

俺は心の中でオーフェリアに謝罪しながら自分が頼んだ料理を食べるのを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局その後もシルヴィとオーフェリアにそれぞれ2度あーんをされて食事が終わる頃には疲労困憊になっていた。

 

……何で試合に参加しない、それ以前に試合が始まっていないのに俺はこんなに疲れているんだ。

 

俺は今日は早く寝ようと強く心に決めた。

 

 

 

 


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