学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして鳳凰星武祭初日の一回戦が終了する

 

午後1時55分カノープスドームVIP席。

 

VIP席には星武祭運営委員や、統合企業財体の人間、テレビでよく見るアスタリスク外部からやって来た政治家、様々な偉い人がいる。

 

しかしそれらの人々は全員端の方にいて中心の席をチラチラと見ている。

 

VIP席には有名人が集まるのは常だが中心にいるのは他の人とは桁違いで有名な人物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー。試合始まってないのに帰りたい……」

 

その中心にいる3人のうちの1人である俺、比企谷八幡は視線に晒されていて胃を痛めている。

 

「まあまあ。私と王竜星武祭で戦った時は何万人にも見られてたじゃん」

 

俺の右隣に座りながら俺の右肩に頭を乗せて笑顔を見せてくるのはクインヴェール女学園序列1位『戦律の魔女』シルヴィア・リューネハイム。

 

「……いや、まあそうだけどさ……試合する時は見られても仕方ないって割り切れるからな。こういう場面には慣れてないから……頭痛い」

 

試合なら気にしないで済むが、こんな場所でお偉いさんにジロジロ見られるのは慣れていない。

 

「………八幡。頭が痛いなら小町達の試合が始まるまで私の膝で寝る?」

 

そう言って俺の左肩に頭を乗せてくるのはレヴォルフ黒学院序列1位『孤毒の魔女』オーフェリア・ランドルーフェン。

 

現在俺はアスタリスク2トップの魔女に挟まれながら試合開始を待っている。そして俺自身もアスタリスク最強の魔術師と噂されている存在だ。目立たない筈がない。

 

閑話休題……

 

「いや……膝枕は遠慮しておく」

 

さっきもされたがアレは麻薬だ。一度されただけで気分が高揚した。もう一度されたら間違いなく虜になる自信がある。1ヶ月もしたら昼休みに俺からオーフェリアに膝枕をしてくれと頼むだろう。

 

「……わかったわ。じゃあもう少し肩を借りていいかしら?」

 

「もう借りてるだろ。好きにしろ」

 

「……んっ」

 

すると肩に更に重みがかかり、オーフェリアの体温や髪を感じてくすぐったい。

 

「んーっ。オーフェリアさんの言う通り、本当に八幡君の肩って安らぐね」

 

反対ではシルヴィも倒れこんでいる。

 

VIP席に来て直後、シルヴィが俺の肩に頭を乗せてきた時オーフェリアは何故かどす黒いオーラを出してきた。

 

初めはそれにビビっていたが、オーフェリアは直ぐにそのオーラを消してシルヴィと反対側の肩に頭を乗せてきた。

 

何でどす黒いオーラを出したのか、そして直ぐにオーラを消したのかは理解できないが長時間あのオーラを浴びないで済んで良かったな。

 

「……そうね」

 

オーフェリアはシルヴィの意見を肯定しながらスリスリしてくる。止めろ!それはガチでヤバいですから!!

 

内心オーフェリアに突っ込んでいるとアナウンスが流れ出す。

 

 

『はいはーい!こちらは第二十四回鳳凰星武祭第三会場のカノープスドームだぁ!実況は私ABCアナウンサーのナナ・アンデルセン、解説はアルルカントOGの左近千歳でお送りするぞー!』

 

『どうぞよろしく』

 

『さて、試合開始まで後少し。今のうちにもう一度ルールのおさらいだぁ!』

 

ルールはもう知っている。勝利条件は相手ペア両名の校章をぶっ壊すか、相手ペアを気絶させるかだ。1人さえ残っていれば挽回のチャンスは十分にある。王竜星武祭は一発勝負だしな。

 

「……すまん。腹が痛いからちょっと手洗いに行ってくる」

 

小町の試合は確か第4試合だ。後15分くらいは余裕がある。

 

「うん。わかった。気を付けてね」

 

いや、何を気を付けろって話だからな?こんな場所で襲われるなんてあり得ないし、大抵の相手なら蹴散らせるからな?

 

俺は若干呆れながらVIP席を出て手洗いに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから15分後……

 

俺は今全速力でVIP席に戻っている。

 

トイレに着いた時には大量の観客が並んでいた。毎回星武祭を見ると思うが試合開始前のトイレは混雑し過ぎだ。しかも並んでる間やトイレに籠っている間に幾度か歓声が聞こえてきた事から試合が始まっているのだろう。

 

腹を壊して小町の試合を見逃すとか笑えないからな?

 

 

そう思いながらVIP席に戻ると同時にアナウンスが流れ出す。

 

『続いて第4試合!こぉーこで登場したのは星導館学園序列8位比企谷小町選手と、そのパートナーの戸塚彩加選手だぁ!』

 

それと同時に歓声が鳴り響く。ふぅ……ギリギリ間に合ったようだ。

 

 

俺は安堵の息を吐きながら席に着くとシルヴィとオーフェリアは再び俺の肩に頭を乗せてくる。……乗せるのは構わないが帰って早々かよ?

 

「ギリギリ間に合ったね。2回戦以降は試合が始まる前に行った方がいいよ」

 

それについては同感だ。見逃したりしたら笑えない。

 

「そうだな。確か小町達の対戦相手は……」

 

「ガラードワースの序列25位と32位の騎士候補生ペアだよ」

 

「……そうだったな。まああいつらなら問題ないだろ」

 

小町は冒頭の十二人だし、戸塚もこの1ヶ月、手を抜いているとはいえ俺の攻撃をある程度凌げるようになるくらいに成長したし。今回出場しているドロテオ・レムス、エリオット・フォースターペアならともかく候補生クラスなら問題ないだろう。

 

「……てか前から思ったがよ、銀翼騎士団って子供っぽくね?」

 

ガラードワースの冒頭の十二人は銀翼騎士団と言われているが普通に冒頭の十二人で良くね?百歩譲ってチーム・ランスロットやチーム・トリスタンは良いが銀翼騎士団はないだろ。

 

「あはは……それアーネストはともかくレティシアには言わない方が良いよ」

 

あー、確かにあいつは煩そうだな。アーネスト・フェアクロフは一度話した事があるが割と気さくだったけど、レティシア・ブランシャールは見るからに頭が固そうだったし。

 

「善処する」

 

そんな事を話していると実況の声が聞こえてくる。

 

『比企谷選手と言えば前回の王竜星武祭ベスト4まで残ったレヴォルフ黒学院序列2位、『影の魔術師』比企谷八幡の実の妹だが、妹本人も中等部1年の時に冒頭の十二人入りした才能に恵まれた実力者!その実力は折り紙付き!』

 

まあ小町も入学して半年もしないで冒頭の十二人入りだからな。才能だけなら刀藤の次くらいだろう。

 

『それにしても……いやぁ、パートナーの戸塚選手と並んでると絵になるとゆーか、女の子2人が華やかに……』

 

『ナナやんナナやん!今データを見たけど戸塚選手は男や!女の子やあらへん!!』

 

実況の話に解説者が割って入る。それと同時に観客席からも騒めきが聞こえる。実況だけでなく観客も戸塚を女の子と勘違いしてやがる。

 

『ええぇー?マジで?……本当だ。あんなに可愛いのに……。あー、こほん、それは大変失礼をば!』

 

実況の人が謝っている中、ステージにいる戸塚は真っ赤になって俯いている。まあこれ全世界に放送されてるからな。親やアスタリスク外部の友人に見られると考えたら恥ずかしくて仕方ないだろう。

 

小町はどうしていいかわからずオロオロしているがこればっかりは仕方ないだろう。

 

「……ねぇ八幡君。本当に男の子なの?」

 

シルヴィも若干驚きながらそう聞いてくる。

 

「まあな。っても正直俺も今でも女と勘違いしそうなんだよなぁ。あいつ普段の仕草もメチャクチャ可愛いし……痛え!」

 

いきなり手に痛みを感じたので見てみるとオーフェリアが俺の手を抓っていた。手袋越しでこの痛みって……直で抓ってきたらどんだけ痛いんだよ?

 

「…………バカ」

 

オーフェリアはそう言って悲しげな表情をしながら不貞腐れる。オーフェリアのその仕草は可愛いと思うが抓るのは止めてください。

 

「……今のは八幡君が悪いね」

 

シルヴィは呆れ顔をしているが戸塚が怒るならともかく、何でオーフェリアが怒るんだ?

 

疑問に思っていると、小町達とは反対側のゲートから2人組の男女ペアが出てきて煌式武装を起動する。

 

男の方は巨大なバスタードソード型煌式武装で女の方は細いレイピア型煌式武装だ。ガラードワースは剣技を正道としているので学生も剣を使う者が多いな。

 

ガラードワースの2人が煌式武装を出すとさっきまで恥ずかしがっていた戸塚も真剣な表情になり小町と話している。気のせいか戸塚の顔が気迫に満ちているような……

 

 

そう思っていると、いよいよ試合開始時間となる。

 

 

「『鳳凰星武祭』Aブロック一回戦四組、試合開始!」

 

 

 

 

校章の機械音声が試合開始を告げると同時に、ガラードワースの2人は突っ込む。2人の狙いは小町のようだ。明らかな格上を真っ先に潰す。戦術の一つだろう。

 

それに対して戸塚は自身の前に巨大な盾を顕現して、小町はその場から動かずに腰にあるホルスターからハンドガン型煌式武装を抜いて発砲する。

 

撃つまでの流れが余りにも滑らかだったので煌式武装を抜いている所は微かにしか見えなかった。神速銃士の二つ名は伊達じゃないな。

 

ステージ上にいるガラードワースの2人も同じのようで、マトモに回避する前に2人の煌式武装に被弾する。

 

男の方が持っているバスタードソード型煌式武装は少し跳ね上がっただけだが、女の方が持っているレイピア型煌式武装は女の手から離れる。

 

女は慌てて煌式武装を取ろうとするが、

 

『群がってーーー盾の軍勢!』

 

モニターでそう叫ぶと巨大な盾は50近くの小さい盾に分裂する。そしてその大量の盾を操作して対戦相手2人に飛ばす。

 

そのうち半分の盾を女の手やレイピア型煌式武装にぶつけて武器を取る邪魔をして、残りの半分を男の脛にぶつけて足の動きを止めている。

 

『おおっと?!な、何と戸塚選手、初めに盾を出した事から防御寄りのスタイルかと思いきや、ガンガン相手にぶつけて攻めています!アレは痛そうだぁ!!』

 

『盾を顕現する魔術師は何度も見ましたが攻撃に利用する魔術師は初めて見るなぁ……』

 

実況はハイテンションで戸塚の実況をしているが……確かにアレは痛そうだ。特に男子、盾は脛だけに当たっている。モニターに映っているガラードワースの男子生徒は苦悶の表情を浮かべている。

 

(……もしかして試合前のアレでイライラしてんのか?)

 

戸塚って意外と根に持つからな。試合前の女の子疑惑で相当ストレスがたまっているようだ。

 

しかし戸塚の盾の大量分割は侮れない。現に女の方は煌式武装を遠くに飛ばされて素手だし、男の方は脛をガンガン狙われて地面に倒れかけている。

 

そしてそんな隙を小町が逃す筈はない。

 

小町は息を吐きながら煌式武装で相手の校章に狙いを定めて発砲する。

 

煌式武装から放たれた2発の光弾は一直線にガラードワースのコンビの校章に向かって………

 

 

 

 

 

 

 

「試合終了!勝者、比企谷小町&戸塚彩加!」

 

 

校章が地面に割れ落ちると同時に機械音声が会場に試合終了のアナウンスをする。

 

それによって会場には歓声が響き渡る。

 

『な、何とぉ!開始1分もしないで決着がついたぁ!早い、早過ぎるぅ!』

 

『戸塚選手の盾の使い方はインパクトがあったけど、2人の校章を纏めて破壊する比企谷選手の精密射撃はすごいなぁ……』

 

解説が続く中、小町と戸塚はステージから退場する。

 

「八幡君の妹の試合を生で見るのは初めてだけど強いね。パートナーの盾の使い方も面白かったし」

 

「……盾の使い方は以前八幡が教えていたわ」

 

「ん?という事は八幡君が2人を鍛えたの?」

 

「まあな」

 

っても俺が鍛えたのは鳳凰星武祭開幕1週間前までだ。その後の1週間は見てないが……正直言って予想以上に成長している。

 

これなら本戦でもトーナメントの組み合わせ次第では良いところまで勝ち進む事が出来るだろう。

 

そう思いながら俺は次の試合のレヴォルフのペアと界龍のペアの試合を見るため視線をステージに移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2時間後……

 

 

 

「……これでカノープスドームの試合は終わりか」

 

カノープスドームで行われる試合が全て終わった。カノープスドームで行われたAブロックの試合を見る限り小町と戸塚を倒せるペアはいないだろう。

 

「そうだね。私は用事があるからもう行くけど八幡君とオーフェリアさんはこれからどうするの?」

 

「俺は小町達の所に行くつもりだ。オーフェリアも来るか?」

 

「……じゃあ行くわ」

 

「わかった。二回戦は4日後だしまた一緒に見ようね。じゃあね」

 

シルヴィはそう言って一足先にVIP席を後にした。他のお偉いさんも試合が終わった直ぐに退場したのでVIP席に残っているのは俺とオーフェリアだけだ。

 

さて……先ずは小町達に電話するか。

 

俺が小町の端末に電話をすると直ぐに空間ウィンドウが開いて小町の顔が見える。

 

「もしもし」

 

『もしもし。どしたのお兄ちゃん?』

 

「先ずは一回戦突破おめでとさん。見事な手際だったぞ」

 

『あー。まあね。でも戸塚さん凄い気迫で怖かったよ……』

 

うん。知ってる。観客席からも気迫を感じたし攻め方も容赦なかったし。

 

「ま、まあ楽に勝てたし、純星煌式武装も戸塚の散弾型煌式武装も知られてないから良かっただろ」

 

『そうだね。出来るなら本戦まで隠しておきたいし』

 

そこらの雑魚ならともかく、冒頭の十二人クラスの対戦相手なら一回見られただけで対策をしてくる筈だ。だから手持ちのカードは出来るだけ伏せるべきだ。

 

「そうしろそうしろ。ところで今から会えるか?」

 

俺がそう尋ねると小町は苦い顔をするがどうしたんだ?

 

『悪いけどお兄ちゃん。それは明日以降にしてくれる?試合前の解説で戸塚さん落ち込んでるし』

 

まあ世界中に女と思われながら実況されたからな。メンタルが弱っていても仕方ないだろう。

 

「なら仕方ないな。じゃあまた今度にしよう」

 

『お願いね。その時にシルヴィアさんにも会わせてよ』

 

「シルヴィの都合によるな。じゃあ」

 

そう言って空間ウィンドウを閉じてオーフェリアと向き合う。

 

「小町達は無理っぽいし俺は寮に帰るがお前はどうすんだ?帰るなら送るぞ」

 

「……お願い。八幡は帰ったらどうするの?」

 

「どうするって……飯食ってダラダラするぐらいしかする事ないな」

 

俺はそう言ってVIP席を後にしようとするとオーフェリアが制服の裾を掴んできた。

 

「どうした?帰ろうぜ」

 

「……八幡はこれからは特に予定がないのよね?」

 

「そうだな。何か手伝って欲しいのか?」

 

夕食に使う食材を買いに行くくらいなら別に構わないが……

 

しかし俺の予想は大きく外れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その、時間に余裕があるなら……また私を抱きしめて欲しいのだけど……」

 

オーフェリアは俯きながらそう言ってくる。

 

(……完全に予想外だな。こいつ意外と甘えん坊なのか?)

 

 

いや、まあ、確かに今日は暇だけどさ。抱きしめてくれって……そりゃさっきは了承したけど、改めてやると考えると……

 

 

俺が悩んでいる時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダメ?」

 

オーフェリアが上目遣いで不安そうな表情で俺を見てきた。

 

それを確認すると、俺の体は自然と動いていた。

 

 

結局、俺はオーフェリアが満足するまでずっと抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳳凰星武祭初日 知り合いが参加した試合の結果

 

天霧&リースフェルト

天霧1人でガラードワースのペアを瞬殺

 

エルネスタ&カミラ

開始1分攻撃をしないにもかかわらずレヴォルフのペアに無傷で勝利

 

雪ノ下&由比ヶ浜

同じクインヴェールのペア相手に危なげない試合運びで勝利

 

川崎沙希&川崎大志

界龍特有の星仙術によって余裕の勝利

 

葉山&一色

葉山が試合開始までに目が覚めなかった為、不戦敗

 

 


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