学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は意外な場所で意外な人物と遭遇する。

 

 

 

鳳凰星武祭初日、カノープスドーム。俺は今日、シルヴィとオーフェリアの3人でこの会場に来ていた。

 

理由はシンプル、最愛の妹と俺の数少ない友人の2人が初の星武祭に参加するのでそれを見るからだ。

 

予選一回戦は対戦相手を完封して勝利した。これについては戸塚が少し怖かったが実に満足した結果だ。

 

そして試合が終わってシルヴィは用事があるので帰宅した。小町と戸塚は試合前に色々あって今日は会わない事になった。そこまでは問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまでは。

 

問題はそこからだ。

 

 

「……んっ」

 

現在カノープスドームのVIP席にて俺はオーフェリアを抱きしめている。対するオーフェリアも俺の背中に手を回して抱き合っている状態だ。

 

シルヴィが去って、俺が暇と知ったオーフェリアは俺に抱きしめてくれと頼んできた。

 

初めは断ろうか悩んでいたが上目遣いでお願いしてきたらいつの間にかオーフェリアを抱きしめていた。いや、だって、あの上目遣いの破壊力はヤバ過ぎて逆らえないからね?

 

まあそんな訳で俺はオーフェリアと抱き合っているのだが、既に40分経過している。

 

何度か「そろそろいいか?」と聞いたがオーフェリアは「もう少し」って返して離れる気配がない。いくらVIP席に他の人がいないからって……

 

内心困っている中、それを知らないオーフェリアは俺の胸元に自身の頭を当ててスリスリしている。それはマズイから止めてくれ!

 

「……八幡」

 

オーフェリアが俺の名前を呼ぶと何かが込み上がってくる。マズイのは事実だが……

 

(何か……悪くないな)

 

オーフェリアは俺と過ごして安らぐと言っているが、どうやら俺もそうみたいだ。

 

そんな事をのんびりと考えているとオーフェリアが背中から手を離すので、俺も同じようにすると抱擁がとかれた。

 

「もういいのか?」

 

「……ええ。ありがとう」

 

「……そうか。じゃあ帰ろうぜ」

 

そう言って歩き出すとオーフェリアは頷いて俺の後に続いた。

 

 

 

カノープスドームを出ると夕日が見えていた。時計を見ると5時過ぎだった。まあ試合が終わってから1時間近く抱き合っていたからな。寮に戻る頃には6時を過ぎているだろう。

 

カノープスドームはレヴォルフから遠いのでモノレールで帰らないといけない。俺とオーフェリアはホームでモノレールが来るのを待つ。後五分でくるな。

 

 

「……ユリス」

 

そんな事をのんびり考えていると後ろからオーフェリアの呟きが聞こえたので後ろを見ると、オーフェリアは駅構内にある巨大モニターに映っている天霧とリースフェルトを見ていた。

 

「どうした?リースフェルトを見て何か思ったのか?」

 

俺がそう尋ねるとオーフェリアは首を横に振る。

 

「何でもないわ。私とユリスはもう関わる事はないわ」

 

若干冷たい口調でオーフェリアはそう返す。その時俺はつい、前から聞きたかった事を聞いてしまう。

 

「……お前はそれでいいのか?」

 

俺がそう口にするとオーフェリアは若干驚きの混じった表情で俺を見てくる。俺自身も必要以上にオーフェリアに踏み込んだ事に驚いている。

 

「……いいも悪いもないわ。私が彼の所有物である以上殆ど自由はないのだから」

 

やっぱりオーフェリアはディルクがいる限り自由にはなれないようだ。全く……本当に世界ってのは残酷だな。

 

「……そうか。悪かったな変な事を聞いて」

 

「別にいいわ。今更の話だから」

 

オーフェリアはそう返す。それと同時にモノレールが来た。ドアが開いたので乗ろうとした際、ふとオーフェリアの顔を見るといつも通りの悲しげな表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし今のオーフェリアの顔には少しだけ寂しさが混じっている様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分、オーフェリアの寮に着いたのは6時丁度だった。となると俺の寮に着くのは6時半前だろう。

 

「……送ってくれてありがとう」

 

「気にすんな。またな」

 

「……2回戦も小町達をまた見に行くの?」

 

「そのつもりだが?」

 

「じゃあ……また一緒に行っていいかしら?」

 

「別に構わないぞ。行きたきゃ連絡しろ」

 

「わかったわ。……じゃあまた」

 

オーフェリアはそう言って自分の寮に入っていった。オーフェリアが見えなくなったのを確認して俺も帰路につく。

 

(……さてと、夜飯は何を作るか)

 

そんな事を考えながらのんびり歩いていると携帯端末が着信を告げる。見ると小町からだった。

 

それを確認して空間ウィンドウを開くと小町が気迫の篭った表情で画面いっぱいに映り出す。

 

「ど、どうした小町。怖いから離れてくれ」

 

『そんな事はいいの!それよりお兄ちゃん!何かうちの学校で作られてる新聞でお兄ちゃんとオーフェリアさんが街中で抱き合っている写真が載ってたんだけど、これどういう事?!』

 

何?!あの写真が載っているだと?!

 

俺はそれを聞いてあの時写真を撮っていた星導館のチャラそうな男を思い出した。星導館の新聞って事は十中八九あの男が新聞に載せたのだろう。

 

「おい小町。どういう事だ。その新聞後で俺の端末に送れ」

 

『それはいいけど……本当に何があったの?』

 

小町にそう言われた俺は仕方なく全て話した。

 

『ほーん。なるほどねぇ。とりあえずお兄ちゃんはオーフェリアさんがまた頼んだら拒否しないで抱きしめるように!』

 

うん、実はもう更に1回抱きしめています。拒否しようとしましたが出来ませんでした。

 

「善処する。……ところで小町。お前の学校の新聞部で顔に目立つ傷がある男って知ってるか?」

 

あの写真を撮った思える男は顔に目立つ傷がついていたから特定は難しくないと思う。

 

『顔に傷?多分夜吹さんだね。ちょっと待ってね。えーっと、この人かな?』

 

小町がそう言うと例の新聞と共に1人の男子生徒の画像が俺の端末に送られてきた。

 

間違いない。あの時写真を撮ってた男だ。そうか、夜吹って言うのか。

 

「サンキュー小町。悪いが夜吹って奴に『今度星導館に行くからその時に三途の川ツアーに連れてってやる』と伝えといてくれ」

 

嫌がっても力づくで連れてってやる。俺はアスタリスクのゴシップ記事を見るのは嫌いじゃないがネタにされるのは大嫌いだ。天国の扉を見せてやる。

 

『……うん。一応伝えとくけど……殺さないでね?』

 

アホか。殺したら犯罪者になるから殺さねーよ。三途の川手前には連れて行くが川を渡らせるつもりはない。

 

「んな事わかってる。悪いが苛ついたからもう切るぞ」

 

『あ、うん。じゃあまたね』

 

そう言って小町の顔が空間ウィンドウから消えたので空間ウィンドウに例の新聞を表示する。

 

するとそこには『レヴォルフ2トップ、市街地で抱き合う!!』とか『2人の間には愛があるように見え、それを育んでいると推測される』だの見ていて苛立つ見出しや記事があった。あいつマジでブチ殺す。

 

帰って飯食って寝ようと思ったが気が変わった。少しストレスを発散しに行くか。

 

そう思いながら俺は自分の寮とは反対方向に向けて足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

再開発エリア

 

かつてアスタリスクで最大のテロ『翡翠の黄昏』の舞台となった場所だ。

 

その事件による被害は甚大で、事件の後始末や責任問題などの追求があって復旧予算の編成が進まず、そうこうしているうちに不良や各学園の退学者、アスタリスク外の犯罪者が集まりだして暗黒街となった。

 

とはいえ再開発エリア全域が犯罪者の温床という訳ではない。今から俺が行くような歓楽街は割と治安が良い場所だ。(それでも再開発エリアだから街中にはチンピラやマフィアがゴロゴロいるけど)

 

歓楽街にはクラブやバーなど酒類の提供を主とする飲食店や地下の違法カジノや風俗店など違法店舗もある。

 

そんな店を素通りしながら裏路地にあるカフェに入る。このカフェは客が少なく騒がしくないから俺のお気に入りの店だ。

 

店に入ると店内はガラガラだった。カウンター席に座る。マスターがやってくる。

 

「おやおや。あんたが来るなんて……妹さんが鳳凰星武祭1回戦に勝って嬉しいからか、市街地での抱擁の噂でイライラしているからか……」

 

マスターはニヤニヤしながらそう聞いてくる。

 

「マスター。いつもので。ちなみに今日来た理由は後者な」

 

俺がこの店に来るのは嬉しい時に1人ではしゃぐ為か、苛ついた時にストレスを発散させる為だ。今日はさっきの新聞で苛ついたからここに来た。

 

「はいはい。……で、結局事実なんだろ?」

 

「抱き合ってたのは事実だから否定しねぇよ。っても愛は語ってない」

 

カフェに来る途中ネットも見てみたがそこにも『愛の語らい』とか『最強夫婦』とか載ってて死にたくなった。

 

「あの写真を見たら説得力はないと思うぞ」

 

マスターが覆せない事実を口にしながら俺の前にMAXコーヒーの入ったシャンパングラスを出してくる。歓楽街でもMAXコーヒーを出す店は少ない。俺はこの店がMAXコーヒーを出すと知った瞬間、常連になると決めたくらいだ。

 

「それについては……まあアレだ。俺が悪いし諦めるしかないな」

 

オーフェリアとの抱擁に関する噂は苛立つが元はと言えばあんな所で抱き合った俺達が悪いし。するなら人目のつかない場所でするべきだったな。

 

あの時の事を後悔している時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……から、ちょ……付きあっ……」

 

「そうそ……いい店知って……行こうよ」

 

「だからさっきから……って言って……」

 

店の外から揉め事の気配を感じ取る。声は聞き取りにくいが男2人が女をナンパして女が拒否している感じだな。

 

(……ったく、何を考えているんだ?)

 

男2人についてはどうも言わない。歓楽街にいる男は悪が多いし。

 

俺は寧ろナンパされている女に文句を言いたい。声からして1人でいるようだが、こんな場所に1人で来るなんて危機感がないのか?

 

俺は息を吐きながら席から立ち上がる。マスターは事情を理解しているように笑っている。

 

「随分とお人好しだな」

 

「別にそんなんじゃねぇよ。外が煩いと俺が落ち着いて過ごせないからだよ」

 

そう言ってカフェのドアを開ける。

 

 

声の方向を見ると薄暗くてよく見えないが壁に寄りかかっている女にマフィアらしき2人が近寄っている。

 

俺はそれを確認すると男2人に近寄って蹴りを2発放つ。

 

蹴りをくらって吹っ飛んだ男は怒りの表情を露わにして起き上がりながら煌式武装を起動する。いきなり蹴りを入れた俺が言うのもアレだが……随分と物騒だな。

 

しかし俺の顔を見た瞬間、男2人は急に驚きの表情を見せてくる。

 

「なっ……お、お前!」

 

「『影の魔術師』!」

 

あー、やっぱり俺って有名なのか。マジで目立ち過ぎるのも考えものだな。

 

内心面倒臭がっていると、男2人はいつの間にかいなくなっていた。うん、まあ戦わないで済んだのは良かったな。

 

俺が息を吐いていると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………八幡君?」

聞いた覚えのある声が耳に入る。いや、でも……あいつがこんな所にいるとは考えにくい。

 

 

そう思いながら女を見ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シルヴィ?」

 

そこには2時間くらい前に一緒に鳳凰星武祭に見ていたシルヴィア・リューネハイムがお忍びの格好をして立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「……って訳なので近い内にお兄ちゃん、星導館に来るので頑張って生き延びてくださいね。夜吹さん」

 

「えっ、ちょっ、マジで?!……頼む天霧!助けてくれ!」

 

「夜吹、それは……」

 

「綾斗、助ける必要はない。こいつは一度痛い目を見た方がいい」

 

「え、えーっと………私はどうすれば?」

 

「……綺凛が気にする必要はない。全て夜吹の自業自得」

 

「……マジかよ?俺、生きられるか?」

 

 

星導館学園の食堂にて夜吹英士郎は八幡の怒りを知り嘆いていた。


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