鳳凰星武祭5日目、シリウスドーム
1回戦に4日かけ、今日から2回戦が始まる。
そんな中俺は今シリウスドームのVIP席で1回戦の時の様にオーフェリアとシルヴィに挟まれ肩に2人の頭を乗せられながら試合を観戦している。
つーか2人の髪の毛がくすぐったいんですけど?オーフェリアに至っては頭をスリスリしているし。
煩悩を振り払う為舌を噛みながらステージに注目する。横を見たら邪な気分になるだろうし。
『……トロキアの炎よ、城壁を超え、九つの災禍を焼き払えーーー咲き誇れーーー九輪の舞焔花!』
ステージではリースフェルトの周囲に可憐な桜草を模した火球が九つ現れて、対戦相手のクインヴェールのタッグへ襲いかかる。
それによって片方のポニーテールの少女の校章はぶっ壊れた。もう片方のツインテールの少女は双剣型煌式武装で火球を切り払っていく。
そして最後の一つを切り払うと……
『綻べーーー熔空の落紅花』
少女の足元に魔方陣が浮かぶ。
「あれは設置型だね」
「ああ。初めの火球で倒せれば良し。倒せなくても罠に嵌めれたらそれで問題なし。リースフェルトの奴、中々多彩な攻めだな」
「いや、アスタリスクで最も多彩な能力者の八幡君が言っても嫌味にしか聞こえないよ?」
いや……まあ俺の力が多彩なのは事実だが、影の服とか戦闘用以外が多過ぎる。基本的に戦闘は雑魚には影の刃を使い、強者には影狼修羅鎧を纏って肉弾戦とゴリ押しだ。あんまり設置型の技は持ってないし。
シルヴィの言葉に突っ込んでいる中、ツインテールの少女の頭の上に巨大な椿の花が現れて落下する。
少女は逃げようとするも時既に遅く、焔の花は大爆発を起こしてあっさりと飲み込まれた。
『試合終了!勝者、天霧綾斗&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト!』
機械音声が決着を宣言する中、ツインテールの少女は仰向けで倒れていた。
「あー、やっぱりあの2人相手じゃ厳しいか」
自身の所属する生徒が負けたからかシルヴィの口調は若干残念そうだった。
まあ今回鳳凰星武祭に参加している中であのコンビを倒せるペアは数少ないからな。クインヴェールからは冒頭の十二人も出てないしクインヴェールが優勝するのはないだろう。
「まあそれは仕方ないだろう。っと……次の試合は雪ノ下と由比ヶ浜のペアが出るのか」
今日、このシリウスドームで行う2回戦は俺の知り合いがかなり参加する。順番で言うと天霧とリースフェルトペア、雪ノ下と由比ヶ浜ペア、小町と戸塚ペア、イレーネとプシリラペアが参加する。
っても結果は見なくても大分予想は出来る。今思った4ペアは間違いなく勝つだろう。まあイレーネとプシリラペアの対戦相手は冒頭の十二人だから多少梃子摺るかもしれないけど。
「雪ノ下雪乃さん……うちの学園の30位で魔王の妹なんだよねー」
魔王……界龍の序列3位、雪ノ下陽乃。万有天羅の二番弟子で星武祭ではオーフェリア以外には無敗を誇る実力者。(俺とシルヴィは戦った事ないけど)
そして俺がアスタリスクに転校する原因を作った元凶。あの女が文化祭で余計な事をしなかったら俺はアスタリスクに来てなかっただろう。その件については感謝しないでもないが、散々引っ掻き回した事については許さない。
そんな事を考えているといつの間にかステージには4人並んでいた。そういや雪ノ下は氷の力を使うのは知っているが由比ヶ浜については知らないな。
対戦相手は星導館のペアか。見ると雪ノ下はレイピア型煌式武装を展開し、相手ペアは両者共に刀型煌式武装を展開するが由比ヶ浜は徒手空拳だ。界龍の生徒ならともかく……クインヴェールの由比ヶ浜が素手って事は魔女か?
疑問に思っていると試合開始のブザーがなる。その瞬間、星導館コンビは一直線に由比ヶ浜に突き進む。由比ヶ浜は序列外だから雪ノ下より与し易いと判断した故だろう。
『凍てつきなさいーー氷槍雨』
雪ノ下がそう呟きレイピアを振るうと雪ノ下の後ろから八つの氷の槍が顕現されて星導館ペアに降り注ぐ。中々狙いはいいな。
星導館ペアは全て防げないと判断したのかバックステップをして下がる。リスクをおかしてまで由比ヶ浜を狙うつもりはないのだろう。
すると由比ヶ浜の周囲に星辰力が湧き上がるのを見れる。あの万応素からしてやっぱり魔女か。
『えいっ!』
由比ヶ浜の掛け声と共に地面から4つの魔方陣が浮かび上がる。そして魔方陣からは真っ白な犬が現れる。何だあの犬?
『行けっ!』
由比ヶ浜がそう言って星導館ペアを指差すと犬は鳴き声を上げながら2匹ずつ星導館ペアに襲いかかる。
男の方はポケットからハンドガン型煌式武装を出して2発発砲して、女の方は刀型煌式武装で斬りかかる。4匹の犬に攻撃が当たる。
すると犬は大きな声で吠えながら大爆発を引き起こした。
『おおっと?!由比ヶ浜選手の能力で生み出した犬が大爆発を引き起こしたぁ!!』
『攻撃したら爆発する能力っスか。おそらく由比ヶ浜選手の指示でも爆発出来ると思うので厄介っスねー』
実況と解説の言葉を聞いている中、ステージを見ると女の方の校章は破壊されて、男の方は爆風で体勢を崩している。
そしてそんな隙を対戦相手が見逃すはずがない。
『凍てつきなさいーー氷結大虎』
雪ノ下の前方に5メートルくらいの巨大な魔方陣が現れて魔方陣が消えるとそこには巨大な氷の虎がいた。
対戦相手の男は尻もちをついたままビビっている。まあアレは仕方ないな。
雪ノ下はその男を冷ややかに見ながらレイピアを振るう。すると氷の虎は雄叫びを上げて前足を振るう。
モロに受けた男子はステージの壁に向かって一直線に飛んでいき、やがて壁にぶつかり気絶した。
『試合終了!勝者、雪ノ下雪乃&由比ヶ浜結衣!』
アナウンスが流れると歓声が響き渡る。ステージでは由比ヶ浜が雪ノ下に抱きついている。相変わらず百合百合してるが由比ヶ浜は世界中に中継されているのを忘れているのか?
いや、忘れているだろう。雪ノ下はメチャクチャ恥ずかしそうにしてるしドンマイ。
俺は息を吐きながら立ち上がる。
「俺今から昼飯買ってくるがお前ら食いたい物あるか?」
次の目当てである小町と戸塚の試合まではまだまだ時間がある。それなら今のうちに昼飯を買っておくのが建設的だろう。
「じゃあ味は何でもいいからサンドイッチお願い。オーフェリアさんは?」
「八幡と同じ物でいいわ。MAXコーヒーを除いて」
MAXコーヒーを除いてんじゃねぇよ。シルヴィは笑うな。何でそこで笑うんだよ?
「わかったわかった。じゃあちょっと行ってくる」
ため息を吐きながらVIP席を後にする。
食い物や飲み物などが売っている場所は選手や観客がいてかなり賑わっていた。
俺とオーフェリアのはどうしよう?
俺の昼飯は会場入りする時に見つけたケバブにしようと思ったがオーフェリアが同じ物にするなら変えよう。アレ明らかに油多そうだったしオーフェリアに悪い。
……とりあえずその辺で売ってる弁当にするか。
そう思いながら歩くと視線を感じる。気配から察するに人数が5人。気配の消し方からしてかなりの手練れだ。
しかし……狙われる理由がわからん。ここ最近は特に恨まれる事はしてないし狙われる理由がない。
(……まあこんな場所で襲いかかる程馬鹿じゃないだろう)
誰だか知らないがこんな場所で襲いかかったら間違いなく警備隊や自身の所属する学園に咎められるし。
そんな事を考えている時だった。
「あ、お兄ちゃん!」
横から声をかけられたので振り向くと小町と戸塚、さっき試合に勝利した雪ノ下、由比ヶ浜ペアもいた。
「おう。お前らも昼飯か?」
「うん。試合前に食べようと思って」
そう言ってくる4人の手には弁当があった。
「ヒッキー勝ったよー!」
「見てた。まあお前ら4人のブロックには冒頭の十二人はいないし本戦出場は楽勝だろう」
「当然ね」
雪ノ下は自慢気に言っているが 試合を見る限り由比ヶ浜も序列入り出来るくらいの実力は持っている。その点から行って本戦出場は可能だろう。
「ヒッキーはもうご飯食べたの?」
「ん?いや、今からオーフェリアとシルヴィと食うつもりだけど」
俺がそう言った瞬間、雪ノ下と由比ヶ浜の顔に恐怖の感情が浮かぶ。
あ、しまった。こいつらオーフェリアがブチ切れているのを間近で見てるんだった。トラウマの1つや2つ、出来ていても仕方ないだろう。
「あ……そ、そうなんだ」
「……ああ。だから一緒に食わない方がいいよな?」
間違いなく気まずくなる。そんな場所で飯を食っても不味いだけだろう。
「う、うん。ゆきのんも今度でいいよね」
「……そうね」
雪ノ下も暗い顔で頷く。嫌な気分になっているようで申し訳ない。しかし理解して欲しい、アレは葉山が悪いし。
「……そういや、葉山は試合を棄権したみたいだがメンタルは大丈夫なのか?」
オーフェリアの怒りを直に受けたんだ。人によってはトラウマになるかもしれないし。
「あー……実は目が覚めたんだけどトラウマになっちゃったみたいで治療院に通ってるんだ。いろはちゃんヒッキーに怒ってたから気を付けてね」
待てコラ。何で俺に怒ってんだよ?元を辿れば葉山が悪いしキレたのはオーフェリアだからな?
「まあ気をつける。それより小町と戸塚はもうすぐ試合だけど頑張れよ」
「あいあいさー。後、暇になったらシルヴィアさん紹介してよ!」
「はいはい。鳳凰星武祭終わったら紹介してやるよ」
「やったー!」
シルヴィアのファンである小町ははしゃぎまくる。ちょっと小町ちゃん?人目を気にしてくれないかな?
「ね、ねぇヒッキー。ヒッキーは何でシルヴィアさんの知り合いなの?」
由比ヶ浜が制服を引っ張りながら聞いてくる。
「ん?いや、前回の王竜星武祭で戦った後、後夜祭で連絡先を交換した」
「へ、へぇー。……もしかして彼女だったりするの?」
はぁ?シルヴィが?俺の彼女?
「由比ヶ浜さん。比企谷君にそんな甲斐性がある訳ないじゃない」
おい雪ノ下、それは認めるが俺が言うならともかくお前が言うな。
「ないないない。てか俺がシルヴィの彼氏だったら俺はとっくに墓の下だからな?」
世界の歌姫であるシルヴィと付き合ってみろ。全世界にいる数億人のシルヴィのファンに狙われるからな。
「そ、そっか……」
何でいきなりそんな事を聞いてくるんだ?よくわからん奴だ。
由比ヶ浜に内心そう突っ込んでいると携帯端末が鳴り出した。
「すまん。電話だわ」
一言断って空間ウィンドウを開くとオーフェリアが画面に映る。
「ひぃっ!」
由比ヶ浜は怯えた声を出しバックする。お前な……いくらトラウマがあっても面と向かってそんな声を出すな。
「どうしたオーフェリア?」
『……大分時間かかってるけど大丈夫?』
オーフェリアに指摘されて時計を見るとVIP席を出てから20分以上経っていた。
「いやすまん。知り合いと会って話し込んでた」
『……ならいいわ。私もシルヴィアも気にしてないからゆっくりでいいわよ』
「いや大丈夫だ。もう行く」
『……そう。じゃあ』
オーフェリアはそう言って電話を切ったので俺も空間ウィンドウを閉じて小町達と向き合う。
「という事で悪いが俺は行く。頑張れよ」
「あ、うん。ねぇヒッキー。もし総武にいた人が全員本戦に出場したら皆で集まらない?」
「あ?俺は鳳凰星武祭に参加してないんだぞ?そんな奴がいて空気悪くするのもアレだし遠慮しとく」
「え?そんなの気にしなくていいよ。僕は八幡がいてくれたら嬉しいよ」
「よしわかった。日時が決まったら連絡しろ」
「切り替え早っ?!ヒッキーどんだけさいちゃんの事好きなの?!」
「ぜ、全然好きじゃねぇよ!ちょっと気になっているだけだからな!」
「それほぼ好きじゃん!」
「はぁ……」
雪ノ下は呆れた様にため息を吐いている。バカやってて済まん。
内心謝っていると小町と戸塚の携帯端末が鳴り出した。
「あ!試合開始30分前だ!そろそろ控え室に戻ってご飯食べないと!」
「そうしろそうしろ。遅刻して失格じゃ笑えないぞ」
「うん!じゃあ結衣さんと雪乃さんも行きましょう」
「ええ」
「うん。……あ!ヒッキー、連絡先教えてよ!ヒッキー中学辞めてから連絡取れなくなったし」
ああ……そういやアスタリスクに来る時に携帯端末変えたな。だから戸塚とも連絡が取れず、アスタリスクで再会して再び連絡先を交換したな。
「飯食ってる時に小町に教えて貰え。小町、任せた」
「あいあいさー!」
小町がそう言ったのを皮切りに4人は去って行った。さて……俺も昼飯買わないとな。
そう思いながら俺は近くにある弁当屋に足を運んだ。
同時刻……
「……見た?」
「見たわ」
「どう思う?」
「明らかに仲が良いだろ!おのれ比企谷八幡!シルヴィアや『孤毒の魔女』だけじゃ飽き足らず更に4人もの女子を手玉にとるとは……!」
ルサールカのメンバーであるトゥーリアは怒りに顔を染めて平手に拳を叩きつける。
それを見たメンバーで1番常識人であるマフレナはため息を吐く。
流れとしてはこうだ。
①モニカとパイヴィ、比企谷がシルヴィアと夜のデートをしていたと勘違い
②ルサールカ、シルヴィアのスキャンダルになり得ると喜ぶ
③モニカ、ネットを見て比企谷とオーフェリアが抱き合っている画像を発見して他のメンバーに告げる
④ミルシェとトゥーリア、比企谷がシルヴィアとオーフェリアに対して二股をかけていると勘違いして激怒
⑤シルヴィアを陥れる作戦は却下して比企谷の調査
⑥今現在、マフレナを除いたメンバー全員が比企谷が更に4人の女子に手をかけていると勘違い。
⑦マフレナの頭に頭痛が走る
……となっている。
「よ、よりにもよって六股だとぉ?!あの女の敵め!」
ミルシェもトゥーリアと同じように怒りを露わにする。
(……シルヴィアさんと『孤毒の魔女』はまだしもあの4人は違うと思いますよ。それ以前に2人は妹と男の子ですし)
シルヴィアと夜のデート云々は録音データから、オーフェリアとの抱擁についてはネットや学園新聞から事実と思うが、あの4人はただの知り合いだと思う。
マフレナはその事を他のメンバーに伝えようとしたがミルシェとトゥーリアの怒りの形相を見て匙を投げた。今までの経験からして話した所で……
『何だとぉ?!まさかあの男、妹や可愛い男子にも手を出してるのか?!』
……と、更に怒りそうだからだ。
(ごめんなさい。比企谷さん、ボクには止められないので頑張ってください)
マフレナは内心比企谷に謝りながらミルシェとトゥーリアの暴走を見てため息を吐いた。