マジでどうなっているんだ?俺、比企谷八幡は困惑と恐怖の感情を抱いている。
前方には怒りのオーラを纏っているガールズロックバンドのルサールカが、後方には言葉では表現しにくいどす黒いオーラを纏っているオーフェリアがいる。
マジで怖い。特にオーフェリア。何でお前がキレてるの?
てか六股って何だよ?マジで理解できない。
(……とりあえず先ずはルサールカからだな)
そう判断してオーフェリアのどす黒いオーラに耐えながらルサールカと向き合う。
「先ず初めに聞くが六股って何だよ?訳がわからんぞ」
俺がそう尋ねるとトゥーリアが怒りの表情を向けてくる。
「とぼけんじゃねぇ。お前がシルヴィアや『孤毒の魔女』を始め6人の女を誑かしてやがるんだろ?!」
「待て。シルヴィを誑かした記憶はない」
つーかシルヴィを誑かす事って無理だと思うぞ?あいつも色々汚い世界を見てるし。
俺がそう返すとパイヴィが携帯端末を出してくる。
「あら?ネタはあがっているのよ。これを聞いても誑かした記憶はないって言えるかしら?」
そう言ってパイヴィは空間ウィンドウを開く。真っ暗であるという事から音声データか?
そんな事をぼんやり考えていたが音声データを聞いた瞬間、思考がぶっ飛んだ。
『まあ俺は歓楽街でよく遊んでるし見つかったら連絡する』
『ありがとう。じゃあまた夜のデートをしようね』
空間ウィンドウからは俺とシルヴィの声が流れる。それは鳳凰星武祭初日、俺とシルヴィがクインヴェールの校門で別れる際に交わした言葉だった。
(……聞かれてたのかよ!よりによってこいつらに!)
呆気にとられているとモニカが更に詰め寄り指を突き出してくる。
「私も同じデータ持ってるから!あんた、シルヴィアを歓楽街に連れてっていかがわしい事したんでしょ!」
…….最悪だ。よりによって歓楽街の所も聞かれてたのかよ?
「……八幡」
後ろではオーフェリアが更にどす黒いオーラを噴き出している。ヤバい、後ろを向けない。向いた瞬間、喉笛を搔っ切られそうだ。
しかし音声だけ聞いたらそう捉えられても仕方ない。オーフェリアについても抱き合っている所は見られた。
それについては事実であるから否定はしない。だから事情を知らないルサールカから二股野郎と責められるならそれを甘んじて受けよう。
しかし……
「……シルヴィと歓楽街にいたのは事実だ」
「やっぱりお前「だが歓楽街にいた目的はいかがわしい事をする為じゃない」じゃあ何であんな場所にいたんだよ?!」
トゥーリアの言葉に被せて反論すると更に問い詰められる。
「それについては話すつもりはない」
シルヴィの目的について許可なく話すのはシルヴィのプライバシーの侵害になる。それこそ何と謗られようと勝手に話す訳にはいかない。
まあこんな説明でこいつらが納得できるとは思えないが。
「そんなんで納得できるわけないじゃん!」
案の定ミルシェは噛み付いてくる。
「別にお前らが納得しようがしまいが関係ない。お前らが何と言おうと話すつもりはない。それでも尚、シルヴィの事について問い詰めるなら……」
俺が息を吐きながら星辰力を込める。
瞬間、ルサールカの5人の首元に影の刃を突きつける。
「ここでお前らを叩き潰す事になるがいいか?」
殺気を出して5人を見据える。シルヴィのプライバシーについては教えるつもりもない。今は軽く脅しただけだが、それでも諦めないなら力づくで諦めさせる。
対して5人は怯えた表情を見せるがミルシェとトゥーリアは直ぐに打ち消して戦意を滾らせてくる。
「上等!5対1で勝てると思ってんの?」
「やってやろうじゃん!力づくで聞き出してやるぜ!」
そう言ってギター型純星煌式武装『ライアポラス=カリオペア』と『ライアポラス=ポリムニア』を稼働状態にする。
交渉は決裂のようだ。ならこちらも容赦しない。
再度星辰力を込めて新しく技を発動しようとした時だった。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください!星武祭中に街中での決闘は厳禁です。警備隊だけじゃなくてマネージャーにも怒られますよ!」
マフレナが慌ててそう注意してくる。
するとミルシェとトゥーリアは青い顔をしながら動きを止める。前にシルヴィからシルヴィとルサールカのマネージャーは怖いと聞いていたが本当に怖いようだ。
そんな事を考えているとマフレナが1番前に出てきて頭を下げてくる。
「あの……先に尾行をしたのはこちらですし、しつこく問い詰めたのはすみません。でも街中で暴れたりしたら比企谷さんも咎められると思うので矛を収めてくれませんか?」
そう言われて俺は大分気が削がれた。どうやらこいつは話が通じるようだ。
「……いや、こっちも脅すような真似をして悪かった」
そう言って影の刃を地面に戻す。
それを見て安堵の息を吐くマフレナに話しかける。
「悪いがシルヴィの話についてはあいつのプライバシーの問題があるから話すつもりはない。それとこっちから聞きたいが、何で俺が六股をかけているって事になってんだ?」
シルヴィとオーフェリアについては百歩譲って二股野郎と責められても構わない。しかし六股については心当たりが一切ない。何を以って六股かけてる事になったんだ?
俺がそう聞くとマフレナが苦い顔をする。何でそんな顔をしてんだ?
疑問に思っていると……
「しらばっくれんじゃねー!今日の昼にうちの生徒2人と星導館の生徒2人、計4人の女の子と仲良くしてたじゃねーか!」
あん?クインヴェールの生徒と星導館の生徒……それって、小町と戸塚と雪ノ下と由比ヶ浜の事か?!
完全に誤解してんじゃねぇか!話してただけで仲が良いなら世界中はカップルで埋め尽くされるからな?
「………八幡のバカ」
つーかオーフェリア、そう言って背中を抓るのは止めてくれ。痛い、痛いからね?
「待て。勘違いしてるからな?つーか星導館の2人は妹と男だぞ?」
俺がそう返すとマフレナ以外の4人は騒めきだす。その事からルサールカのメンバーはマフレナだけが常識人である事がわかる。
暫くするとミルシェが口を開ける。
「何だとぉっ?!つまり妹と男の娘にも手を出しているのか?!」
……呆れて物も言えん。もう嫌だ……
俺が内心嘆いている中、トゥーリアとモニカが詰め寄ってくる。
「お前ぇ!よりによって血の繋がった妹にも手を出したのか?!このど変態!」
「色魔!漁食家!色情狂!」
もう限界だ。
俺は息を吐いて自分の影に星辰力を込める。
すると自身の影が大きくなりマフレナ以外の足元に広がった。マフレナ以外のメンバーは驚きの表情を浮かべる。
それを無視して口を開ける。
「呑めーー影の禁獄」
俺がそう呟くと影がマフレナ以外の4人に纏わりつき真っ黒な立方体となる。
「え?!ひ、比企谷さん?!」
「安心しろ。これは人を封印する技だ。どんな人間でも5分は出れない」
俺が使う技の中で3つある切り札のうちの一角を司る技だ。影の中に星辰力を凝縮させて相手を閉じ込める封印技だ。5分間だけはオーフェリアだろうと破れない技だ。
まあ攻撃力は一切無いし、封印状態の敵に干渉出来ないから使用する機会が極端に少ないけど。
「悪いが1番マトモなお前以外は暫く黙って貰った。んじゃ誤解を解かせて貰うぞ」
「あ、いえ。ボクは比企谷さんが六股をかけているとは思っていませんよ。星導館の2人は妹さんと男子であるのは知っていましたし、うちの生徒と話していましたが恋仲であるとは思いませんでした」
……ヤバい。さっきまでバカ共と話していた所為か凄く嬉しく感じてしまう。マトモってこんなに素晴らしいんだな……
「……でも二股については良くわからないんです。そこだけを説明して貰えれば他の皆も安心出来ると思うのですけど」
そう言って4つの立方体を見る。
まあ確かにな……こいつはともかく、他の4人にはある程度説明しないと怠い事になりそうだから説明するか。
「先ず、シルヴィの事についてだが、繁華街の比較的マトモな場所……外部からの客も来るような場所で偶然会って買い物に付き合わされたんだ」
もちろん嘘だ。ウルスラについては説明出来る事じゃない。しかしマフレナなら信じてくれるだろう。
「つまり、デートとは恋人同士の交流ではなく友人同士の交流なんですか?」
「ああ。そんでオーフェリアについてだが……」
説明しようとしたが口を噤んでしまう。あれ?どう説明しよう?
恋人同士でないのに毎日抱き合ってるって端から見たら問題ありまくりじゃん。こればっかりはヤバいな……
返答に悩んでいると……
「……私が八幡に頼んでいるの」
オーフェリアは俺の横に立ってそう言ってくる。見るとさっきまで纏っていたどす黒いオーラは消えている。どうやらオーフェリアの誤解は解けたようだ。良かった良かった。
「え……そうなんですか?」
「……ええ。私が頼んでるからしてるだけで、八幡が自発的に私を抱きしめた事はないわ」
「つまり比企谷さんと付き合ってないんですか?」
「ええ。私と八幡はまだ恋人じゃないわ」
オーフェリアがそう言うとマフレナは少し考えるような素振りを見せてから頷く。
「わかりました。この封印が解けたら説明しておきます。今日はご迷惑をおかけして申し訳ありません」
そう言って頭を下げてくる。そんな事をされちゃ怒るに怒れない。
「いや、別に構わない。だが、それでこいつらが納得するか?」
正直言ってするとは思えない。間違いなく再度突撃してきそうだ。
「正直厳しいと思いますが何とか納得させてみます」
「そうか。悪いな」
「いえ。先に誤解をしたのはこちらですから。それよりそろそろ5分経つので離れた方がいいかと」
「いいのか?」
「むしろ離れてください。ここに当事者がいたら絶対に納得しないので」
うん、まあ……そうだな。
そんな事を考えていると立方体の形が崩れ始める。ヤバい!封印が解け始めた。急いで逃げないと。
そう思っているとオーフェリアが制服の裾を引っ張ってくる。
「……とりあえず私の寮に入って」
そう言って引っ張りながら歩き出す。まあ後10秒もしないで4人が出てくるからな。その案に乗らせて貰おう。
俺はマフレナに目で謝罪しながらオーフェリアの寮に入る。
部屋の中に入る直前、『あ、逃げられた!』『ちくしょー!』って声が聞こえてきた。正に間一髪だったな。
俺は玄関で安堵の息を吐く。
「すまんオーフェリア」
「……別にいいわ。それより時間が時間だしご飯食べていく?」
「……ああ。頼む」
普段の俺なら女子の部屋で食うのは忌避するが、精神的に疲れ果てたのでオーフェリアの誘いを受けてしまった。
「……わかったわ。じゃあ上がって」
オーフェリアがそう言ってリビングに歩き出したので俺もそれに続いた。
この時の俺はまだ知らなかった。
オーフェリアの家に泊まり、あんな事が起こるという事を